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同調率99%の少女(21) :公開訓練(導)-

# 2 公開訓練(導)

 水上航行訓練でブイにぶつからない・揺らさない、針路を邪魔する的を上手く避ける。そしてジグザグなブイを安定して避けながらなるべく早く行って帰ってくる。そして帰り道も同じ。なとかつタイムも測る。
 いきなりコースを進むのは第一陣の二人に悪いと思い、那珂はコースの実演をすることにした。その際、神通にも試走することを指示した。
 驚き戸惑う神通だったが、那珂の期待に満ちた眼差しと不知火の背中押しもあり、意を決して臨むことにした。
「単なる実演だから上手くやろうとか思わなくていいからね。あたしが最初に行くから、その動きを追ってみてね。」
「は、はい。」

 那珂が発進し始めた。3つのゾーンを適度に水しぶきを立てて移動するその姿は、別段美しいとも思われない、普通の航行の仕方であった。那珂の見せ方は、自分の様よりもコースを巡るという動きに意識を向けさせるためのものだった。
「……っと、こんなところかな。さーて神通ちゃん。みんなを代表してコースを実演して見せてね。」
 そう言葉をかける那珂に対してもはや声を発さず、頭を縦に振ることで全ての返事として神通はスタート地点に立った。
 そして発進し始めた神通は、最初のゾーンを那珂よりもゆっくりめのスピード、的がウロウロする次のゾーンを一度目はぶつかりそうになって背面に飛び退いて様子を見た後、一気に速度を上げて的をかわして次に進む。最後のジグザグのゾーンは最初と同じスピードでブイを連続してかわして折り返し、最初のゾーンまで無難に戻るという実演を行った。
 神通が戻ってくると、那珂は肩をポンと触れるのみで、見ていた全員に向けて説明を再開した。

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「それじゃーまずは川内ちゃんと五十鈴ちゃんから。後のみんなもちゃーんと見ておいてね。」
 川内と五十鈴がスタート地点に立つ。それを見た那珂は普段の声調子で全員に指示を出した後、号令をかけた。
「そりゃー、先手必勝!!」

ズザバァアアア!!

「くっ!? まーた乱暴な……。」
 五十鈴が愚痴をこぼすほど、川内のスタートダッシュとその後の進み方は乱暴な様だった。まるで基本訓練当時のコース巡りの時のようだ。呆れながらも五十鈴は自分のペースを保つことを心に言い聞かせて進む。
 一方乱暴なスタートダッシュをした川内は最初のゾーンをやはり乱暴に進み、ポイントであったブイにぶつからないという点はかろうじてクリアしたが、激しく揺らして近辺の水域を波立たせていた。
 続いて的のゾーン。那珂ばりにジャンプしてかわそうと目論んだ川内だが、それは豪快に失敗した。数歩水面を歩いて後退し、助走をつけた形で姿勢を思い切り低くしてダッシュする。
「うー……そりゃああああ……あうっ!?」
 川内は顔からプールの水面に着水してそのまま沈んで全身を水中に沈める形になった。タイミングを見計らったつもりが、左足が的のてっぺんに当たって勢いが完全に殺されたのだ。頭からの沈没後、足の艤装の主機で浮くも姿勢を戻すのに手間どる。そんな川内を横目に、タイミングよくかつ素早く的をかわすことに成功した五十鈴が同じラインを通り過ぎていく。
「お先に。あんた全然学んでいないのね。」
 冷やかしの言葉を投げかけて五十鈴は最後のジグザグゾーンに突入していった。
「う……だってだって、主人公のバイクだって豪快にウィリー走行して障害物かわすことあるんですよぉ。」
 川内の物言いはすでに誰も聞かれていない。

 その後五十鈴が折り返して戻ってきた後、数十秒して川内が戻ってくるという結果に落ち着いた。最後に焦りに焦り飛ばしすぎた結果、ゴールライン手前でジャンプして豪快に海中に飛び込むというおまけが付いたゴールだった。
「ちっくしょー。的を上手く飛び越えられればなぁ。五十鈴さんに楽勝で勝てたのにぃ。」
 水面に胸から上だけ出して悔しがる川内を鼻で一笑する五十鈴。ため息の後に止めの言葉を発した。
「あんた、那珂と似てるわ。ちょっといいカッコしたがりなの。あの先輩にしてこの後輩あり、ね。」
「ふっふっふ。それは褒め言葉として受け取っておきますよ。」

 止めが止めになっていないが、それでも川内としては感じるものがあった。

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 次に神通と不知火の並走が始まる。
 試走で一度やっているので航行すること自体に緊張はないが、それでも緊張している神通。原因は並走する不知火だ。
「し、不知火さん、頑張りましょう……ね。」
「……。」

 神通が何か語りかけても不知火は一切反応しない。まるでお前なぞ眼中にないと言わんばかりの雰囲気だった。無視されているという現実が神通を戸惑わせる。三度話しかける神通に向かって、不知火はポツリとつぶやいて再び口を閉じる。
「あ、あの……このコースはですね……」
「神通さん、不知火は、勝負と思ったことに対しては、友達にだって絶対に、容赦はしないつもりです。だから、神通さんとはいえ手加減致しません。」

 不知火から感じる、異様なまでの闘志。つぶやきながらも視線はコースから一切外さない集中力。神通はまたしても知り合いについて初めて見る一面に驚き戸惑うことしかできない。
 人は、話しかけられることを絶対的に嫌うタイミングがある。神通も口数が少ないタイプなだけにそれがよくわかる。
 これから何かに取り掛かろうと集中し始めた時だ。
 つまり今の不知火にとって、神通自身は慕い慕われる存在ではなく、鬱陶しい存在でしかないかあるいはライバルなのだ。これはもはや自分も無理に話しかけるべきではない。神通は不知火から視線を外し、目の前のコースを見定めることにした。

「いいかな二人とも。それじゃーはじめ!」
 那珂の号令が響き渡った。
 神通は試走の時と同じようにスピード緩やかに、そして試走の時よりも丁寧にブイを避けて蛇行していく。不知火はというと、神通の3倍の速度でもってブイを連続して素早く、かつキビキビとかわして進んでいった。速度・丁寧さ・各ポイントどれをとっても神通よりはるかに上だ。
((不知火さん、すごい。速いのに、綺麗。前の那珂さんほどじゃないけど、すごい……。))
 神通は不知火の立ち居振る舞いに見とれた。先日の自由演習の時は味方であったがゆえに気にしたことはなかったが、ライバルとなって戦うとなるとこれが本気の一端なのか。神通は遅れて最初のゾーンを超えて的のゾーンに突入した。
 不知火はすでに的を華麗にかわして最後のジグザグゾーンに突入している。神通が的を避けるタイミングを見計らっていると、その先で不知火はジグザグのブイをやや低速になって突入しその後一度も速度を落とさずにサクサクかわして進んでみせている。
 ようやく的をかわし終えてジグザグゾーンに入った神通の視界の先にはすでに不知火はなく、背後からゴールしたという本人の声と那珂の合図が響き渡った。

 それから遅れること数十秒してようやく神通は最初のゾーンの入り口、つまりコースのスタートラインに戻ってきた。
「ゴール! 神通ちゃんもゴールぅ~!」
 那珂の合図に周囲が沸き立つ。そして神通はゴールしたと同時に徐行まで速度を落とし、ほっと胸をなでおろして完全に停止した。

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 神通が胸に手を置いたままフゥフゥと息をしていると不知火が近寄ってきた。チラリと視線を向けると、不知火は語りかけてきた。
「思い切ってください。」
「へ?」
「神通さんは、足りない。もっと私に、向かってきてもいい。さっきの那珂さんとの試合のように、私にもしてほしい。」
 そう言うと不知火は頬を赤らめる。なぜ今このタイミングで?と神通は思った。正直疲れも相まって突然の文句に混乱から抜け出せそうにない。

 実のところ不知火は、神通が想像していたような大人しい性格の持ち主とは違う。この少女の思う人付き合いは、必要以上にベタベタ、密やかに寄り添い続けるわけではない。彼女は時には接する友人を突き放してでも、その友人のために行動を起こしたいという信念なのだ。
 もちろん不知火個人の感性で寄り添いたいと思える存在は、神通のようにおり、その態度にも表れるが、それでも不知火本人の根本は変わらない。好きになった相手にはベタベタ、ではない。

 ただ神通が不知火の本当の考え方を知るよしもなく。
 仲良しこよしで辛いものは見たくない、適度な距離間でのなぁなぁの人付き合いを欲している自分とは違うのかも、程度に感ずるだけであった。
 神通はふと思い出したことがあった。
 以前懇親会の席で、不知火は友人の名前を数人挙げていた。高校での友人が和子しかいない自分とは何もかも違う。

 必要とあらば私はガツンとアタックするから、お前もガツンとしてこい、という意思表示・メッセージを不知火は目線で送り続けるが、それを上手く口からの表現に載せられない。
 不知火は口下手で感情表現が苦手な自分を呪った。

 そしてそんな不知火の鋭いガン飛ばしを食らい続けていた神通は、目の前の少女の思いは、きっと何か裏があると察することにし、必死で返事を考えていた。
 目の前がクラクラする。同じ無口・大人しいタイプだと勝手に決めつけていたが、これはどうやら違うぞ。
 どう返せばいいんだろう……。
 とりあえず謝って、決意を表しておけばいいか。神通は不知火の真意を完全に理解することはできなかった。
「ご、ゴメンなさい……。私、不知火さんに、負けないよう頑張ります。」
「(コクリ)」
 神通がオドオドアタフタした雰囲気で意気込むと、不知火は満足気な表情で言葉なく頷いた。

((お、神通ちゃんと不知火ちゃん、なんか親しげ~。いいねいいね。じゅんちょーに仲良くして競い合ってねぇ~。))
 離れたところから見ていた那珂は二人が話す様子を見て、後輩の成長をまた一つ微笑ましく思うのだった。

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 次に五月雨と夕立、続いて村雨と時雨がコースを疾走した。
 五月雨と夕立の並走では恒例のツッコケを五月雨が衆目に晒すことになったが、意外にもその後はバランス良く姿勢とスピードを維持して夕立に迫る。プレッシャーを一定以上感じると頭に血が上って途端に慌てる質の夕立は、まさかの五月雨に越されそうになって今回も一気に混乱し始める。
 結果として夕立はそのまま先にゴールをしたが、復路でガシガシとブイに当たりまくっての見苦しいゴールだった。対する五月雨は最初のミス以外は意外にも穏やかな水上航行となった。

 そして最後、那珂と妙高の水上航行の並走の番となった。

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「うっし、最後は妙高さんとかぁ。頑張りましょ~ね、妙高さん!」
「えぇ。よろしくお願い致しますね。」

 お互い笑顔で意気込みを交わし合った。
((妙高おば……おっと、妙高お姉さんの水上航行かぁ。ワクワクする。様子見てみよっと。))
 那珂は表面上もウズウズしていたが、それ以上に内心遥かに気持ちが高ぶってウズウズしていた。

「それでは、はじめ!!」
 那珂の代わりに明石が合図をした。

ズザバァーーー

 那珂は意識の半分はコースに、もう半分は右隣りのコースを疾走する妙高に向ける。那珂があっという間に第一のゾーンを抜けて的を待つほんのわずかな間で右をチラリと見ると、なんとすでに妙高も同じように的を待っている状態だった。那珂は最初のゾーンはかなり荒っぽいスピードとかわし方ながらもポイントを確実にこなしていた。それは那珂自身、早々に他人に真似できない大胆さと丁寧さを両立させたものだと誇っているテクニックだった。
 しかしながら妙高は那珂がハッと気づくとほとんど同じスピードとタイミングでクリアしていた。

((ほっほう。妙高さん、お歳の割にやるなぁ。それならこうだ!))

 那珂は軽くしゃがんで溜めを作り、低空ジャンプで的をかわす。そしてスピードは一切緩めずに最後のジグザグゾーンを進む。極力な蛇行をするには意識を集中させないと危ないため那珂は妙高を気にするのを一旦やめる。
 復路に入った際に自然に左に視線を向けると、ジグザグゾーンに入った妙高の、まるで氷上を滑るフィギュアスケーターのような華麗な身のこなしでジグザグを一切スピードを緩めずに進む姿を捉えた。

((え、なに妙高さん!? すっごい~きれ~!))

 正直言って身のこなし方は負けた、那珂はそう感じた。しかしスピードと全体的なバランス感覚としては負けとは思わない。負けず嫌いな那珂だが、身のこなし方だけは素直に負けを認める気になった。
 那珂はアイドル目指してダンスなども学んできたが、スケートは未経験。妙高のあの滑り方は経験者だということは想像に難くない。経験者に勝とうなぞ思わない。自身に知識や経験がないゆえに、無理な勝負は挑まない。そういう考え方なので那珂は妙高には唯一のポイント以外では絶対勝とうという意欲で最後まで突き進むことにした。

「ゴール!那珂ちゃん一番! ……っと、妙高さんもゴール! うわぁ~、二人のタイム差は1秒切ってます。那珂ちゃんに追いつけるなんて妙高さんさすがですね~。」
 明石の宣言が響き渡る。

 自身の後にゴールした妙高を真正面に見た那珂は彼女がゴールしてすぐに近寄り、手を握ってはしゃぐ。
「妙高さん!すっごいじゃないですか!あたし結構飛ばしたつもりなんですけど。それにすごい綺麗でしたよ、あの動き方。もしかしてスケートとかやってました?」
「えぇ、フィギュアスケートやってましたけど、学生時代の話ですよ。もう10年以上前ですもの。」
「それでもあれだけ動けるなんて、あたしサッと見ただけですけど、見とれちゃいましたよ。あのまま惚れてたらコースで転んでたかも~。」
「もう~那珂さんったら。」

 那珂の無邪気な感動の様を間近で受けて妙高は艶やかに照れを見せて微笑んでいた。

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 全員が水上航行をし終わってプールサイドの庇近くに集まった。明石と技師は提督に動画を見せながらポイントを説明している。那珂たち学生の艦娘らはそれぞれの学校の教師の前に駆け寄って感想や報告をしあう。後に残ったのは妙高と五十鈴、そして五十鈴の友人の良と宮子だけだ。
 妙高の水上航行の様を見て感動したのは並走していた那珂だけではなかった。五十鈴ら3人も感動表現を表し、妙高を照れまくらせていた。

 その後教師たちは生徒たちの訓練についての最初の感想を言い合った。
「みんなすごかったわ~。先生ビックリ!光主さんも内田さんも見てて気持ちよかったわぁ~。先生、学生時代は陸上やってたから、競技のこと思い出しちゃった。」
 阿賀奈は那珂と川内の訓練の様子に触れてまるで子供のように喜び湧く。
 そんな光景の脇で、神通は先生が自分のことに触れなかったことに気づいてみんなの背後で隠れて悄気げる。まぁ当然か、と諦めていたその時、阿賀奈の口が再び開いた。

「それに神先さんも見事でした。なんていうのかな、ナイスガッツ? でもね~、もうちょっと光主さんや内田さんみたいに動いてくれたら、見応えあったかな~って思うの。あれだっけ? 神先さんスポーツ苦手なんだっけ?」
 矢継ぎ早に感想と問いかけをする阿賀奈。神通はアタフタしながらも阿賀奈の程度の弱い問いに答える。
「え……と、あの。スポーツほとんど経験がないので、あまり感覚わからないというか。」
「そっか。それじゃあ夏休みは艦娘以外にもスポーツしましょ?なんだったら先生、陸上教えちゃうわよ?」
「あ……えと、あの……その。」
 オロオロする神通を見かねたのは川内だ。親友であり同僚であり姉妹艦である神通を優しくフォローしながら阿賀奈に対して言った。
「アハハ。先生ってば。そのくらいにしてあげてくださいよ。神通にはあたしがついて毎日自主練してあげてるんです。あたしに任せておいてって。」
「そっかそっか。二人ともすっかり仲良しさんなんだね。先生嬉しいなぁ~。うん。それじゃあ任せちゃうわよ。」
 川内は言葉なくこめかみに手刀を当てて冗談めいた敬礼をして返事とした。

 その後五月雨たちに対しては理沙が、不知火に対しては桂子が言葉をかける。
 一通り教師陣から感想を受け取った艦娘たちは、那珂の合図の下、訓練の本筋に戻った。
「それじゃあみんな。今日の訓練は終わりだよ。ザッと動画見せてもらったと思うけど、この後はみんなで記録動画見て、この人のここがよかった、悪かったとか話し合いたいと思います。いいかな?」
「お~、なんかちゃんとした部活っぽくなってきましたね。」
「(コクリ)」
 軽巡艦娘たちに続いて駆逐艦艦娘たちも相槌を打ち合う。

 その光景を数歩離れた場所から見ていた提督は満足気な表情を浮かべてウンウンと頷いた。皆に音頭を取り終わった那珂はそんな提督にチラリと視線を送り、言葉をかけた。
「それじゃー提督ぅ。責任者としてし~っかりあたしたちのこと、視姦するよーに打ち合わせの最後まで観察し・て・ね?」
 アハハハと苦笑が回りから溢れる。相変わらずの那珂の茶化しを伴った素直な願い事に提督も苦笑いを浮かべて返事をした。
「ハハッ……女の子がそんな単語使いやめなさいっての。わかってるから。俺が最後は判断して君たちを評価しないといけないんだからね。」
「わかってるならよろしー。あたしたちや先生方が色々話し合ってもさ、結局のところ提督が全てなんだからね?ウリウリ!」
 さらなるツッコミを言葉と合わせて肘でする那珂。提督は那珂のその仕草にたじろいでもはや頷くことしかできない。
 場所を演習用プールから会議室に舞台を移した那珂たちの打ち合わせの中、教師たちや五十鈴の友人二人、明石らとともに外野席で色々と肝を冷やしながら艦娘たちを見守る提督の姿があった。

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