東方虹龍洞のストーリー考察、キャラ予想 ~支配者とアジールの戦いの物語~

※オリキャラ要素を含みます。
※記事中で紹介している学術的内容に関して筆者は一切の専門性を持ち合わせておらず、東方Projectの設定もすべて網羅しているわけではありません。
※本記事執筆中に虹龍洞製品版のものとされるジャケ絵が一部でリークされているようですが、その内容は考察に含みません。

初めまして、月面探索隊と申します。
製品版頒布を5月に控え、体験版リリース以来考え続けていた虹龍洞のストーリー考察について、自分の中でいったんの解を得たので、この場を借りて共有します。

神話などから元ネタを探るというよりは、ストーリーの構造を読み解き、4面以降の展開を予想することに主眼を置いています。
こんな考えもあるんだな程度に、皆さんの考察のタネや肥し程度に参考にしていただければ幸いです。
キャラだけでいいよ、という方は目次から5. 製品版登場キャラ予想にジャンプしてください。

1. 現時点で判明しているストーリーのおさらい

虹龍洞本編で語られるストーリーをおさらいする前に、虹龍洞の前日譚といえる、東方外來韋編 2021年春号収録の東方香霖堂第9話「価値観のるつぼ」の内容の一部を紹介します。
作中、バイトの対価として現金を求める菫子に対し、霖之助は、幻想郷でのモノのやり取りは基本的に物々交換であること、外の世界から流れ着いた紙幣を使うこともあるが、持ち運びやすい交換アイテムとしてしか見られておらず、使用者の言い値で価値が決まる(記載された額面には意味がない)ことを説明します。

「本来価値も無い紙切れに価値があると思い込ませて、実際に価値を与えてしまう。そんなことができるのは、神か、それか神を騙る極悪人の仕業だよ。君はどっちだと思う?」
出典:
東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 2021 Spring!  p49 株式会社KADOKAWA

そして作中でアビリティカードの異変が始まり、カードの異常性に気が付いた霖之助と菫子の会話が以下です。

「(前略)これは普通のカードでは無いと思っている。ただの紙屑(カード)に価値を与えようとする奴が、何処かにいるに違いない。」
「つまり、紙切れを使って価値観を支配しようとする大悪党がいるってことね!(後略)」
出典:
東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 2021 Spring!  p50 株式会社KADOKAWA

これらの内容から、黒幕の目的は、物々交換で成り立っていた幻想郷にアビリティカードという価値のある紙、すなわち幻想郷流の「紙幣」をもたらすことではないかと考えられます。

ゲーム本編に戻ります。虹龍洞の考察をする上で、最も情報量が多いのは早苗さんルートのストーリーでしょう。
3面ボスの駒草山如との会話に、気になる内容がありました。

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(わかりやすさのために戦闘前後の会話の順番を入れ替えて掲載しています。画像は自分のプレイデータからキャプチャ)
山如いわく、
①虹龍洞は「山の未来を作る鉱坑」であり、守矢神社の神々も1枚噛んでいる。
②守矢神社は山の風紀を乱している。      
おろかものめが
「山の未来を作る」という虹龍洞に関わっていながら、「守矢神社こそが山の風紀を乱している」として山如に敵視されていることがわかり、一見①と②が矛盾しているようにも思えます。
2面ボスの山城たかねも同様に、「守矢神社が動き出すのは時間の問題だと思っていた」旨の発言をしており、守矢神社とカードの売人たちが対立していることは間違いなさそうです。
両者はいったい、何をめぐって対立しているのでしょうか?

いったん話が逸れますが、一般的に、物々交換というのは社会が発展するほど成立しにくくなると考えられています。物々交換が成立するためには、交換する両者が互いに欲しいものを所有している必要があり(「欲望の二重の一致」という)、社会が発展するほどモノやサービスの種類が増え、この一致が起きる可能性が小さくなってしまうためです。これを解消するために、あらゆるモノ・サービスと交換できる「貨幣」が誕生したと考えられています。
裏を返すと、社会が一定以上発展するためにはどうしても貨幣制度が必要になってくる、とも言えそうです。
守矢神社の神々と言えば核融合発電による産業革命を起こしたり、妖怪の山にロープウェイを架けるなど、幻想郷の技術革新に余念がないことで知られています。彼女らであれば、さらなる幻想郷の発展のため、物々交換からの脱却=貨幣制度の導入による経済革命を起こそうと考えても不思議ではないのではないでしょうか。

結論から述べますと、虹龍洞は
「貨幣(アビリティカード)を独占管理したい守矢神社」VS「自分たちで管理したい商人達」
さらに噛み砕くと、
「統治権力」VS「アジール」
の物語なのではないかと考えました。
その理由や用語について、次の項で説明します。

2. 『無縁』とアジール

アジールとは、聖域を意味するドイツ語で、統治権力の影響が及ばない領域や、治外法権が認められたコミュニティなどのことを指します。(英語発音ではアサイラム、と聞けばニヤッとするB級映画マニアもいるのではないでしょうか。)
日本の例でいうと、
・かつて法制度上は離婚を認められていなかった女性が、逃げ込むことで夫との離縁を成立させることができた縁切寺
・どんな罪人も逃げ込むことで罪に問われなくなったという若狭の寺院
などが知られています。また、世俗から切り離され独自のルールを持つ空間として、遊郭賭場もアジールの一つと考えられます。いずれも、駒草山如と関連付けられるワードであり、アジールとの関連付けの形跡が感じられます。

権力者にとって、支配が及ばないアジールは都合が悪いものであり、その力を奪うことに苦心してきました。時には武力で制圧したり、時には権力者側からあえて特権を与えることで懐柔するなどし、時代が進むほどアジールの力は弱くなっていきました。
そして国家による支配が行き渡った現代、本当の意味でのアジールというのは存在しなくなりました。

アジールは西洋の言葉ですが、同様の概念は戦国時代の日本では「無縁所」と呼ばれていました。権力に支配された俗世との縁を無くすことができる場所、という意味でこう呼ばれたことは想像に難くありません。
虹龍洞の英語サブタイトルはUnconnected Marketeers(無関係な商売人たち)ですが、ここでUnconnected=無縁、と訳すことができそうな気もします。

これだけでは、サブタイのこじつけや山如の特徴と強引に関連付けているだけで、具体的にアジールがどのように物語に関わっているのか分かりません。続いて、虹龍洞の主題の1つ(と思われる)貨幣制度とアジールの関連性について説明します。

※おまけ
本項の情報は主に、アジール研究で知られる網野善彦氏の著作『無縁・公界・楽』を参考にしていますが、同氏の『日本中世史像の再検討』に、興味深い記述があります。

中世の歴史書や貴族の日記には、虹の立つところに市を立てなければならないという観念が存在したことがしるされております。
出典:
網野 善彦/石井 進/上横手 雅隆/大隅 和雄/勝俣 鎮夫 『日本中世史像の再検討』 p154 株式会社 山川出版社
すなわち虹の立つ地上の場所は、天界と俗界の出入口で、神々の示現する聖なる空間であったのであります。そのため、人々は虹の立つ所において神迎えの行事をする必要があったのであり、その行事そのものが、市を立て、売買・交換をすることであったと考えられます。
出典:
網野 善彦/石井 進/上横手 雅隆/大隅 和雄/勝俣 鎮夫 『日本中世史像の再検討』 p155~156 株式会社 山川出版社

タイトルで非常に印象的に使われているにもかかわらず、ゲーム上は1面背景に登場するだけで、ストーリーにどう絡んでくるのか不明な「虹」と、虹龍洞のテーマの一つであろう「商売」がつながりました。民俗学への造詣が深いZUN氏であれば、これらの著作を読み、作品に反映していても不思議ではなさそうです。

3. 貨幣制度の中のアジール ー仮想通貨ー

冒頭、霖之助の「何の価値も無い紙切れに価値を与えるなど神か極悪人の仕業」という旨の言葉を引用しましたが、我々が生きるこの世界では実際に何の価値も無い紙切れに価値が与えられており、日々何の疑問もなく紙幣として利用しています。
この世界で紙切れに価値を与えている神とは、お金を発行する権利を独占する「国家」です。
みんなで国家という同じ神のことを信用しているからこそ、ただの紙切れや金属片を何でも好きなものに交換することができるのです。
もし国家が崩壊でもしたらお金には何の価値も無くなりますが、手持ちのお金が、明日にもただの紙切れになってしまうんじゃないかと本気で怯えている人はそれほど多くないと思います。それほど、国家への信用が高いということであり、実際にお金がある日突然ゴミに変わってしまうようなことはほぼないでしょう。

このように一見うまくいっているように見える貨幣制度に、疑問を持つ人がいました。のちに仮想通貨を開発する人々です。

国家への信用に基づいた貨幣制度に付きまとう問題、それは「国家とは本当に信用に値するのか?」という根本的な疑問です。
国家が無計画に通貨を大量に発行したりすれば、インフレが発生し手持ちの資産の価値が殆どなくなってしまう可能性があります。
独裁者が現れ、いきなり現行のお金を廃止すると宣言する可能性も0ではないでしょう。
また戦争が発生すれば、多くの国家は通貨の増発や国債の発行によって莫大な戦費を賄います。裏を返せば、お金を作り、管理する権利を国家が独占しているからこそ、莫大なお金がかかる戦争をすることができるとも言えます。

国家が通貨を独占管理する制度に対し、中央集権的な「管理者」を一切存在させることなく貨幣制度を実現するべく設計されたのが仮想通貨です。
通常の通貨が、国家という「神」への信用によって価値を担保しているのに対し、仮想通貨は偽造や不正利用を絶対に許さない高度な「システム」への信用によって価値を担保しています。

本筋とあまり関係ないので詳細は割愛しますが、仮想通貨は一般的なシステムと異なり、取引を一元管理する「サーバ」が存在しません。
サーバという管理者がいない代わりに、仮想通貨の利用者一人一人が協力することで、全体としての安全性を維持できる「ブロックチェーン」という大発明によって、仮想通貨の不正利用は理論的にほぼ不可能なレベルに抑えられ、結果として、現実世界上にも、電脳世界上にも、一切の「管理者」を置くことなく、通貨としての信頼性を保つことに成功しています。

既存の、国家権力の支配による貨幣制度から脱却し、電脳空間という異界で独自のルールによって運用される仮想通貨というシステム……これは現代社会における、新しいアジールと考えることができるのではないでしょうか。

前作、東方鬼形獣で『サピエンス全史』『ホモ・デウス』をモチーフとし、人文学的な領域への知見も持ち合わせているZUN氏であれば、権力が管理する現行の貨幣制度と、仮想通貨的な利用者主体の貨幣制度の対立という題材をモチーフに盛り込んできたとしても不思議ではないと思います。
つまり、ZUN氏は虹龍洞のストーリーにおいて、貨幣(アビリティカード)を独占管理しようとする勢力と、コミュニティ主体で維持していこうとする勢力の戦いを、古来から続く「支配者VSアジール」の戦いになぞらえているのではないかと考えました。
そして独占管理する側の勢力に守矢神社、アジール側の勢力に「無縁の商人たち」をあてがっているのではないかと考えました。

4.結論

ここまでの考察を整理し、私が予想したストーリーの骨子は以下です。

①神奈子と諏訪子は、幻想郷に経済革命を起こすべく、虹龍洞から採掘したエネルギーをもとに幻想郷流の紙幣として「アビリティカード」の生産を開始した。
②虹龍洞でのエネルギー採掘、および貨幣の導入が山の未来のために必要とわかりつつも、守矢神社による貨幣の独占を良く思わない一部の山の妖怪が、アビリティカードの独自売買を開始。守矢神社の与り知らぬうちにアビリティカードが流通してしまう。
③神奈子と諏訪子は売人たちを鎮圧するために、早苗さんを派遣する。(ことの発端が自分たちなので、早苗さんには詳細を伝えていない。)

要するにまた守矢かに軟着陸させてしまった訳ですが、商人達との対立の理由が、貨幣の独占権を巡って……というのはグレイズする可能性が微粒子レベル以下では存在すると思ってるので、当たってたら褒めてください。

ストーリー予想はここまでになります。

虹龍洞で採掘されているものとは何なのか?妖怪の山内部にあるという都市とは関係があるのか?など重要な謎に答えを出せておらず、期待されていた方には申し訳ないです。もしこれぞという考察がありましたら、ぜひお聞かせください。
これ以下はストーリー予想に基づいたオリキャラ紹介ですので、もういいよという方はここでお戻りください。ありがとうございました。

5. 製品版登場キャラ予想

虹龍洞の物語の軸は
アビリティカードを独占管理したい守矢神社(支配者) VS 自分たち主体で運用したい「無縁の商人たち」(アジール)
だと予想してきました。
この予想に基づき、4面以降には以下のような属性を持つキャラが登場するのではないかと考えました。
・守矢神社に反旗を翻し、アビリティカードを売人たちに流した、無縁の商人たちの代表者
・守矢神社側の勢力で、虹龍洞の採掘、アビリティカードの製造を一任された管理者
以上の属性を持つキャラを、無いデザイン力と画力を振り絞って考えてみましたので、ご紹介します。

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東方虹龍洞 5面ボス
有徳なる大聖(商)人
萱堂 怪(かやんどう かい)
Kayandou Kai
種族:夜道怪
能力:念仏でお金を集める程度の能力

山に住む妖怪の一人。
修行僧の姿をしているが、お金と商売に目がない。守矢神社の神々が幻想郷に貨幣をもたらそうとしていることを知り、富の独占を恐れた怪は密かにアビリティカードを山の妖怪仲間に横流しし、売買を奨励した。商売人たちの自治による自由な市場こそが、真の経済発展を促すと信じていた。
自分が敗れた後、アビリティカードを守矢神社の管理下から完全に解放する為、主人公に維千鹿を倒すよう唆す。

元ネタは、遊行者でありながらその多くが行商人を兼ね、商聖とも呼ばれた高野聖と、それが妖怪化された存在とされる夜道怪。二つ名の有徳とは、徳が備わっているということと、お金持ちという二つの意味があります。

高野聖は織田信長による弾圧を受けて虐殺された経緯がありますが、これも権力からアジールに対する抑圧の例として知られています。山の妖怪のアジール勢力の長としてピッタリではないでしょうか。
名前の由来は、高野聖の3大派閥の一つ、萱堂聖(かやんどうひじり)と、そのまんま夜道怪。


虹龍仮3

東方虹龍洞 6面ボス
乾坤に接続する虹の蛇
大虹璽 維千鹿(だいこうじ いちか)
Daikouzi Ichika
種族:神霊
能力:龍脈から力を得る程度の能力+生命に接続する程度の能力

元は諏訪子が従える土着神のうちの一柱だった。龍脈を探り、そこから力を得ることに長けていた彼女に、虹龍洞の採掘の任が割り当てられた。
さらに神奈子と諏訪子は、採掘した魔力からアビリティカードを製造し、それを管理するための機能まで彼女に一任することに決めた。
ある海外の蛇神の力を取り込み、生命に接続する力を身につけ、その力で幻想郷中の強者に接続してその力をトレースし、カードに焼きつけた。守矢神社の権威だけでは紙幣の価値を担保するには不足と考え、強者たちの威光も借りようと考えたのだ。
またアビリティカード自体にも接続することで、取引の内容を追跡している。アビリティカードが暴力で奪えず、一度に1枚しか取引できないのはこの力によるものである。
本人は上司から与えられた職務を真面目にこなしているだけだったが、貨幣制度の導入は幻想郷を混乱させると考えた主人公たちによった撃退され、経済革命計画は見直しになった。

元ネタは、諏訪に伝わる伝説の人物で、地底の国々を旅し、地上に帰ったときには龍神になっていたという甲賀三郎、そしてオーストラリア先住民アボリジニに伝わる虹の蛇エインガナです。

エインガナはあらゆる生命の産みの母であり、一度産み落とした生物を全て飲み込み、今後自分の言うことを聞くならば出してやると脅かしたり、全ての生物を「トゥーン」と呼ばれる紐で繋いでおり、死ぬ時まで離さないなど、強権的な性格が伝えられています。
全ての生物に「接続」し、「管理」しようとする神……そう、これはまさにUnconnected Marketeersと対をなす、Connected Administratorと言えるのではないでしょうか(言いたかっただけ)
またアビリティカードのデザインが虹色になっていることから、その生成には虹に関する存在が関わっているのかなという予想もあります。
名前の由来は、甲賀三郎伝説のゆかりの地の一つである滋賀県の大岡寺(だいこうじ)、そして洩矢神の御子神とされる千鹿頭神(ちかとのかみ)、また「維」の字は、甲賀三郎が訪れた地底の国「維縵国」から、およびエインガナのイメージに通じる「つなぐ」の意味を持つことから採用しました。

6. 終わりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
時間がない中で1日で書き上げてしまったこともあり、取り留めなく、長すぎて読みづらい文章になってしまい申し訳ありません。
個人的には書きたかったことは書けたので悔いはありません(でもジャケリークはやめろ(憤怒)
あとはほかの方の考察を拝見しながら、5月の頒布を心待ちにしたいと思います。では、次はきっと製品版の感想で。

7. 参考文献

・『東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 2021 Spring!』  株式会社KADOKAWA
・網野善彦 『増補 無縁・公界・楽』 株式会社平凡社(電子版製作 三陽社)
・網野 善彦/石井 進/上横手 雅隆/大隅 和雄/勝俣 鎮夫 『日本中世史像の再検討』 株式会社 山川出版社
・坂井豊貴 『暗号通貨 vs. 国家 ビットコインは終わらない』 SBクリエイティブ株式会社
・龍学 -dragonology- http://www.hunterslog.net/dragonology/world/australia/Northern_Territory/01.html

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