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ロメールを観れる年齢になったこと『海辺のポーリーヌ』 - DJ電熱線のビリビリビリ映画

フランス映画にどんなイメージをお持ちですか?DJ電熱線が初めてフランス映画というのを認識したうえでみた作品は、フランソワ・オゾンの『8人の女たち』でした。これには大変な衝撃を受けました、一緒に観ていた母が…。最近オゾンの『焼け石に水』という初期作品を観る機会があったのですが、この『焼け石に水』を観たときに、『8人の女たち』の原型はここにあったんだなと感じるほどノリがよく似ています。ミュージカル映画です。

ミュージカル映画といっても、『雨に歌えば』とか『マンマ・ミーア』とか『ハイスクール・ミュージカル』のようなものではなくて、まったく歌う雰囲気ではない空気感のなかいきなり何の脈絡もなく登場人物たちが歌ったり踊ったりするんです。私は元々ミュージカル映画というのはあまり得意ではなくて、むしろ母は大好きなのですが、『8人の女たち』に限って言うと私は「ウケる、おもしろ!」という感想で母は「ゑ…」というふうに普段と真逆の反応をみせたのでした。そのときのショックがよほどだったのか、母のなかでフランス映画といえば、よく分からなくて突拍子もなくてイマイチ要領を得ないもの、というイメージが染みついてしまったようです。ちなみにオゾンはそんな映画を撮ったかと思うと最近は『Summer of 85』という甘酸っぱい青春映画を撮ったりもしていて、むしろいつも奇怪なミュージカル映画を撮っているわけではありません。とはいえ、この作品でも終盤で主人公が踊りで感情を表現する(かなり良い)シーンがあるので、そういうスタイルがお好きな人なのでしょう。

前置きが長くなったのですが、そういうのがきっかけでフランス映画の魅力にすっかりハマってしまい、最初こそ『アメリ』などでおなじみのジャン=ピエール・ジュネの作品や『エターナル・サンシャイン』などで知られるミシェル・ゴンドリーの作品を観漁っていたのですが、何がきっかけだったのか、あるときからゴダールやらトリュフォー、クロード・シャブロル、アラン・レネやらロブ=グリエ、デュラスなどなど、いわゆるヌーヴェルヴァーグ沼へ落ちてしまったのです。

東京はわりと恵まれていて、特集上映と称してこの時代の作品を色んな劇場で定期的に上映してくれるのですが、そのなかでもエリック・ロメールの作品というのは上映頻度が高い方ではないでしょうか。

ただ、これまでロメールだけはあまり観る気が起きず、観らず嫌いをしていたふしがありました。シネフィルおじさんの話によれば、「ロメールを観に来る客の8~9割は50代以上の女性」らしいのです。お恥ずかしながら若き日のDJ電熱線は「哲学的で示唆に富んでいてメタファーまみれな映画しか観ません」というイタイ時代がありまして、そんな調子なので「女こどもの観るような陽気なおフランス映画なんて観ない!」と、こともあろうにロメールを敵視さえしていました。

ところが…

それから数年が経ちまして、私もだんだん丸くなってきたのと、小難しい映画を観るのしんどい、みたいなことが増えてきたんです、加齢です。そんなある日、家で時間があったのでつれづれなるままにPrimeVideoのラインナップを観ていたところ、ロメール作品がずらりと並んでいるのが目に入ってきました。ううむ…そろそろロメールでも観てみるかしらねえ、という前向きでも後ろ向きでもないノリで『海辺のポーリーヌ』を再生してみたわけです。

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95分という絶妙な尺の長さのなかで、繰り広げられるひと夏のバカンス中に起きる男女の恋愛と些細な誤解から始まるどうでもいい痴話喧嘩。郷に入れば郷に従えということで私もバカンス気分でワインを飲みながら観たのですが、結論から言うとこの映画は最高でした。

昔は人様の恋愛模様なんて興味がなさすぎて観ていられたもんじゃなかったのですが、そういうのを楽しめるようになったひとつのきっかけは「テラスハウス」シリーズのおかげだと思います。あれこそ観始める前までは「台本がないとか言いつつカメラ入ってるんだし何がリアルだばかやろう!」と息巻いていたのですが、友人宅で半ば強制的に観た結果、ドはまりしてしまったのです。ぽっと頭に浮かんできたので誰かの名言だったとおもうのですが、「人が数人そこにいるだけで映画になる」とはこのことかと思いました。それぐらい人間模様って撮り方、切り取り方、編集の仕方でおもしろくなるもんだなと。

と、さすがにロメールをテラハと比べたらシネフィル界隈の方々から生き埋めにされてしまいそうなので念のため言っておくと、両者が同じレベルにあるとかそういう話ではなく、あくまで私の感覚が変わったという話ですね。

話を戻すと『海辺のポーリーヌ』はストーリーもさることながら、設定や描き方も素敵なんです。広いお家(バカンス用の別荘でしょう)の庭には紫陽花がたくさん咲いていて、ポーリーヌは朝起きたらまずは水やりをして、それから優雅にブランチを取りながら年上のマリオンと恋バナをして。午後は海へ遊びに行って、するとそこで昔のボーイフレンドとの再会があり…。まさにみんなが夢見る“素敵なフランス像”が詰まっていて、日本のマダムの心を鷲掴みにしているのは恐らくこの辺りなのではないかと推測します。

後日、フランス人の友人に会うことがあったので「『海辺のポーリーヌ』を観たよ」と話したところ、「あれはとても良い映画でしょう?フランス人の心を表していると思います」と言っていました。全体に漂う軽やかさ、一瞬にして燃えあがったかとおもうとあっさりと終わってしまうような後腐れのない恋愛模様。あらためて、エリック・ロメールはすごい!と感心するとともに、こういう作風で日本のマダムたちを虜にしているあたり、恐ろしい男だな(ほめてる)と思いました。

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