うさぎ。

うさぎを飼っていた。
黒蜜かけたきなこもちみたいな色してて、ちっちゃくて、ころころして、かわいくて、いたずら好きな2歳の女の子だった。

11月の終わり、赤ちゃんが生まれて子育てに追われる生活だった里親さんが、構ってやれないから一緒にいてやれる場所へ、と言い、仕事と学校が週末しかないわたしが引き取った。

引き渡しの時キャリーに顔をおしつけて、うさがこちらをじっと見ていたのをよく覚えている。

彼女と二人で喜んだ。妹ができたみたいで、色んなことをした。散歩にも行ったし、お互いの家族にも紹介して、春になったらたんぽぽを摘みに行く予定だった。

初日と二日目は見守って、三日目になってようやく部屋に出してあげた。

部屋中を走り回って体をひねってジャンプして、すごく元気だった。出会ったばかりなのに、もう体を寝かせて足を伸ばしてくつろいでいた。

年の終わり、年末最後の仕事を早く切り上げて帰宅して、うさもつれて彼女の実家にお邪魔した。いつもはすごく暴れるのにすんなり抱っこさせてくれて、今思えば、もうその時点で弱り始めていたんだなって。

1/5 金曜日

急にうさの具合が悪くなった。
前日にゴミ箱を倒してみかんの皮にかぶりついてしまって、それが原因かと思って慌てて病院に駆け込んだ。
先生はうさを見て、すぐにレントゲンと血液検査の手配をした。
体重はたったの780グラムで、背骨が浮いていて、明らかに痩せすぎていて。
細くなっているのはわかっていたし、牧草食べ放題で毎日決まった分量のペレットをあげているし、むしろ増やしているくらいなのに、どんどん痩せていくことが不思議だった。

血液検査の結果、骨髄が働いていないか、或いは免疫力が過剰になってしまい、骨髄で作られる細胞…赤血球、白血球、ヘモグロビンが壊されてしまい機能していないと。

うさぎに骨髄移植はできない。
免疫が過剰に働いているという方向に期待して治療を始めた。

免疫を抑える注射をしてもらって、毎日飲ませるための薬をもらって帰った。抱きしめた体はすごく冷たくて、それでもきっといつか元気に跳ね回ってくれると信じていた。

1/10 水曜日
起きてゲージを見ると、うさが転んだまま立てなくなっていた。
夜中に倒れて朝までそのままだったらしい。トイレに行くために立つこともできなかったので体が汚れていて、半身浴をさせて汚れを取ってやって、仕事を休んで病院に連れて行った。ご飯ももう、たべなかった。

「うさぎは自然界だと襲われる側の動物なので、立てない……つまり逃げられない、それに食べられないとなると、かなり限界に近いですね」

診察台の上で震えているうさを見て泣いた。もう点滴しかできることはないと言われて、お願いをして帰った。体を冷やすとだめだから、ベッドの上にペットヒーターを置いて、汚れてもいいようにシーツを引いて、その上にうさを寝かせて毛布をかけてやった。口元に小動物用のゼリーを持って行くとかろうじて食べてくれて、それでつないだ。心配でたまらなくて、夜も一緒に寝た。なんとなく、もう終わりが近いことはわかっていた。

1/11 木曜日

ゼリーも食べなくなっていた。

強制給餌しかもうないと思って、シリンジにペレットをペースト状にしたものを詰めて口に入れてやっても、飲み込むことはおろか咀嚼すらせずぼろぼろとこぼす姿を見てすごく焦った。うさぎは1日食べないだけで命に関わることはもちろん知っていたから、どうにかして食べてほしかった。
鼻を動かして必死に呼吸をしている姿を見て、もうほんとに、だめなんだと思った。力が抜けてだらんとした体を毛布で包んで抱きしめながらずっと撫でていた。

出かけていた彼女が帰ってきて数十分後、ご飯の準備をするためにうさのそばを離れてキッチンに立った直後。彼女の焦る声が聞こえて慌てて見に行くと、うさはもう息を引き取った後だった。

触っても鼓動がなくて、手を離しても鼻が動いていなくて。
理解した途端に涙が堰を切ったように溢れて止まらなかった。1ヶ月前まで跳ね回っていたのが嘘みたいに、静かに横たわる姿を瞬きして見るたびに、お腹が動いて呼吸をしているように見えて、さらに泣いた。彼女も静かに泣いていた。

死後硬直が始まった体を抱いて、綺麗にしたゲージの中に横たわらせた。お腹のあたりに保冷剤を置いて、よくいたずらしていたお気に入りのマフラーをかけてあげた。

くやめばくやむほど、どうしようもなくて、めちゃくちゃにすきで、かわいくて、あいしていて、一日でも長く一緒にいて欲しくて、立てなくなっても、ご飯を食べられなくなっても、心のどこかで諦めてなくて、いつか元気になるんだって思ってた。だってまだたったの2歳だし、この先何十年も一緒にいてから感じるはずの喪失感が一気にぐわっと襲ってきて、頭が痛くなった。何度抱き返しても体は冷たい。かわいいあのこに、わたしの寿命を全部あげたかった。

いなくなってしまうのが怖くて、旅立たれることが、置いていかれることが、失うことが怖くて、夜な夜な出かけては遊んでいた。出かけるたびに、帰ったらもう…とか、考えて、わかっているのに、それでも自分が怖いからという理由だけでずっとそばにいてやらなかったことをすごく後悔してる。狭くて、暗い部屋でひとりぼっちにしてごめんね。

お月様で、たくさんおもちついてね。
ごめんね。
おやすみ。

#日記 #うさぎ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?