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インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』

こんにちは。
インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』のプレス内覧会に行ってまいりました。

真鍮の目地が好きなのよね。(記事「東京駅前の「驚異の部屋」を見に行こう!インターメディアテク(東京大学総合研究博物館+日本郵便)② / 後編」)

東京大学総合研究博物館と、ヴァン クリーフ&アーペルが支援する宝飾芸術の教育研究機関「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」とが共同で主催する本展示。
一級の自然誌標本と研究資料に囲まれた空間で観るジュエリー。知と美の絡まりに圧倒されます。

それでは!黒いカーテンを抜けると、

夜の鳥


飛び込んできたのが「夜の鳥」。

キャビネットの夜の森にひっそりと佇む鳥たち。

フクロウ類は色覚を妥協してまで夜間視力を発達させ、それでも不足なら聴覚だけでも獲物に定位でき、自らは音を立てないよう、特殊な羽毛まで進化させている。

インターメディアテク 

キャビネットの前に展示されていたのは、目を強調し、その他の表情を極端に削ぎ落とした、イエローゴールドとスモーキークォーツでつくられたフクロウのペンダント。

渡りの時だけ、夜を待って飛ぶ鳥も少なくない。風を待つため、そして昼行性の猛禽に襲われないためだ。

インターメディアテク

朝の鳥

薄暗い「夜の鳥」のセクションを抜けると朝でした。

ニワトリは朝を告げ、闇と魔を払う神の鳥だった。明るくなると、鳥はその美しい姿と行動を我々に見せる。

インターメディアテク 
オナガドリは尾羽が生え変わらず伸び続けるという突然変異を固定したもの。

軽くてふんわりした動物のエッセンスをいかにして、硬い素材のミニチュアに刻み込むのか。人間社会にとってもっとも貴い素材を一つのジュエリーに納め、完璧なフォルムを形成する超絶技巧を支えるのは、鳥の造形と動きの緻密な観察である。

インターメディアテク
河辺華挙『鳥類写生図』

「観察」といえば若冲ですなー。視界に入った全てにおいて突き抜ける観察眼が人の域を超えているところに神気を感じる。若冲を観て思うこと。
(記事「『ひと月限りの、この世の楽園』若冲展〜若冲に酔う②」)

キジ科鳥類のオスはメスを魅了するために様々な飾り羽と模様を発達させた。

1855年のパリ万国博覧会で名声を上げた、ギュスターヴ・ボーグランの孔雀のブローチ。
シャルル・メレリオ、孔雀のブローチ
パラワコンクジャクの美しい目玉模様

昼の鳥

日中活動する鳥の羽色も形も、様々である。想像を絶する鳥の姿を現実としてデザインした宝飾品。

インターメディアテクでの宝飾品の展示、と聞いた時ドキドキしたのが「どんな編集で魅せてくれるのか」でした。東大の膨大な知の蓄積と、鳥という実物を工芸品に落とし込んだジュエリーとがどう絡んでくるのか。

動線の作り方が相変わらず素晴らしい。

見た途端、声にならない声をあげました。
剥製標本スケッチが鳥の実物と様々な表現を発信し、それがジュエリーの世界においてどのような工芸的表現に転換されたか、が一瞬で入ってきました。

ディスプレイを見ただけで、視覚だけで「展示で伝えたいこと」がスルリと入ってくるって凄い。

ハチドリやツバメをモチーフとした宝飾品。素材や技法の数々を持ってその表現に挑戦した作品たちが並びます。

首を傾げたハチドリも
卵の殻まで表現されてたひよこちゃんも愛らしかった

巣の造形も美しかった。

メジロの巣

ファンタジーの鳥

大航海時代に「未知の地」から西洋に届いた鳥は、その多様性を西洋人に知らせるとともに、異国趣味「エキゾチシズム」を後押しした。

彫刻そして航空工学から造形的なヒントを得つつ技法の実験を重ねて製作されたのが、ピエール・ステルレ(1905ー1978年)のジュエリー。

金の編み込みで表現された見事な羽。

色彩豊かな大きな石を胴体に見立て、ゴールドやダイヤモンドなどで羽や尾を表現しています。

19世紀後半の美しいドードーのブローチは作者未詳。

野鳥研究家の松田道生氏が、オーストラリア、ケアンズで録音した鳥の歌が流れていました。
森林では生い茂る葉に遮られにくい周波数帯にマッチした波長の長い声が多く、オープンな環境では、風の音に紛れないよう、複数の周波数を重ねた声が有利となるそう。

鳥の声で空間が広がっていくね

仮剥製を標本瓶に封入した特殊な形式のオオフウチョウの標本。

天上の鳥

この展示のタイトル「極楽鳥」とはフウチョウの別名で、英名の Bird-of-paradise の訳である。

19世紀になって、初めて生きたフウチョウの姿を見た西洋人はアルフレッド・ラッセル・ウォレスだったが、彼はその美しさに感動するとともに、文明人がこの鳥を発見したらどうなるかと危惧している。残念ながら、ウォレスの予見した通り、「極楽」鳥自身が経験したのは極楽などではなかった。羽飾りのついた帽子が廃れるまで続いた、乱獲という地獄であった。
人がパラダイスに到達した時、鳥にとっての地獄が口を開けたのは皮肉という他ない。

インターメディアテク
 
天国と地獄。美しさはそのままに。目の愉悦だけに。
色々と考えさせられた「極楽」鳥でした。

隅々まで美意識が浸透しているインターメディアテクですが、いつも思うのが影の美しさ。照明の当て方が秀逸。

鳥類剥製標本は東京大学総合研究博物館所蔵のものと、山階鳥類研究所所蔵のもの、合計45点展示されています。

山階鳥類研究所は日本唯一の鳥類専門の研究所で、インターメディアテクでは、標本の劣化を防ぐため、所蔵展示室に納めたままの展示を行ってきました。今回、その一部が展示フロアで間近で見られる機会を得たことで、本物の鳥と、宝飾品との競演が実現したといいます。

11種のハチドリが収められた図鑑のようなジオラマは、四方全てから見られることを想定したデザインで、本物の巣と、抱卵中の鳥もいる。(山階鳥類研究所所蔵 東京大学総合研究博物館寄託)

そして通奏低音のようにこの競演を支えるのが、鳥を博物学的に捉えたデッサンのコレクションである。

インターメディアテク
梅園毛利元寿『梅園禽譜』写本より「オオフウチョウ」

ああそうそう、レコールで思い出したのがハルミさんの展示(記事「『VESTIGIA NATURAE』by HARUMI KLOSSOWSKA DE ROLA / ハルミ・クロフソフスカ・ド・ローラの驚異の部屋」)。

この機会に知と美の絡まりを観に是非!

インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』
会 期: 2023年1月20日(金)- 5月7日(日)
時 間: 11:00−18:00(金・土曜日は20:00まで開館)*時間は変更する場合があります
休館日: 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)、2月20日―27日、その他館が定める日
会 場: インターメディアテク3階
主 催: 東京大学総合研究博物館+レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校
協 力: 山階鳥類研究所
協 賛: ヴァン クリーフ&アーペル
企 画: 東京大学総合研究博物館インターメディアテク寄付研究部門+東京大学総合研究博物館国際デザイン学寄付研究部門
入館料: 無料
住 所: 東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2・3F

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