見出し画像

中国地下アイドルの現状〜2024年3月版〜

 2024年3月20日に中国演出行業協会(China Association of Performing Arts)によって発表された報告によると、2023年中国国内の興行市場全体の経済規模は約740億元(≒1兆5,500億円)に上り、過去最高額に達した。
 そのうち、小劇場や小規模Livehouseの成長が著しく、総興行回数18.69万回(2019年比+471.07%)、チケット収入48.03億元(≒1,000億円、同年比+463.13%)、観客数2422.40万人(同年比+250.54%)であった。このような小規模会場は2023年に急速に増え始め、新たな芸術空間を生み出すとともに、芸術が育つ場となっていると協会は分析する。
 さて、小規模Livehouseで積極的にライブを行っている者の中に、市場規模こそ小さいが「地偶(地下アイドル)」の存在が確かにある。前記事の2023年3月以降、中国の地下アイドル界はどのように変化したのか、見てみたいと思う。

2023年3月版はこちら↓
https://note.com/lulu281721/n/n866394ed404f?sub_rt=share_b


【2023年4月以降の主な変化】
 ① グループ数30~40組→200組以上に急増
 2023年3月時点で、中国国内における地下アイドルグループ数は30~40組であったが、一年で200組以上に増加した(表1)。中国SNSの微博には毎日のように新しいグループや新メンバーの紹介が投稿されており、その勢いは凄まじい。
 グループの急増により、イベントの収容力が追い付かず、イベント出演をかけたライブバトル(観客投票制)が行われる事態にも発展した。
 各グループの公式微博のフォロワー数も急増しており(表2)、昨年より市場が拡大していることが分かる。
 ただし、1年も持たずして解散するグループもあれば、メンバーの入れ替わりが激しいグループのあり、安定しているとは言えない状況である。
 
表1 各地のグループ数

※グループ数は2024年3月22日時点の微博「地下偶像相关揭示板」の情報に基づく。前述のように、業界の動きは日々目まぐるしく変わっているため、現状に多少の変動があることご了承ください。

表2 代表的なグループの公式微博フォロワー数の変動

※各グループ公式微博より。フォロワー数は2023年3月14日と2024年3月22日時点のもの。

2024年3月23日に上海で行われたイベントの様子↓
https://x.com/lulu281721/status/1771555405782548721?s=46&t=G6LDdu8qFnEcmEIYbSHG2w

② イベントも増加
 1週間に1~2件あったアイドルイベントは、週末ともなれば1日10件以上となり、平日のイベントも少しずつ増えてきた。
 最近では人気グループが自主運営で小規模のワンマンライブやツーマンライブを行うこともある。また、上海や広州、北京に集中していたイベントは、地方都市(重慶、成都、長沙、西安、南京、合肥など)での開催も定期化してきている。

重慶で行われるアイドルイベント

③ 質の高いオリジナル曲が増加
 1年前は日本アイドルのカバー曲を歌うグループがほとんどだったが、オリジナル曲を持つグループが増えてきた。イベント出演時にオリジナル曲のみでパフォーマンスするグループも出てきた。これによって、グループごとの色がはっきり見てとれるようになり、パフォーマンスの多様化に成功している。
 日本の作詞作曲家に楽曲提供をお願いして、質の高い楽曲をオリジナルとして所有する動きもある。先日、北京のグループ「阵雨电台」が有名作詞作曲家のヤマモトショウ氏からの楽曲提供を発表し、話題を呼んだ。また、中国語詞の曲も少しずつ聞こえるようになり、日本とは違う独自の文化を形成しつつある。

中国語詞の楽曲↓
https://x.com/lulu281721/status/1771563626358350204?s=46&t=G6LDdu8qFnEcmEIYbSHG2w

④ 日中間のグループ交流が実現
 2023年6月に名古屋で行われたmistFESに上海の重鎮「究極Ultima」が出演したのをきっかけに、同年10月には日本の地下アイドル「戦国アニマル極楽浄土」、2024年1月には「mistress」がそれぞれ上海でライブ、「究極Ultima」は妹グループ「惑星VORTEX」を引き連れて年末年始に名古屋と東京でライブを行った。(東京ライブには究極Ultimaのみ参加)
 10月のイベントでは、初めて日本の地下アイドルが訪中したこともあって、観客はいつも以上に沸き上がり、アツい現場となった。前述の4組は共にハードな曲調が得意で、4月5日には4組合同でライブを行うことが予定されている。
 ほかには、広州の人気グループ「恋音契約」が2024年3月に来日、日本のアイドルグループ「AIBECK」の訪中が決まっている。

4月5日に上海で行われる、
中国アイドル2組と日本アイドル2組のライブイベント

⑤ メンズ地下アイドルが誕生
 2023年5月に中国で初のメンズ地下アイドルグループ「わんわんバイト団(搬砖汪汪队)」が誕生した。オーディション番組「創造営2019」に出演した劉夏俊を始めとする、ポテンシャルの高いメンバーが集結し、人気を博している。
 現在メンズ地下アイドルは、上海に2グループ、湖南(武漢)に1グループ、北京に計画中のグループがあり、女性グループに比べて増え方は緩やかである。メンズ地下アイドルの誕生が中国のアイドル業界にどのような影響を与えるのか注目していきたい。

メンズ地下アイドルのイベント告知

【現在の問題点と今後の展望】
 急速に拡大している中国地下アイドル業界だが、「専門性」という面ではまだまだ努力する余地があるように思う。まず、グループが多いと言っても、その実情は自主運営がほとんどで、中にはサークルの延長線上のようなグループもあり、アイドル自身も運営も、プロとしての自覚や実力が足りていないのが問題点である。
 また、中国では長くアイドルとして生きていく道筋がないため、アイドルを束の間の輝きと捉え、大学卒業とともにアイドルも卒業するという流れがある。そのため、メンバーの入れ替わりが激しく、パフォーマンスのレベルが安定していないグループが多い。もちろん中にはすでに業界内での地位を確立し、職業アイドルとして活動をしているグループやアイドルも少なからずいる。
 明るいニュースとして、2024年2月に「究極Ultima」運営が事務所の設立を発表した。日本の地下アイドルとも繋がりの深い同運営が、より専門性の高いアイドル運営を行い、業界をけん引する存在になると良い。
 期待できる点は他にもある。アイドル自身がアイドルをプロデュースする動きが出始めていて、よりアイドルに寄り添った形でのプロデュースが可能になったのだ。更に、アイドルがプライベートで日本のアイドル現場を観に行くことも増え始めている。洗練された日本の地下アイドル文化を経験することにより、パフォーマンスの向上につながることが期待できる。
 市場を広げるカギは、日本の質の高いパフォーマンスや運営を学びつつも、中国ならではの独自性をしっかり取り入れることだろう。去年始まった日中間のアイドル交流ももっと活発になると良い。その際に、ファンも多く行き来できるようになると更に盛り上がるはずだ。(それにはビザの緩和が必須だろうが)

 昨年は火種だった中国の地下アイドル業界、小さいながらも炎としてエンタメ業界の片隅で確かに燃え始めてきた。

執筆協力:id_kz 様

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?