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同調率99%の少女(24) :ex1 那珂:第一歩

※本エピソードは前話「祭りの終わり」の冒頭から派生するお話です。原作ゲームでは艦隊のアイドルを称する彼女が、拙作世界観ではこうしてアイドルになる!?というエピソード群であります。

# ex1 那珂:第一歩

 旅館での朝食の席、提督代理の妙高が最終日の予定を告げる。ミニイベントの参加を暗に指示されたが、果たして誰が参加することになるのか疑問に感じてワイワイとざわめく。

「そんなこと当日の朝に言わないで欲しいよね~。せっかく遊びたかったのに。」
「ですよね~。特に那珂さんと五月雨ちゃんは昨日は観艦式に出てたからほとんど遊べなかったでしょ?」
 川内がそう言うと、那珂と五月雨は激しく頭を縦に振った。
「じゃあ、誰が参加するの?」
 そう五十鈴が誰へともなしに尋ねると、妙高が申し訳なさそうに言った。
「それが……私は内々に話を伺ってまして。イベントを担当される方々から、那珂さんのご指名がありました。」
「へっ!? あたしぃ!?」
 那珂は冗談半分、本気半分のオーバーリアクション気味な驚き方を見せる。全員が那珂に視線を向ける。
「いや~ご指名なんて喜んでいいのかなぁ。なんでまた?あたし何するんです?」

「今回の艦娘絡みのプログラムで目立った艦娘への、インタビューとかトークショーだそうです。那珂さんお話するのお好きでしょうし、私の方からOKしておきました。」
「えええぇ!? 妙高さん抜け目なさすぎですよぉ~!」

 再び大げさな仕草で今度は妙高に対してツッコミを入れる那珂は、全員から笑いが取れたのを確認すると口調をやや切り替えて続けた。
「ま~でもおしゃべりは好きですし、生徒会で培ったどきょ~で多分問題なく乗り切れます、はい。」
 那珂の了承を確認した妙高は微笑んで頷き、改めて全員へ説明をした。
「それでは後で私と一緒に渚の駅に。現地で神奈川第一の方々と合流です。他の方は今日は自由です。ただ、閉会式が15時に開かれますので、それまでに館山基地の本部庁舎前の会場に来て下さい。私達は関係者ですので、関係者席に直接向かって下さい。その際、艤装装着者証明証を忘れずにお願いしますね。」
「はい!」
「お姉ちゃん、私はどうすればいい?」
「理沙は……そうねぇ。今日は皆に艦娘の仕事は他にないはずだから、あなたも安心して羽根を伸ばしていいですよ。」
「うん。と言ってもこの辺りよくわからないから、皆と一緒にいるね。」
「えぇ。そうしてちょうだい。」
 理沙という保護者がいることにより五月雨たちもそうだが従姉たる妙高も安心でき、自身の役割に集中できるのだった。

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 その後、部屋に戻り身支度を整え始める。那珂が口火を切って愚痴にも満たない感想を吐露する。
「うあ~なんか緊張してきたよ。」
「よかったじゃないの。これでホントに近づけるじゃない、芸人に。」と五十鈴。
「ちっがぁ~~う!アイドル!それ言われるとマジで調子狂うからやめてよね~~五十鈴ちゃん!」
 那珂と五十鈴の掛け合いに川内たちはケラケラと笑う。那珂が返す勢いでやや興奮気味に五十鈴に絡み続けていると、背後から川内の言葉がかかった。
「でも、テレビ局とか来てくるんでしょ?那珂さん本当にテレビやネットデビューって感じじゃないですか。」
「うー。川内ちゃんまでぇ~」
 くるりと振り返り川内にジト目で視線を送る那珂。
「いやいや。あたしは五十鈴さんみたいにからかってるわけじゃないですよ。芸能界への道なんてどこに転がってるかわからないですし。」

「そうそう!世間にアピールするチャンスなんですよ、那珂さぁん!」
 川内の言葉に乗ってきたのは村雨だ。片付け終わった手持ちのバッグを跳ねのけ、正座のままズリズリ素早く前進して那珂と川内に近寄る。その気迫に那珂は若干身を引いた。そんな那珂を気にせず村雨は気迫そのままで続ける。
「いいですか那珂さん。もし本当に芸能人になりたかったら、渋谷とか原宿とか出歩かないと良い出会いはないんですよ!? 有名になりたいんでしたらそういうところに積極的に、です。」
「お、おぅ……? でもあたし原宿とかあんま行かないからなぁ~。」
「それ!そこなんですよ那珂さん。いいですか?スカウト確立高い主な場所がそこなわけで、そこに行かない那珂さん始め、一般の人はチャンスが普通に少ないんです。ですから身近なイベントに参加してどんな形でもいいから世間にアピールしていく必要があるんです。それからですね……」

 止まらぬ村雨の講釈。標的になっている那珂はもちろん、隣にいた川内、そして五十鈴ら完全に第三者組は口を半開きにして呆気にとられている。
 そんな空気を打ち破ったのは村雨の同級生たる夕立たちだった。
「あ~ますみん、またエンジンかかっちゃったっぽい?」
「アハハ……ますみちゃんはお洒落と芸能ネタも大好物だもんね。」
 さすがの夕立も、そして五月雨も苦笑するしかないでいる。
「ますみちゃん、ますみちゃん。落ち着こう。あの那珂さんをすっかり黙らせちゃってるよ。」
 時雨のやんわりとした宥めにより村雨は正気に戻り、詰め寄っていた那珂から少し離れる。興奮して頬を赤らめたままの村雨は深呼吸して気を落ち着かせると、唇が乾く間もなく口を開く。

 その後、那珂の振る舞いを形の上だけで心配した村雨は五月雨たち親友+不知火に目配せをして合図を送る。それを見てもいまいちピンとこない4人は村雨に引っ張られて部屋の端に行き、耳打ちされてようやく意図を理解して那珂の傍へと戻ってきた。
 時雨は失笑し不知火は変わらず無表情。村雨、五月雨そして夕立はニンマリとしている。心臓をくすぐられた感を覚えて上半身をやや身悶えさせた那珂は言葉を詰まらせながら尋ねる。
「な、なに? 何を話してきたの?」
「ン~フフ。秘密です。ね?」指を伸ばして口に当てる村雨。
「ハァ……ますみちゃんったら、こういうときの悪ノリはゆうや貴子ちゃんよりひどいなぁ。」
「あ~~楽しみだね、会場にm
「わぁぁ!ゆうちゃん言ったらダメだよぉ~。」
 夕立が口を滑らすのを五月雨がすかさず止める。その掛け合いを五月雨の隣で眺めていた不知火は那珂の方を向き一言口にした。
「知らなくていいことらしい、です。」
「あ、うん……。さいですか。」

 不知火の感情の薄い一言を聞いた那珂は問い詰める気がなくなったため、目の前で展開される駆逐艦組のやり取りをするがままにさせておいた。
 少女たちがワイワイとおしゃべりに興じてしばらく経つと、妙高が那珂に合図をして出発を促した。那珂はのんびりゆったりして重くなりかけていた腰をあげる。
「それじゃまあ、行ってくるよ。」
「はーい。行ってらっしゃい、那珂さん。頑張ってね。」
「頑張って、ください。」
「あんたの事だからヘマとかはしないと思うけれど、ま、頑張ってね。」
 川内と神通、そして五十鈴が那珂を鼓舞する。その後五月雨たちの素直な、しかし含みのある声援を受け、那珂はあえて声で返事をせずに手のひらをヒラヒラと振りながら部屋を出る。

 那珂が出ていった後、部屋ではしばらくヒソヒソとした声がうっすら漏れていた。

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 旅館を出て歩きながら那珂は妙高に確認をしてこれからのイベントの心構えを深める。十数分歩いて那珂たちがたどり着いたのは、渚の駅だった。
 関係者は渚の駅たてやまの地上階裏手、桟橋に繋がる大通路の脇に設置された特設テントに集まることになっていた。那珂たちは玄関で係員に艤装装着者制度の証明証を提示し、一般客とは別通路で建物を通り過ぎてテントに案内された。
 そこにはイベント主催関係者と、明らかに艦娘の格好をした人物3人がいた。

「おはようございます。千葉第二鎮守府の者です。」
「あ~あ~どうもどうも!待っていました。ささ、こちらへどうぞ。」
 妙高の挨拶に調子づいた軽い返事で接してきたのは、主催者団体の一人の男性だった。軽快なステップで歩み寄ってきたその男性は、那珂と妙高をテントの一角に設けられた長机数個のミーティングスペースに案内する。
 那珂たちは促されるままそのスペースの手前に行くと3人は立ち、そのうち一人がお辞儀をして挨拶をしてきた。
「おはようございます。妙高さん。」
「おはようございます。鹿島さん。神奈川第一から参加される人ってそのお二人なのですか?」
「えぇ。」
 鹿島がチラリとその二人に視線を向けると、一人が那珂に声をかけてきた。
「おはよう。那珂さん。よく眠れた?」
「おはよーございます霧島さん!」
「えぇおはよう。うちからは私霧島と、この夕張がイベントに参加することになっているわ。ホラ夕張。挨拶なさい。」
 霧島が肘でつつくと、夕張は慌てたように挨拶をし始めた。
「あああ、あの~!私神奈川第一で軽巡夕張を担当している○○っていいます。私こういう人前に出るイベントダメなんですよぉ~~。目立ちたくないので、どうかフォローよろしくおねがいしますぅ~!」
 なんとも情けない挨拶に霧島は片手で額を抑えつつ、もう片方の腕の肘で再び夕張の脇をつついて叱責する。
「もっとちゃんと挨拶なさい。他所の鎮守府に笑われるでしょ。」
「だ、だって~。ただの女子高生の私がこんな場所にいていいのか不安なんですよ~~。」
「ほ、ホラホラ夕張さん。霧島さんもいますし提督から代理任されてる私もついてます。それにこちらの千葉第二のお二人もいらっしゃるんですし、大丈夫ですよ?」
 鹿島の慌てた感のある慰めに夕張はため息をついてしょげた。口を完全につぐんでしまったが、一応落ち着いたのか表情は和らいでいた。
 那珂と妙高は顔を見合わせ、クスリと笑った後自己紹介をした。

「それでは私達も改めて。千葉第二鎮守府の妙高を担当している黒崎妙子と申します。今回は提督代理として参加させていただいております。今回のお祭り最後のイベント、どうかよろしくお願いします。」
「軽巡洋艦那珂を担当している光主那美恵です!あたしもただの女子高生ですけど、お二人ははじめまして~ではないから不安はなんとか解消できそうです。最後まで乗り切りましょ!」
 那珂は2~3歩前に出て、夕張の手を取りニコリと笑う。夕張は那珂に触れられてしょげた顔をやっと解消し、笑顔を戻す。
 同年代の那珂と夕張は、すぐに気が合ったために隣同士で座ってミーティングに臨んだ。

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 艦娘同士の挨拶が終わったのを見計らい、主催者の男性が説明を始めた。
 かんたてフェスタ最後の大イベント、艦娘トークショーは、神奈川第一鎮守府より戦艦霧島、軽巡洋艦夕張、鎮守府Aより軽巡洋艦那珂の計三人が参加する。(鹿島と妙高はそれぞれの鎮守府の責任者兼マネージャーとしての立ち位置)

 那珂たちはトークのお題を提示された。那珂がなぜこの場でネタを出すのかと尋ねると、主催者とディレクターたちは苦笑しながらも解説する。
 素人出演のショーで本番にいきなりトークのお題を提示して答えさせることはしないという。テレビ局やネット番組の団体も来ている生放送のため、ショーの展開はなるべくスムーズに事運びをさせる必要がある。
 そのため打ち合わせの段階で今回の素人にあたる那珂たち艦娘勢には、事前にトークのお題を出された。その説明に納得した那珂は霧島や夕張に声をかけて話し始める。

「ねぇねぇ霧島さんに夕張さん。このお題なんですけどぉ、お二人の○○のこと、気になるなぁ~。」
「え、え? そんなお話振られてもすぐ答えられないわよぅ……。」
「そ、そうね。私は……だったわね。あ、でも……だったかも。あぁ、緊張するわね。」
「お二人ともかったいなぁ~。」
「な、那珂さんはなんでそんな楽しそうなんですかぁ!?緊張していないんですか?」
 泣きそうな声で夕張が尋ねる。夕張と霧島の明らかな緊張具合。二人とは違い、那珂はこの打ち合わせの席でもケラケラとにこやかな笑顔でいる。
「エヘヘ~。私はいちおー学校で生徒会長やってますし人前で話すのぜーんぜんへっちゃらですよ。緊張はそりゃあ多少してますけど。それよりもむしろ楽しさのほうが上回ってまして。」
 その後那珂の口から飛び出す今回のイベントにかける思いやトークのお題の回答っぷりに、霧島と夕張は口を挟めず完全に呆気にとられていたが、次第に感心し始めていた。

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 打ち合わせが終わってしばらくすると、那珂たちの周りにいるスタッフの動きが慌ただしくなった。外のステージでいよいよイベントが始まるためだ。
 那珂たちがキョロキョロとしていると別のスタッフが那珂たちの書いた回答のシートを回収したり撮影の準備をし始める。
 そしてトークショーの司会の男女が那珂たちに歩み寄り、ショーのプログラムが書かれた台本を手に声をかけてきた。
「それでは艦娘の皆さん。もう少しで本番なので最後の段取り確認をさせていただきます。この後私達がステージに出て、プログラムのここからここまでを進行します。この段階の少し前になったらスタッフから指示が出ますので、ステージ下手側で待機してください。」

 那珂たちが返事をすると司会者の二人はステージに出ていった。那珂は妙高と向かい合い、一呼吸して口を開く。
「それじゃー妙高さん。そろそろ行ってきます。なぁにあとは任せてください。ヘマなんてしないよう踏ん張りますので。」
「はい。那珂さんだったら心配ないですね。あなたの思うがまま、願うがまま思い切り楽しんできてくださいね。」
「はーい!」
 自分を信頼してくれている妙高に対し那珂は満面の笑みで返した。那珂と妙高の隣では霧島と夕張が鹿島に対して意気込みを語っている。

 数分後、ステージ裏・下手で待つ那珂たちはスタッフから合図された。那珂は隣にいる夕張そして霧島に目配せをして密やかに小声をかける。
「霧島さん、夕張さん。頑張りましょーね。もし緊張したら助けますから、あたしがそうなったらフォローしてくださいね。お願いします。」
「はいはい。わかったわ。那珂さんはなんか平気そうな気がするけれどね。」
「そうですよそうですよぉ~。」
 二人の返事を半分素通りさせ、受け入れたもう半分の感情で親指を立てて胸元で小さく、しかしグッと強く振る。その仕草に霧島と夕張は呆れつつも納得した。

 ステージでは司会者の挨拶と雑談めいたトークが展開されている。
「それではお待たせしました。本日このステージに、先日観艦式で活躍を見せてくれた艦娘の皆さんを代表して、三人の方を招いております。それでは……どうぞ~!」

 那珂たちは、背後にいたスタッフからGoサインと合図をもらい、足を踏み出した。
 違う鎮守府の艦娘、それぞれの事情や境遇がある。このステージに賭ける思いもそれぞれ。霧島と夕張にしてみれば単なるイベント参加の頼まれ事。しかし那珂にしてみれば“単なる”で片付けられる話ではない。歩幅は小さくとも、夢を実現するための大きな一歩である。

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