五月、柳絮

大学のキャンパスへ至る道は、広瀬川沿いの高低差のある地形を斜めに突っ切る上り坂になっている。その坂の上りはじめのところで、目の前を白い綿毛がふわふわと風に舞っているのを見た。
柳やポプラなんかの木は春に花を咲かせたあと、晩春から初夏にかけて綿毛に包まれた種子を飛ばす。柳絮というらしい。坂道は幅が狭い割に路線バスや自転車などがよく往来してごちゃごちゃする。それらのごちゃごちゃした上を、綿毛は坂の上から流れてきて自由気ままに移ろっていた。五月晴れの昼の空が高く澄んでいた。


五月になると春先の駘蕩とした空気に初夏の鋭い日差しがだんだんと混ざり始め、時間帯によって暑いのか涼しいのかなんだか分からないような気候になる。街中へ出ると人々の半袖と長袖がグラデーションを形成しているのが分かる。

駐輪場の辛うじて空いているスペースに自転車をねじ込み、キャンパスを歩く。若葉が風にそよぐ音がした。ちょうど新歓シーズンで、ビラが掲示板に所狭しと貼り散らかされ、サークルや部活の活気のある勧誘がそこら中で行われている。

「一年生ですか?」と運動部に声をかけられるのをかわし、そこら辺で蟠っている新入生の群れを抜ける。キャンパスはもう新入生の独壇場となっていて、どこから湧いてきたのかと思うほど多くの人で埋め尽くされていた。


逃げ込んだ食堂の窓が切り取る景色はしんとした若葉で染まり、まるで深緑のカーテンが下りているようだった。新たに芽吹く葉の色は、生命のエネルギーをこれ以上ないほど伸びやかに行使する鮮やかな輝きを持っている。
その中をふわふわと柳絮が舞っていた。まるで時がゆっくりと流れているかのように。

ゆっくりと流れる柳絮の中に、三年前の風景を思い出した。入学したばかりのあの時、僕は同じように活気のあるキャンパスの中にいた。目に留まる全てのことが輝きに満ちて見えて、その数だけ無限に自分の選び取る道があったような気がした。今ではもうそのほとんどは見えなくなってしまって、ただ選び取った結果としての今の自分だけがここにある。未来はそのさきにぼんやりとあるだけで未だ見えない。



図書館でぼんやりと過ごして夕方になってから帰る。昼間と違って賑やかな声はもう消え去って、まばらに人の姿が見える。
5月の夕暮には次第に夏の気がまじる。青草の香りがする。街灯の光が夕闇に溶け始める。袖口からのぞいた肌に、サンダルの指先に、まだ冷たさを持った空気が触れる。夕暮れの風景の中を、また綿毛がひとつだけ、ひらひらと風に流されてどこかへ消えた。

よろしゅうおおきに