M18.Quiet Dance

藤井隆の名アルバム『Coffee Bar Cowboy』より『Quiet Dance』です。

まず、私と藤井隆の出会いから話しましょう。(そんなにはかかりません。)
既にこのnoteでは何度か触れているラジオ番組に、『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』というものがあります。(番組名にはあまり触れてなかったかもしれません。「宇多丸さんのラジオ番組」と書いていた記事は基本的にこの番組を指しています。)
2007年の4月に放送開始、2018年の3月まで毎週土曜の夜に放送されていました。今はほぼ同じスタッフを中心に『アフター6ジャンクション』という番組を平日月〜金の帯でやっています。後継番組と言って差し支えないでしょう。

『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、通称『タマフル』と呼ばれます。
私がこの番組を聴き始めたのは、2013年末か2014年頭だったと記憶しています。高2の冬だったはずです。
番組の構成としてはざっくり3点で、映画評・ライブ・特集コーナーです。映画評は毎週ランダムに決めた映画を宇多丸さんが語り下ろすコーナー。ライブはDJを中心にその場でのライブを放送するコーナー。特集コーナー毎週週替わりで何かに特化した特集を送る時間となります。
私がタマフルを聴き始めてから藤井隆さんの特集が2度ありました。一つ目は自主レーベルについて、二つ目は当時のニューアルバム『Coffee Bar Cowboy』についてのものでした。

元々タマフルは、というか宇多丸さんは歌手としての藤井隆をものすごく高く評価していて「国産シティポップ最良の遺伝子を受け継ぐ男」と評しています。
その回は既に過去のものだったので間に合っていないのですが、度々引用されるその時の話に「ほうほう、藤井隆という人はそんなにすごいんだな」と興味を持ったのが、私にとって初めての藤井隆でした。

『Coffee Bar Cowboy』をきっかけに、音楽家藤井隆のファンになってゆきました。

『Coffee Bar Cowboy』は藤井さんのレーベル『SLENDERIE RECORD』から出た最初のアルバムです。藤井さん、自分のレーベル持ってるんです。本当にすごい。初めて自分のレーベルから出す、ということもありこのアルバムは藤井さんによってものすごくコンセプチュアルに作られています。

例えば今回取り上げる『Quiet Dance』。客演の宇多丸さんに出した藤井さんのオーダーはこうです。


・宇多丸さんがラップするのは、海外から来ている大使の気持ち。

・赤坂の迎賓館でパーティーに参加していたが、疲れてしまって廊下の窓辺で休んでいた。

・ふと外を見ると四谷見附側の正門で別れ話をしている若いカップルが見える。
 
・「あー若いな」「若さとはバカだな」「自分にもそんな頃があったな」と彼は思う。

・↑というストーリーを16小節でラップし切ってください


…………無理難題です。BPMは117です。BPMとは簡単に言えば曲の速さです。1分間に四分音符がいくつ入るか、という基準で示されます。例えばBPMが60だった場合、1分の間に60回リズムを刻むことになります。(つまりは秒針のカチカチのテンポと同じです。)
そのBPMが117です。117は端的に言ってラップ向きの速さではないんです。
遅いテンポなら倍でリズムを取ったりできますが、117はなんとも絶妙です。

そして宇多丸さんにそんな無理なオーダーを出した藤井さん。
全く引かないんです。
宇多丸さんが「このBPMでこの小節じゃストーリーおさまらないですよ」と言っても藤井さんはニコニコ笑って聞くだけで全く譲る気がなく、オーダーを変えなかった、というエピソードが残っています。
藤井さんは藤井さんで完全な想像図が出来上がっているので引かないんです。プロ。流石プロ。

そして、そして、宇多丸さんはそれに見事答えます。
プロ対プロです。

ちなみに「Quiet Dance」は四ツ谷駅の構造が好きな藤井さんが、「四ツ谷駅を下っていく時、踊っているような気持ちになる」という昔から持っていた印象に基づいています。
元々、高校生の時から大好きな曲ですが、今となってはもう念のこもりすぎた曲です。

と、いうことで、今回も別れの歌でした。


それでは、また。あなたを愛しています。

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