見出し画像

同調率99%の少女(17) :評価

--- 6 評価

 昼食後、本館に戻ってきた那珂たちは提督と五月雨と別れ、待機室で作業をすることにした。那珂は五十鈴とともに、提督に報告するためのレポート作りに着手し始めることにした。
「とりあえず単発の訓練はこれで全部終わってるから、五十鈴ちゃんはチェック表つけといてね。」
「えぇわかったわ。それとこの後の訓練はどうするの?あとは確かに自由演習とデモ戦闘しかないけど?」
「うーん、そうだねぇ。あたしと五十鈴ちゃんでレポートまとめないといけないから、二人には自由演習ってことで自分たちで考えてやってもらおっか。」
 提案に五十鈴が同意を示してきたので、その旨を川内と神通に連絡することにした。自習させていた二人の側に行き内容を伝える。
「もう単発の訓練はないから、二人には自由に訓練をしてもらいます。五十鈴ちゃんと話して、二人の訓練は明日の土曜日で終えることにします。んで、最後に来週の月曜日にデモ戦闘やろうかなって考えてます。たから、今日残りと明日は自分たちで考えて思いっきりやりきってね。」
「「はい。」」
 朗らかに返事をする川内と神通。その後川内はふと要望を口にする。
「って言ってもあたしたち二人だけでですか?それでもいーんですけど、付き合ってくれる相手が欲しいっていうか……ワガママですかね?」
「うーん……それもそうだねぇ。でもあたしたちはレポートまとめなきゃいけないし、他に付き合える艦娘はいないね。」と那珂。
「あとで五月雨に夕立たちにまた付き合ってもらえないか確認してもらったら?都合がつけばあの子たちもOKしてくれるでしょ。」
「そーだね。今日のところは二人だけでやってもらうことにしよ。明日はもし夕立ちゃんたちに来てもらえるなら彼女たち巻き込んで最後に大々的な総合訓練!みたいな感じでやろっか。」
「やったぁ!夕立ちゃんたちホントに来てくれたらいいなぁ!!」
 那珂の言葉に川内はガッツポーズをして大きく喜びを示す。神通も僅かな希望を胸に秘めて小さく頷いて、喜びを示した。

 話が固まったので早速那珂は五十鈴とともに五月雨に話をしに執務室へと足を運んだ。執務室に入ると、五月雨は提督の席に椅子を寄せて話し込んでいる最中だった。
「あ……二人とも今ちょっといい?」
「那珂か。うん。どうしたんだい?」
「えーっとまずは五月雨ちゃんに用事なのですよ。」
「私にですか?」
 そう言って那珂はキョトンとしている五月雨に視線を向けて近寄り話を切り出した。
「明日さ、また夕立ちゃんと村雨ちゃんに来てもらえるよう伝えてくれないかなぁ?また川内ちゃんたちの訓練に付き合って欲しいんだぁ。」
「それはいいんですけど、お二人の訓練もうすぐ終わりなんじゃないですか?」
「うん、そーなんだけど、自由演習ってことで二人には思う存分自由にさせたいの。それには付き合って欲しい人がいるって言うから、また夕立ちゃんたちに協力してもらえたらなぁ~って。どーかな?」
「はぁ。わかりました。訊いておきます。」
 そう返事をする五月雨。二人の流れに五十鈴が追加で提案をした。
「そうだ。不知火にも連絡しておいてもらえるかしら。あの子が来るなら神通も喜ぶでしょ。」
「不知火への連絡は俺がしておくよ。別件で話したいこともあるし。」
 五月雨の代わりに提督から承諾の返事を聞いた那珂はそのままの勢いで提督に向かって続ける。
「うん、お願いね!それからお次は提督。デモ戦闘のことなんだけどね。深海棲艦のダミーは準備してくれるのかなぁって。」
「あ、そうか。それも出しておかないとな。」
「さすがにあたしの時のようなへんちくりんな模型は……ありえないよねぇ~?」
 那珂は自身の訓練当時に使った模型の深海棲艦を思い出し、意地の悪そうな表情で提督を問い詰める。提督は片手をブンブンと軽く振ってそれを否定した。
「あの頃よりかはなぁ。もう君たちも使って知ってると思うけど、明石さんが的を改良してくれたんだ。あれを自動戦闘モードに設定すればより実戦に近いデモ戦闘ができるぞ。だから安心してくれていい。」
 提督に約束を取り付けた那珂と五十鈴は待機室に戻り、川内たちに事の仔細を伝えることにした。その内容を聞き川内たちはどうやら退屈せずに訓練を締めくくれそうだとホッと胸を撫で下ろす。

 その後那珂は午後の訓練の開始は川内の好きなタイミングに任せることにし、五十鈴と一緒にレポート作成を再開した。黙々と、時々五十鈴とこれまでの内容を口にして会話しながらレポートを作成している最中、川内と神通の様子を気にして時々チラリと二人の方に視線を向ける。長机の端で神通と一緒に教科書を読んでいる川内は、珍しくじっと座って筆記していた。それを目にした那珂は口を緩ませて笑顔になり、二人を暖かく見守ることにした。

--

 そして時間にして午後4時過ぎ、川内と神通はこれまでの訓練の時間を守るように那珂たちに一言告げて訓練を再開することにした。
「それじゃ、那珂さん。神通と一緒に午後の訓練行ってきます。」
「うん、頑張ってね。ところで何するつもりなの?」
 那珂の質問に川内は指を顎に当てて小さく唸った後答えた。
「え~っとですね、あたしは砲撃やろうかと思ってます。」
「私は……雷撃を。」
「そっかそっか。神通ちゃん、わかってると思うけど、魚雷を撃つ練習はプールでやらないでね。」
「……はい。堤防の側でやることにします。」
「神通だけ海に出すの心配だからあたしも海で訓練しますよ。一緒に同じ場所に出るなら任せてもらえますよね?」
「そーだね、そうしてもらえるといいかなぁ。」
 神通一人で海に行かすことに心配になった川内はその場で提案し、那珂を安心させた。そして川内と神通は軽く会釈をした後待機室から出て行った。

「二人とも、初めて会ったときとは違って、らしい雰囲気になったわね。」
「うん。それになんだか、あたしの知らないところで二人仲良くなってお互い支えあおうとしている感じがするよ。」
 長いようであっという間に過ぎていった2週間、那珂は初の監督役を勤め終わることに感慨深く思い始めた。自身の高校の後輩でもあり、自身の担当艦の姉妹艦である川内と神通の成長。あっという間だったなぁと溜息をつく。その仕草に五十鈴からババ臭いわよとツッコまれるが、他人の成長を喜ばしいと思うことがこれほど爽快で感慨深いことなのかと思ったのだから仕方がない。
 その様子が表す意味を感じ取ったなんとなく五十鈴は苦笑いをたたえて那珂を見ていた。

 川内と神通が自由演習として自主練をしに出て行ってすぐに、那珂は五十鈴とともにレポートの作成スピードアップさせた。二人がいなくなったため会話を挟んで進める回数が多くなる。話題は艦娘のことから始まり、次第に普段の学校生活や私生活のネタに移る。いずれも那珂が先に語りかけ、五十鈴がそれに答えるという応酬が何往復かし、二人のレポート作成の意欲の元になっていた。
 そして1時間ほど経ち、川内と神通に関するレポートはお互い確認して納得できる形となった。
「こんなものかしらね。こっちは終わったわ。どう?」
「うん。……うん、いいと思う。五十鈴ちゃんは人の能力を数値評価するの上手いんだね~。あたしも生徒会の仕事で色々やってきたけど他人の評価するのちょっと苦手だったかも。やっぱ五十鈴ちゃんに協力してもらってよかった~!」
「素直に感謝頂いておくわ。良と宮子がもし艦娘になれたら、私が監督として訓練させないといけないでしょうし、今回のことは私にとっても有益だったわ。」
「そっか……うん。そっちもうまくいけばいいね。」

 そして那珂たちは提督にレポートを提出しに執務室へと足を運んだ。執務室に那珂たちが入ると、提督と五月雨はそれぞれ自分のデスクで黙々と作業をしている最中だった。
「失礼します。提督、今大丈夫?」
 静かな空間だったため察して那珂が丁寧に声をかけると、提督はすぐに顔を挙げて声を返した。
「あぁいいよ。」
「川内ちゃんたちの訓練についてのレポートできたから、見ていただけますか?」
 業務上のことなので丁寧に言いながら那珂はホチキスで留めた数枚のルーズリーフとチェック表をスッと差し出し、提督の執務席のデスクの上に置いた。提督はそれを手に取り、もう片方の手でパラパラめくって斜め読みする。そしてすぐに顔を挙げて言った。
「確かに受け取ったよ。読んでおくから君たちはさがっていいぞ。今日は特に何もないだろうから、二人の訓練に引き続き付き合ってあげてくれ。」
「もち、そのつもりだよ~。」
「それでは、ご確認よろしくお願いします、提督。」

 那珂と五十鈴は丁寧に深々とお辞儀をして提督に再びの確認依頼の意を表し、そして執務室を後にした。

--

 執務室を出た那珂は五十鈴。那珂は待機室に戻ろうとしたが、五十鈴の一つの提案のために足を停めた。
「ねぇ。二人の様子見に行かない?」
「お~いいねぇ。ちょうどあたしもそれ言お~と思ってたんだよ。あたしたちってばやっぱ気が合うんだねぇ~~このっこのっ!」
「あ゛~わかったわかった。気持ち悪いから唇尖らせてクネクネしないでよ!」
 那珂のいつもどおりの余計な発言とアクションに五十鈴は頭を悩ませつつも丁寧に突っ込み、顔を近づけてくる那珂を本気で制止した。二人は軽口を叩きながら一緒に本館を出て、二人が自主練をしている堤防沿いに向けて歩き出す。
 本館裏手の扉から出てグラウンドを横切って進むと、工廠寄りの堤防の先から爆発音・砲撃音が耳に入ってきた。堤防に近寄ると、川内はかなり沖の方で的めがけて砲撃ではなく雷撃を、神通は堤防沿いの消波ブロックの側に的をくくりつけて砲撃を行なっている。

「お疲れさ~ん、二人とも。自主練どーかなぁ?」
 那珂の声に気づいた神通は顔の向きを的から那珂の方に向け、主砲パーツをつけていた左腕を下ろして返事をした。
「はい。今のところ順調です。」
 喋りながら神通は那珂たちの立っている堤防の向かいまで近寄った。
「神通ちゃんは雷撃やるんじゃなかったの?」
「最初は……やってました。30分ほど前から川内さんと訓練内容を交代することにしたんです。」
「そっかそっか。自分たちで考えてやってくれてるようで先輩としてはうれしーよ!」
 那珂が冗談めかしつつも本気の色を混ぜた賞賛の声を投げかけると、神通はそれを素直に受け取りわずかにうつむいて照れの様子を見せた。
「川内ちゃんは……聞こえてないのかな?お~い、川内ちゃ~~ん!」
 那珂がさきほどよりも声を張って叫ぶと、ようやく川内は顔を那珂の方に向け、雷撃の姿勢をやめて堤防に近寄ってきた。

「那珂さん、どうしたんですか?」
「レポート出し終えたから二人の様子見に来たんだよ。どーお?自分たちだけでやる訓練は?」
 那珂が尋ねると川内は額についた汗を左手で拭って虚空を一瞬見るため視線を上に動かした後、すぐに那珂たちの方へ戻して口を開いて答え始めた。
「そうですね~。今まで教わったことを自分のペースで進められるのってすっごく楽しいっすよ!あれですよね?こうやってやってる日も訓練中はお金もらえるんですよね?」
「アハハ。うん、提督が訓練十分と判断して終わりの判定くれるまではね。」
 川内の妙に現金な発言に那珂は苦笑いする。
「よっし。初日以来提督なんだかんだでいない日多かったし、お給料もらえなかったから待ち遠しいんですよねぇ。まぁお金だけが待ち遠しいわけじゃないですけど。」
「……(コクリ)。川内さんも私も、早く初めての任務を受けたいです。」
 川内が思いを語るとその語りを神通が補完した。二人の思いを聞いた那珂は嬉しさで顔を緩めつつも、自身ではどうにもできない現状を吐露した。

「うんうん、それはあたしからもお願いしておくよ。さすがに出撃や依頼任務はただの艦娘のあたしや五十鈴ちゃんじゃあ勝手に受けられないし行かせてあげることはできないからねぇ。全ては提督次第だよ。」
 那珂の言葉に全員コクリと頷いて相槌を打った。

「自主練は今後も各自しっかりとね。今日はどうする?まだ続ける?」
 那珂がそう促すと、川内と神通は顔を見合わせて小声で話した後、意思表示してきた。
「それじゃあ今日はもう終わります。いいよね神通?」
「……(コクコク)」
「じゃあ工廠の入り口で待ってるから一緒に帰ろっか。」
「「はい。」」

 その返事を聞いた那珂と五十鈴は一足先に工廠へと足を向けた。川内と神通は的を運び整理してから工廠へと戻っていった。

--

 工廠の入り口で待ち合わせた4人は本館に入り、帰り支度を整えてから執務室に行った。
「提督、あたしたちこれでもう帰るね。」
「あ、ちょっと待ってくれ。明日以降の予定を確認しておきたい。4人とも少し時間いいかな?」
 呼び止められた那珂は後ろを見て川内たちに目線で確認し、提督の問いかけに承諾した。執務室内に入った那珂たちはソファーにバッグを置き、提督のデスクの側に集まった。五月雨は那珂達の後ろに移動して立っている。

「さきほど五月雨から夕立たちに都合を確認してもらった。俺からも不知火に確認を取って、明日は皆来てくれるそうだ。」
 提督の説明に那珂と川内は喜びで黄色い声を上げる。提督はその様を見て微笑みながら続ける。
「で、明日は自由演習ということで実質最後の訓練。一日かけて集大成として仕上げてもらいたい。そして来週月曜日。その日は深海棲艦との戦闘に見立てたデモ戦闘ということで、的を最高レベルに切り替えて使って川内と神通には立ち向かってもらう。俺も観戦するから、ぜひとも二人の成長を見せてほしい。いいかな?」
「「はい!」」
 川内はもちろんのこと神通も珍しく普段の二割増しで声を出して返事をした。

「的とのデモ戦闘が終わったら、川内、神通。君たちの訓練全課程修了だ。そこで君たちは世間的にも晴れて一人前の艦娘となります。さきほど那珂と五十鈴からレポートとチェック表を受け取っていて大体の評価は把握してるから、これまでの日数分含めて訓練中の手当をまとめて渡すよ。最後まで気を抜かずに励んでくれ。」
 提督が言い終わると4人とも無言で立ち尽くす。それはただの棒立ちではなくゆっくりと提督の言葉を咀嚼してその身と心に刻みこむがゆえだ。提督からの案内を聞き、先に口を開いたのは川内だ。
「ついにあたしと神通も本当の艦娘かぁ~。うん、なんか……あたしの頭だとうまく言い表せないな。神通タッチ。」
「え!?え……と、その。まだ2日早いですけれど、喜びひとしおです。」
 表現したくてもボキャブラリーにない言葉が言えない川内は自分の代わりにと隣りにいた神通の肩をポンと叩いて交代宣言をする。とっさに話題を振られた神通はわずかに戸惑うがすぐにその思いを代弁する。
「あたしだって嬉しいよ~二人の成長っぷりを見たらさぁ。五十鈴ちゃんだってそうでしょ?」
「えぇ、協力した甲斐があったわ。」
 そんな二人の反応を見て那珂と五十鈴もまた、感無量といった面持ちをしながら言った。

 最後に、訓練とは全然関係ない五月雨も思いを打ち明ける。
「私も嬉しいです!頼れる歳の近い先輩が一気に4人になって、これからの鎮守府生活絶対楽しくなりそうです!」
「ってちょっと待ってよぉ? 艦娘としてはむしろ五月雨ちゃんのほうが一番の先輩なんだけど? むしろあたしたちを引っ張っていってよねぇ。」
「う……エヘヘ。でも学年上の皆さんですし、ちょっと気が引けちゃいます。」
 五月雨の吐露を聞いてすかさず那珂がツッコむ。そんな五月雨の言い返しに何か思うところあったのか、川内がフォローするように間に入った。
「そっかそっか。五月雨ちゃん中学生だったっけね。そんならあたし達高校生がしっかりしないと。よし。夕立ちゃんとセットで可愛い後輩のためにあたしの知識を叩き込んであげるよ。」
「うわぁ!本当ですか?何教えてもらえるんでしょ~? ……あれ、ゆうちゃんは何か関係あるんですかぁ?」
「あたしは二人にゲームや漫画やアニメを伝授してあげよう。 夕立ちゃんは結構反応よかったから。 どう?」

 川内が鼻息荒く五月雨に詰め寄って問うと、五月雨は川内の勢いに圧倒されながらも苦笑いをしてなぜか提督と川内を交互に見渡す。
「ア、アハハ……なんだか提督が二人になったみたいです。」
 真っ先に疑問を口にしたのは那珂だった。
「あ~そういえば提督も結構好きだよねぇ?ゲームとかサブカル。」
「あ、あぁ。結構どころかかなり好きだぞ。でもその手の話すると五月雨が苦い顔するし話に乗ってくれないしで寂しくてね。だから川内が入ってくれてすごく嬉しいんだぞ。」
 そう言って提督は肩をすくめる。
「そっか。話が合う程度で喜んでもらえるならあたし、しょっちゅう話し相手になってあげるよ?んで、五月雨ちゃんも好きになるように洗脳してあげるっと。」
「わ、私別にゲームとかアニメ嫌いってわけじゃないですよ~!提督がその……お話長いんですもん。」
 五月雨が数秒の溜めの後に明かした自身の苦い顔の原因は、提督の長話にあった。那珂や五十鈴は言葉通りの意味で捉えて愕然として提督を無言で睨みをきかせる。一方で川内はそんな二人とは違う反応と言葉を見せた。
「あ~~、あたしなんとなくわかるわ。あたしもたまにそういうところあるもん。五月雨ちゃんさ、あたしもそうなんだけど、提督もゲームとかアニメが好きすぎてさ、色々聞いてほしくってついつい長くしゃべっちゃうの。五月雨ちゃんも何か自分の好きなことの話になると結構ベラベラ一人でしゃべっちゃうことってない?」
「え? う~……そう言われると、そうかもです。」
「そういうことなの。だから提督を嫌わないであげてね。そういうわけだから、ぜひ五月雨ちゃんもあたしや提督や夕立ちゃんと同じくらいゲームや漫画にハマろう!」
「ア、アハハ……お手柔らかに。」
「おいおい川内。まぁでも、俺も身にしみてわかってるからあまりやり込めないようにな?」

 川内と提督、そして五月雨が急に仲良さそうに会話し始めたのを目の前にして那珂は心がいまいち晴れない気持ちを抱く。自身がさほど興味ないゆえに同等まで迫ることができない川内の得意分野。提督の得意分野。悔しいが趣味の分野では絶対的に後輩である川内に勝てない。提督との距離もきっと差をつけられてしまう。一抹の寂しさが胸を占める。
 表情に表れていないことを密かに祈りつつ、わざとらしくコホンと咳をして話の流れを強引に奪うことにした。

「コホン!川内ちゃ~ん?なんだか色々脱線してなーい?ホラ提督も!」
「すまん。」
「ヘヘッ、ゴメンなさ~い。」
「そーいう趣味のお話は訓練が全て終わったら勝手に鎮守府来て勝手にやってくださいな。目の前でそんなやりとりやられた日にゃあ、先輩のあたしとしてはど~~~しようもないよぉ。」
 身をかがめて提督と川内をわざとらしく見上げる。
「だからゴメンなさいってばぁ!」
「ウフフ。わかってるよ。ホントはね、川内ちゃんも神通ちゃんも鎮守府での生活にだんだん慣れてきたようであたし嬉しいんだ。だから趣味でもなんでも仲良くなれるきっかけが掴めたんなら……ね?艦娘の中で新しい交友関係ガンガン作っていっちゃってよ。」
「那珂さん……色々ありがとうございます。きっとたまに甘えちゃうかもしれないけど、これからもよろしくお願いします。」
「あ、わた……私も、もっと那珂さんのお眼鏡にかなうよう励みます。皆さんの……お役に立てるようにも!」
「二人ともそんな気張らないで、気楽に行きましょって。まずは、目の前の訓練をキッチリ終わらせることからだよ。」
「「はい。」」

 後輩二人の威勢のよい返事を確認した那珂は大きく頷き、満足げに笑顔になる。
「それじゃー提督、お返ししまーす。」
「あ、あぁ。わかったわかった。え~、それでは明日も気合入れて最後の訓練頑張ってくれ。那珂と五十鈴、そして五月雨も二人にぜひとも最後まで付き合ってあげるように。」
「「「「「はい!」」」」」

 那珂たちその場の艦娘はそれぞれの出しうる最大限の声量といきいきとした表情でもって提督の音頭にその意志を表し返した。
 そして川内と神通は実質最後の訓練日に向けて、那珂は二人の訓練の総まとめを演出すべく明日に臨む。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?