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書籍『戦火の中のオタクたち』

天川まなる・條支ヤーセル・青山弘之 2023 晶文社

Twitterで見かけて、手に取った本。
タイトルのインパクトもあったが、シリアが今はどうなっているのかを知りたい気持ちもあって、読もうと思った。

2011年に内戦が起きてから、シリアで日本のアニメのファンが増える。
その理由としては、シリアでインターネットが一般的に普及が進んだこと。
スムーズな翻訳のシステムが構築されていったこと。
そして、内戦で外出の機会が減ったことで、時間ができ、動画を見ることが増えたこと。
そこに、内容が人々の心の支えになっている面もあるのではないかと、インタビューを重ねながら描き出されていく。

この、暇だから、というのは、予想外だった。
作者も同様だったと思うのだが、内戦下、戦時下と聞くと、その国の全土が絶え間なく戦闘にさらされているような印象を持っている。
ところが、地域によって温度差のようなものがあって比較的安全に過ごすことができたり、買出しに行ったり、生活できたり…というところに、驚いた。
そういえば、以前、スーダン出身の方と仲良くなった時に、彼らもこの町は観光できるぐらい平和だ、この町は治安が悪いなど、地図を見ながら説明してくれたものだ。
全土が焦土と化すような、そういう戦闘はどちらかというと、ファンタジーなのかもしれない。

銃撃戦は数分から数十分で終わること、迫撃砲がネット動画を見ながら手作りされること。
戦闘は市街地だけではなく郊外の農耕地で行われるために、食糧不足や物価高騰が発生すること。
市街地が破壊されることで仕事がなくなる、収入がなくなる。だから、生活ができないから、難民として脱出するし、なかなか帰ってこられない。自殺率も高い。
こういった事情を読むにつけ、シリアも現在進行形であるが、もう一つの現在進行形で戦闘と混乱が続くウクライナのことを想起せずにはいられなかった。
内戦と侵略という違いはあるが、そこに住む人々の体験としては、とても近いように思ったし、きっと、なかなか解決しないということにおいても、近いのではないかと思った。

シリアの内戦が始まって11年。
私が子どもの頃にはイランイラク戦争もあったし、青年期には湾岸戦争もあったし、あのエリアはずっと落ち着かない、というぼんやりとしたイメージしかなかった。
それでも、シリアは識字率が高く、穏健で、ご飯が美味しく、古い町並みが残っていて。
平山郁夫も描いた美しいパルミラ遺跡を要し、ペルシャという美しい音の響きを歴史に残す。
憧れのシルクロード、憧れの西域だったのだ。
しかも、内戦が始まるまでは、シリアは近隣の難民を最も多く受け入れていた国でもあった。

どうやって、あの土地が再び平和と文化を取り戻していくことができるのか、残念ながら私にはわからない。
だが、ウクライナを忘れないように、シリアも忘れないようにしておきたい。
ダマスクローズの国。ナツメヤシの国。遠い、憧れの国。
そこに住む人が、再び安心して生活できる日が訪れますように。
そこに住んでいた人たちが、いつか安心して帰ることができますように。

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