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設計あれやこれや 11

盲点

 盲という字は、会社で、ある時から使用禁止の字となりました。やはり差別用語を禁止するという事から来ている訳です。

 それはそれで良いと思うわけですが、私だけでは無く前任者が書いた、予備口を塞ぐ大量の「盲板」という名称の図面について、「ブラインド板」という名称に設計変更しなさいと日々、図面管理の部署から送られて来るのには、そうとう辟易させられました。

 日々、時間に追われている身としては。
 そんな事を言うと、立ち所に、君の設計は、遅いからだと反論されてしまいそうですが。

 今回はその盲という字が入る、「設計の盲点」についての話しをいたいと思います。

 システムの設計を行う時、流す試料により、ステンレスやテフロン、パッキン、シート材を選択したりするわけですが、結構見落としてしまうのが、グリス類です。
 バルブ類、フィルタ、等あらゆる所に使われています。可動部分だけでは無く、Oリングにも使います。
 たぶん可動部がスムーズに動くようにであったり、シール性能を上げる役目もあるのかなと思いますが。

 バルブ類でしたら、禁油品も選べたりするのですが、ゴムがヒッツられる感じがして、ハンドル操作がとたんにスムーズでなくなったりという感じでした。
 普通に考えたら性能的に問題が無ければ、製品にグリスを使う訳は無いですよね。

 バルブのカタログを見ても、グリスが入っているとか、そのグリスの材質がどの様な物かは、載っていない事の方が多いようです。

 問題のあった例として塩素ガスの製造ラインに入れた分析計のラインで、バルブが固まって動かなくなった事がありました。
 この時、初めてグリスの材質に気が付きました。市販のバルブの場合では、シリコングリスを使われている事が多いようです。
 シリコングリスは、塩素ガスに触れると固まってしまうようで、いくら塩素に対応した材質を選定しても、グリスの材質まで考えが及びませんでした。
 この事がこの場合の盲点になると思います。
 この事は、接ガス、接液の材料の選択にグリスを含めるきっかけとなりました。

 その後、塩素用に使用するバルブは、禁油品を使う事になりました。

 塩素にも使えるグリスとしてテフロングリスという物が有るという事を知りました。たしか、クライトックス?とかいう高価な物らしいのですが。

 その後、同等の物でニチアスからフッ素グリスという物を見付けました。
 今、ネットで調べてみると、50g入りの物が販売されていました。
 私が現役の頃に比べると、倍以上の価格に値上がりしている感じです。

 それまで、組立作業で使われていたグリスはシリコン系だったという事を確認して、自分で設計したフィルタケースやポット等の Oリングシールの部分は、全てテフロングリスに変更しました。

 グリスにはもう1つヒヤッとした事が有ります。
 Swagelokの逆止弁を使用した時の事ですが。
 低圧の試料のラインに逆止弁を入れる事になりました。
 そこでクラッキング圧力の1番小さい逆止弁を選びました。
 システムの組立前の部品が集まった所で、前回のグリスの件が頭によぎり、もしやと思い逆止弁をバラしてみました。
 バラしてみて、中に入っているバネ等がグリスにまみれた感じで、とても低圧で動くとは思えません。また実際の動作を確認しても低圧動作しませんでした。
 グリスを良く拭き取り、組み立ててのち動作チェックして、低圧でしっかり動く事を確認して、システムの組立に回しました。
 バラしたSwagelokの逆止弁のグリスは結構、てんこ盛りという印象でした。

 市販品の部品は、カタログ通りの性能がある、と考える事は盲点となるのかも知れません。
 チェックバルブのグリスの事でわかった事もあります。
 Swagelokのカタログには、使われているグリスについてさえも、記載されているのですね。
 こういう事についてまで詳しく載せている点から見て、Swagelokが一流である証なのかも知れないと思いました。

 試料が塩素ガスの場合、テフロンのベース付きというニードルバルブを良く使用しました。
 このニードルバルブはバルブ固定用のベースがあるのですが、このベースは塩ビでできています。
 塩ビは、塩素ガスで使用できる樹脂です。
 暫く経ってから、以前納めた分析計を見せてもらうと、ニードルバルブがベースから離れて、宙ぶらりんになっていました。
 調べて見ると、ベースとニードルバルブを繋いでいるネジがPPという樹脂で出来ていました。

 「樹脂配管1」の中の話しにあるように、テフロンには小さな穴があり、バルブ中の塩素ガスがバルブ本体のテフロンから外へ染み出して、これが樹脂のPPを侵食し、最後にネジを破断させていた訳です。
 この後、対策としては、PPのネジをステンレスのネジに換える事にしました。

 塩素ガスの分析装置は塩素ガスが樹脂配管から滲み出るなどで、大変厳しい環境下にあるため錆び易く、いろいろと対策を施しました。最後はネジにも塗装を施す事になりました。

 装置の組立に使用するネジ類は、全種類や数量を把握出来る訳では無く、その都度足りない分を追加するようです。ネジの塗装には、手間がかかり面倒な事で皆んな嫌がっていました。

 外注の組立業者さんにも、お願いしたのですが、その頃、購買から組立業者さんへの見積もり条件も会社の方針で厳しくなるなどして、時間の掛かる事はやりたがりません。そこまで、お金が貰えるわけでは無く、次の仕事が控えているので、なおさらです。

 社内の人間は、このような面倒な事は、なかなか受けてもらえません。

 仕様が無く自分で用意したり塩素の仕事が来る度に、だんだん罰ゲーム化していく感じでした。

 自分で図面を引いて、発注して、組立サポートして、システムの動作に問題が無ければ、やっと解放、ホットするという感じです。

 この頃の事を書いていると、だんだんその頃の記憶がよみがえります。
 だから、今は現役を引退して、ホットした感覚を思い出し、さらにホットした感じです。


盲点のまとめ

 あくまで個人的な経験ですがグリスによって、問題が起きたのは、塩素ガスのみです。そういう意味では、あまりグリスについては、気にする必要は無いかも知れません。
 ただ、塩素ガスでは無くても塩素系のガスの場合は、ちょっと気になるかも知れません。とりあえず自作設計のフィルタケースなどでしたら、テフロングリスを使っておくのがベストではないかと思います。

 市販の部品を低圧で作動させる場合、仕様範囲であっても、今回のチェックバルブのように動かない事があるので、組み付け前に確認出来る物であれば確認をしておいた方が良いと思います。
 実際の圧力については、もう昔の事で忘れましたが、クラッキング圧力が0.003MPa の物を選定しました。低圧での動作を期待しての選定でした。
 低温で使用した温調トラップの時も同様な事が有りました。これも動作が仕様範囲内でした。
 カタログの仕様範囲で有っても、どの部品も動作範囲の低い方は、気を付けた方が良いかも知れません。

 樹脂、特にテフロンの場合、目には見えないけれど、穴がいっぱい有るという事は、分かっていたはずなのに、起きてしまったのがPPネジの話しです。経験の少ない試料等は、この様な問題が出て来るのは、仕様が無いと思います。次回から気を付けようと思いました。

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