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極彩色の食卓

みお 2019年6月22日発売 マイクロマガジン社

口に入れるもの、目にうつるもの、耳に聞こえるもの、鼻をくすぐるものが、すべて心の滋養となって、2人の画家が再生していく。
食卓に並べられる料理の色彩の美しさ、四季を彩る部屋の美しさなど、挿絵はないのに目に浮かぶような、視覚の想像が存分に刺激される物語だ。
一年の時の流れが物語の中に確かに存在しており、季節の変化、人々の変化を追う物語そのものも美しい。

絵に挫折した美大生の燕と、天才的な画家でありながら作品を発表しなくなった律子という年配の女性。
二人の関係は、性愛や恋愛ではなく、母子のようでいて姉弟のようでいて、絶妙の距離感を持って描き出さるところがいい。

何かを描きたしながら、人生は深まっていく。
一度ついてしまったものは、消したくても消すことはできない。
痕跡をいかしながら、より美しく色を重ね、絵を複雑にしていくことなら、できるかもしれない。
そんな希望に、心がとても満たされた。

主人公の燕の巣は、木にかけられるものではないけれど、そんな野暮は言ってはいけない気はする。
柏木というと、思い出すのは源氏物語だ。ここからは少し、ネタバレになるかもしれないが、連想をつらつらと書いていきたい。
柏木親子と律子は血縁関係にない。律子の本当の弟子となっていくのは燕だ。燕は柏木の陰に守られて育つ。
律子はその柏木に師事し、その情熱と技術は燕に与えられていくのだとするなら、夫は源氏。柏木は柏木。燕は薫だ。
律子が女三宮と重なって仕方なかった。老いの予感に頑迷になる源氏に若さと美しさで追い打ちをかけた女三宮。
柏木を拒み通すことができた女三宮が、祈りのうちに過ごし続け、老いていったとしたら、律子ではないか。
源氏物語は、香りと弦楽を伴う物語であるが、この『極彩色の食卓』は色があり、味がある。
美しくて美味しい、魅力的な物語だった。

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