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第7期叡王戦五番勝負第三局個人協賛体験記

 ことの始まりはyoutubeの石田九段一門将棋チャンネルにアップロードされていた叡王戦五番勝負第三局の開催の為の協賛金を募るという動画。一口20万円、10名限定で対局者との記念撮影や前夜祭への出席・大盤解説会(前列指定席)、更には対局室への入室などと実に盛り沢山な特典。正直20万支払ってもお釣りが来ると思った。丁度年度末の繁忙期を終えて売掛金の入金も多い時期で懐も温かい。対局日は平日だがそこは事業主の強みで調整可能。私は10人に入れば幸運くらいの気持ちで、当日の受付開始と同時にメールを送った。 そして1時間後に見知らぬ番号から携帯に着信。ちゃんと10人の中に入っていたようで、嬉しいと同時に驚きの方が大きかった。協賛金の振込先等はメールで送られてきたので、翌日に速攻で送金。更に自宅から二日間通うのは少々大変になりそうだったので三井ガーデンホテル柏の葉も予約。決着局になることもありうると思って前日・当日と2泊入れておいたが結果これが正解だったように思う。

 当日まで大過なく過ごし(とはいえ直前は地方に行っていたが)、5月23日。集合時間までは間があったが、余裕を持ってホテルにチェックインしようとしたら、聡太先生が~、と話しながらホテル入り口付近をうろうろしている人達を発見。入り待ちだったのか。ファン心理としては分からなくもないが…と思いながら自分の部屋へ。
 やがて指定されていた集合時間になったので受付場所へ。今回の協賛のメイン企画のひとつでもある対局者二人とのスリーショット撮影(プロが撮影してくれる)だ。非常にタイトなスケジュールの中、一人あたり20秒で秒読みされつつ、複数台のカメラで撮影される。当日の対局室にも使われたカンファレンスセンターに皆で上がっていく。ちゃんと撮影用の照明がセットされており、椅子が三つ並べられて奥に藤井叡王、手前に出口六段がスタンバイ。前の方の撮影が終わったら流れ作業のように次の人間が入る。およそ数十センチという距離で対局者二人に挟まれて撮影。私から見れば遙かに若い二人だがオーラが凄かった。20秒はあっという間で正直どんな表情をしていたかすら覚えていない。 席を離れる際にお二人それぞれに黙礼でご挨拶した時の、藤井叡王の何時もながらの深いお辞儀と、ぱっと顔を上げた時に一瞬出口六段と目が合ったのが凄く印象的だった。この時の写真はスポンサー特典として、画像データが後日特製のUSBで送られてくるそうだ。

 撮影が終わった後は三井ガーデンホテル柏の葉1Fのレストランで前夜祭だ。このレストランは外の景色が見えるように全面ガラスになっているのだが、その外からカメラを無遠慮に向けてくる人には正直閉口した。 前夜祭は、指定席形式になっていて、私の座った4人がけのテーブルは同じ協賛者の方だったが、すぐ隣のテーブルで私の一番近くにいらしたのが鈴木大介九段。元々将棋より先に麻雀があった私は、ついつい鈴木九段とも麻雀の話を少ししたりもした。広瀬八段と以前同卓したことを話したら非常に驚かれた。将棋の指導対局ならともかく、麻雀の大会なので確かにレア体験だった。鈴木九段は写真撮影にも気さくに応じて下さって、さらには近くのテーブルにいらした高見七段とも写真撮る?とわざわざ高見先生に声をかけて下さった上に、なんとツーショットの撮影までして下さった。鈴木先生がシャッター係をやろうとするので私と高見先生とで「いや、それおかしいです」とハモってしまったりした。
 この日の前夜祭の会場はL字型になっており、丁度私達がいたのは藤井竜王や佐藤会長等は殆ど見えない位置だったのだが、それを気にしてこちらにも顔を向けて下さるように勝又七段が声かけをしたり、本当に棋士の先生方の気遣いには感謝の言葉しかない。藤井・出口両対局者の挨拶等を経て、前夜祭は和やかな雰囲気のうちに終了した。藤井竜王のファンの方と直接話す機会は私にはこれが初めてのことであったが、色々楽しかった。この前夜祭の写真も合わせてデータを頂けるということで楽しみである。

 そして叡王戦五番勝負第三局当日の5月24日。朝食を食べにレストランに行くと島九段や佐藤会長、石田九段と遭遇。その後身支度を調えて再び集合。今回のスポンサー特典でなんと言ってもメインだったのは対局室へ入っての観戦だった。これは朝から初手から数手までを対局室に入って観戦できるというもの。8時半に対局室に行くと昨日とは雰囲気が一変していた。対局の準備が出来ている。立会人の石田九段、記録係の中沢三段もやってくる。見学者は丁度対局を真正面(立会人の向かい側)から2列に並べられた椅子に座って見学する。たまたま朝集合した順番で座る場所が決められていたのだが、私の席は前列の真ん中。丁度ABEMAが対局の中継で使っているカメラのほぼ真後ろ、もの凄く良い位置だった。先に挑戦者の出口六段が、ややあってタイトル保持者の藤井叡王が入室する。報道陣のカメラに囲まれる中、対局の準備が着々と進められていく。カメラのシャッター音と大橋流で並べられる駒音以外は空気が張り詰めている。今日で決着局となるのか、それとも挑戦者が一勝を返すのか。藤井叡王を待つ間の出口六段の決意を秘めて盤を見つめるまなざしと、入室した時の静かでありながら底知れない雰囲気を纏った藤井叡王に圧倒された。 午前九時、立会人の発声で対局が開始される。何時もと同じルーティーンでお茶を一口飲んでから初手▲2六歩。△8四歩▲2五歩△8五歩…離れていてもわかる。そして▲7八金…相掛かりだ。この辺りで私達は退室した。丁度私が出て行く時に視界の片隅で出口六段が△3二金と指したのが見えたところだった。その後、控え室の横を通って外に出て行く。控え室に丁度いらした中村太地七段と安食総子女流初段をお見かけした。

 そこから大盤解説会までは自由時間だ。同じ協賛者の方とららぽーとで食事などしつつ棋譜中継を見たりしながら時間を潰しながら1時前には会場に戻る。その時には大盤解説に参加される方の行列が結構出来ていた。協賛は最前列と二列目に個人指定席があり、協賛者のパスを首から提げているのでそのまま入場可能。この時の席もなんと最前列ほぼ真ん中という又しても凄い席だった。私にとっては初めての大盤解説会の参加でこの席というのは本当にありがたかった。解説で使われるのは手で解説と聞き手が駒を動かすタイプの大盤ではなく、パソコンを使って勝又七段が操作してそれが会場正面の大画面に映し出される。また、会場向かって左側の大型スクリーンには実際に対局している盤を天カメで映したものがある。これも今はやりのDX化といった所か。仕事でもDXについてやらねばならぬ事が多い自分には大変興味深かった。ただ、会場正面の方は棋譜中継からデータを取るのでどうしても天カメのものより30秒ほどディレイする。最後の1分将棋になった時にこの時間差で私は少々混乱した。
 さて、2時になって解説開始。解説高見七段と聞き手に加藤結李愛女流初段からスタート。加藤女流が壇上に上がる時に、さっと手を差し伸べる高見七段、流石の気遣い。解説は他にも佐々木勇気七段、門倉啓太五段といった石田一門総出演、他にも「ほぼ」石田一門の三枚堂達也七段や岡崎洋七段といった先生方が登場された。
 お隣に座られた方によると「大盤解説会あるある」ということで、解説をやっている最中ほど手が進まず、休憩時間に限って手がどんどん進むということがあるそうだが、今回もそのような部分が多かった。なので、解説棋士による色々な雑談等も楽しめた。
 三枚堂/佐々木コンビの解説時は、子供の頃に将棋センターの上で紙飛行機を飛ばしたり、ペットボトルで野球(ペットボトルをバットに、剥いたボトルのラベルを丸めてボールにする)をして叱られたといった子供時代の思い出話や、佐々木七段が藤井竜王に聞きたいこととして新幹線のどの辺りに座ったら揺れないのか、とか三枚堂七段(だったと記憶している)が、藤井竜王が竜王を取られた後におめでとうございます、と声をかけたら90度の深々としたお辞儀をされた話とか色々楽しい話を聞くことが出来た。また、勝又七段が話題作りとしておやつや将棋飯の資料(ちゃんと不二家の該当商品ページもすぐに出るサービスの良さ)、そして石田一門(板谷一門)の系統図もありがたかった。板谷四郎-板谷進―小林健二―北村桂香とあり、その隣に一門ではない出口若武、と書いてあってわざわざ「夫婦」と纏められていてくすりと笑わされたりもした。出口六段は井上一門の棋士だが、こうして考えると今回の対局は何かしらの形で板谷一門に縁のある者が関係していたようだ。
 数回の休憩を繰り返しながら進んだ大盤解説会も「午後6時には確実に双方とも一分将棋になるのでここが最後」と勝又七段が指定された休憩を最後に勝負は最後の大熱戦に。先に出口六段が一分将棋になったが、藤井叡王も一分将棋となった95手目。秒読みが進み、切れるかとぎりぎりの59秒で6五香と打った時には会場から悲鳴があがっていた。この頃はもう評価値乱高下。自分なりに色々考えて自分だったら何を指すか、などと考えつつ97手目の▲7五角等はあたったりもした。丁度この時になると天カメと正面スクリーンの棋譜中継の時間差の為に、混乱の極み。私も手元でABEMAの中継(これも使う媒体によっては時間差がある)を見たりした。102手目の△4二銀で一気に形勢は先手勝勢に。やがて出口六段が投了され、第七期叡王戦五番勝負は第三局をもって藤井叡王のストレート防衛となった。
 その後、マスコミのインタビューの後、両対局者が大盤解説会場に。高見七段が出迎える中、藤井叡王、出口六段、石田九段と入ってこられた。対局者の健闘を称える石田九段、何時もの如く謙虚な藤井叡王、そしてこの時に何よりも印象的だったのは出口六段の涙だった。勝負事なので勝者がいれば敗者もいるのが当たり前。藤井叡王も今まで何度も苦杯をなめさせられている。つい先日の王座戦の決勝Tでは大橋六段に敗れ、一部の口さがない人から散々な言われようだった。10割勝つなどということは普通に考えたら不可能なのにまるで勝って当たり前、ひとつでも負けたら鬼の首でも取ったかのように騒がれる。しかし、そんな中でもひたすら前を向き、自らの足りない所を反省し、高みを目指そうとする求道者のような藤井叡王の姿勢には何時も頭が下がる。そして、負けて本当に悔しくて言葉が出ずに涙を流した出口六段の感情の発露もまた共感できるものだった。相手が最強と言われようと挑戦者として盤の前に座ったからには負けると思って勝負に臨むものはいないだろう。そして、タイトル戦後の涙という同じものを経験したことのある高見七段のフォローが本当に暖かいものだった。
 対局者が感想戦の為に会場を去った所で大盤解説会も終了。長い一日はこうして終わった。

 今回、思いがけずこの対局を協賛させて頂いた事で多くの得がたい経験をさせて貰った。両対局者はもとより、長い時間をかけてこの対局を成功に導いた実行委員会の皆様にもおめでとうございますと申し上げたい。

 最後に、特典の写真データの入ったUSBが到着したら是非自分専用のフォトブックを作成して記念にしたいと思う。
 本当に楽しい二日間だった。

 (5月31日追記・写真データの入ったUSBは29日に無事に手元に届いた。緊張して表情がこわばっている写真をみて思わず苦笑した)

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