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さだまさし「極光」

「極光」とは「オーロラ」の事。
…さださんの作品は、実話を元にしているものが多い。
この「極光」も、取材中に不慮の事故で亡くなられてしまった、ある写真家の実話を基にして作られている。

さださんは特殊なソングライターだと思う。
この「極光」でも良く現れているが、歌詞が実に小説風なのだ。

写真家の妻が回想する形で、文章が展開されていく。
通常であれば、プロポーズの場面を描くならシンプルに「プロポーズして」だけで済むはずを、アメリカ行きや写真家への転身まで含み記述してしまう。
これは初期の頃(グレープの解散とソロ活動)の作品「雨やどり」や「関白宣言」でも同じ傾向が見られる。

サービス精神ゆえ、というのもあるだろう。
しかし私は、さだ作品の「新たな地平」を日本の音楽界に提示したものと思うのだ。

元々がクラシック畑を一直線に歩んできた人だが、ソリストの夢が壊れ、迷走していく中で、フォークミュージックの洗礼を受ける。
そして文学にも親しんできた青年が見つけた世界は、手を伸ばせば届くような人々の暮らしを讃えつつ、厚いクラシックの基礎をもとにした曲に載せて作られた「人間讃歌」だった。

「極光」は、ある写真家と、その妻との出会いと青春の日々を紡いだ詩を、美しく清らかな曲を染め上げて作られた「聞く小説」なのだ。
未だ見たことは無いが、実際に見るオーロラも、夜空に流れる美しい織物のようなものなのだろうか。


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