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設計あれやこれや 9

振動、脈動、地面が揺れている

 試料に圧力が無い場合、分析計に試料を送る手立てとしては、やはりポンプを考えるのでは、ないでしょうか。試料がガスの場合、ダイヤフラムポンプを使用しました。

 ダイヤフラムポンプの場合、クランクが上下するわけだから、起動するとポンプは振動します。
振動は何かと面倒な症状を発生させます。

 例えば、ポンプを起動させると、ポンプを固定している筐体が振動します。筐体の固有振動数と合ってしまうと、さらに大変です。筐体から大きな振動音がでてしまいます。

 ポンプの振動は接続する配管にも影響がでてしまいます。金属のチューブ配管が何処かに触れると擦れる音を出します。筐体の振動もチューブの振動も、どちらも嫌なものです。

 私がこの仕事を担当する以前の担当者が作成した図面には、防振ゴムが入っているというふうには、なっていませんでした。後から防振用のゴムを敷いたりという事をカット&トライでやっていたようです。

 この仕事を担当した頃、ポンプの振動に対して、ずいぶん悩まされたものです。

 最初、ポンプを固定しているネジを利用して、新たな加工を施さなくても取り付けられるゴムの両端がオスネジの防振ゴムを入れてみたのですがゴム自体が硬いせいか、あまり効きません。
 結局、防振用のゴムシートを敷き、接続したチューブは金属同士、触れないように、触れる所に緩衝材を入れて、なんとか済ませる事となりました。

 今までは、この様な対策を現場で調整する人に任せていたようです。毎回、こういう対処を後から考えるのは大変だと思います。

 そこで私が担当してから、設計の段階で前もって防振対策を盛り込んだ設計をする事にしました。

 まずポンプの重量は、3kg位、防爆タイプで13kg程度でしたので、クラシキの防振ゴムで軽量用防振ゴムというのを選びました。
 これにより、ポンプから筐体への振動の伝わりは無くなりました。

 次に接続するチューブの振動に対しての対策です。なにもしなければ、チューブからガシャガシャと唸り始めるわけですから。

 対策としては、ポンプの出入口に樹脂チューブの弾性を利用してテフロンの仲間のPFA チューブで振動を受け、その後、ステンレスチューブに接続する。
 または、PFAチューブの代わりに、Swagelok社のフレキシブルチューブで受け、その後ステンレスチューブに接続という方法をとりました。

防振がうまくいって、ポンプのみが振動して、振動が周りに波及していかない状態は、ポンプが宙に浮いたような感じがします。

 ではポンプのクランクの上下動から来る試料の送られ方は、どうなのでしょうか。
 当然、試料ガスは脈動となります。 ダイヤフラムポンプであれば脈動は大したことは無く、後段にフィルタが入るのでこれを緩衝タンクと兼ねる程度で済みました。

 脈動については、一度エンジンのようなピストンとシリンダによる構成の小型のポンプを選択した事があります。

 分析計に入れる試料圧力の条件が高かったためということですが、エンジニアリングを行う応用設計課としても、初めて選定したようです。

 いざ、現場で動作させてみると、脈動がひどくて、とても分析するどころでは無かったようです。

 その後、脈動を取るための緩衝タンクの設計の依頼を受けました。
 そこで機械工学便覧に載っていた脈動防止方法を使って、緩衝タンクの設計を行ってみました。
 出来るだけ、小さく作りたかったため、普段使っている位の太めのパイプで、π型の三段の緩衝タンクを小さな板に組む設計をしました。
 三段にはしていますが、全部使うという訳では無く、現場でテストして、最大三段まで利用できる様にしました。三段使えば、計算通りの容積を得るという理屈です。
 図面を見たエンジニアリング担当者は、π型は脈動取りの効果が大きいからタンクの容量を半分で製作しなさいと、指示をされました。タンクの容量が大きいと分析計の応答時間に影響が出るという話しでした。

 結局、半分のタンク容量の物の図面を新たに作りました。但し、タンクの発注の際は、こっそり計算で出した容量のタンクも一緒に発注しました。

 実は、この仕事、海外ジョブだったので、メンテナンスに行かれる人と共謀したわけです。

 メンテナンスに行かれる人は、ひと月以上行っていたりするわけですが、分析計がうまく動かなければ、いつまで経っても帰れない状態となります。
 だから、安全牌として、両方持っていく事とした訳です。

 結果として、エンジニアリング担当者の容量を半分にする目論みは見事にハズレました。
 三段のπ型で、最初の計算通りの容量の大きなタンクをしかも3本全部、接続する事で脈動をとる事ができ分析計もきちんと分析するようになりました。

 エンジニアリング担当者の選択した、緩衝タンクでは脈動が取りきれなくて、うまく分析出来なかったそうです。さすがに便覧の計算はダテでは無いんだな、と内心、思いました。

 分析計そのものが、振動に弱く、分析データが安定しないという事もありました。
 連続ガス分析計という分析計で、酸素計の磁気ダンベル式が振動に弱いと聞いて現場で確認したのですが、別のタイプの非分散赤外線式分析計の方が影響をより受けていました。
 何台かの分析計が建物自体が揺れている中で設置されていました。

 建物自体の剛性に問題があるのではないかと感じました。
 ここに長時間居るだけで、なんか自分の身体がフラフラして来るといった感じの場所でした。
 地面が揺れている、という感じで、これで基準なんて取れるのかな、といった感じです。
 設置場所が揺れる事も想定外ですが、分析計がここまで振動に弱いのも想定外だったと思います。

 前もって、対策出来るように、ポンプで使用した軽量用防振ゴムとその頃、新製品として出てきたゲルゴムというタイプの防振ゴムやハネナイトというシート状の防振材を用意してみました。

 ポンプの時と同様に、筐体に固定される部分、全てにゴムを入れて対策してみました。
 結果として、磁気ダンベル式の酸素計は、データが安定したのですが、非分散赤外線式分析計の方は、対策前よりは良くなったようですが、やはりまだ安定しているといった所までは達していないといった感じでした。結局、この状態でこの後も使用しているという事でした。

 この場所は、いろいろな機械の振動が伝わって来るようで、機械が動いたり停止したり不規則な周波数で振動しているという感じでした。

 地面が揺れていたら、どこを基準にしたら良いのでしょう?

 ポンプが振動している場合。でも、地面は揺れずに安定しています。
 地面が振動している場合。では、分析計は揺れずに安定するのでしょうか?

 対策として、分析計システム全体を紐のような物で吊れば、地面の揺れをキャンセル出来るのでは無いかと考えた方が居ました。
 実際の所、揺れる建物から紐を垂らした場合、いずれ、紐も建物に同調して揺れ、それは分析計の揺れに繋がってしまうかも知れませんし、うまくいくかも知れません。
どちらにしても、現実的では無いですが。


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