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Sequoia投資のVirtual Human「Brud社」が導くデジタルアセットライブラリーとは?

まずこの動画をご覧ください。

動画の主人公は「Lil Miquela」と言い、記者のインタービューを受けて、肉声で返答しています。お気づきの通り、本当の人間ではなく、CG技術によって合成した擬似人間である。言わば「Virtual Human」という類な存在です。(デジタルの空間上に人間的要素を持つ、アニメ&リアリスティックなキャラクター)

Virtual Humanはいまだに統一した概念ではありませんが、海外ですでに注目されるほど急成長している傾向が見えています。動画中のLil Miquelaはすでに各プラットホーム合計6百万人(不完全統計)超のフォロワーがいて、さらにSequoia, Founders Fund, Spark Capitalまで魅了して投資に至ったスタートアップです。

一方で、中国でLil Miquelaのクォリティーと遜色しないVirtual Humanも現れてきています。一夜にしてほとんどテック誌報道に取り上げられ、テック投資家のトッププライオリティになったこともちらほら聞いていました。

一体彼らがどういう理由でVirtual Humanを注目しているのでしょうか。本文を通じて、ぜひVirtual Humanの魅力を皆さんにお伝えしたいと考えています。

1、BrudーLil Miquelaの生み親が注ぎ込めた想い

BrudはLil Miquelaを生み出した会社です。そしてTrevor McFedries(以下Trevor)はBrudのファウンダーで、Brudを作る前に独立なDJ、音楽プロデューサー、エンジニア、デザイナー、そしてKaty Perryなどのセレブリティたちのパートナーでした。

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(Trevor McFedriesの紹介:https://en.wikipedia.org/wiki/Trevor_McFedries)

多彩なクリエイティブなバックグラウンドを持つ彼は、長年マスメディアとオンラインSNSの間行き来している間、舞い込んだ問いが一つあったそうだ。

「なぜテレビではないSNSにみんなで共同に作り上げる架空なセレブレイティ/インフルエンサーがいないのか」

技術が進歩し、人々が作れるコンテンツレベルもどんどん磨かれ、しかしいわゆるアニメや映画に出てくるデジタルのコンテンツは引き続き限られたチャネルでしかファンたちと交流できていません。しかし、もっと何か自由に表現できるストーリー、誰かに支配されるものではない、デジタルで表現できるものがあるのではないか、と彼が仮説を作ったそうです。Lil MiquelaはTrevorが着想したソリューションであり、人間らしい見た目のVirtual Humanで、完全なる自分のアイデンティティを持つ、且つ自由にInstagram,Tiktokなどのプラットホームで自分の日々の出来事をシェアする基本設定を持ちます。

Lil Miquelaの特徴として以下三つがあると考えています。

1、人間らしい外見、バックグラウンドを持ち、現実と錯覚するほどリアリティな投稿をする

2、一般的なアニメや架空キャラの活動範囲を超えて、インタビューやミュージックビデオをリリース

3、「Black Lives Matter」の世間態に対する主張を発信し、ファンと共感し合い、ファンにも影響される

要するにアイアンマンのような映画のキャラクターが急にインスタアカウントを開設し、自分の価値観を人々に訴えてかける状態に近しいです。結果世の中はこの未曾有なコンテンツに驚かされ、急激に彼女への注目が殺到していました。2018年TIME誌が選出する「25名最もインターネットで影響力を持つ人物」にLil MiquelaがRihannaと比肩して登場していました(他賞が獲得多数)

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(The 25 Most Influential People on the Internet)

「VirtualなHumanでも人々と繋がり、愛される。ただのデジタルコンテンツに止まらず、継続的ファンとインタラクティブに交流できるようなストーリーとしてのMiquelaはビッグになれることを確認できたので、これからは単純な運営会社=デジタルキャラの関係ではなく、Creatorが"CEO"になって、派生するコンテンツを管轄し、世の中へ影響を及ぼせるではなかろうか。」とTrevorがVirtual Humanでもストーリーになる仮説を確信し、未来への構想を進んでいる風に語っていました。

(Miquela and The Future of Storytelling)

2、Sequoiaが投資した理由、Virtual Humanの成長をどう信じているのか

だから何?を考察する前にBrudの概要を見てみましょう。

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2016年にスタートしたBrudはすぐシードマネーを見つけ、錚々たる株主をジョインしてもらいました。SequoiaのパートナーStephanieはこのようにコメントしています。

(訳、一部加工)初めて会ったとき Trevorと初めて電話で話したのは、彼がSeedを育てていた2016年のことでした。彼の謙虚さとユニークな経歴(Spotify出身等)以上に、私たちは彼の未来へのビジョンに納得した。NetflixやTwitch、Twitterなどのチャンネルで展開されるインタラクティブなストーリーテリングのプラットフォームであるBrudについて、私たちは十分に理解しなかったが、このような有望で稀有な企業にリスクを取ってみたいと思った。

結論シード出資の段階でもSequoiaも十分Virtual Humanの価値を理解していなかったが、Trevor自身の経歴を加味した上そのタイミングでSNS上に現れたくるであろう新しいデジタルのコンテンツの形に賭けたのでしょう。

さらにFounders FundのパートナーCyanも当時このように評価していました。

(訳)(Brudは)人間の持つ固有の問題を一切抜きにして、カーダシアン家を作ることができるのです。

そのため、両ファンドはともに「新しいコンテンツ」としてのBrudに投資したと推測できます。ただし、2021年現在、デジタルヒューマンはもはや「新しいコンテンツ」の一種に限られる存在ではなくなり、次世代のWebに必須なインフラとなっていくと考えています。

3、Virtual Human市場構図と動向

 3.1、Virtual Human一体なんなのか

結局Virtual Humanってなんだっけを改めておさらいしていきたいです。ZVC独自の定義では広義的に「デジタルの空間上に存在しているファンと交流できるバーチャルなキャラクター」、さらにデザインする方法や用途にとって、狭義的に三つの分類があると考えています。

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現在注目を浴び始めているの「2D/3D融合したキャラ」と「リアリスティックなVirtual Human」であり、わかりやすい例で言うと真ん中のGuggimonが直近Fortniteのキャラ販売に登場し、人気が急上昇しています。そして、今回ご紹介したLil Miquelaは「リアリスティックなVirtual Human」のジャンルにあり、作り方がより複雑且つ時間がかかる方です。

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ここで想定できる質問は、Virtual HumanってVtuberとはどこが違うかところですが、エキスパートにヒアリングし、Virtual Humanは相対的に一般大衆に受け入れられやすいということです。ただ、これがあくまで違いであり、片方だけが存在できる世界ではなく、むしろ共存してデジタルコンテンツの裾野を広げる異なる切り口と認識しています。

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 3.2、 市場の構造変化から垣間見るVirtual Humanが戦う領域

さて、Virtual Humanの作り方やユースケースから、市場構図(Vtuberを除く)はどうなっているのかを整理してみたいと思います。

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本来AIロボットがメインだったパブリッシャーは、IP創出型やユーザージェネレート型が軒並みに立ち上げられ、特に2020年から資金調達ニュースや事業拡大アナウンスが絶えずに取り上げられました。ここで注目する市場の成立に大きく三つの環境変化があったからだと思われます。

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特にミレニアム世代やZ世代(M&Z世代)はこの種のコンテンツに対するエンゲージメントの高さは注目すべきところです(弊社調査)。

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また、言及した米中Virtual Humanトレンドの違いは実は興味深いです。

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中国の方がVirtual Humanを好む理由に「本当の人間の代替」に対して、米国は「デジタルコンテンツの価値の拡張」という捉え方をしているそうです。よって、両マーケットにおいてVirtual Humanが現にディスラプトしようとする既存市場もやや違っており、中国は「インフルエンサー」、米国は「デジタルコンテンツ」という格好です。

4、Virtual Humanの真意ー「コンテンツコミュニティ」「アセットライブラリー」

米中トレンドがそこまで異なってたら、どちらが本物かは極めたいところです。Brudが本来SNSにストーリーテーリングを固執していたところから、NFTにおいて本当の意味での分散型セレブリティを作りたいと態度変容していました。

(訳、共同創業者de Ayora)私たちは、このNFTの特別版シリーズを使って、BrudとMiquelaの大きなテーマを探りたいと思いました。私たちは、変幻自在で未来的なストーリーテリングで人々を楽しませるスタジオです。私たちは、現実とフィクションの間にある物語の世界を構築し、Miquelaが世界中の視聴者と有意義な関係を築けるような物語を開発することを使命としています。私たちは、新しい世代のために、先鋭的で親しみやすいエンターテインメントを構築したいと考えています。そのためには、つながりやコミュニティの革新的なモデルを検討し、それらが将来どのようになるのかを見極める必要があります。私たちの信念は、クリエイターとファンがより密接な関係を築くことであり、NFTとコミュニティによるNFTの所有は、より意味のあるものへの第一歩です。このDrop(作品)は、そのオーナーシップを通じたコミュニティとの絆、そしてMiquelaとファンの絆を深めるためのものです。ーー「'It Is Scarce and Available to All': How Brud Is Using the Blockchain to Transform Storytelling」Sam Blake

つまり、Brudが考えるVirtual Humanの真意はより先鋭的なクリエイティブとコミュニティとの関係性にあると分解できます。それは個人創造力の自由化でもあり、コンテンツの形の進化でもあると考えています。

Tiktokの到来にと共に、ショートビデオが自由化になったみたいに、Metahuman Creatorのような即座にVirtual Humanアバターを作れるツールが出てきて、誰でも自分が表現したい世界を簡単に作れるようになったのです。例え自分が技術がなくてもそこまでセンスがなくても、自分が描きたい世界観を作るのに限りなく不可能な状態から、ある程度形を整えるようになるわけです。

また、NFT(Non-fungible Token)がもたらした一つの用途は、コンテンツを所有することで自分のアイデンティ証明できることです。米国投資ファンドアンドリーセン・ホロウィッツのブログでこのようにCrypto Punksと言うプロジェクトを「アイデンティの証明コミュニティ」と紹介しています。

(訳)CryptoPunksは、暗号コミュニティの準宗教です...利益のためにそれを売るよりも、このアーティファクトを保持してCryptoPunkコミュニティの一員でありたいということです。所有者は、プロフィール写真をCryptoPunkに変更することで、自分のアイデンティティを示します。ーー「Designing Internet-Native Economies: A Guide to Crypto Tokens」Patrick Rivera

Lil MiquelaもすでにNFTの販売もしていました。これはつまり、冒頭に書いたBrudが考えている「未来の構想」で、Lil Miquelaを単なるスタジオで作られたものではなく、ファンと緊密な関係性を持つコンテンツコミュニティになるということです。

まとめると、Brudが示してる構造的な変化として

1、デジタルの世界に長時間にいる人間としてデジタルなコンテンツとの適合性は一段と高くなる
2、技術の進歩につれて想像から創造への障壁が低くなる
3、一方通行だったコンテンツはよりコミュニティ性やゲーム性が高くなる

という3点に突き詰められると考え、次世代のインターネットにおいてVirtual Humanを切り口としてのストーリーテーリングは新しいコンテンツの形を提示してくれました。それはコンテンツでありながらも参加者のアイデンティティでもあります

最後に一つ答えなければいけない質問として、Virtual Humanはどこまで必要なのかということです。
米国最もエンタメ領域に有名なVC MatthewBallが出したとメタバースへの教科書でVirtual Humanに関してこのように記述しています。

(訳)このようなマーケットプレイスやライブラリを所有する者は、メタバースの時代に大きなアドバンテージを持つことになるでしょう。2000年代初頭のGoogleのマッピング/地理空間への取り組み...この情報は非常に価値のあるものとなり、Niantic(以前はGoogleの子会社)のような企業を立ち上げ、Pokémon GoやUberのような体験を可能にした。ーー「Content, Services, and Asset Businesses in the Metaverse」The Metaverse Primer, Matthew Ball

彼は直接的にVirtual Humanのことをコメントしているわけではなく、デジタル空間上にあるコンテンツ全体の認識を別の角度で解釈していました。コンテンツとしてのデジタルアセットはマップであろうが、Virtual Humanであろうが、低コストで広大な基礎要素を構築でき、「ライブラリー」化するプレイヤーが長期的に勝てると彼は目論んでいます。Virtual HumanのBrudはまさに再現可能な構築を方法模索しているそうで、自社でプロデュース方法とクリエーターと協力する方法両アプローチをし、今後のプラットホームの「ライブラリー」になる十分な先行者優位性があると思われます。
従って、「Virtual Humanはどこまで必要なのか」に対して、今後のプラットホームにおいて必要されるでしょうし、無限なデジタル世界に多大な創造が欠かせないと容易に想像できます。Virtual Humanは一つデジタルアセットとして今後メタバースの一環となり、未来の仮想都市のライブラリーになって、我々の想像の辺境を少しずつ崩していき、未知たる未来の道への入り口を案内してくれる役になるでしょう。

ただし、そうは言っても足元Virtual Humanビジネスは従来のコンテンツビジネスと類似しており、ヒット作を作り続けることが要されています。既存の構図を打破するために、「コンテンツコミュニティ」や「ライブラリー」におけるビジネスモデル革新の継続的な探索は伴わなければいけません。例えば誰もが簡単に自分のVirtual Humanの分身を持つとか、有名人のVirtual Humanを一部二次創作する権利を買うとか、今までトライできなかったモデルも実践できる余地があるであろう。

5、最後に


未来はどんな世界になるであろうか。それは誰しも簡単に定義できない命題です。しかし、分散型思想で作られたインターネット(Web2.0)は、一回プラットホームが中核を握る構造は、ブロックチェーンの出現により正真正銘なディセントライズド世界観をリアライズする可能性が見えてきて、要するに分散ー集中ー分散の循環に、また分散がビジネスの主流を支配する時代がやってきています。


それにメタバースのトレンドも同時に足元に波及してきて、労働と労働者の定義と価値も根本的に変わっていくのであろう。人間の労働は現実世界で物を作るではなく、デジタルの空間内にコンテンツ=インフラを作ることになるであろう。よって、リアル世界の労働概念がデジタルの世界へ移行すると同時に需給関係&労使関係も単純な労働→報酬ではなく、社会的地位などを定量化した上セットでもらえることができるでしょう。これによってビジネスの基本も変わっていき、全く戦い方の変わる未来は待たされている、と数々のヒアリングを通じて切に感じております。その時に「コンテンツコミュニティ」「ライブラリー」はキーワードになっていくのではないかと私は考えます。

今回はVirtual Humanという領域にクローズアップして長々と書いてみました。まだ未知数が多すぎるのは明白な反面、分かる人に分かる魅力は計り知らずに内蔵しています。尚且つ、この領域こそ日本は実力とリーダーシップを発揮できると思われ、もしご興味のある方がいらっしゃればTwitter(@lucheng_li)のDMなどでぜひディスカッション&情報交換させてください。

改めて最後まで読んでいただきありがとうございます。

※追記、2021年10月4日、DapperlabsばLil Miquelaを買収すると発表。やはりコンテンツコミュニティの流れは続きそうで、今後Lil Miquelaの展開に大いに注目です。

https://decrypt.co/82517/dapper-labs-nfts-daos-collectives-brud

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