夢幻鉄道〜阪急宝塚線にて〜

私は阪急宝塚線庄内駅のホームに立っている。

何でも

「宝塚線に妙見口駅の直行便が出た」

という話をTwitterで見たからだ。

取り敢えずの情報としては

○各駅停車である事

○「妙見口」と行き先に書いてある事

○いつものえんじ色の車両ではない事

○23時台にしか走らない事

だった。

なので適当に23時頃に行ってみた。

時間が時間だからか、ホームには誰もいない。

でも、前の駅からサロンメンバーが乗ってるかも知れないし、この後の駅で乗って来るかも知れない。

そして実はそれが目的でもあり、楽しみだったりもする。

ワクワクしながら何本かのえんじ色の電車を見送っていたら、見た事もない綺麗な色の電車が来た。

先頭車両に「妙見口」と書いてある。

お〜!これだ!

と、迷わず乗り込んだ。

車内には誰もいなかった。

少し残念だったけれど、この先の駅で誰かが乗って来るかも知れない。

それを楽しみに座席に座ると、電車はゆっくりと動き出した。

ん?おかしいぞ?と思ったのは、各駅停車な筈のこの電車が、色んな駅を通過していったからだ。

特急停車駅にすら止まらない。

情報間違いかな?

でも庄内に停まったよね?

ま、終点が妙見口ならいっか。

見慣れた景色が流れていくのを見ているうちに、ふわりと眠気が襲う。

時間が時間だし、電車の揺れは眠りを誘う。

終点なら駅員さんが起こしてくれるはず。

そのままウトウトと寝る事にした。


「お客さん、終点ですよ!」

の声で目が覚める。

どうも妙見口に着いた様だ。

寝起きの頭で電車を降りると、ノスタルジックで綺麗な街並が広がっていた。

へえ〜、妙見口ってこんなに素敵な街並だったんだ!

驚きながらも、街に足を踏み入れる。

そしてふと気付く。

「この場所、何か知ってる?」

少し先に時計台が見える。

もしかしてここって、チックタックの街!?

絵本でだけ知ってる世界。

少し違うとすれば、どれも立体的で質感がある事。

でも世界観はそのままだ。

まさか西野さん、既にテーマパーク化してたのかな?

等と思いながら、時計台を目標に、街を散策してみる事にした。

誰もいない夜中のチックタックの街。

ただ何の違和感もなく歩いていく。

たまに

「へえ〜」

とか呟きながら街を歩き続けると、後少しで時計台、という所まで来た。

時計台の針は23時59分。

どうもまだ彼女には会えていないらしい。

…と思っていたら、街に0時の鐘が鳴り響いた。

これはもしかして、あの幸せな場面を見られるかも知れない!!!

私は時計台まで走って行き、でも2人だけの世界を邪魔してはいけないと、そーっと時計台の中へ忍び込んだ。

私はその光景に驚いた。

チックタックが泣いている。

しかも1人きりで。

何で!?

午前0時の鐘は、2人の再会を待ってくれていたはず。

話が違う。

何だかおかしいぞ?

忍び込んでいるので少し迷ったが、意を決してチックタックに声を掛けてみる事にした。

「あの〜、すみません。何で泣いているんですか?」

突然の訪問者なのに、チックタックは驚く事もなく泣きながら言った。

「彼女が死んだんだ…」

絶望した表情で、力なく答えてくれた。

「誰から聞いたの?」

「さっき変な医者が来て言ったんだ。

彼女を看取ったのは私ですって。

そんなの嘘だ!って言ったんだけど…

時計が…動き出したんだよ…」

絵本の内容が変わってる!?

それはあり得ない。

絵本は「仕掛け」の1つだから、ストーリー変更する事は恐らくない。

そしてこんな悲しい結末に、西野さんが変える筈ない。

ラストが違うチックタック。

そして不思議な電車。

もしかして!?

あれは…

夢幻鉄道!?

ならばこれはチックタックの夢だ。

本当に起きた事じゃない。

私はゆっくり座り、チックタックの目線の高さに合わせた。

そしてチックタックの肩を優しくポンポンと叩きながら言った。

「これはね、夢だよ。あなたの夢。怖い夢を見てるだけなの」

私はiPhoneを取り出して、YouTubeを開いた。

不思議な機械の画面が変わっていく様子を、さして気にする事もなく見つめるチックタック。

そして

「これを見てね」

と、動画版のチックタックを、チックタック本人に見せた。

愛と勇気を貰える声で、ストーリーが流れていく。

時計台の中が少しずつ穏やかな空間に変わっていくのが分かる。

出逢いから共有した思い出の辻褄が合う過去の話が続くので、不思議そうにしながらも、iPhoneの画面を食い入る様に見つめるチックタック。

そしてラストに差し掛かった時、少し嫌な表情になった。

そりゃそうだ。

彼女の最期を伝えに来た医者が登場するのだから。

「もういいよ!同じ思いを2回もしたくない!」

iPhoneから目を逸らせるチックタックに

「いいから見て!!!」

と半ば強引にグイッと顔を画面に向けさせる。

ひどいババアだな…

チックタックの心の声が聞こえる(笑)。

そして、諦め気味に画面を見ていたチックタックの表情が、みるみると明るいものへと変わっていく。

「…これが本当の事なの?」

喜びと戸惑いが混じった瞳で、すがる様に私を見つめるチックタック。

「そうだよ。だから夢だって言ったじゃない。これは夢だから、あなたは何も心配しなくていいんだよ」

オチを教えるのもどうかと思ったけれど、それさえもチックタックの「夢の中の出来事」なら、きっと希望にだけ変えてくれるだろう。

「ありがとう」

そう言ってくれたチックタックは、また泣いている。

でも、これはさっきまでの涙ではなく、喜びと希望の涙だった。

「なんて事ないよ。後は安心して過ごしてね」

と言って、私は立ち上がった。

お互いが

「またね」

と手を振った後、時計台を出ると、そこには夢幻鉄道が停まっていた。

私はその電車に乗り込むと、こちらも幸せな気持ちに満たされながら座席に座った。

全部夢なら幸せな夢を。

そう願いながら、私はまた心地良い揺れに身を任せて眠ってしまった。


目が覚めると自宅の布団の中だった。

こっちこそ素敵な夢を見たもんだ、と、目覚まし代わりのiPhoneを手に取る。

そして思わず「ふふっ」と笑みがこぼれた。

そこには、一時停止にした動画のラストシーンがあったからだ。

幸せそうに鐘の音を聞く2人の姿。

きっとこれは夢じゃなかった。

目覚めから幸せな気分にしてもらって、そのままTwitterを開く。

この話、みんなに言ってもいいかな?

いや、やめとこう。

私とチックタックとの、2人だけの秘密にしておこう。

実は他にも同じ人がいて、そっと胸にしまっているかも知れないから。



私なりの夢幻鉄道の解釈です。

「誰もが共有出来る」

「新しい情報を持っている(チックタックにとっては)」

「夢幻鉄道に乗る」

取り敢えずこの3つをルールにして書いてみました。

へんてこりんだったら遠慮なくご意見下さい。

ご感想を頂けたら上戸が猫の様になつく場合があります。

最後までご拝読ありがとうございました。

上戸美由紀






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