オタクも紅茶を飲め2023年12月号 Part1

この記事は LipersInSlums Advent Calendar 2023 スラム社会実装の理論と実践〜もうみんな苦しんでる。苦しんでないのはおまえだけ〜 の 7日目の記事です.
昨日の記事はいなむのみたまさんの Gravity++ でした.

一般にオタクはコーヒーを飲む生き物であり,紅茶は飲まないとされている[要出典].実際に,著者の周囲にも紅茶を嗜んでいるオタクは2名ほどしかおらず趣味を共有できず悲しい思いをしている.そこでアドベントカレンダーに託けてオタク向けの紅茶実践入門記事を書くことで紅茶仲間のオタクを増やそうと思う.みんな,紅茶を飲もう!

ちなみにこの記事はタイトルに書いてあるとおりPart1である.思ったより分量が多くなってしまったので紅茶の買い方や淹れ方などの実践的な内容はPart2に回すことにした.AdCを書く時間が取れなかった故の苦肉の策じゃないからね!

紅茶って何?

紅茶の定義

オタク向けの記事なため,まず一般的に紅茶と呼ばれるものがどういったものを指すのか説明していこう.定義とかどうでもいいわという人は読み飛ばしてもらって構わない.
紅茶とはチャノキ (学名 Camellia sinensis)から摘んだ葉と芽を乾燥(萎凋(Withering)という)させて揉み込み,完全発酵させた茶葉,あるいはその茶葉から沸騰した水で成分を抽出した飲料のことを指す.
一般にチャノキの部位から作られる飲料が茶と呼ばれており,緑茶や烏龍茶もチャノキから作られている.

紅茶は味はもちろん,香り,水色も重要な要素とされており,各茶園や紅茶ブランドは理想の紅茶を求めて日々精進している.

紅茶は色々な国地域で作られており,それぞれの場所で特色が違ってくるため,様々な香りと味が楽しめる.紅茶オタクたち(の一部)は各地の農園の紅茶を飲んでその違いを楽しんでいる.

紅茶が一般に何を指しているか説明したところで,普段目にする紅茶について説明していこう.

紅茶のおおまかな種類

茶葉の提供方法

ペットボトル飲料の紅茶について言及することはコーヒー豆の話をするのに缶コーヒーについて言及するくらいナンセンスなため置いておくとして,普段スーパーで買える紅茶の茶葉や,レストランやカフェで頼むと出てくる紅茶の茶葉について説明しよう.

殆どの場合,スーパーで手に入る茶葉はティーバッグ(Tea bag)と呼ばれる小さな網目の袋に茶葉を詰めた方式で提供されている.これにはほとんどの場合カップ一杯分の茶葉が詰められており,これをカップにいれ上から湯を注ぐことで簡単に紅茶を楽しめる.
これに対して茶葉のみを提供するものをリーフティー(Leaf tea)と呼ぶ事が多い.リーフティーの場合,紅茶を入れるにはティーバッグを自作できるタイプの道具か,ポットと茶こしを使って入れる必要がある.手間が掛かるが,基本的にはティーバッグでいれるよりもリーフティーを使ってポットで入れたほうが美味しく淹れられる.

提供の仕方以外に,大まかな紅茶の種類がある.これは紅茶の栽培してる地域だとか,チャノキの種類だとかよりももっとマクロな話だ.
コーヒーでも存在しているように,紅茶にもフレーバーやブレンドという概念がある.

フレーバードティー

フレーバードティー(フレーバーティーとも呼ばれることがある)は茶葉に香料を噴霧し香り付けした紅茶のことを指す.おそらく人々がレストランやカフェで頼むと出てくる紅茶の99%がこれと言っても過言ではない.
誰もが聞いたことがあるであろうアールグレイと呼ばれる紅茶は,ベースの紅茶(祁門)にベルガモットの香料を着香したものである.トロピカルアイスティーとかもいい感じの香料を着香したよくわからん紅茶である.スーパーで売ってる紅茶の茶葉の殆どがこれ.メロンとかの香りがしてもメロンの味がするわけではないので注意しよう.

噴霧ではなく香料自体を茶葉と混ぜて匂いを移したりする方法のものもあり,名称が違ったりしているが手法による名称の違いは適当すぎるのであんまりあてにならない.

紅茶本来が持つ香料は温度が下がると感じられなくなるが人工的に着香した香料はその限りではないためアイスティーにしても香りが強い.そのため,レストランやカフェで提供されるアイスティーはフレーバードティーが多い.
フレーバードティーは,紅茶が持つ渋みや特徴的な味が緩和されてる物が多く,ガブガブ飲めるので夏にフレーバードティーを水出しで作っておくとQoLが上がることが知られている[要出典].

最も入手しやすく,最も一般受けする紅茶といえるだろう.
本稿では著者がフレーバードティーをほとんど飲まないためおすすめのフレーバードティーについては話せない.すまんな.

ブレン(デッ)ドティー

ブレン(デッ)ドティー (Blended tea)は複数の地域,茶園の茶葉を混ぜて味,匂い,水色を調整した紅茶を指す.単にブレンドと呼ばれることが多い.代表的なものはイングリッシュ・ブレックファストやアフタヌーンティーなどがある.

調整されているだけあり,品質は安定しており,味も飲みやすい.紅茶ブランドごとに同じ名前のブレンドでも微妙に味が違い,各ブランドの特色が最もでる紅茶といえる.各農園の紅茶の味は(農作物であるため当然ながら)全く安定しないため,紅茶ブランドのティーブレンダー(紅茶のブレンドの調合をする人)の血の滲むような努力によって安定したブレンドの味が維持されている.

紅茶ブランドの中には地域の名前を冠した紅茶(e.g. ダージリン)があるが,これは実はブレンドだったりする.前述した通り,農園の茶葉の味は毎年違うため,その地域っぽい味に調整したブレンドという需要がある.

入手性もよく,スーパーでは買えないかもしれないが各紅茶ブランドの店舗で購入できる他,試飲もできる.紅茶飲んでみたいんですよ~とか言って店員に色々聞けばお気に入りの茶葉を見つけることもできるだろう.

紅茶っぽい匂いと味のする紅茶を飲みたい場合,品質が安定しているため紅茶ブランドのブレンドから入ることをおすすめする.
しかしながら,著者がブレンドをほとんど飲まないためおすすめのブレンドについてまたしても話せない.まじですまん...…

シングルオリジンティー

シングルオリジンティー(Single Origin tea, ピュアティーとも呼ばれる),は茶園から出荷された紅茶そのものを指す.地域と農園の名前を冠し,茶葉のグレードやロット番号も書いてある.

前述した通り,地域や農園,年度,収穫時期,ロット番号 (ロット番号でさえ!) によって味や香りは大きく異なるためその違いが面白く,フレーバードティーでもないのにすごい良い香りがしたりと,飲んでいて非常に楽しい.

一方で,去年美味しいかった農園が今年の出来はいまいちというのも多いため,博打の面が強く試飲なしで購入するには勇気がいる.
故に紅茶オタク同士で今年のサングマの2nd DJ-101美味かったよ飲んでみみたいな情報共有が行われることになる.

紅茶も農産物なので旬があり,クオリティシーズンと呼ばれている.クオリティシーズンは産地ごとに違うため,クオリティシーズンの茶葉を買い集める生活をすると積読に押しつぶされるがごとく積まれた茶葉に押しつぶされて死ぬことになるので気をつけよう.

紅茶の産地

シングルオリジン(や一部のブレンド)の話をする上で避けて通れないのが紅茶の産地である.ということで,有名な紅茶の産地を紹介する.
シングルオリジンティーは国の名前ではなく地方の名前で呼ばれる傾向があるため,紅茶を生産している地方の名前のついた代表的な茶葉についても記載する.各茶葉の味が気になる人は名前でググってくれ(味や香りを言語化できる自信がない).

インド

世界一の紅茶生産量を誇るのがインドである.世界三大銘茶の一つダージリンはインドの西ベンガル州ダージリンが産地の紅茶である.他に非常に有名な産地としてインドのアッサム州で栽培されるアッサムがある.以下に主な茶葉を上げる.

  • ダージリン

  • アッサム

  • ニルギリ

  • シッキム

  • カングラ

一応,有名なダージリンとアッサムについて味がどのような傾向にあるか説明しておこう.匂いと味の言語化に自信がないため参考程度にしてほしい.

ダージリンは水色が他に比べて薄めである.
ダージリンのクオリティシーズンは3つあり,それぞれ1stフラッシュ(春摘み), 2ndフラッシュ(夏摘み), オータムナル(秋摘み)がある.
1stフラッシュは草花のような香りが強く,味は苦味が若干あるが爽やかである.
2ndフラッシュは味と香りのバランスが良く,若干甘みを感じられる香りにしっかりとしたコクと甘みが感じられる.特にマスカテルフレーバーと呼ばれるものはどっしりとした味わいがする味に魅力のある2ndフラッシュである.
オータムナルはほとんど香りがせず,味に極振りしたようなダージリンで,甘みとコクがすごい.万人が飲めるタイプのダージリンと思っている.

ダージリンは味や匂いが繊細なので,茶葉にもよるが,ミルクティーやレモンティーには致命的に向かないものがある.お茶請けにお菓子を食べる時でさえ,舌が麻痺してダージリンの味が感じられなくなることがある.お茶請けも慎重に選びたい.

アッサムは甘みとコクが強く,香りは控えめなことが多い.若干の苦味があり茶葉が濃くでる形状をしているので濃いめにいれてミルクティーにするのに向く.ミルクティーにして砂糖を一匙淹れても紅茶の味がしっかりしている.チャイにするのもおすすめ.

スリランカ

世界二位の紅茶生産量を誇るのがスリランカである.旧国名のセイロンから名を取ってセイロンティーと呼ばれる.世界三大銘茶のウバはスリランカのウバ州が産地の紅茶である.実は午後の紅茶に使用されているのはセイロンティーである.以下に主な茶葉を上げる.

  • ウバ

  • ディンブラ

  • ヌワラエリヤ

  • ルフナ

  • キャンディ

  • サバラガムワ

  • ウダプセラワ

セイロンティーは味と香りの解説できるほど飲んでないので解説は省略する.今年のルフナは美味しかったよって話しかできなくてごめんね.

中国

歴史的に古くから紅茶を作っていたのが中国である.世界三大銘茶の祁門は安徽省祁門県が産地の紅茶である.著者は中国紅茶を全然飲まないため祁門と正山小種しか知らない.

茶葉のグレード

シングルオリジンのリーフティーには茶葉のグレードというのがある.紅茶を買った際にパッケージに書いてある謎のアルファベットの羅列がそれだ.

これが何かというと,葉のカットの大きさや芽をどのくらい含んでいるかを表すものである.美味しさではなく,葉のカットの大きさや芽が含まれている量が茶葉のグレードを表すとはどういうことだろうか.

少し遠回りして,まず茶葉摘まれる時の話をしよう.チャノキの枝の先端の部分を芯芽(Tippy)と呼び,茶を詰むときにこの芯芽と,芯芽から近い葉2枚程度を詰むことが多い.特にこの芯芽のうち若いものは色が白だったり黄色だったりし,これをゴールデンチップと呼ぶ.
若い芯芽は産毛が生えており,紅茶を淹れると産毛が水面に浮かぶことがある.これを埃と間違える鉄板ギャグも存在する.
この芯芽が多いと紅茶のうまみが増すといわれており,故に芯芽がどの程度含まれているかが茶葉のグレードに影響している.

とはいえ,実際にグレードが高いほど美味しいとも限らず,あくまで茶葉の形状に対する分類以上の意味はないと思っていいだろう.
以下でよく見る茶葉のグレードを説明する.

Orange Pekoe

Orange Pekoe (OP) は若い葉,若い芯芽で作られた茶葉の等級である.針状の葉っぱの中で葉肉が薄いもの事が多い.芯芽をちょっと含んでいる.淹れると水色は薄めで香りが強い傾向にある.等級だけでなく高級な紅茶の名前として紅茶ブランドが使っていることがある.用語を濫用するな!

Broken Orange Pekoe

Broken Orange Pekoe (BOP) はOPの葉を細かく砕いたもの.加工の際に葉がよく揉まれている.BOPの紅茶を淹れると水色は濃く,味も強い.
アッサムやセイロンはBOPの茶葉が多い傾向にある.味が強くでる点から,ミルクティーやチャイに向く茶葉がBOPに加工されていることが多い.
逆に繊細な味と香りが特徴なダージリンがBOPになることは少ない.

Flowery Orange Pekoe

Flowery Orange Pekoe (FOP) は若い心芽を多く含んでいるOPのことである.若い心芽なので産毛が生えてることが多い.

Tippy Golden Flowery Orange Pekoe

Tippy Golden Flowery Orange Pekoe (TGFOP) はゴールデンチップスが含まれるFOPのこと.更に良い感じのゴールデンチップスが含まれているとFineがついてFTGFOP,もっといい感じだとSがついてSFTGFOPに,その中でもできが良いと1が末尾について SFTGFOP1になる.もうめちゃくちゃや.ここまでグレード表記が長いのは基本ダージリンとその周辺の産地の茶葉くらいである.
農園から仕入れている紅茶専門店とかでダージリンを買う場合,大半がSFTGFOP1だったりFTGFOPだったりするので,あんまりありがたみがわからないグレードである.

CTC

CTC製法で作られた茶葉のこと.CTCはCrush, Tear, Curlの頭文字で,茶葉を加工する際に機械を使って潰しながら引き裂いて丸めるもの.茶葉が小さいつぶつぶになってるため全体の表面積が広くなった結果,抽出速度も早ければ味も水色も濃い.
製法を主に指すので,BOPに吸収されCTC BOPなどと書かれることも多い.
コスト面で他の製法より有利なため,安い産地も書いていない茶葉にCTC製法が使われていることが多い.
BOPと同様に,アッサムやセイロンの茶葉がCTCが見られ,ミルクティーやチャイに向く.

こんなに書いてあっても覚えられないって?
BOPと呼ばれるタイプは葉がカットされており細かい,CTCはもっと細かくて蚕のうんちみたい,ほかはアルファベットが多いほど農園は味に自信があって値段も高いということだけ覚えておけばいい.

基礎的な知識については一通り学んだし,座学は十分だろう(読み飛ばした人もいるかも知れないがそれでも良い).いよいよ茶葉を買うときが来た.

というところで長くなってしまったため今回の記事はここまでとしよう.Part2では茶葉の買い方,紅茶の淹れ方と器具,紅茶の保存方法と実践的な内容をまとめていくつもりだ.ぜひこちらも読んでほしい.
元気があればもしかしたらダージリンの各農園の話や,チャノキの品種(中国種,アッサム種,クローナル)の話も書くかもしれない.期待せずに待っていてほしい.

明日のアドベントカレンダーの記事はAlwe_Logicさんの今更解説する統合戦略#2「ファントムと緋き貴石」です.IS#3の記事も書いてくれ頼む.


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