タップル永久0円の闇〜マッチングアプリとモラルの問題〜

しばらく前に、マッチングアプリ「タップル」において「永久0円」なるキャンペーンが行われていた。
最適化された広告とはいえ、youtubeで毎回のように出てきたため、悪い意味で印象に残っている。
将来的にお世話になる可能性もあるので、あまり変なことは書くべきではないのかもしれないが、マッチングアプリの構造的な問題について思うところを記す。

なお、本稿は"非合理的恋愛人"を想定した「多分こうなるよね」論に過ぎない。何の根拠も無いので悪しからず。
因みに、マッチングアプリはやってないです。

「永久0円」の問題点

「タップル永久0円」とは

一度ぐらいはCMを見たことがあるかもしれないが、一応説明。
「永久0円」というのは、「抽選で最大88名に88年間のシングルプランをプレゼント」という内容のもののようだ。通常メッセージのやりとり等は有料なのだが、そうした機能を含むプランが無料になるということだと思われる。

「88年って永久じゃないやん」という話だが、一応「実質無料」ということになっている。
タップルを含むマッチングアプリはインターネット異性紹介事業なので18歳未満利用禁止というのが通常であり、タップルも18歳未満は利用が禁止されている。18歳の人でも88年間無料なら106歳までタダで利用できることになるので、寿命を考えれば事実上死ぬまで無料と言える。

「永久0円」のような無料キャンペーンは時々行っているようなので、今回の機会を逃した人も安心。この種のキャンペーンは一度始めたが最後、繰り返す羽目になります。スーパーのセールが常態化するのと同じだね。

因みに、メッセージ機能のないアプリはインターネット異性紹介事業に該当しない。例えば、利用者同士でTwitterアカウントを検索できるようなマッチングアプリを作り、メッセージのやりとりはTwitterのDMでやってもらうようなシステムにすれば、インターネット異性紹介事業としての届出は必要無いと思われる。ツイートを見れば相手の人柄は割と分かる気がするので、Twitterアカウントのマッチングアプリ結構便利だと思うのだが、どうでしょう?


「永久0円」の落とし穴

88年も無料なんて素晴らしいサービス精神だと思うかもしれないが、ここにはある落とし穴がある。
そもそも、88年間もマッチングアプリを続ける人間がいるだろうか?
前述の通り、18歳で始めても88年後には106歳だ。106歳のマッチングアプリユーザーを想像してみてほしい。
18歳から使い続けるとしても、せいぜい40歳前後までが限度だろう。

「50代のおじさんにいいねされた」という話も聞くので、そのような年齢でマッチングアプリを使っている人々もいるようだが、かなりの少数派であって、少なくともタップルの主要なターゲット層ではないだろう。

つまり、88年無料になったユーザーがアプリを使い続ける期間というのは、多めに見積もったとしても、20年程度であり、残りの68年間の損失(無料としたことにより得られなかった利用料)は無視していいことになる。

「永久0円」キャンペーン実施にあたって、社内で採算性が検討されたはずだが、おそらく損失となる利用料はせいぜい3年分程度と見積もられたことだろう。そして、キャンペーン実施により増加する新規ユーザーから得られる利用料は、この損失を遥かに上回るものと試算されたはずだ。
※ 3年という数字を挙げたが、実際にはもっと小さいどころか、「本来得られたはずの利用料」については完全に無視していいレベルだったのではないかと思われる。

「永久0円」の闇

ということで、88年という数字(「永久」という謳い文句)は見掛け倒しに近いものがあるのだが、インパクトはあるはずなので、営利企業の戦術としてそこまで悪いものでは無いだろう。
「永久0円」の闇はそこではない。

そもそも、マッチングアプリが永久無料を謳うのはどうなのさ、という話だ。

タ○プル永久0円とかいうやつ、死ぬまで次を求めて浮気し続けるバケモノを生み出そうとしている

僕のTwitter

「永久0円」というのは、「いつでも利用できる」ということだ。それが、「もし恋人と別れても、またここで新しい相手を見つけられる」という意味であればまだ穏やかなのだが(いわば"恋愛面における保険"のようなものと言える)、残念ながら人間はそこまで立派にはできていない。
実際には、恋人ができても、裏で"より良い相手"を探し続けることになるだろう。最も悲惨なのは、「恋人ができないので一生ここで探し続ける」というパターンだが……

詳細は後述するが、ここには「マッチングアプリの存在自体が浮気の誘因となる」という構造的な欠陥が存在する。

どこから88という数字が出てきたのかは知らないが、末広がりということでこの数字にしたのなら、あまりに皮肉が効きすぎている。
「8」という数字がタップルのロゴに似ているかららしいです。

それに、恋愛における理想形はおそらく「短期で良い人と出会って関係が長く続く」というものであって、マッチングアプリの利用期間が長いということは、恋愛において失敗しているということに他ならない(少し前に「マッチングアプリ上級者」と名付けられた人々が話題になったのも、これが一因であろう)。

せめて無料期間を8ヶ月や8年にして対象人数を(11倍とは言わないので)2倍程度にでも増やせば、まだ"健全"だったと思うのだが、それでは採算が取れないのか、あるいは"永久"という期間のインパクトを重視したのか。
「実際には88年も利用するわけがないんだからいいじゃないか」と言われればその通りなのだが、キャンペーンに「永久0円」を打ち出す企業の姿勢そのものに疑念を抱いてしまう。

何かあればすぐに次に向かう、いくらでも別の人がいる、というような、次々と恋人を乗り換える"新しい恋愛様式"を提唱するものであるならば、それで構わないのだが、そういうわけでもなさそうだ(むしろ企業としては"綺麗な"イメージを持ってほしそう)。

念の為断っておくと、企業戦略としてどうなのさと思っただけで、「タップルが悪徳企業だ」とかそういうことを言うつもりはないです。マッチングアプリの中ではかなり優良という噂ですし。

御託はさておき、こんなキャンペーンをやっている様を見ると、マッチングアプリというのは意外と儲かっていないのではないか、と思わないこともない。


マッチングアプリの構造的欠陥

「永久0円」をこき下ろしたところで、マッチングアプリ自体の問題について。

運営と利用者の利害対立

マッチングアプリがモテと非モテの格差を更に広げたという話もあるが、そうした問題以前に、マッチングアプリというシステム自体が、必然的にある問題を抱えることになる。

それは、マッチングアプリの運営側と利用者の間には決定的な利害の対立があるということだ。
おそらく、長期的視点に立った場合に運営側と利用者の間に利害対立が生じるケースは、マッチングアプリ以外の事業においてもそこまで珍しいことではない。マッチングアプリの問題は、数ヶ月レベルの超短期で利害対立が生じ得ることにある。

なお、これは「できるだけ長く付き合いたい」という"真剣"交際を利用者が求めている場合の話である。単にワンナイトの相手やセフレを求めているような場合には、利害対立はほぼ問題とならない。
以下では、利用者が真剣交際を求めていることを前提に話を進める。

まず、運営側の目的は収益を得ることにある。
企業が収益を得られるのは、利用者が料金を支払っている期間、すなわちマッチングアプリで恋人を探し始めてから恋人を作るまでの期間となる。単純に考えれば、この期間はできるだけ長い方が良い。つまり、利用者が永遠にマッチングアプリで恋人を求め続けるのが最も良いということになる。
しかしながら、あまりにも恋人ができなければ、その人はマッチングアプリをやめてしまうだろう(マッチングアプリで1年も2年も恋人を求め続けるような人は少ないはず)。恋人ができるまでの期間はできるだけ長い方が良いが、長すぎてもいけないということになる。
一方で、利用者の目的はできるだけ早く恋人を作ることにある。

この時点で既に両者の利害の食い違いが生じているのだが、利用者が恋人を手に入れた瞬間に、運営側と利用者の利害の対立は決定的なものとなる。
恋人ができたということは最早マッチングアプリを利用する必要はなく、マッチングアプリをやめることになる。そして、運営側は以後その人からの収益を期待できない。
とはいえ、この時点で運営と利用者という関係ではなくなるので、大きな問題は生じない。

……はずなのだが、話はそう単純ではない。

浮気の誘因

ここで、「マッチングアプリの存在自体が浮気の誘因となる」という前述の話に繋がる。

法的拘束力を持つ結婚という明確なゴールが存在する婚活と異なり、単なる恋愛においては、一度恋人を獲得したとしても、大抵破局して別の人と改めて繋がるというルートが待ち構えている(結婚においても離婚というルートがあるが、それはさておき)。

つまり、運営側としては、恋人ができたことで一度利用をやめた(元)利用者が、恋人と別れることで利用を再開する、という状況を期待できることになる。

もちろん、運営側が積極的に破局を誘うような戦術を採ることは、道義的に許されるものではない。しかし、マッチングアプリのとある性質が、図らずもそれに近い機能を果たすことになる。

それが、"サブスク"だ。
マッチングアプリの料金プランは、一般的に1ヶ月/3ヶ月/6ヶ月/1年のような期間ごとに設定されており、それぞれ一括で支払う仕組みになっている(当然、期間が長いほど1ヶ月あたりの料金は安くなる)。
おそらく6ヶ月や1年単位で申込む人はほぼいないと思うが、最低でも1ヶ月分は料金を支払うことになる。

そして、無事恋人ができたとしても、そこから期間満了までの利用料は返還されない。期間満了のその日ぴったりに恋人ができるなんてことは滅多にないだろうから、残りの期間分の料金については諦めることになる。
※調べたわけではないので、返金してくれるところもあるのかもしれないが、多分そんなアプリはない。

解約した場合でも日割りで利用料が返還されないというのは、マッチングアプリに限らず多分サブスクの一般的な仕様で、Amazonプライム会員などもそうだ。中途解約するとしても期間満了までは普通にサービスを利用できるので、サービスを提供する以上返金する必要もないのだ。
しかし、マッチングアプリとそれ以外のサブスクの性質の違いから、マッチングアプリについては、この「途中でやめても返金されない」仕様が大きな問題を生む。

(ポリアモリーなどを想定しだすと話がややこしくなるので、一般的な1対1の恋愛を前提とするが、)恋人がいるのにマッチングアプリを利用する(=別の恋人を探す)というのは失礼極まりない話で、相手にバレれば、下手したら破局に繋がりかねない背信行為だ。恋人ができたらマッチングアプリはやめる、というのが常識的な感覚だろう。

サブスクを途中でやめるのは、基本的に「必要なくなったから」なのだが、マッチングアプリの場合には、これに加えて「利用するべきではないから」という理由も存在する。

それでは、マッチングアプリをやっていて恋人ができた人々の中で、実際に中途解約(アプリのアカウント削除・退会)している人がどれほどいるだろうか?

恋人ができた時点できっぱりと退会できる意志の強い人々は、さほど多くないと思われる。
そもそも、恋人ができた時点でアプリをやめようと思い実行に移している人々がどれほどいるのか疑問だ。
おそらく、恋人ができた時に「よし!マッチングアプリを退会しよう!」という発想に至り、やたら面倒な退会手続をしっかり行える人は少ない。

もちろん、相手との関係で一時的にスマホからアプリを消している人は多いかもしれないが、いつでも再開できるであろうアプリの削除だけではほとんど意味はない。ふとした時に再インストールして、泥沼に足を突っ込むことになる。

「せっかく利用料を払ったのに勿体ない」
「もっと良い相手に出会えるかもしれない」
意志が弱い人々は、恋人ができてもマッチングアプリの利用を続けることになる。
そのまま何事もなく無事期間満了したのなら、「バレなくてよかったね(ニッコリ)」ぐらいで済むのだが、そこに更なる落とし穴が待ち構えている。

自動更新機能である。
サブスクは、期限が切れると自動で従前の契約を延長する設定になっていることが多い(というかデフォルトでそれ以外の設定になっているものは見たことがない)。
恋人ができたなら、せめて自動更新設定を切るぐらいのことはしておかないと、泥沼期間はさらに1ヶ月延長されることになる。

期間が伸びれば伸びるほど、他の人に心移りする可能性は高まる。
恋人がいながらマッチングアプリで他の人を漁っている時点で倫理的にはかなり怪しいが、そこから一歩進んで浮気ルートに入ることも十分あり得るだろう。

なお、もし本稿を読んでいる人の中に、マッチングアプリを通して付き合った恋人がいる人がいたとしても、相手がアプリを退会しているかどうか確認することはあまりお勧めしない。
というか、恋愛関係は一度でも不信感を抱いたら、その時点でもう終わりだよ。

交際自体の価値の希薄化

もう一つ、マッチングアプリ自体が利用者のマインドを変えるという問題もある。

データは無いので完全に憶測だが(そもそもここまでの文章は全て憶測だが
)、マッチングアプリを通して付き合ったカップルは、他の場合と比べて交際期間が短い傾向にあるのではないだろうか。

マッチングアプリにおける出会いは、おそらくリアルにおける出会いよりもハードルが低く、付き合いやすい。
勿論、リアル以上に(プロフィール写真の)ルックスが重視されたり、多数の競争相手の中で自分に注意を向けさせる必要があったりと、特殊な部分はあるだろう。それでも、最初から相手も恋人を求めていることが分かっているし、互いに認めなければマッチングは成立しない。本来赤の他人でありながら、最初から恋人関係に向けてある程度お膳立てされていると言える。
それに、マッチングアプリで相手にされないような人は、多分リアルでもダメだ。
付き合ってみて合わなかったら別れればいいし、元は赤の他人だったわけだから、別れたとしても弊害は少ないだろう。

そうした"付き合いやすさ”は、"別れやすさ”にも結びつく。
相手との関係が悪くなれば、関係の改善を目指すより新しい相手を探す方が楽だ。マッチングアプリには相手を求めている人がたくさんいるのだから、代わりはいくらでもいる。
マッチングアプリで一度付き合えたという成功経験がある以上、次へ行くことの恐れも少ないだろう。今ある関係を大事にする必要はないし、壊れたら別のものに変えればいい。
恋人ができた後のマッチングアプリの利用についても、明確な悪意があるわけではなくて、「これぐらいならいいだろう」と考えている層が大半だと思われる。

ひとまずまとめ

運営としては、利用者がマッチングした相手と交際を始めた翌日にでも別れて、アプリの利用を再開するような状況が望ましいのだから、一層のこと、恋人ができたことで利用をやめた元利用者に対して、(倦怠期に入るであろう)1ヶ月後ぐらいに「カムバックキャンペーン」などと称して2週間無料の案内をメールで送りつけて、間接的に関係の破綻を誘うような施策を打ってくれたら、清々しいかもしれない。
カムバックキャンペーンについては既に存在する可能性も高いが……

ただし、「構造的欠陥」などと主張してきた以上の議論は責任転嫁であって、企業にそこまで求めるのは筋違いじゃないかと言われれば、その通りではある。
永久0円だろうが利用するかどうかは本人の意思次第だし、浮気の誘因云々と言ったって、恋人がいながらマッチングアプリを利用している本人が悪いが決まっている。いくら機会と動機があったところで、最終的に意思決定を下すのは本人だ。それを企業の責任にするのは、あまりに行き過ぎている。

こうした主張自体は至極真っ当なものなのだが、マッチングアプリ自体が、そうした人間の倫理面の欠陥に"付け入った"ビジネスであるような気がしなくもない。多分一方的な敵愾心とルサンチマンに基づく思込み。


マッチングアプリのジレンマ

倫理面の話は抜きにしても、マッチングアプリというシステムにはある欠陥が内在する。
それが、「マッチングアプリのジレンマ」とでも呼ぶべきものである。

恋人ができた人はマッチングアプリの利用をやめる(勿論前述のように使い続ける誘因もあるのだが)ことに加えて、なかなか恋人ができない人もアプリの利用をやめてしまうため、マッチングアプリの利用者は(他のサービスと比べて)比較的短期間でアプリから退出してしまう。また、歳を取ればアプリは利用しなくなる。

そこで、主に若年者をターゲットに新規利用者を増やすことで、利用者数・収益を維持・増加することが不可欠となる。
これは、短期的には「永久0円」のようなキャンペーンにより、長期的には所謂サクラの排除や機能の向上といった質の向上により実現できる。
また、利用者に恋人ができるまでの期間(=アプリの利用期間)が長いほど、そして、利用者が恋人と別れるまでの期間(=アプリの使用を再開するまでの期間)が短いほど、収益が増加する。

ここで、長期的には両者にトレードオフの関係が生じる。
マッチングアプリの質が上がるということは、より簡単に、より良い人と出会えるということだ。
マッチングアプリとしての質が向上するほど、より短期でカップルが成立する確率、関係が長続きする確率は高くなり、アプリの利用期間は短くなる。質の向上により利用者が増えたとしても、彼らはすぐにアプリの利用をやめてしまうことになる。
勿論、満足度が高ければ、恋人と別れた際にアプリに戻ってきてくれる確率は高くなるが、その頻度が低ければ、企業が収益には繋がらない。

つまり、マッチングアプリというシステム自体が、長期的に収益を増やすことが難しい(ビジネスとして継続し難い)という問題を抱えている。
これこそが、「マッチングアプリのジレンマ」である。

さらに言えば、「永久0円」のような企画も回数を重ねると価値が薄れるため、より割引率・期間を上げて、より頻繁に行う必要が生じ、企業を疲弊させるため、短期的な新規利用者数の増加にも限界があることになる。

この問題は"真剣"交際志向の結果として生じる問題であり、短期で交際と破局を繰り返したり、肉体関係を主目的とする関係のように必ずしも1対1である必要はないものについては生じない。

マッチングアプリの主な収入源が男性であることを考えれば、"真剣"交際志向を捨てて"不純"な関係をメインにするのも一つの手であるように思われるが、女性利用者の確保が難しいという問題が生じる。法的な問題もありそう。
恋愛における男女の不均衡を考えれば男はいくらでもカモにできるので、
いかに女性ユーザーを取り込むかということが実は重要なのかもしれない。

性風俗事業は法律面での規制が厳しそうだが、レンタル彼女事業との連携ぐらいなら何とかなりそうではあるので、公式で「出会える"サクラ"」を用意することも考えられる。レンタル彼女事業側が1ヶ月独占プランのようなものを作れば、高い金額設定でも多少は利用者がいそう。
いずれにせよ女性側の負担が半端ないものになりそうだが……

最後に

とある番組で「就活エージェントもビジネスに過ぎない」という趣旨の言葉があったが、マッチングアプリもビジネスに過ぎない。恋人探しとして便利な手段であることは間違いないが、そこに取り込まれないようにしたいものだ。
取り敢えず、利用料の日割り返還を実現したアプリの登場が俟たれる。


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