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同調率99%の少女(12) :終演

--- 6 終演

「さて、宴もたけなわではございますが、このあたりで懇親会を一旦閉めさせていただきます。」

 提督の音頭の声が響き渡る。

 時間にして16時。夕方にさしかかっている。片付けの時間や、主婦組の妙高と大鳥夫人からすると、家事に戻らないといけないため、タイミング的にはちょうどよい。

「ねぇてーとくさん!余ったお料理はどうするのぉ?」

 夕立が声を張って質問した。

「そうだなぁ。食べられそうなものは食べきってもらって、あとは処分するか。」

「もったいなーい!」

「そうだよ提督もったいない!」

 夕立の声に続いたのは川内だった。鎮守府Aのメンツでよく食べる2人の言い分だった。

「って言われてもなぁ。」と渋る提督。

「ねぇねぇ!パックない?あたし持ち帰りたーい!」

「夕立ちゃん、それいいねぇ!!」

「エヘヘ~でしょ?でしょ?」

 こと食事周りの事に関すると、同じノリでどうやら波長が合うと直感した二人。パックに入れて持ち帰りたいと言い出す二人に突っ込んだのは、夕立に対しては時雨、川内に対しては神通だった。

「ゆうったら食い意地が張ってるんだから控えてよね。」

「私も……時雨さんに同意です。」

「さっちゃんさぁ、そんなこと言ったって、食いきれないから捨てちゃうなんてもったいないじゃん。これ生活の知恵だっての。」

 川内の言い分にも一理あるのですぐさま意見を引っ込めて俯いて神通は大人しくなってしまった。

「そーだそーだ!川内さんの言うとおりっぽいー!」

「はぁ……ゆうったら。わかったよ。」

  夕立はノってガッツポーズをすると、時雨もしぶしぶ折れることとなった。

「それでしたら家からちょっと包むもの持ってきますね。」

「えーと。大鳥さんが戻ってくるまでは片付けられるものだけ片付けておこうか。」

「はい!」

 大鳥夫人はすぐに気を利かせて必要な物を取りに自宅に戻っていった。提督の一言に全員返事をし、片付けを始めた。

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 片付けを始めてから十数分して大鳥夫人がラップやプラスチックのパックを持って戻ってきた。片付け自体は椅子や長机を並び替える程度で済んだので全員早々に作業が落ち着いていた。

 夫人が持ってきたラップやパックは持ち帰りたいと率先して言っていた川内と夕立、そしてさりげなく希望してきた那珂や五月雨・村雨らが受けとリ、お菓子や余った料理を入れていった。

 持ち帰りきれない余ったものは男子の三戸と提督になぜか促されて集中し、二人は困り笑いをしながらも食べることで処分とした。

 片付けが終わり、懇親会の会場は普通の会議室にその姿と役割を戻した。この後は各自自由解散となる。妙高と大鳥夫人は提督とその場にいた全員に会釈をして自宅へと帰っていった。五月雨たちは大鳥夫人の娘、高子を連れて待機室に戻って行った。その場には那珂たち高校生組と教師の阿賀奈、唯一の中学生不知火、明石たち工廠の技師組、そして提督が残った。

「それじゃあここ鍵締めるけど、那珂たちは本当に艤装装備するのか?」

「うん。そのつもりだよ。ねぇ?」

 那珂は隣にいた川内と後ろにいる神通に目配せをして同意を求めた。二人はコクリと頷く。

 提督は苦々しい顔を保ったまま、明石たちに向かってお願いをした。

「明石さん、四ツ原先生、すみませんが那珂たちの監視役お願いできますか?」

「えぇ。いいですよ。どうせ私は改修中の武装のメンテもまだ残ってますし。」

「はい!任せて下さいー!」

 一同は提督の合図で廊下に出る。全員が出て会議室が空っぽになると提督は鍵を閉めた。 そして明石たち技師3人と教師の阿賀奈に任せるよう願い入れて執務室へと向かおうとする提督。その様子に反発したのは川内だった。

「え~!提督見てくれないの?」

「いや、俺やることあるからさ。だから明石さんたちに任せたんだよ。」

「でも~、新しい艦娘のかっこいい姿を見てくれたっていいじゃん。」

 川内が提督に食ってかかると、提督は怪しい口調で反論した。

「訓練のときに君たちのあんな姿やこんな恥ずかしい姿いくらでも見られるから、楽しみはあとに取っておくよ。三戸君もどうせ二人のフル装備の姿見るなら、そっちのほうがいいだろ?」

 同じ男として同意を三戸に求める提督。

「えっ!? 今俺にフるっすかぁ~!?」

 全員の視線が三戸に集まり、三戸は冷や汗を垂らす。すべては三戸の答えに委ねられた。そして三戸が出した返事は次のものだった。

「お、俺も……内田さんと神先さんのかっこいい姿とかエロい姿両方とも見たいかなぁ~なんて……ハハハ。うっ!?」

 言い終わるが早いか、三戸は周囲の女性陣、特に中高生組の軽蔑的な視線を浴びまくる。一方で大人の女性陣の同様の視線を浴びたのは提督だった。

「まーったく、男ってみんなこうなのかなぁ……?」と那珂はジト目を提督と三戸を交互に向けながら言い放つ。

「…提督のそういうところ、あまり好かないわ……。」小声で五十鈴が照れながらボソッと呟く。

「三戸くんもあたしのことそういうふうに見てたんだ……はぁ。」川内はジト目をしながら大きくため息をつく。

「さっちゃんをそんな目で見ないでくださいね、二人とも。」

 和子は神通を三戸と提督の視線からかばうように立ちふさがった。当の神通は顔をやや赤らめて和子の後ろで俯いていた。

「提督さんったら……、うちの生徒を変なことしたらめっ!ですよ~。」

 阿賀奈は失笑しながら、教師風を吹かせてオーバーリアクション気味に提督を注意する仕草をした。

「提督、もし対象が五月雨ちゃんたち中学生だったらアウトですからねぇ~?」

 明石は提督の側に行き肘打ちしながら茶化して言い放つ。明石の同僚らも提督を茶化す。

「アハハ。西脇さんったら。清い高校生を変な道に誘い入れないでくださいね~?」

 提督と三戸は一様の反応を示す女性陣のため気まずい空気に押しつぶされそうになっていたが、どうにか踏ん張って耐えた。

 そして那珂が流れを締める言葉を発する。

「まぁいいんじゃない?提督には後でた~っぷり見ていただくとして、今回はあたしたちだけで行こ!」

「ま、那珂さんに免じて許してあげるわ。三戸くん、ちゃんと写真撮ってよね?変なポーズなしだよ?」

「わかってるって!させないさせない!」

 頭をブンブンと振って否定する三戸。

 気を取り直して提督は明石と阿賀奈に再三のお願いを口にした。

「じゃあ俺はホントに行くから、明石さん、四ツ原先生、後はよろしくお願いします。」

「「わかりました。」」

 明石たちの返事を確認したあと、提督は途中の階段まで那珂たちとともに歩き、そして階段を登って執務室へと向かっていった。一方の那珂たちは、全員揃って工廠へ行くことにした。

 直接関係ない五十鈴と不知火も一緒だ。五十鈴は那珂と三千花に、不知火は神通に従う形でついて行った。

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 16時すぎ、夕方にさしかかっているとはいえ日差しは強く照りつけ、コンクリートの地面づくしの工廠付近は反射熱で熱が逃げないため、立ち止まっているのはやや危険な暑さであった。そのため一行は明石の案内のもと、工廠の中、空調が効いている一角に集まってそこで待機することにした。

 しばらくして明石が台車で那珂・川内・神通の艤装を運んで持ってきた。

「あれ?3人分ある。あたしのも?」

「そうですよ。だってどうせなら川内型3人揃って装備して撮ってもらったほうがいいでしょ?」

 明石の配慮で川内と神通だけでなく、那珂も艤装をすべて装備することになった。

「せっかくなので五十鈴ちゃんと不知火ちゃんのも出してきましょうか?」

「いいえ。遠慮しておきます。だって、せっかく揃った3人の邪魔をしたくありませんし。」

「私も遠慮しておきます。」

 明石の追加の提案で五十鈴と不知火の艤装も用意されようとしたが、二人はそれを断った。五十鈴はプライベートでは完全に部外者・別の学校の人間であるため、、那珂(実際は川内の思いつきでだが)が望んだ3人揃っての記念撮影、それを邪魔する無粋なことはしたくなかった。不知火も神通たちの晴れ姿を邪魔したくないという思いは一緒だった。

「それじゃあ、3人とも艤装つけちゃいましょう。」

 明石の合図と案内でもって那珂たち三人は工廠の一角で、五十鈴たちや三千花たちが見ている前で艤装を装備し始めた。

 三千花たち高校の生徒会組は那珂が一から艤装を装備するところを見るのはこれで二回目だ。川内と神通が一から装備するのを見るのは全員初めてである。一度フル装備しているとはいえ、那珂と違い二人は明らかに装備の手順を手間取っている。

「那珂さ~ん、これはどこにつければいいんでしたっけ?」

 川内はやや泣き声で那珂にすがる。一方の神通は黙々と艤装を手に取り撫で回している。彼女は艤装の仕組みを身に付けながら調べているのだ。

「これはね~ここの留め具を一旦外してからこうやってつけるんだよ~。ん?神通ちゃんはだいじょぶ?」

「……はい。なんとなくわかりました。」

「おぉ!?さっちゃんよくわかったねぇ!あたしこういうの苦手だわ。プラモとかだったら得意なんだけどなぁ~」

「……内田さん、落ち着いて。ちゃんと手に取ってこうやって……見ればわかるから。」

 那珂から装備の仕方の手ほどきを受けた川内と神通はあーだこーだと言いながらお互い話し合って艤装を装備を終えた。神通は、川内とはかなり普通に話せるようになっていた。

 数分後、先に装備が終わっていた那珂のあとようやく神通、その次に川内の装備が完了した。今までは制服だけで同じ姿であったが、ここにいるのはフル装備した3人。

 ほぼ同じ姿になった3人を見て、その場にいた誰もが歓声をあげた。それは、今までは那珂だけしか見られなかった、軽巡洋艦の艦娘の中でもっとも軽装なタイプの艦娘であった姿、それが三人キレイに揃っているという不思議な感覚から来るものだった。

「あ…アハハ。二回目だけどなんか感動!同調しないと重いなぁ。三戸くん!早く早く写真撮って!!」

「はいはい。そんな慌てなくても。まずは会長と神先さんと一緒に撮ろうよ。」

「そっか。せっかくの川内型の記念だもんね。」

「そうそう。」

 早る川内の催促をなだめる三戸。3人揃っての撮影がまず最初というのは、那珂や神通、それから三千花たちの意識としても一致していた。

 同調してはダメという提督の言いつけを律儀に守ると、軽巡洋艦艦娘の中では軽装とはいえ、女子高生が身につけるものとしては十分に重量がある川内型の艤装。体力がある那珂や川内はまだましなレベルで動けるが、おとなしくて運動らしい運動が習慣になかった神通は、初めて自分で装備した(装備自体は二度目だが)艤装の驚きの重量に動けず、その場で目を白黒させている。

 その様子を見た那珂はさすがに彼女にはつらいと感じ、監視役の明石に提案する。

「ねぇ明石さん。あたしはまだいいけど、神通ちゃんは相当辛いみたい。一瞬だけ。一瞬だけ同調させてもいい?」

 明石も神通の様子が気になっていたので提督に内緒で同調させるべきかどうか迷っていた。が、那珂からの懇願を受けて押し返しきれずに決断した。

「うーん。提督には内緒ですよ。あの人ああ見えて怒るとめちゃくちゃ怖いですから。特に今回は3人の身を心配して指示したことですから、守らなかったと知られたら……。」

「うん。わかった。川内ちゃんも神通ちゃんも、みっちゃんたちもこのこと内緒ね?」

 各々頷いて意識合わせした。全員から賛同を得られると、那珂は一足先に同調することにした。

「いい、二人とも。同調の仕方はもう大丈夫だよね?艤装を装備してるからっていっても、まったく変わらないよ。ただね、艤装が全体的にエンジンみたいな動作音するからビックリすると思うけど、気にせず同調し続けてね。そんじゃまあ、あたしからいきまーす!」

ドクン

 宣言したあと川内たちから1m弱離れてから、呼吸を整えた後同調した那珂。腰につけたコアユニットが精神状態を感知し、その他の艤装のパーツに同調したという人体の情報を伝達する。

 艤装がかすかに動作音をさせる。

 次の瞬間、光主那美恵は軽巡洋艦艦娘、那珂に完全に切り替わった。

「ふぅ。じゃあ二人とも、やってみて。」

「「は、はい。」」

 顔を見合わせる川内と神通。なんとなしにアハハと笑いを漏らす。とりあえず二人は那珂のしたとおりにすることにした。

 川内は神通から1m弱距離を置く。そこは那珂や明石、三千花たちからも十分離れた場所だ。川内が移動したことで、神通も他のメンツからは十分離れた距離になった。

「それじゃあ、内田流留、行きます!」

 宣言通り先に同調をし始める川内。

 呼吸を落ち着ける。その後川内は同調し始めると、那珂と同じく腰につけたコアユニットがその同調したという情報を感知させる。コアユニットがそれをその他の部位の艤装に伝達し、装着者の精神状態と各部位の艤装がシンクロし始めた。

 次の瞬間、内田流留は完全に軽巡洋艦艦娘、川内に切り替わった。

 それは、光主那美恵がなった川内、中村三千花がなりかけた川内とも異なる、これからの鎮守府Aを担う、本当の艦娘川内だった。

「……ふぅ。あー、動きたい動きたい動きたいー。」

「川内ちゃん。同調したら地上ではむやみに動かないで。ホントに普通の人の数倍以上にパワーアップしてるんだからね!」

 那珂のかなり真面目な質の声が響く。川内は腕を動かしたり足を蹴り出そうとしていたが、その声に驚き、寸前で止まる。

 多分この生徒会長も怒らせるとかなり怖いのではとなんとなく察した。

「はーい。じゃああたしの同調は終わりました。次はさっちゃんね。頑張ってよ!」

「はい……。」

 神通は弱々しく返事をした。

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 那珂と川内の同調する様子をマジマジと捉える神通。見た目は変わらないが、はっきり感じ取れた。今自分の側にいる那珂と川内は、一般的な人間とは呼べない存在になった。人ならざる者と言ってしまっても過言ではないかもしれないと神通はうつむきながら、心の中で思う。

 昔艦娘になったという近所の女性も、こうして変身したのかと思うと、途端に怖さが湧き上がる。外見は変化がないのに、中身がまったくの別物になるということ。

 自分を変えたいと願って志願し、そして艦娘部として加わり正式に着任した。それはもしかしたら、考えの甘い迂闊な行為だったのかもと思考がネガティブな方向に及ぶ。

 神通の精神状態は不安定だったが、彼女は頭を軽く振り、思考を切り替えたつもりで同調し始めた。

ドクン

 神通の精神状態がコアユニットに伝わる。コアユニットがその精神状態を感知して各部位に伝達し始めた。前回と同じ感覚が一瞬全身を支配する。コアユニットからその他の艤装のパーツに、幸としての精神状態と意識、その状態を媒介として、軍艦神通のありとあらゆる情報が流れ込んで馴染んでいく。

 先ほどの那珂の説明通り、各部位の艤装からかすかに響く動作音が神通の耳に入ってくる。自分で一から装備した艤装と同調できている。先程までの妙な恐怖やネガティブな思考が消えた。そう感じた。

 次の瞬間、先の二人と同様に神先幸は、軽巡洋艦艦娘神通に完全に切り替わった。

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 これで、同調した完全な川内型艦娘が一同の前に揃った。最後に同調した神通は先二人のような一息をつくことなく、黙ったまま立っている。

「神通ちゃんには特別にかるーく腕や足を動かすのを許したげる。やってみて。」

 那珂の指示を聞いた神通は、本当にそうっと腕を上げてみた。前回の時はほとんど動くことなく同調を切って戻ってしまったが、今回は違う。そうっと動かしたつもりの腕振りが、ボクサーがジャブを打つかのようにシュバッと風を切る音を立てた。神通は今までの自分とは違う感覚で行動を起こしたことに驚きを隠せない。それで満足した神通は那珂に伝える。

「全部装備した艦娘って、こういう感覚なんですね……。すごい……。」

「喜んでもらえてなによりだよ。まだ動くのに慣れてないだろうから、一旦同調切って。重くてしんどくなるだろーけど、写真撮るから場所移動しよ?」

 そう言った那珂は光主那美恵だった頃となんら全く変わりなくテキパキ動いて移動し始める。一方の川内と神通は那珂の言いつけどおり同調を切っていたため艤装の本来の重さがのしかかっていた。三千花や和子・三戸からすると少々面白いくらいにスローな動きで移動しようとしている。

「プッ。フハハハ!なんだよ内田さんその動き!面白すぎだよ!」

 三戸は思わず笑いを漏らしてしまった。そんな彼に川内はキッと睨みをきかせる。本当は冗談っぽく腕をあげたかったが、そんなことをする気も失せたので表情だけで怒ってみせた。

「さっちゃん……ゴメンね。面白い……!」

 和子は両手で口を塞いでうつむいて肩をプルプルさせながら笑っていた。そんなに友人の姿を見て俯いてショック隠せないでいる。

「そういえば、私も一番最初の頃はあんなだったわ。提督に大笑いされたの思い出しちゃった。不知火はどうだったのかしら?」

 五十鈴は遠い目をして自分の訓練初日の様子を思い出していた。聞かれた不知火もコクリと頷いて思い出すように言った。

「……似たようでした。」

 すでに艦娘である二人も似たような状態であったことをポロリと打ち明ける。そのことは一番近くにいた三千花や三戸の耳に真っ先に入ってきた。

「五十鈴さんもそうだったんですか?想像したら……笑ったらいけないんでしょうけど、フフッ。ゴメンナサイ。」

「中村さんにまで笑われるなんてショックだわ……。それはそうと、私のことは本名で呼んでもらってもどっちでもかまわないわよ。」

「え? ……それじゃあ私のことも、気軽に名前で呼んでもらってもいいですよ、凛花さん。」

「了解よ。三千花さん。」

 懇親会でたくさん話して打ち解けたためか、五十鈴は三千花と軽く冗談を言える仲にまで進展していた。そのため五十鈴は自身の本名で呼ぶことを三千花に許す。それを受けて三千花も逆に自身を苗字ではなく、名前で呼ぶよう願い入れて返事とした。

 それを側で見ていた三戸はすかさず話に割って入る。

「じゃあ俺も五十鈴さんのことそう呼んd

「申し訳ないけどあなたは勘弁して頂戴。」

 言い終わるがはやいか、五十鈴から口調は丁寧だが鋭い拒否の言葉が三戸に突き刺さる。五十鈴と三戸の関係のなさからして、当たり前の反応だった。

「おーい、あたしたち準備おっけーだから、早く写真撮ってよ~。」

 那珂が三千花たちに催促の言葉を投げかける。カメラを持っていた三戸がそれに反応した。

「はーい。了解っす。そこでいいんすね?」

「三戸くん!早く早く!」

 カメラを掲げながら数歩進んで近寄る三戸が再確認すると、那珂のとなりにいた川内が両手で手招きをして三戸を急かした。三戸はそんなに急かさんでもと文句を言ったその顔はにやけていた。

「じゃあいくっすよ~。はい。一足す一は……」

「にっ!!」

 言葉を発したのは那珂と川内だけだったが、黙っていた神通も、珍しく和子以外の人でもわかるくらいのはにかんだ表情を浮かべていた。その後、那珂だけ、川内だけ、神通だけ、川内と三戸、神通と和子、仲の良い者同士で撮りあって、川内型艦娘の真の姿を青春の思い出の一つにした。

 川内と神通はこれからの艦娘生活に期待と不安を持ちながらこれからに臨む決意をした、三千花、三戸、和子の三人は大事な友人が少しだけ遠い世界に行くことに一抹の寂しさを覚えつつも門出を祝った、大切な土曜日となった。

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