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病歴20:3回目の再発、つまり4回目

やっぱりか。
思わず、声に出た。
主治医が「なにか自覚するような前兆がありましたか?」と尋ねる。

2021年9月のCTの検査で、腸の一部が変形、腫瘍が大きくなってきているのではないかと疑いがかかった。
そのため、10月には生まれて初めてのPETの検査を受けることになった。

この時も、PETを受けるか、様子を見るかの2択だった。
「様子を見て、腫瘍が大きくなるようだったらPETを受けたらよいのでは?」と尋ねてみたところ、「大きくなるようだったら、その段階で手術です」と主治医に苦笑された。
仕事の予定なども考えて、2週間後の日付以降がよいと言ったら、主治医はその日付で予約を取ってくれた。
それで、これは主治医が急いだほうがいいと考えるような異変が起きているのだと、やっとわかった。

初めての病院で、初めてのPET。
時間がかかるものだと聞いていたので、本を用意していたのだが、目を使うと目に薬剤が集まりやすくなるそうだ。
薬剤が全身に行き渡るまで、薄暗い部屋でリクライニングシートに座り、目を閉じて静かにしているように言われる。
全部で2時間ぐらい、たいていは撮影は1度だけだが、場合によってはもう一回、呼ばれることもあるそうだ。
案の定、もう一回、呼ばれた。

がん細胞は食いしん坊で、大量のブドウ糖を取り込む。そこで、ブドウ糖に目印をつけておき、がん細胞がどのあたりにあるのか、どれぐらい元気いっぱいかを調べるのがPETだ。
10月のことの時の検査結果では、私の体内には腫瘍はあるにはあるが、がん細胞は元気ではないから様子見でよい、ということになった。
持ち主に似ず、食いしん坊ではなかったらしい。
その点、これまでの維持療法が奏功して、がん細胞が疲れていたと理解することができた。

体内にがん細胞があることは、2019年の手術の時にも確認していることだ。
取り除ききれないほどの播種がある。
だから、腫瘍の減量の手術は行ったけれども、体内のがん細胞をゼロにしたわけではないことで、私の中では治ったとは思えない状況が続いていた。
維持療法で、分子標的治療薬とか、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤といわれる抗悪性腫瘍剤を服用しているのだし。
ちょうど、コロナの流行が第何波の流行かわからなくなってくるようなものだ。感染者数が減り切らずに、次のピークが来るようなもの。
でも、次のピークは、手術から5年ぐらいは猶予があるものだと思っていた。

2022年4月、血尿が出た。
2019年の再発がわかったのも血尿からだったので、全身が冷えるような思いがした。
それも、なぜか、休みの日の夜の、ちょっぴりだけ飲酒した日に限るって言う…。
2019年のときはトイレの中の水が赤いインクを溶いたように真っ赤になったが、今回はそれほどでもない代わりに血の塊がべっとりと出た。

翌日、仕事を急遽休んで、がん治療を受けている婦人科にまず受診。血液検査、尿検査、エコーで婦人科の範囲内でないことを確認してから、近医泌尿器科に受診した。
尿検査の結果では典型的な膀胱炎。しかし、泌尿器科でのエコーで、膀胱内になにかできているようだと指摘された。
それが血の塊なのか、腫瘍なのか…。
翌週、再び近医泌尿器科に受診した時には、そのなにかはエコーに写らず、泌尿器科医は「来週は婦人科でCTでしっかり診てもらってくださいね」と首をかしげながら治療終了になった。

そして、婦人科のいつもの受診日。
いつもは午前中なのに、なぜか午後に造影剤CTの検査と診察の予約。
これだけでも、なんとなくは要注意の気配がしていた。
CTで確認された再発は2か所。腸の横に1cmぐらいの腫瘍と、直腸と膀胱の間に挟まるようにして3cmの腫瘍ができていた。

告知の次は、治療方針の検討である。
選択肢①は手術して、抗がん剤治療を受けて、その後に維持療法に戻る。
選択肢②は手術はせずに、抗がん剤治療を受けて、その後に維持療法を続ける。
医師が選択肢①と②のメリットとデメリットを説明してくれる。
①のメリットは病理検査ができて、前回と同じ腫瘍であるかどうかを確かめられること。しゅじゅつデメリットは治療開始が1か月後になること。
手術をするとしたら、直腸ごと腫瘍を切除するパターンと、直腸を傷つけないように表面に付着した腫瘍だけを取り除くパターンがある。どちらも、腫瘍を減量することはできるが、私の体内のがん細胞をゼロにすることはできない。
②のメリットは、すぐ治療開始ができること。腫瘍の減量ができること。

持ち帰って判断するというわけにはいかない。その場で決めていかなくてはいけない。
つねづね、私が考えていたことを、医師に伝えるチャンスが来た。
腫瘍になるたびに臓器を一つずつ失っていくのであれば、私の生活はどんどん不自由になって苦痛が増えていく。
今回の腫瘍は、消化器を圧迫するようなどうしても手術しなければならないような状態にはなっていないようだ。
だとしたら、手術をしないで臓器を温存しておくほうが、今回の自分にとっては、総じてQOLを落とさずにすむのではないか。
これらのことから、抗がん剤だけで治療をするが望ましいように思えることを伝えた。

医師は「そう!そう!そうなんだよ」と、出来のいい生徒をほめてくれるみたいに、私の考え方が適切であることを保証してくれた。
人によっては、体内のがん細胞をゼロにすることを希求して手術を優先すべきと考えるかもしれないが、私の体内には数えきれないがん細胞が既に広がっているのだ。
こうして、手術をせずに抗がん剤で治療するという選択肢を選んだところで、次の決断をしなければならなくなる。
忘れていたが、がん治療というのは、選択と決断が続く。
つまり、いつから、どういう頻度で、抗がん剤を受けるのか。

仕事の調整のことなどを考えて、GW明けにスタートすることを言うと、主治医の表情が曇った。
腫瘍が見つかったのだし、抗がん剤治療なら今月からでも治療が開始できるのだから、なるべく早く取り掛かるのがいいと説明された。
困った。月末にパートナー氏と旅行に行こうと話していて、それには行きたい。
思い切ってその予定のことを打ち明けると、主治医はその旅行の前に差し支えないように一回目の抗がん剤の治療を導入しようと提案してくれた。
その日は月曜日だったのだけど、2日後の水曜日に入院して、抗がん剤治療を受けるという、最速パターン。

後回しにすればするほど、考え、悩む時間が増える。不安が大きくなる。
それなら、勢いで治療を受けてしまおう。
そんなわけで、明日から、4回目の治療開始である。
……入院の荷物、作らなくちゃ。

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