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存在しない人 24

彼は空っぽの甲板を凝視し続けていた。その間に巨大船は徐々に遠ざかっていったが、微動だにせず一点のみを見つめていた彼がそのことに気付いたのは、既にずいぶん離れてしまった後のことだった。圧し掛かるような存在感で視野が塞がれていたために、頭上が黒い雲で覆われていることにも、横殴りの雨に打たれていることにも彼は気が付かなかった。その時、彼はぐらりと傾いた。彼の小船は今、荒れ狂う大波に飲み込まれるところだった。【終】

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