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同調率99%の少女(25) :鎮守府Aの演習艦隊

# 6 鎮守府Aの演習艦隊

「何も、ずっと本隊・支援艦隊にいる必要はないのでは? 例えば、ある程度戦局を見て本隊と支援艦隊のメンバーを交代するのはどうでしょう?」
 神通以外のメンツにとってそれは目からウロコだった。その感想を五十鈴が口にして全員に認識させた。
「そう……よね。よくよく考えたらそうしてもいいのよね。完全に盲点だったわ。ねぇ提督、そのあたりの決まりは?」
「いや、ない。特に決められていない。うん。確かにいいアイデアだ。」

「そうだよね! さっすが神通ちゃん! だーいすき!」
「……。」
 那珂の言葉に照れて俯く神通。
 那珂は凝り固まっていた自身の思考に活を入れた。後輩に教えられてどうする。いや頼もしくて好ましいが。

「さっすが神通だわ。そのアイデア、差し詰め○○っていう戦略シミュレーションゲームのシステムに似てるわ。あたしはゲームに置き換えると考えやすい。那珂さん。そーすっと各自の攻撃範囲も考えたほうがいいよ。」
 同僚のアイデアを自身の得意分野のフィルターにかけて理解した川内は、そのアイデアを発展させるべく追加のアイデアとなる要素を示した。
「攻撃範囲?射程のこと?」那珂が言い換えて尋ねる。
「そうです。さっき那珂さんも言ってた、妙高さんだと中距離狙えるとかそういうやつです。それをもっとハッキリさせるんです。」
 川内はホワイトボードに例として実際の艦隊ゲームの絵を描いて説明をした。そして次に明石に確認を求めた。

「ねぇ明石さん。艦娘の主砲や機銃とかの射程のこともっと教えて。」
「えぇいいですよ。基本的なことは皆さん、訓練時にお勉強したということで省きますけどよろしいですね?」
 那珂と五十鈴そして神通も深く頷く。三人から遅れて川内は慌てたようにコクコクと素早く頷いた。

 明石はいくつかの主砲パーツの名前とともに射程、そして装備可能な艦種をパラパラと口にした。今まで単装砲だとか連装砲、一撃の威力、対空や弾幕を張れる使い勝手という程度の認識で各々のフィーリングに沿った扱い方でしか選んでこなかったため、那珂たちは二回目の目からウロコ状態になって明石の解説を熱心に聞いた。
 最後に明石は口に人差し指を当て、いわゆる内緒の仕草で言った。
「あとこれは別の鎮守府に勤務してる弊社の社員から聞いたんですけど、外国の艦娘の元データになってる艦船の、主砲や機銃パーツの日本国内で開発許可が間もなく降りるそうです。今テスト的に一部の鎮守府の工廠に設計データが配布されてるらしくて、実際に外国の艦船のパーツが開発されてるそうなんです。」
「ほーへー。そうするとどうなるんですか?」と那珂。
「バッカ!那珂さん!そうするとすごく有利になるんですよ! 艦隊ゲームで日本の艦船にアメリカやソ連の超優秀な主砲を取り付けてプレイとか、そういったことと同じなんですよ。ね、明石さん!?提督!?」
「え、えぇ。そうかもしれませんね。うちもテストで何かもらえるよう会社にお願いしてますので続報があったらお知らせしますよ。」
 興奮を抑えきれなくなった川内がスピード感溢れる口調で語る。その勢いにドン引きする明石と那珂たちだが、明石は話を持ち出した手前川内を無下にするわけにも行かず、適度に相槌を打つしかなかった。

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 川内のことは放っておいて、那珂たちは次々に判明した装備品の正しい射程に、感心しそして反省もしていた。
「そっかぁ。教科書も隅から隅まで読まないとダメだね~。あたし知らないこと結構あったよぉ。」
「あんたはてっきり全部知ってるのかと思ったわ。コッソリ全部知って裏で私達のことあざ笑ってそう。」
 五十鈴からの良し悪しよくわからぬ評価を受けて那珂は普段の調子で軽くツッコんだ。
「なにお~う!? あたしの怠けるときは徹底して怠ける癖を舐めるなよーう!?」
「威張ることじゃないでしょ。」
「あたしは興味ないことは徹底して無視するだけですもーん。それよりも見るからに勤勉な五十鈴ちゃんのほうがそうじゃないの~?」
「(イラッ)ムッカつくわね。そりゃ今の説明で知ってたこと大半だけど、私はそんな性格悪くないわよ。」
「五十鈴ちゃんが最初に言ったんじゃないのさ。五十鈴ちゃんからの言われなき悪言であたしけっこーショック受けてるよ。ねー提督。後でご飯食べに連れてってぇ~。あたしのブロークンハートを癒やして~。」
「……俺を巻き込むな、俺を。」
 猫なで声で甘え出す那珂の茶化しエンジンは回転数を上げ、提督を巻き込もうとしていた。が、当の相手はあくまで真面目を貫き通すつもりなのか強制的にブレーキをかけた。那珂はエヘヘと困り笑いをしてごまかし、話の方向を修正したのだった。
 提督はコホンと咳払いをし、艦娘たちの議論の方向性を改めて問い正した。

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 自身の性格や各々の艤装の特性も踏まえ、那珂たちは次なる案を生み出した。
 複縦陣で、先頭を那珂と長良が務める。その後ろに機動力と気迫ある駆逐艦の夕立と不知火が、最後列には五十鈴と川内が位置取る。

本隊(旗艦:五十鈴) 前→後ろ
那珂  不知火 五十鈴
長良  夕立  川内

 敵が攻撃のため近寄ってきたら、那珂と長良は少しずつ前に出て、後ろの四人から離れる。
「……つまり、あたしと長良ちゃんは囮なわけだ。」
「ここでは破天荒に振る舞えるあんたが大事なのよ。」と五十鈴。
 五十鈴が提案に混じえたのは、ナンバーワンの実力でトリッキーな那珂を囮に据え、寄ってきた敵に本隊の残り全員で集中砲火を加えるというものだった。那珂一人でも囮は十分と踏んでいた五十鈴だったが、人手を確保するのと経験値を積ませる目的で、まだ基本訓練中の長良を加えることにしたのだ。

 支援艦隊は、妙高、神通、時雨、村雨、五月雨、そして名取とした。
「ねぇ五十鈴ちゃん。ホントーに長良ちゃんと名取ちゃんを加えるの?雷撃や防御のイロハも覚えてないし、第一まだ基本訓練終わってないでしょ。」
 那珂が心配を口にすると、五十鈴は至って冷静に明かした。
「こういうときに良い経験をさせておきたいのよ。前のあなたと一緒。あのときは緊急任務だったけど、今回は演習試合っていう最高の機会なんだから、二人を参加させない手はないわ。」
 五十鈴の言葉に那珂は一瞬ドキリとして詰まるも、言ってることの整合性はあると踏んだため、納得の意を見せて相槌を打った。
「とはいえ、二人とも多分あっという間にやられて轟沈判定出るかもしれないけどね。」
 肩をすくめてそう言う五十鈴に、神通は決意を強めて言い切った。
「だ、大丈夫です。名取さんは、私が守ります。」
「何言ってんの。あんたの役目はそうじゃないでしょ。」
せっかくの神通の決意とやる気に水を差した五十鈴は、那珂に目配せをして支援艦隊の役割も発表しあうことにした。

 支援艦隊は2班に分かつ。偵察機を放って相手を撹乱しつつ戦況を把握するのは神通。操作中は無防備になる彼女を守るのは時雨と村雨とする。

支援艦隊(旗艦:妙高) 前 後ろ
五月雨 妙高
名取

時雨
  神通
村雨

 妙高には五月雨と名取が付く。練度が一番高く、性格的なドジさえ発揮されなければまずまず動ける五月雨が他の二人を護衛する。妙高は実は五十鈴と同じ程度の練度なので、単騎でも生き残れると踏む。そして名取は完全に捨て駒である。
 五十鈴と那珂が発表した後、神通は名取の心配を口にした。それに川内もさすがに同意する。対して五十鈴はややあけすけに言いのけた。
「大して動けない名取は妙高さんの壁になってもらうわ。あの娘には悪いけれど、捨て駒ね。」
「うっわ~五十鈴さんひでぇ。ゲーム的には死なない演習だから単にレベルアップのためとかなんとか言えばいいのに。」
 五十鈴のあまりにも悪意に満ちた言い方に、ゲームに例えつつも呆けた意を込めた言葉しか発しない川内とは違って、神通はクッキリと怒りを言葉に表した。
「五十鈴さん。その言い方は、止めてください。自分が言われたら……どう思いますか? なんでご友人にいちいちそういう事を言えるんですか?」
 神通の思わぬ気迫による叱責を受け、五十鈴は若干戸惑うも平静を取り戻して強く言い返す。
「……わ、悪かったわ。けど事実でしょ。当人の評価をごまかしたって仕方ないのよ。少しでも勝率を高めるために作戦を練ってるんだから、経験のために参加させるにしても、壁でもなんでも役に立ってもらわないと。」
「それはそうですが……でも、言い方g
「はーいはい。二人ともそこまで。今のは五十鈴ちゃんが悪いよ。いくら気の置けない間柄っていっても、あたしたち他人にはわからないんだからもうちょっとオブラートに包んでよね。それから神通ちゃんはどーしたの?普段ならこんな噛み付き方しないのに。」
 那珂の問いかけに神通は数秒黙っていたものの、怒りを噛み殺して押さえつけるように言った。

「な、那珂さんは知らないかもしれませんけど、五十鈴さんは本当はとm
「神通! 今はそんなこといいでしょ!? はいはい私が悪かったわ。もう名取を悪く言いません。これでいいでしょ……。」
 五十鈴の投げやりな謝り方と応対に神通はイラッとし、那珂は怪訝な表情を浮かべる。二人の意味ありげな視線を受けるも、五十鈴は平然と続きの言葉を発する。

「とにかく! 長良と名取は基本訓練中だから実際の戦力にはならないことだけは前提として受け入れて。その上で、私は二人の元々の性格やこれまでの成果と将来性から、今の案のように組み込みたいの。長良はムラがあるけど十分に動けるし、前線で艦娘の活動というものを肌で感じ取って欲しい。それから名取は、せめて味方の役に立てるという実感を味わって、自信をつけて欲しい。私たち長良型の艤装はあんたら川内型より外装が多くてスピードを出しにくいけど丈夫。だからこそ、盾を任せてみようって思ったのよ。だから、捨て駒なんて言い方は悪いと思ってる。」
 五十鈴から飛び出した本音を受けて、負の感情が渦巻いていた神通と那珂はスゥっと冷めていった。

「……だったら、最初から言ってください。五十鈴さんはツンツンしすぎです。」
「もう~五十鈴ちゃんったら、しっかり考えて発言してたんじゃん。そういうのは確かにハッキリ言ってくれないとわからないよ。安心した~。」
「五十鈴さんって、やっぱツンデレですよ。」
「(ムカッ)川内あんたねぇ~~そんな死語の一言で片付けないでよね!!」
 神通と那珂のツッコミに続くように川内が言い放つ。さすがにその言い草を看過できなかった五十鈴は逆にツッコミ返し、ギスギスし始めていた場の空気にヒビを入れるのだった。

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 少女たちのやり取りを黙って見ていた提督が口を開いた。
「それで、まずはその編成だとして、交代するっていうのはどうするんだ?」

「そうだね~。最初の編成で本隊の相手をある程度撃退できたことが前提条件だけど、その後は中距離射程組と短距離射程組でわけよっか。」
「というよりも本隊を史実の水雷戦隊ばりにするというところかしらね。つまり軽巡一人に残りの5枠に駆逐艦。そして支援艦隊はそれ以外の軽巡・重巡ね。」
 那珂の発表に五十鈴が補足を加えて作戦を色付けする。

「おぉ、水雷戦隊! なんか本物の海軍っぽいわ!」
 単語にいちいち興奮を示す川内を無視し、那珂と五十鈴そして神通は話を進める。

「本隊に残る軽巡は、駆逐艦の娘たちを一斉に指揮して戦況を操る技術を有する必要があるわ。そのあたりは練習次第かしら。あとは支援艦隊だけれど……。」と五十鈴。
「支援艦隊にはさ、神通ちゃんに残ってもらいたいな。」
「私……ですか?」
 那珂の提案に神通は戸惑いながら聞き返す。
「うん。神通ちゃんにはね、離れたところから狙い撃ちに集中してもらうんだ。そうすれば本隊を最後まで確実に支援できると思うの。つまり、神通ちゃんのすんげぇ狙撃能力を活かしたいの。」
「といっても敵が少なくなってきてからが本番ね。さすがの神通でも、おそらくなるであろう混戦状態の戦場で敵を確実に狙撃できるとは思えないし、それまでは偵察機で撹乱、本隊同士の戦いに落ち着きが見えてきたら、狙撃する体勢に移ってもらいたいわね。」
 那珂の提案の説明に再び補足する五十鈴。自身の評価の適切さに神通は感心しつつ納得し、無言でコクコクと頷いた。

「それじゃああたしは?あたしは何をすれば?」
「川内は……どうする?」
「うーん。残る軽巡はあたしと五十鈴ちゃん、それから川内ちゃんだね。この中の誰かに本隊の旗艦を担ってもらうから、残りは支援艦隊で、神通ちゃんと一緒に離れた敵を狙い撃ち。というよりも、狙い撃ちする神通ちゃんをサポートする役目ってところかな。」
「そうね。」
 那珂も五十鈴も、長良と名取を役割分担の頭数に入れなかった。二人は支援艦隊で中距離砲撃のサポートという認識で当たり前のこととして、あえて触れずに話を進めた。
 そもそも二人の考慮など頭になかった川内は、那珂の説明の口ぶりのみ気にして話に混ざるべく鋭く発言した。

「じゃああたしに水雷戦隊の旗艦やらせてくださいよ。夕立ちゃんたちを華麗に指揮して演習の最終決戦を攻略してみせますよ。」
 鼻息荒く机に乗り出してアピールする川内。那珂と五十鈴は目をキラキラさせたこの少女を目の当たりにし、同時に額を抑え溜息をついた。
「じゃあ任せるけど、ホントにダイジョブ~?」
「仕方ないわね。まぁでも今のところ那珂に次いで自由に動けるし、一応期待してみるけど。」
 表面上は異なる反応ながらもその実、同じ心配をする那珂と五十鈴。川内は二人が曲がりなりにも承諾してくれたという事実だけでもはや十分だった。
 川内のやる気と可能性にかけることにし、那珂と五十鈴は渋々ながらも正式に承諾した。
 部屋に反響せんばかりの川内の「やったぁ!」の掛け声に、耳を塞ぐ仕草をしながら那珂と五十鈴はホワイトボードへ案の続きを書き記した。

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<初期編成>
本隊(旗艦:五十鈴) 前→後ろ
那珂  不知火 五十鈴
長良  夕立  川内

支援艦隊(旗艦:妙高) 前 後ろ
五月雨 妙高
名取

時雨
  神通
村雨

<二次編成>
本隊(旗艦:川内)
   不知火
   時雨
川内 夕立
   村雨
   五月雨

支援艦隊(旗艦:妙高)
   長良
那珂 妙高 神通  名取
   五十鈴

「二段階の編成、これでうまく対応できるといいね。」と那珂。
 那珂と五十鈴が書き終えるまで、会議室にいた一同は口を挟まずひたすら編成案を眺め続けた。
 那珂が口火を切って説明を終えると、ようやく次々に口を開いて感想を言い出した。

「なるほどね。よく考えたね。史実の艦隊の要素も取り入れつつ自由に……ね。うん。いいと思うよ。」
 そう提督が評価を口にすると、那珂がすぐさま返した。
「ねぇねぇ提督。少しくらいは提督の案を混ぜてあげてもいいよ?」
「俺が口挟む余地ないかもしれないわ。ま~あえて言わせてもらうとすると、本隊の旗艦は那珂がいいな~と思うんだよ。」
「えぇ~~!? 提督あたしの味方じゃないのおぉ!!?」
 耳をつんざかんばかりの金切り声で叫ぶ川内。提督は耳を塞ぎつつ言葉を返した。
「いやいや。別に川内がダメだって言ってるわけじゃないんだよ。俺は直接見られなかったけど、館山でのフリーパートの演習試合。あぁいう感じで那珂が無双するところをこの目できっちり見ておきたいんだよ。」

 提督の思わぬ期待。川内が騒ぐ傍らで那珂は瞬間的に心拍数が上がった。顔がほてりかけるも、わずかに息を吐いては吸いを細かく繰り返し、素の気持ちを落ち着けてから反応した。
「なーんか勝手に期待されちゃってるけどぉ、それは今回のあたしの方針とは違うんだよね~。」
「なんでだよ?君が一番目立てる戦い方だぞ? 君の本気を見ればあちらの艦娘たちはきっと目を見張って驚いて上手くいきゃ戦意を削げるかもしれない。そうすれば結果的にうちの娘たちの支援にもなる。鎮守府のトップの意見として、どうだろうか?少しは俺の顔を立てると思ってさ。」
「うー。あたしに変わったところで提督の箔とかの売り込みにならないしどーにもならないと思うけどなぁ。ぶっちゃけ無駄? あたし、無駄なことと意味ないことはしたくない。自分のほーしんを変えるつもりはないよ。だから提督の考えは却下ー。」

「うーむ……ダメかぁ。」
 スパッと言ってのける那珂。提督はあっけにとられてアッサリとした一言しか出せなかった。
「今のは……ちょっとあんたもうちょっと言い方ってものを。提督に失礼よ。」
 提督がうまく感情を表せないと察し、五十鈴が提督を庇ってツッコんだ。そして川内と神通は口を挟まずコクコクと頷いてあえて話題に乗ろうとしない。

 ふと気がつくと、那珂は周りの視線が痛いことを感じ、咄嗟に焦りを沸き立たせる。
「え? え? あたしマズイこと言ったぁ?」
「まずいっていうか……。西脇さんは艦娘としての私達の上司よ。提督が私たちをまとめてくれて、私達が行動したその最終的な結果が鎮守府として、何より管理者である提督の采配の評価に繋がるんでしょうし。拒否するにも対案出すにしてももうちょっと言い方ってものを……。」
「う、う……と。え~と。」
 五十鈴の指摘に那珂は言葉詰まり黙ってしまう。
 後輩である川内と神通は那珂の悄気方が本気のものだと察し、那珂に助け舟を出すことにした。
「まぁまぁ。あたし別にいいですよ。提督が那珂さんをっていうなら、あたしはいいです。なんつうんだろ。司令官の命令って感じでなんか本格的な戦略ゲームっぽいですし。その代わりあたしを別の編成に入れてバリバリ活躍させてもらえるならおっけぃです。」
「提督のお考えは一理あるかと。勝率を上げるためには、やはり那珂さんが旗艦となって最後の戦いを締めてくださったほうが……。」
 面倒くさくなくて気が楽、とまでは口に出して言わない神通だった。

 こういう時に限って何で妙に物分りが良いの二人とも!揃って提督の味方!?
 と那珂は心の中で狼狽える。せめて実際の喋りだけはうろたえを感じさせぬよう心に決めて反論した。
「うー、うー。確かに提督の考え入れてあげてもいいよとは言ったけどさぁ。無駄なこととか言っちゃったのはゴメンって謝るよ。あたしに頼ってもらえるのは嬉しいけど、今回はそうじゃないの。本当のところは、川内ちゃん的に言えばレベルアップ。参加する全員にレベルアップしてほしいの。あえていえば本隊で一番動くことになる旗艦に川内ちゃん、支援艦隊では神通ちゃんのペアで戦いを締めて二人に特にレベルアップして欲しいの。あたしのレベルアップや活躍は後回しでもいいし。」
「はぁ……教育熱心なあんたの考えはわかったわ。ねぇ提督。お考えは正直私もいいと思ったけど、那珂の考えにも賛同できるのよ。どちらを取ればいいかは……私には判断しきれません。今後の私達のためにも、提督が決断していただけませんか? 練習の時間も考えると、最初の案としてはここで締めてそろそろ行動に移しておきたいし。もし試してみて都合が悪かったらその時改めて提督のお考えを伺いたいわ。」
 那珂の考えを改めて聞いた五十鈴の、自身へのフォローが混じった懇願に提督は上半身をややのけぞらせこめかみをポリポリと掻きながら言った。
「まぁいいや。俺もなんとなく言ってみただけだからさ。無理にとは言わないよ。君たちが自分たちで考案した作戦だからそっちを尊重する。ただ提督である俺としては、一番期待をもっているのは那珂だってことをわかっておいて欲しいなって、ハハ。」

 その言葉。その言葉があたしを狂わせる。ムズムズ、イガイガする。心がポワンとして変になる。
「……はぁ。ちょっとその言い方は誤解されちゃうかもだから、やめてね。第三者がいたら女子高生を口説く中年男性の事案とか指さされちゃうよ。」
 言い出しはイライラを交えていたが、ごまかすために腰をくねらせ両手で指差しするポーズで茶化しながら台詞を締める。
「お、おいおい。やめてくれよ。俺は普通に君をだな……。」
「はいはい。わかったから。ともかく提督の案は引き出しにでも仕舞っておくよ。まずは皆に編成を伝えて、作戦会議だよ。」
 那珂の調子が戻ってきたことが読み取れるその台詞に、五十鈴も川内たちも頷く。提督や完全に聴者側に徹していた妙高・明石も了解の意を示したことで、演習に向けた最初の打ち合わせはひとまず幕を閉じた。

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 その日の個別の訓練終わり、本館に戻ってきた艦娘を那珂達は呼び集め、待機室において演習艦隊と作戦の説明をした。
「……というわけなの。」

「うっわ~なんだかすごい演習になりそー。楽しみっぽい!」
「そこまで本格的な動きを伴うとすると、かなりの練習が必要と思うんですが。」
「そうよねぇ~。それぞれの装備や能力をちゃんとわかっていて旗艦さんには指揮してもらわないと。いざ試合が始まったらアタフタしそう。」
 夕立の反応はもはやわかったものだが、時雨そして村雨の感想に不安しかないことも、おおよそ想像がつくところであった。那珂や五十鈴はウンウンと相槌を打って返す。
「長良さんと名取さんも試合に出てもらうんですか? 私達はいいですけど、それはさすがに厳しいんじゃないんですか……?」
「えぇ。あなたの心配はもっともよ、五月雨。けどね、私としては二人には艦娘になるという実感を早く得て欲しいから、実際の戦いに近い雰囲気を味わえる今回の演習試合は好機だと思ってるの。二人には無理を承知で出てもらうわ。いいわね、二人共。」

 五月雨への返答の最後に五十鈴は視線を長良と名取に向ける。名取は普段の3割増でオドオドし、長良は普段の無邪気さ3割減で珍しく不安を口にする。
「ん~~砲撃はいちおー出来るようになったけどさ、あたしとみゃーちゃんはほんっとに戦えないと思うよ。それでほんとーにいいの?スポーツでいやぁ、ルール半分もわかんないで試合に出るようなもんでしょ?さすがのあたしもそれは引くなぁ~。」
「あんたが不安を口にするなんて珍しいわね。戦えないことは十分わかってるから、それを差し引いても問題ない役どころを担ってもらうわ。だから役割以外は気にしないで私達に任せておきなさい。」
「ほへ~~。まぁいいけど。ねぇねぇ那珂ちゃん。艦娘の弾が当たったら痛いの?」
「演習試合はペイント弾使うから怪我するほどの痛みはないよ。ただ衝撃とかは結構あるから最初はびっくりするかもね。」
 那珂がサラリと説明すると、長良より先に反応したのは名取だ。
「ぺ、ペイント弾かぁ……それでも怖いなぁ。」
「みゃーちゃんは避けられないかもね。あたしも不安だぁ。ねぇねぇりんちゃん。演習試合までに避け方とか身の守り方とか教えてよ~。」
「わかってるって。二人には作戦行動よりもまずは残りの基本訓練で目下必要なところを重点的に教えてあげるわ。あまり期間がないから、次の土曜までは毎日鎮守府に来るわよ。」
「はーい。」
「うん。わかったぁ。お手柔らかに……ね。」
 五十鈴から長良・名取の了承を得られたのを確認すると、那珂は作戦の説明を再開した。

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 最後まで話を聞いた一同はとても不安を解消できたとは言えないまま、この日は帰路につくことになった。
 週末土曜日までは僅かな日にちしかない。
 その後、鎮守府Aでは土曜に至る数日、夕方に全員揃っての訓練が2回、後はバラバラな編成で訓練が続いた。
 訓練に専念できる五十鈴たちや時雨たちとは違い、一方で那珂たち川内型三人は、見学会に向けて具体案を詰める必要があった。自校に計画書として提出し、生徒および教師を校外に連れていく正式な許可を得、土曜日に向けた最終調整を顧問の阿賀奈、そして教師たちと行った。

 そして日はあっという間に過ぎ土曜日となった。

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