同調率99%の少女(14) :幕間:夕暮れ時の艦娘たち
--- 6 幕間:夕暮れ時の艦娘たち
午後5時過ぎ、執務室で思い思いにくつろぐ4人。那珂は五十鈴にここまでの訓練の状況について話し合っていた。
「五十鈴ちゃん、チェック表はどう?」
「えぇ。ここまではこんな感じで付けてみたわ。あとこっちは私なりの二人についてのメモ。」
「ん。ちょっと見てみるね。」
那珂は五十鈴がつけたチェック表とメモを真面目に見始めた。五十鈴はその様子をじっと眺めている。数分して顔を上げた那珂は五十鈴に言った。
「うんうん。わかりやすくていいと思うよ。こうして改めて見ると、やっぱ川内ちゃんのほうが成長は早いね。」
「えぇ。けど神通も3~4日でここまでできたなら普通の出来だと思うし、決して劣るわけではないと思うわ。動きや調整は細かいし、私はあの慎重さを評価したい。」
「あたしもそー思ってるよ。だからこそ、来週からの艤装の武器まわりの訓練は二人のペースと性格に合った流れでやらせてあげたいの。」
「初めの頃言ってたことよね?」
那珂は一旦お茶を飲み、呼吸と思考を整えてから口を開いて説明し始めた。
「うん。ここまでの訓練のやりかたを踏まえて、ちょっとやり方を整理してみるよ。あたしも実際に指導したの初めてだったから、想定通りにいかなかったこともいくつかあったよ。」
「そうなの?なんだか問題なく普通にやってこられた気がするけど。」
「まぁ~ね……。次からは一旦同じ手順で学ばせて、反応見てからその後やらせることをその時に決めていこうと思うの。二人別々のことさせるとなるとあたし一人じゃ見切れないから、また五十鈴ちゃんに頼っちゃうけど、いい?」
那珂の方針を聞いて五十鈴は頷いて返事をした。
「構わないわよ。私も後輩育成って意味では勉強になるし。」
「でも学校の宿題は?こっちに気を取られて五十鈴ちゃんの思うようにできなかったらちょっと申し訳ないなーって、余計な心配しちゃうの。」
「あんたに巻き込まれて何日か経つんだし、今更そんな心配しないでよね。あんたらしくないわよ。」
「おおぅ? 五十鈴ちゃん最後までイッちゃう?」
「……なんかその言い方になんか引っかかるものがあるわね……。」
「気にしない気にしない~。付き合ってもらえるんならあたしはもー遠慮しないで五十鈴ちゃんに頼っちゃうよ~。」
五十鈴は手のひらをヒラヒラさせて言葉なく那珂のお願いを承諾したという意を示した。那珂はそのようにややぶっきらぼうに振る舞う五十鈴に肩から抱きつき、一方的にイチャついて彼女の引き続きの協力を喜んだ。
川内と神通は、来週から行うというカリキュラムに関する本を予習のため読むよう実質的には指示となる提案を那珂から受けた。そのため執務室の本棚から本を取り出し、どちらが読むかコピーするかという話し合いになっていた。
「うーーん。あたしは実物見て弄りたいからなぁ~。これ神通が持ち帰ってよ。あたしの代わりに読んどいて。それで月曜にあたしがわからないとこ教えてくれればいいや。」
「……わかりました。」
神通の態度は薄い反応だったが、心の中では訓練に関する本が読めるという喜びで湧いていた。神通は本を自分のバッグに仕舞い、那珂たちの話が終わるまでソファーで座っていることにした。川内も一旦一緒にソファーに向かったが、座っているのは退屈だとしてふらりと部屋の中を物色し始める。
やがて那珂たちの打合せが終わり、那珂は待っていた川内達に声をかけて終わったことを知らせた。立ったままだった川内は物色していた棚からサッと離れ、神通はのそっと立ち上がって那珂へと近寄っていった。
そして4人は本館の戸締まりをして鎮守府を後にした。
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帰り道、鎮守府から北北東に行ったところにあるスーパーの前を通ると、ちょうど買い物帰りの妙高こと黒崎妙子と、主婦友である大鳥夫人、そして大鳥夫人の末の娘の高子と出会った。今週ずっと川内と神通の訓練をしていたことを那美恵が話すと、妙子は流留と幸に向かって励ましの言葉を優しく穏やかな口調で与えた。大鳥夫人も同じように励ましと労いの言葉をかける。娘の高子はその訓練の様子が気になったのか、流留たちに問いかけてきた。
「あの……先輩方。艦娘の訓練、大変ですか?」
先日、懇親会の時に姿を見たが直接接触したわけではないので幸は完全に会話できない状態になっていたが、初対面の人でも気にしない流留は高子の質問に軽快に答えた。
「さっちゃんはちょっと大変そうだったけど、あたしはそんなでもなかったなぁ。運動できる人なら結構楽しく訓練できるよ。高子ちゃんだっけ? 艦娘になりたいの?」
「ええと、あのー。少し興味あります。この前さつk……五月雨ちゃんたちに話を聞いてから、一緒にやれたら楽しいのかな~って。」
那美恵は懇親会の時、提督と一緒に一時だけ五月雨たちや高子と話をしていたので、彼女が艦娘に興味示しそうだという想像をなんとなくできていた。
「高子ちゃん、もし艦娘になりたいなら五月雨ちゃんともっと仲良くしておくといいよぉ~。あの子なんたってうちの鎮守府の秘書艦様だからね~。いろいろ知ってるよ~」
「アハハ。はい!」
そして那美恵たちは高子たちと別れの挨拶をし、駅へと向かっていった。
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駅で電車を待っている間、那美恵の携帯電話にメッセンジャーの通知が入った。
「ん?誰だろー。」
携帯電話の画面を点灯させてみると、そこには五月雨こと早川皐からのメッセージが表示されていた。
「那珂さん。こんばんはー。夏休み楽しんでますか?私はですねー、今週家族旅行に行っててですね、ついさっき帰ってきたんですよ!鎮守府のみんなにもお土産買ってあるので、楽しみにしててくださいね。ヾ(*´∀`*)ノ 明日行きまーす。」
「おぉ!?五月雨ちゃん帰ってキターーー!」
土曜日の夕方、それなりに人がいる駅の構内で割りと大きめの声を出してガッツポーズをする那美恵。そのアクションに驚いた凛花や流留は何事かと尋ねる。
「うんうん。五月雨ちゃんさ、今週は家族旅行に行ってたらしくてね、ついさっき帰ってきたんだって。」
「へ~。そういや夕立ちゃんたちがそんなようなこと言ってたっけ。あれホントだったんだ。」
曖昧な記憶を確かめるように言う流留。それに那美恵はかいつまんで文面を口にした。
「うん。明日来るって言ってる。」
「来るって……明日はあたし達誰も行かないですよね?大丈夫ですかね?」
流留が心配を口にした。
「あ、そっか。伝えておかなくちゃ。」
那美恵の言葉のあと、一瞬凛花が手を上げかけたがすぐに収めた。その様子を幸は見ていたが気に留めないでいた。
「おこんばんは!お帰り~。今週は川内ちゃんと神通ちゃんの訓練で毎日出勤でしたよぉ~。実質あたしが提督兼秘書艦!早く皐ちゃんの顔みたいよー(ToT) でも明日は誰も行かないと思うから、月曜日会おうね~」
皐からの返事はすぐに届いた。
「わかりました!それじゃあ月曜日はゆうちゃんやますみちゃんにも来るよう伝えておきますね。みんなで鎮守府で会いましょ~」
夏休み突入の1週間後、ようやく鎮守府Aに艦娘が戻り始めようとしていた。
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