戻らない場所
私が一人実家を離れていた頃、
父が飼犬を乱暴に扱った気配が見られ、
飼犬は、戻った私にも、
牙を向くようになってしまっていた。
当時未成年の私は、自身を守るだけで一杯で、よもやその矛先が犬へ向かうとは思いもしなかった。
自分だけが逃げてしまった事を悔やんだ。
その犬が亡くなる前日、
犬は、私に頭を撫でさせてくれたので、
何時間も撫で続けた。
「本当はずっとこうしたかったんだよ、一人だけ逃げてごめんね」と言うと、
犬は幸福で安堵そうな表情をした。
翌朝亡くなった犬の亡骸は
「ここにいると、ボクみたいになっちゃうよ、」と
私に語りかけていた。
その後暫くし、
私は、偶然的に、
父にネコババされていた治療保険金の一部を、保険会社の協力で得られたため、
医療を求め、命からがらの上京をしたが、
難病への偏見から、診てくれる医者は皆無だった。
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