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あずかりやさん

大山淳子 2015 ポプラ文庫

え?
と、不意打ちされた。
一人称でつづられるオムニバス形式の短編集で、語り手は話ごとに代わっていく。
主役は語り手よりも、どちらかというと、あずかりやさんとその店主であろう。
あずかりやさんとその店主をめぐる物語を、関わるもの達が語っていく。
その語り手に驚いた。意表をつかれた。びっくりした。

あずかりやさんの店主である青年は、名を桐島という。
店の入り口に揺れるのれんは「さとう」と白抜きにした藍染。
その由来も物語に譲るとして、この青年は視力を途中で失っている。
だからこそ、彼を見守るもの達しか、資格情報を語る語り手になりえないのだ。
この仕掛けを最大限活かす巧みさと同時に、過剰な悲劇性をこめるのではなく、個性として描く書き手の姿勢が素敵に感じた。
目が見えないから生じうることに、時々、物語の筋とは別のところで、はっとさせられることもあった。
だけど、魅力は、彼の忍耐強いたたずまいにある。

静かで淡々とした語り口の優しくて柔らかい物語である。
1日100円で、なんでも預かるというお店。
その不思議なお店がどのように始まったのか、第一話から引き込まれた。
下町の商店街の昔懐かしいようなのどかさと、徐々に失われていく寂しさと。
一冊の中で時間が容赦なく過ぎていくことがもったいないような素敵な世界だった。

Twitterでフォローしている書店員さんたちがずいぶんと話題にしていた本だった。
記憶にいつか読む本として記録されていた一冊だ。
本来の表紙の上に、あたたかな色合いの市松模様のカバーがかけられて、平置きにされていた。
気になって、気になって、ようやく手に取った。
これは、読書好きの心をつかむはずだ。優しい心の本好きさんたちに愛されるはずだ。

その上、「待つ」ことがお仕事の大事な部分であるところなど、なんだか自分の仕事に似ていると思った。
どこか、セラピーの力を持った物語の一つだと思う。

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