見出し画像

「いかがでしたか記事」の裏側-しょうもない記事はこうしてつくられる

ここ数年、インターネットで何かを検索すると「〇〇する方法10選!」だの「〇〇とは?どこで買える?使い方を紹介!」だの、コピペみたいなタイトルの記事ばかり出てくる。
どれも内容はペラペラである。ほほえむ外国人のフリー素材や、LINE調の会話ふきだしで水増しされていて、ほしい情報にたどり着くまでに何度もスクロールしないといけないようになっている。見出し。スクロール。広告。ふきだし。スクロール。広告。スクロール。広告。いかがでしたか?
最後まで読んでもたいした情報はない。

これらを総称して「いかがでしたか記事」と呼んでいる。この手の記事はたいてい最後を「いかがでしたか?」でしめくくっているからだ。
この「いかがでしたか?」が悪い意味で有名なミームになってしまったので、クライアントのほうも「『いかがでしたか?』は使わないでください」と注文してくるようになったのが笑える。使わなくてもどっちにしろ内容が薄いことに変わりはないので「いかがでしたか記事」に分類する。

以前から「なぜ、こんな粗悪な記事があふれているんだろう?」と不思議に思っていたのだが、ライターとして仕事を受けるうちにその正体が見えてきた。あれの大半は素人が書いているのだ。

あの手の記事は1文字0.1~0.9円ほどの激安価格で作られている。クラウドソーシングサイトをちょっと覗けばゾロゾロ出てくるだろう。私のnoteの記事はだいたい1本3000文字くらいなので、いかがでしたか価格に換算すると1本につき300円だ。1時間で書くと時給300円になる。もちろん記事によってはこれよりずっと時間がかかる。そんな値段でまともなライターが集まるわけがない。募集する側もそれほど期待はしていないようで「主婦のみなさん、空いた時間でお小遣い稼ぎしませんか?」なんて書いてあったりする。

一方で、かなり専門的なスキルを求めてくるものもある。「英語・中国語できる人」「整備士の経験がある方」など、本来はそれなりの対価を払うべき技能だ。そんな人材をこれっぽっちの賃金で雇おうなんてずいぶん図々しいな、と呆れるが、生活のためにやむなく引き受ける人もいるのだろう。

いずれにしても文字単価がおそろしく低いので、それなりに稼ぐには品質を犠牲にして数をこなすしかない。こうして大量のいかがでしたか記事が乱造され、検索結果を埋め尽くしていく。

こんな依頼を出すクライアントの質もどっこいどっこいで、「24時間以内に連絡必須です!」と言っておいてあちらからは5日間も連絡がなかったり、テストライティングで絶賛していたにもかかわらず、記事を提出したら「クオリティが基準に満たないのでやっぱり報酬はナシで」と平気で言い放ったりする。
後者のクライアントは、数週間後に「○○様にぜひ執筆していただきたく……」とまったく同じ案件でメールを送ってきた。社内の情報伝達さえできていないとみえる。さすがに腹が立ったので「貴社には前にも同じ案件もらってリジェクトされましたけど。報酬もちゃんと払ってくれないし。ていうか、こんなことも社内で情報共有できてないわけ? あなたの会社、大丈夫?」を丁寧な文章の特級オブラートに包んで送っておいた。

さて、こんな低質な記事にも一応マニュアルのようなものはある。「ようなもの」と書いたのは、そのマニュアルの質も総じて低いからだ。
まず、記事のひな形だけはきっちり決まっている。どのサイトも「見出し→導入→本文→まとめ」の流れはだいたい同じだ。記事によっては段落ごとに「ここがポイント!」というミニまとめや「市販のミックスを使うことで、簡単に作ることができるんですよ。」「なるほど、そうすると簡単に作れるんですね。」といった虚無のふきだし会話が入ることもある。このように、それぞれのパートで同じ内容を繰り返すことで、スカスカの内容を水増しすることができる。
それに加えて「このキーワードを、段落ごとに最低○回使うこと」などの指示が入る。使うべきキーワード一覧が添付されていることもある。
これに沿って書いていけば、どんなに文章力が低くても「記事っぽいもの」ができあがるようになっている。

しかし、肝心の内容についてはおぼろげな指示しか与えてくれない。単価が安くなればなるほど指示もあいまいになる。基本的にはライターに丸投げである。そのくせ細かい部分の注文だけはうるさい。しかも悪い部分がどこなのかをはっきり言ってくれないので、改善のしようもない。書く側としては「この部分がイマイチなので、こう修正してください」といった指導があれば非常にやりやすいのだが、そういうのが一切ないから困る。

ひどいものだと「医療についての記事です。内容はインターネットで検索して書いてください」という指示まであった。それは剽窃というのではないか。平たく言えばパクリだ。だいたい医療関係の記事を素人に書かせちゃダメだろう。医療や金融の記事はYMYL(Your Money Your Life)というジャンルに属し、Googleの検索品質評価も厳しいはずだ。

彼らは口をそろえて「SEO対策を意識してください」と言う。SEOとは「検索エンジン最適化」の略で、要するに「Google検索で上位に来るように工夫してください」ということだ。彼らが出す指示のほとんどはこのSEO対策に基づいている。しょうもない記事が上位に表示される理由はこれだ。検索エンジンの使用者にとっては迷惑な話である。

なぜこうなるかだが、依頼する側もほぼ素人で文章のことがよくわかっていないせいだろう。私がこう考えるのは、相手からのメールも助詞がおかしかったり日本語の使い方を間違えていたりするからだ。絵文字や顔文字が多いのも気になる。なにも絵文字を敵視しているわけではないが、ビジネスシーンにはふさわしくない。
「○○様、ご依頼を受けて頂きまして有難うございます(^^)3日以内までに提出をお願いしてます‼宜しくお願いします_(._.)_」みたいなメールを受け取ると、その場で添削して送り返したい気持ちになる(実際に添削することもある。送り返さないけど)。相手も日本語ネイティブのはずなのだが……。

そりゃあ私だっていつも正しい文章を書けているわけではない。noteでは段落のはじめを1文字空けたりはしないし、かぎかっこは半角しか使わないが、いかがでしたかメールはそれとは次元が違う。AIに校正させればいくらかマシになるかもしれない。

経験上、こういう文章を書く人は読む能力も弱い。書いていることを読めないにもかかわらず、書いていないことを勝手に読み取ってくる。お互い日本語を話しているのに日本語が通じない。このような相手とやり取りするのはものすごく骨が折れる。追加料金をもらわなければ割に合わない。

私がクラウドソーシングサイトをやめたのは、こんなクライアントばかりで心身ともに疲れてしまったからだ。まともな報酬と執筆マニュアルをいただける案件があったならぜひお受けしたい。
(おわり)

(サムネイルは「外国人 フリー素材」で検索して出てきた適当な写真に適当なフォントの文字を打ち込んだ適当な画像です)

この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,545件

フルツとか医学書とか買います