昼夜の手記(1)

 コンビニの前に埋め込まれていた喫煙所は撤去されていた。それでも喫煙者はそこにいた。僕は近づいてみて初めて消えた灰皿に気付いたのだ。どれだけ目を凝らしてもそこから煙は上がっていた。確かにそこには跡地と一人の喫煙者だけだった。そうして僕は歩きながら、そこからしばらく目を逸さずにいたのだが、振り返って前を向いた瞬間に、信号を無視しながら高速で走ってくる自動車に轢かれて死ぬ未来が見えたような気もしていた。死への好奇心は消えてあれも蜃気楼だったのかと思う。しかし去っていく人が在るだけの風景がコンクリートの跡に黒く刻み込まれていた。ある朝、僕の部屋から何かが消えていたとしても僕は気づくのだろうか。この散歩中に僕の部屋から何かが奪われていても僕はそれに気づかないのだろうか。町は眠っているふりをしながら何をやっている?それは僕は不要な人間の排除だと思う。異常気象で焼き尽くされた夜の町には異臭が広がっていた。僕は夜のゴミ捨てをやめて部屋に戻った後、再び繰り出した。光に引き寄せられる虫たちを見て夏だと思った。氷が詰め込まれたカップをセルフレジで会計する。有人のレジには誰もいない。バックヤードから人の気配すら感じない夜のコンビニだ。点検中のコーヒーマシンを見つめる。どうやら僕はこれから人間と話すことになるらしい。そうして眼鏡の人間が近くにやってきたことは覚えている。ただどんな会話をしたのか、そもそもやりとりという会話があったのかすらもわからない。僕はカップを持っていなかったし、おそらく手元のこれは返金されたものだ。どういうわけか月を眺めていたし、こんなにうるさいものかと虫たちの鳴き声を聞いた。ベンチには誰も座っていなかった。それもそのはずで、こんな熱帯夜に誰が好んで君の前で一息つくのか。

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