昼夜の手記(4)

昼夜の手記

(1)


 とある雑居ビルが目についたら、僕はいつも一本の中指を震わせながら目をカッと開いて見せる。君への捨て台詞はこれまで僕が生きてきた中で最も酷い罵倒であったのだと思う。人は筋肉の緊張が極限にまで達した時にこんな正しい怪物を纏うことができるのかと驚いたほどだ。過呼吸も神経痛も、君への”理不尽な誹謗中傷”による、君からの怨念だろうか。君は症状をよく知っていたのかもしれないが、だからこそ苦し紛れに権力を振り翳してしまったのか、それならどうして僕が”そう成る”ことを全く予期できなかったのか、今でも到底理解できない人間である。ビルの中の窓の中の壁の中に安らかな血管の流れが見える。しかし君は積み木を壊してしまう。つまり君の愛は自分の杜撰な仕事への感傷であり、それらを癒すための根拠のない妄想であり、緩やかな窒息を起こすくらい無意識のうちに吐き出された毒でしかない。あの空気清浄機はなんだろう。あの開放感はなんだろう。あの社会的意義はなんだろう。もうこれ以上はっきり言う必要はなくて、実際、最近はただ昼でも夜でもあの雑居ビルを見上げながら中指を立てるルーティンが完成したのだ。そして周囲の人間の存在なんてどうでも良いと思えた瞬間にそんな呪縛からは解き放たれてしまった。あとは記憶がなんとかしてくれるだろう。とっくの昔にただの駐車場へと成り果てていたのだ。君が僕を打つ時は、僕が君の子に成り君の手で殺されることでしかありえないだろう。しかし僕は死ねなかった。医者以外の医者、親以外の親によって、初めて無価値のまま生かされることを覚えたのだ。誰かに喋る価値がないから黙って聞いているだけだ。うるさいとすぐに口を塞がれてしまう。だからこんなにも回りくどいことをしなければならないのだが、今ではむしろこっちの方が都合が良かったように思える。言い残したことはない、しかし強い後悔がある。ある朝、僕は砂浜で大量の化学ゴミを焼いた後、真っ直ぐ家に帰って夜まで眠っていた。

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