見出し画像

インド のDry Dayとは

はじめに

酒好きにとってインドは辛い。
中東のイスラム教国のように市中での飲酒が国内全土で全面的に禁止されている訳ではないにしろ、西部のグジャラート州、東部のビハール州、ミャンマーと国境を接するミゾラム州及びナガランド州は法律で酒類の販売/提供を禁止している禁酒州であり、外国人はパーミットを取ってその枠内の数量のみ購入ができる。勿論、市中での飲酒は以ての外である。

上述の4州以外では、州ごとに程度の差はあれど、酒類の提供や販売はライセンスを持った者に限られる。
そのため、酒類のライセンスを持っていない店は販売も提供もできない。
故に日本の様に何処のスーパーやコンビニで気軽にビールやウィスキーがいくらでも買えるなどと言う環境でない事は言うまでもない。
更には、レストランでも飲酒可能な店は限られ、提供可能な酒類もライセンス次第でまちまちである。(バンガロールの場合、ライセンスの関係で酒はワインのみと言う店が散見される)

Dry Dayとは

愚痴はそこそこにして本題に入ろう。
上述のような厳しい制限があるにも関わらず、加えてインドには政府によりDry Dayの設定がある。
Dry Dayとは、其れ即ち政府主導の禁酒日である。

一部は実施されないことがあるが、10月2日のガンディー誕生日をはじめとして、年間で5日程度はDry Dayの実施日がある。添付のように毎年新聞報道がされるので、今年のDry Day詳細はニュースをご確認頂きたい。
Dry Dayとなると、酒屋は朝から店を閉め、バーは営業取り止め、普段酒類を提供しているレストランでもアルコールは提供されない。


禁酒政策の歴史

このように現状を並べ立ててみると、インド政府は明らかに自国民の飲酒に否定的である。
では、政府をそのような行動に駆り立てているものは何か。当然倫理観や社会規範、宗教観等の理由はあるにせよ、井坂(月刊みんぱく、2022.5)に拠ると
「その背景にあるのが、インド憲法第四編「国家政策の指導原則」に含まれる第四七条である。」

47. Duty of the State to raise the level of nutrition and the standard of living and to improve public health. —The State shall regard the raising of the level of nutrition and the standard of living of its people and the improvement of public health as among its primary duties and, in particular, the State shall endeavour to bring about prohibition of the consumption except for medicinal purposes of intoxicating drinks and of drugs which are injurious to health.

THE CONSTITUTION OF INDIA [As on 26th November, 2021]
PART IV
DIRECTIVE PRINCIPLES OF STATE POLICY

曰く、“the State shall endeavour to bring about prohibition of the consumption.. ..of intoxicating drinks”. つまり、国は憲法上’intoxicating drinks’ 即ちアルコール飲料の禁止に努めることとなっている。

2時間飲み放題が2,000〜3,000円で提供される極東の島国で生きてきた我々には俄かに信じられない話だが、平たく言えば、インド憲法は禁酒推しである。

この条項は、植民地期に盛り上がりを見せた禁酒運動の延長線上に制定され、制憲議会で同条項が議論されたときには、「独立の父」モーハンダース・カラムチャンド・ガーンディー(通称マハートマー・ガーンディー)が禁酒運動にいかに尽力したかが繰り返し言及された。

月刊みんぱく、2022.5
井坂理穂
植民地期インドの禁酒運動


なお、ガンディーが如何にして禁酒政策を推進するに至ったかは、井坂の著作をご覧頂きたい。

おわりに

酒が気軽に飲めないのは辛い。しかし、いくらでも飲める何処の国の方こそおかしいのかとも思えなくもない。
一方で経済発展と共にインドの飲酒人口は増え続けており、今後このような禁酒政策とどのように折り合いをつけていくのか、非常に興味がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?