新型コロナがインフルになる条件

関東を中心に多くの惨禍をもたらした第5波が終わろうとしている。行政ではワクチンパスポートや緊急事態宣言解除、治療薬の議論が進んでいるが、焦点がほとんど当たっていないものの、極めて本質的でよく考えないといけない論点が一つある。

それは隔離の必要性の有無だ。

現在新型コロナに罹患すると感染症法に基づき、入院・宿泊療養・自宅療養などで社会と隔離を行う決まりになっている。また保健所に濃厚接触者に認定されると、法的強制力はないものの、14日間の自宅待機を要請されている。現行では新型コロナは適切な治療薬が使える条件から外れてしまうと、ワクチン非接種者にとっては若年者も重症化しうる危険な感染症であって、「隔離する必要がある」という行政の方針は妥当だ。

一方でこの隔離政策のために、感染者数が増加すると(重症度や重症者数とは関係なしに)社会的に様々な悪影響が出てくることが第4波、第5波で実証された。具体的には学校や保育園の突然の休校や休園、家庭内で感染者が五月雨式に出ることによる長期の休業や欠席、医療従事者の自宅待機に伴う医療提供体制の逼迫、残されたペットや検査陰性の要介護者を誰が面倒をみるのかという問題、クラスター発生に伴うゴミ収集や郵便業務の停止、非正規労働者の収入問題などだ。多くの庶民にとって、風邪で2,3日寝込むぐらいなら周囲のフォローでなんとか対応できても、何日も休業や欠席すれば仕事や学業の計画に大きな影響が出るし、なによりも「明日が予測できない」状態といつも隣合わせでは、安心して社会生活を送ることができない。

以前より重症化リスクがかなり低くなっても、感染者数が増えて感染者と接触する確率が増えれば、医学的影響よりも社会的影響を避けるために、多くの人はリスクのある場所を避けようとするだろう。濃厚接触者も含めた隔離措置による余波は、新型コロナ感染症そのもの以上に社会に大きなインパクトを与えていると考えられる。

新型コロナが季節性インフルエンザに相当する感染症となるためには、治療薬の開発よりも、医療提供体制の拡充よりも、『隔離措置が緩和(撤廃)される』ということが何よりも重要だということをあまりに多くの人が見落としている。


では一体どのような状態になれば隔離措置が撤廃できるのだろうか。それは高いワクチン接種率である。ワクチン接種者にとってすでに新型コロナはインフルエンザ並みに重症化リスクの低い疾患となりつつある。感染してもICUに入室したり、死なないのであれば、職場内で罹患しても良いと思う人は多い。実際の所、コロナ前までは多少風邪っぽい症状が出ていても「お前休めよ~」と言いながらも実質的に出勤を許容していたではないか。「職場で風邪はやってるねん。次は私の番かも」とかいいながら、普通に毎日職場に出勤していた日々は、今や懐かしい思い出である。

私自身の感覚では接種率が8割、つまり5人に1人が接種していない状態では、やはり「知らぬ間にうつしてしまって重症化したら申し訳ない」という気持ちになってしまう。しかし、接種率が9割を超えてくると(重篤なアレルギーが実際に1回目で出たなどの人を除いて)「もはや打たない人は自己責任」という感覚になってくる。また1割が未接種者ならば、未接種者を逆に別空間に隔離してもいいのではないかと思えてくる。

このような状態になれば隔離措置は緩和・撤廃する方向で一気に動いていくだろう。病院でも他の発熱患者と同様にコロナ患者を同一空間で診ていくことができる。病床もコロナ患者専用のものを設けずに、むしろワクチン非接種者を別病棟に隔離し、他疾患患者とはカーテン隔離のみとして病床を効率よく運用していくことができ、医療逼迫も起こらないはずだ。莫大なインセンティブを投下したり、憲法違反スレスレの強制動員法を作らなくても医療は正常に機能する。

以上のような理由から、私はワクチン非接種者を職場出勤させない・公共交通機関に乗車できないなど、一定の範囲内で差別をしてでも、ワクチン接種率を9割を超えるまで上げていかねばならないと考えている。今後は感染症法に基づく隔離や濃厚接触者の扱いをどういう条件が達成されれば緩和していくのか、そういう議論が求められている。






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