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病歴51:酸素ボンベとPET検査

在宅酸素療法を利用した生活が始まると同時に、飼い猫が出奔し、怒涛のうちに退院後最初の一週間が過ぎていった。幸い、猫は帰宅してくれ、私もこそっと職場復帰。
午前中だけの短時間だけの出勤と言いながら、午後も少し居残りしていたりする。
とはいえ、酸素ボンベの残り具合と相談しながら生活することになった。
個人の感覚としては、ボンベのほうが、10mをこえる長いチューブに繋げられるよりも、なんとなく動きやすい。手元で酸素量を変えるのも変えやすいし。
でも、ボンベは呼吸に合わせて息を吸う時だけ酸素が出るが、酸素発生機だと呼吸に関係なく酸素を出してくれるので楽は楽で、一長一短。
いずれにせよ、この生活が始まったばかりなので、慣れるしかない。

肺炎のほうはそういうわけで服薬しながらの治療に切り替わったわけであるが、治療終了はしていない。
次は、がん治療のほうをどうするか、という問いが浮上してきた。
幸い、3回のBEP療法で、一番懸念されていた腫瘍そのものは小さくなってきていたところだたので、切迫はしていなかった。
そのため、がん治療を先送りにすることには問題なかったが、今後をどうしていくかは考えなければならない。
というのも、おそらく、今回の間質性肺炎は薬剤性であり、その原因となったのはブレオマイシンの可能性が高い。
とはいえ、私はカルボプラチンにアナフィラキシーを起こしたことがあるので、同じプラチナ製剤のシスプラチンへのアレルギーである可能性も否定できない、ということらしい。

私は身体疾患についても、薬剤についても、知識が乏しい一般人であるから、ブレオがあと1回使えるならやっちゃえばいいのに、等とのんきに考えてしまうのであるが、それは違うと主治医に入院中にも諭された。
この薬剤性肺炎を繰り返すと致命的なこともあるそうで、安全を期して、危険は最大限避けたいとのこと。
だから、まず、「肺炎を治しましょう。体力を回復しましょう」が基本の方針から変わることはなかった。

とはいえ、だ。
自分の状態をしっかりと把握しておきたいのが人情である。
がん治療を先送りするなら、先送りしても大丈夫な状態であるかを確かめたい。
維持療法(再発予防のための治療)をしたほうがいいのか、しておいたほうが安心な気もするけれども、それはそれで副作用があるしと思うと、悩ましい。
それで、これはPET検査を受けることを希望した。自分の中の腫瘍細胞が元気だったら維持療法を受けるし、元気がないなら安心してがん治療を先送りにできる。

PET検査はいつもの通院先と違う病院で受けるのであるが、二度目なのでさほど迷わず行くことができた。
ところが、この日は、睡眠不足がひどくて、眠たくて眠たくて。
薬剤投与の後も薄暗い部屋で待機が長いから抗いがたく、PET検査そのものにおいても、気づいたら終わっていた。
MRIに比べると静かなものなので寝やすかった。
いびきをかかなかったか、それだけが心配になるぐらい、記憶がまったくない。
再検査にもならずに、ささっと会計を言い渡されたのだった。

PET検査の結果はいつもの病院で、いつもの婦人科の主治医からの説明になる。
今回のそれは、腹部のがん細胞は死滅しており、現在、積極的にがん治療を必要とする箇所はない、というものだった。
殲滅成功!
ガッツポーズが出る。
しんどかったけれど、我慢した甲斐があった。
私にてきめんにダメージが出る薬剤は、私の分身であるがん細胞にもてきめんに効果があったらしい。
来春ではなく、次の再発するまで、抗がん剤治療も受けなくていいってことではないか。

主治医には、現在、在宅酸素療法に慣れることに精一杯で、維持療法で副作用とも戦うことはしんどいように感じることを素直に伝えた。
それでいいと、主治医も言ってくれた。
「先生、ありがとう」
主治医の目をしっかり見つめてお礼を伝えて、次の予約日を決める。
今後は、おそらく2か月に1度のフォローでしばらく様子を見て、それが半年ごとになり、数年、稼げるといいのだけど。
いつかは必ずまた再発する前提で、自分もいるし、主治医もいるので、話しやすい。
とりあえず。
つかの間の休息である。

まあ、在宅酸素に慣れないといけないんだけどね。
出勤しては、酸素をあちこちにぶつけて、どんがんと音を立てては恐縮している。
キャリーで引っ張るよりはショルダーバッグに入れるほうが、使いまわしがしやすいのだけど、ぶつけやすいのが玉に瑕。
今月のうちには、外泊の練習もしてみることにしている。
海外にまで行くのは難しいと思うけれど、いずれ、飛行機に乗って、どこかに行ってみたいなぁ。

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