1章:色違い

まだまだ残暑が厳しい日の中、聖ロック座女学園では着々と「夢幻」に向けての稽古が進んでいた。
ある日の稽古終わり、
「んー??おかしいなぁ…」
「武藤先輩どうしたんですか?」
「僕の使ってたSeaBreezeがないんだよねぇ…」
各々が片付けをしてる中、武藤は自分が愛用しているボディケア用品がない事に気づき探していた。
「これじゃないんですか?」
「色が違うから僕のじゃないんだよねぇ」
棚に置いてあったはずなのだが、辺りを探しても見つからず同じブランドの色違いの物がぽつんと取り残されていただけだった。
「きっと誰かが間違えて持って行ったんですよ」
「そかも…仕方ない、今日はこれ持ち帰るかぁ」
武藤は色違いの物をカバンの中に入れて持ち帰った。

次の日
「今日はセリフを通しでやった後、白鳥さんと武藤さんのペアダンスの練習を主にやっていこうと思います」
「ほい」
「はい!武藤先輩よろしくお願いします!」
「んー、よろしくぅ」

白鳥すわん、最近女学園に入学した学生の1人。バレエを習っていた為身体が柔らかく、その軟体を活かした優雅でダイナミックなダンスを踊るのが得意としている。今回新入生ながら女学園の劇に選出された期待の新人だ。

「武藤先輩、今の所どうでしたか?」
「んー、も少しゆったりと動いてくれると良いかも。ここは朧月夜と光源氏が一夜を共に過ごす所を表現したシーンだから、なるべく左右対称に動いててもゆっくりとした動きで合わせたいかな」
「分かりました!となると最後に動きがシンクロする所ももっとスムーズに合わせたいので、一旦向き合いながらダンスを踊ってみてもいいですか?」
「ん、りょーかーい」
「武藤さん、白鳥さんそろそろ休憩にしましょう」
「ほーい」「はい!」
武藤と白鳥がダンスの打ち合わせをしてる中、休憩の声が入り2人は休憩に入った。
「あちぃぃ」
汗を拭きながら、武藤はカバンの中を探ると、昨日の色違いのボディケアが顔を覗かせた。
(ありゃ、すっかり忘れてた…今使いたかったんだけどなぁ…まぁ、いっか。持ち主さんにはごめんだけどちょびっと使わせてもらお)
武藤はそのままボディケア用品の蓋を開け、頸周りにつけた。桃の華やかな香りがフワッと香ってくる。
(可愛い香りだなぁ、なんかこの香り、最近嗅いだことあるような気がする…んーと、いつの時だっけ…?)
武藤はそれを付けながら最近の出来事を思い出そうとする。
ふと、横を見るとと白鳥も汗を拭きながら休憩をしていた。
(あれ??)
何かに気づいて武藤は、白鳥の荷物が置いてある場所を凝視する。
白鳥の荷物置き場には、着替えやタオルに紛れて武藤と同じブランドのボディケア用品がチラリと見えた。
(あのSeaBreeze僕のじゃない???てことはこれはすわんちゃんので、間違えてすわんちゃんが持ってったってこと??んーでも、色が違うから間違わないよねぇ…もしかして…)
「すわんちゃ、」「白鳥さんちょっといい?」
「はーい!なんですかー?」
白鳥に声を掛けようとした時、タイミングよく白鳥が呼ばれてしまった。

その後もなかなかタイミングが合わず、気がつけば稽古の時間が終わろうとしていた。
「下校時間も近いですし、今日はここまでにしましょうか」
「「はーい」」
「ねーすわんちゃん、この後ってまだ時間ある?」
「この後ですか?はい、まだ時間も余裕があるので大丈夫ですよ」
「じゃあさ、も少し僕と練習してかない?レッスン室は僕から演出家に言って鍵貰ってくるからさ」
「武藤先輩が良かったら喜んで練習付き合います!」
「ん、じゃ決まりだね」
こうして、2人はレッスン室に残って練習をはじめた。

「ねーすわんちゃん」
「何ですか?」
「稽古の休憩中にチラッと見えちゃったんだけど、僕のSeaBreeze持ってない…?」
休憩中、武藤は早速白鳥に今日自分が見た事を確かめるために白鳥に問いかける。
「…ばれちゃいましたか…」
白鳥は申し訳なさそうに自分の持っているボディケア用品が武藤の物である事を認めた。
「やっぱりかぁ、じゃあこのSeaBreezeはすわんちゃんの?」
「当たりです…」
「どっかで嗅いだことあると思ったんだぁ。可愛くてフレッシュなすわんちゃんによく似合う香りだね」
「…」
「ねぇ、何でこんな事したの?」
武藤はスッと白鳥に近づき、顔を逸らそうとする白鳥と目線を合わせた。
「……〜からです…」
「んー??」
「武藤先輩ともっとおしゃべりしたかったからです…」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら白鳥はポツリと理由を呟き、あたふたしながら早口で話し始めた。
「いや、その、学園で有名な武藤先輩と共演できるなんて夢にも思わなかったからもっとお話ししたいなと思って…ほら、あの、朧月夜も光源氏に扇を渡して自分を探させるシーンあるじゃないですか、あんな感じで私も自分のを置いとけば武藤先輩の気も引けるんじゃないかなぁとちょっと思ったんです。だから…その…武藤先輩には悪いと思ったんですがやっちゃいました…//」
最後の方の言葉は恥ずかしさと申し訳なさがが限界を迎えたのか、白鳥の声はか細くなり、顔も真っ赤になっていた。
「ふーん…」
そんな白鳥の話を武藤はニヤニヤと頬を緩ませながら聞いていた。
「僕ともっと喋りたかったんだぁ」
「う…//恥ずかし…あんまし見ないでください…私今絶対変な顔になってるので…//」
そう言いながら白鳥は武藤から離れようとする。
しかし、武藤はそれを許さなかった。
「やだ。もっとその可愛い顔見せて。」
距離を取られないよう白鳥の腰に手を回して掴み、グッと自分の方へと近づかせ、顔を隠す白鳥の手をそっと片手で覆って更に顔を近づける。
白鳥の顔は更に真っ赤になった…
「ねぇ、こっちちゃんと見て」
武藤は優しく白鳥に囁きかける。白鳥はギュっと瞑っていた目をゆっくりと開け、武藤と目をあわせた。
「やっと目が合ったね、かわい」
武藤はふふんと鼻で得意げに笑いながら、白鳥と目が合ったことを喜んだ。
「ようし、休憩終わり!も少しペアダンス頑張ってみよっか」
パッと白鳥から離れた武藤はそう言いながら立ち上がり、「んっ」と白鳥に向けて手を伸ばした。
「は、はい!」
戸惑いながらも白鳥はその手を取り、2人はレッスンを再び始めた。

「そろそろ時間だねぇ、この後じぃやが迎えに来るから今日は僕が送ってくよ」
「いいんですか?!」
「こんな時間に女の子を1人で帰らせたら危ないしね。何よりもっとすわんちゃんと話したい」
「武藤先輩…//じゃあ、お言葉に甘えますね。武藤先輩と帰れるなんて夢みたいです…」
レッスンが終わり、2人が帰る支度をしていると「あっ」と武藤が何か思い付いたように声を上げた。
「いい事考えちゃった♪」
「え?」
「あのねぇ…」
楽しそうに武藤は自分の思い付いた事を白鳥に話し始めた。

次の日
「あ、SeaBreeze見つかったんですね!」
「そう、昨日見つけたんだー」
「でも、蓋の色が違いますね」
「んー?これはねぇ、お揃いの印ってやつだよ」
ニシシッと笑いながら武藤先輩はいつものように頸に付け始めた。


色違いのボディケア用品。蓋のみを交換し合った後の2人のペアダンスは、シンクロ度が格段に上がっていた。

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