つながる英単語ノート 語根編 §4.27 歯

(まとめると、英語の tooth と dentist は語源的につながっているというはなしです。)

(1) ゲルマン祖語 *tanþ- ~ *tunþ-(単数主格 *tanþs?, 複数主格 *tanþiz)〈名〉㊚ 歯

 → 英語 tooth /tuːθ/(複数 teeth /tiːθ/)【790】〈名〉歯
 →ドイツ語 Zahn(複数 Zähne)〈名〉㊚ 歯
 →オランダ語 tand(複数 tanden)〈名〉㊚ 歯
 →スウェーデン語 tand(複数 tänder)〈名〉(共) 歯

古英語では、単数主格 tōþ /toːθ/、複数主格 tēþ /teːθ/ という形です。これは、摩擦音 /θ/ の前での /ɑn/ > /oː/ という変化で鼻音 /n/ が脱落した後、複数主格形は i ウムラウトで /oː/ が /eː/ に変化した結果です。現在の tooth, teeth という綴りも、中英語の /toːθ/,  /teːθ/ という発音を表したものですが、発音はその後大母音推移で /tuːθ/,  /tiːθ/ に変化しました。

摩擦音(/f/, /s/, /θ/)の前での鼻音(/m/, /n/)の脱落(と母音の長音化)は、英語(やフリジア語)のほかに、オランダ語でも部分的に見られ、Inguaeonism と呼ばれる特徴に属します。他に次のような単語があります。
・英語 soft, オランダ語 zacht(cf. ドイツ語 sanft)
・英語 five, オランダ語 vijf(cf. ドイツ語 fünf, スウェーデン語 fem)
・英語 goose(cf. ドイツ語 Gans, オランダ語 gans, スウェーデン語 gås)
・英語 us(cf. ドイツ語 uns, オランダ語 ons, スウェーデン語 oss)
・英語 mouth(cf. ドイツ語 Mond, オランダ語 mond, スウェーデン語 mun)
・英語 other(cf. ドイツ語 ander, オランダ語 ander, スウェーデン語 annan)

i ウムラウトについてはいつか改めて説明しようと思いますが、ここでは同様の不規則な複数形の例として goose/geese, foot/feet を挙げておきます。
foot も元は長母音を使った /fuːt/ でしたが、/t/ の前で /uː/ が短母音化して /fʊt/ になりました。

(2) ラテン語 dent-(単数主格 dēns)〈名〉㊚ 歯

 →フランス語 dent〈名〉㊛ 歯
(2.1) フランス語 dent‧iste〈名〉㊚㊛ 歯医者 < (2) dent + 接尾辞 -iste
 → 英語 dent‧ist /ˈdentɪst/【2149】〈名〉歯医者
(2.2) 中世ラテン語 dent‧āli-(男性単数主格 dentālis)〈形〉歯の < (2) dent-  + 接尾辞 -āli-
 → 英語 dent‧al /ˈdentᵊl/【4064】〈形〉歯の

(1)(2)ともに、インド・ヨーロッパ祖語の *h₁d‧ónt- ~ *h₁d‧n̥t- あるいは *h₃d‧ónt- ~ *h₃d‧n̥t- に由来します(~ はここでは o 階梯とゼロ階梯の母音交替を表します)。ゲルマン祖語ではまだ母音交替が残っていましたが、英語などでは o 階梯に基づく形に一本化されました。一方でラテン語ではゼロ階梯に基づく形が残りました。インド・ヨーロッパ祖語の語頭の喉音(*h₁, *h₂ *h₃)は両方で失われました。インド・ヨーロッパ祖語の *d がゲルマン祖語の *t に、インド・ヨーロッパ祖語の *t がゲルマン祖語の *þ /θ/ になっているのは規則的な変化です(グリムの法則)。

*h₁dónt- ~ *h₁dn̥t- だとしても *h₃dónt- ~ *h₃dn̥t- だとしても、動詞の能動分詞が名詞として定着したものになります。前者の場合、もとの動詞 *h₁ed- は「食べる」という意味で、tooth や dentist は eat や edible と同源ということになります(☞ §5.11 食べる)。後者の場合、もとの動詞 *h₃ed- は「嚙む」という意味だと考えられています。

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