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貝殻から見た中国不動産のイノベーションや日本不動産テックのチャンス



中国の不動産会社貝殻(BEKE)が今年8月13日に上場を果たしました。創業者の左晖(Zuohui)は中国不動産仲介会社最大手链家(Lianjia.com)のCEOでもあり、賃貸不動産自如Ziroomの創業者でもあります。彼が中国不動産テックの中心にいると言っても過言ではないが、その中一番念入りのサービスは貝殻です。理由も簡単です。中国の不動産賃貸売買サービス業界をディスラプトできるからです。


中国不動産業の背景は多岐にわたり一言では語れませんが、概ね2008年金融危機以降、市場に出回っている資金が不動産に流入し、急騰した不動産価格が中国消費者の行動心理と相まった結果、居住兼投資物件として発展していきました。従来の不動産産業は不動産開発、仲介がメインの業態ですが、インターネットと不動産の融合によって勢力図が急に変化してきました。

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その中、何故貝殻がずば抜けて業界イノベーションの代表となったか、理由その中で、なぜ貝殻がずば抜けて業界イノベーションの代表となったか、理由は三つあると考えています。
1、バリューチェーン:新築売買、中古、部屋内装それぞれの複雑なプレイヤーを一つに統合したことによって、超過供給状態の市場において、ユーザーに対してワンストップソリューション価値を提供した
2、データ:不動産データベース(「不動産辞書」)を立ち上げ、エージェント協力しあうプラットホームを築き上げた
3、人材:不動産業界やエージェント業務のスタンダードを作り、今まで出入りの激しかった不動産業界のサービス水準をアップデートし、エージェント間で協力しあえる土壌を作った


貝殻は創業者の左晖が最初に作った会社ではありません。しかし、彼にとって、不動産業界は既得権益者の温床であり、改革が必要だと考えました。そこで、DXのための貝殻が誕生しました。

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2008年から貝殻は不動産データに注力し始め、2014年にはモバイルインターネットと不動産仲介事業を統合しました。2017年から注目を集め出したクラウドコンピューティングやAIの技術を取り入れることで、10年間貯蓄したデータの分析を可能にしました。
なので、貝殻というブランドは2018年に打ち出されましたが、実は2008年からすでにその路線を探っていたということです。
10年間の変革を経て、貝殻が打ち出したのは、ACNネットワークと超信頼不動産データベースでした。データベースを構築するのに
・物件の情報入力
・物件の掲載
・物件の鍵管理
・物件の内見担当
・物件の販売&契約
・入金管理
各工程の担当が必要です。しかし、利益の配分は決して話し合って決めるものではないので、今まで不動産の仲介会社が渋々全部のフローを引き取っていました。鍵となる部屋掲載の一次情報を他の担当に譲れないのは言うまでもありませんが、自社が魅力的な物件を多く持っているというイメージを植え付けたいために、つい偽物件を掲載してしまうことが多々あります。


とにかく利己インセンティブが働く不動産業界では、各不動産のエージェントが自分を優先する傾向があり、協力するネットワークを築くのは至難の業です。無論、自分のデータベースに他社の物件情報を登録してもらうことがさらに難しいのです。


それを実現するには、貝殻は先立って自分が持っている不動産仲介会社の链家(Lianjia)にある物件を、全てデータベースに登録しました。例え链家の人でなくてもアクセスでき、販売もできます。消費者にとってクリティカルな課題の解決になるので、そうすると、徐々に外部の会社もデータベースの協力にポジティブになりました。結果現在、貝殻に登録する物件は1.87億件超、仲介会社は265社、オフライン店舗は4.2万件、エージェントは45.6万人に達しました。

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一方、プロダクト面でも感動と言えるほどのサービス体験を発明し、
・すぐに信頼できるブローカーと相談できる
・すぐにVRによって簡単に内見できる
の仕組みがほぼオフラインと遜色ない物件購入体験を構築できたのです。
特に、VRの機能については、2020年3月31日までに、VRによる内見回数は6.6億回、一日平均VR内見回数は315万回、VR間取りを提供する物件は400万件を超えました。それ以外にもAIによる内見ツアー自動生成など、様々なテクノロジーを織り込んで先進的な体験を作り続けています。

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スクショにあるVR内見は、もはやGoogleマップのVR機能よりもスムーズです(当然比べる対象が少し違いますが)。


また、不動産の販売以外にも不動産に関する金融のサービスを提供します。

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貝殻の独立子会社である貝殻金融が「内装料分割」「賃貸料分割」「売買分割」などのサービスを提供しています。それぞれ不動産の購買シナリオに沿って、金融サービスを提供しています。一方、貝殻本体のサービスではユーザーの属性によって、借主なら部屋探し、貸主なら賃金の支払い管理などそれぞれ金融のソリューションを提供しています。

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まだレベニューベースでのシェアが少ないですが、これからの発展は期待できるのではないでしょうか。


日本はどうでしょうか。現状で言うと
・業界が古く人材がテクノロジーに弱い
・既存のプレイヤーが強い
・業界内の各サービスの敵対意識により情報の捏造と隠蔽が多発
といったような業界課題が挙げられそうです。そうするとそこまで中国との構造は変わらず、ましてREINS不動産流通機構が1980年に設立され、今に至るまで不動産情報の透明化に務めてきたと思われます。REINSの課題は、情報の網羅性の欠如、データの不足、登録率の低さ、情報鮮度の低さ、公開APIの未提供などと言われています(*1)。ただ、REINSは公益財団のため、不動産の登録は基本的に全てここに登録することになっています。内部的なイノベーションが起きない限り、外部主導の改革はなかなか難しそうです。


また、構造的に
・2020年後地価の暴落
・人口減少
・2022年に税制の優遇がなくなり、土地の供給過剰による地価の下落
などの課題が挙げられます。加えて、コロナウィルスの長期化により、人々が地方に移住する流れが出来つつあり、不動産のニーズがさらに不透明になる一途です。


どうすれば良い不動産テックベンチャーを作れるでしょうか。答えはわかりませんが、中国不動産テックトレンドの変化から一つの流れが伺えるかと思います。仲介会社としての役割を拡張し、各プレイヤーが協力しうるプラットホームの創出が一番明確な特徴となります。また、貝殻に続く58同城(類似な不動産メディア)もアライアンス強化の宣言を出しており、インターネットに紐づく不動産のルールが再構築されることが見えると思います。


一方、一般社団法人不動産テック協会が作成したカオスマップにより、仲介業務支援や管理業務支援系のツールが多く、IoT、価格可視化・査定の領域のプレイヤーも多く登場しました。ルールが整備されている状態で、不動産テックが業務の効率化・コスト削減に注力するトレンドが見えますが、だからこそ逆に不動産のメディア、仲介業のあり方を変えるチャンスはあり、ユーザーがそれを期待していると思われます。

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今回は貝殻の事例をご紹介をしました。研究すればするほど、貝殻と同じ勢いを持つ鋭意なベンチャーが、日本でも現れることを切に期待するようになりました。1ユーザーとして単純に思うことは、オンラインでもスムーズに部屋探しができ、信頼できる物件をすぐに見つけられ、そして安心して部屋の賃貸/売買することができるところがあればいいなというところです。もしご興味ある方はぜひDMください。

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拙い文を最後まで読んでいただきありがとうございます。是非ご指摘よろしくお願いいたします。

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*1 、「紙・電話・FAX、不動産業界を変えるための課題とは」河西 泰 2019.1.31 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55341?page=2 


2、「不動産総合データベース試行運用について」国土交通省https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000110.html?fbclid=IwAR0jhOcB93na5X30ID4z8-e_y3R0JyKTi4obH79w4h5HYBcOCOkmpQ2AHt0


3、「AI讲房、VR看房、楼盘字典……居住服务领域的一哥,走了这样一条产业互联网之路」量子位
https://www.qbitai.com/2019/05/2209.html

4、不動産テック協会 https://retechjapan.org/

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