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雷を待ちながら

群馬の夏は、切り離す事が出来ないくらい夕立の降る日が多かった。

ここ群馬の中央部では「小幡の三束雨」という言葉がある。
小幡は高崎市の南西に位置し、御荷鉾連山の麓で関東平野の際にある山あいの場所。
そこから沸きだす雲は、藁束を三束ほど纏めている間に入道雲となり、猛烈な雷雨を降らせると言うのだ。

もうすぐ高校野球群馬地区予選が始まる。
あの灼熱のグラウンドで行われる大会は、しばしば夕立で休止になった。
地元のTVは延々と雨のグラウンドを写し出し、BGMを流し続けていた。

雨はそう長く続くことは無い。
夏の熱波は土へと流されて、日が傾いた空には、さっきまで雨を降らせていた雲が、まるで大きな影のようになり遠ざかっていった。
…さあ!まだ七回の裏だ!…逆転のエールを送ろう!。

夕立が暑さを断ち切って、夜の帳を下ろしてくれる。
だからこそ日中でも動ける、頑張れる。
TVの画面は巨人戦へと変わり、親父は卓に片肘をつきながら、それを見ている。

…まだ遠くで雷鳴が鳴っているのが聞こえる。
夜中の雷は、昼間のそれよりも怖い。
大きく唸るような落雷が、辺りを一瞬明るくする。
部屋の中を白黒の世界にして、夜の雷は続く。

あの夏が愛しくてたまらない。
出来ることなら一度で良い。
あの夏にもう一度会いたい。


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