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週刊リーグアン#16

欧州の主要ぶ舞台のチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、コンファレンスレーグはグループリーグが終了し、日本時間の18日に決勝トーナメント&プレーオフの抽選会が行われました。

リーグアン勢は全てのチームが次のラウンドへの可能性を残し、組み合わせは以下の通りとなりました。

CL
PSG×レアル・ソシエダ🇪🇸

ELプレーオフ
RCランス×フライブルク🇩🇪
マルセイユ×シャフタール🇺🇦
レンヌ×ミラン🇮🇹
トゥールーズ×ベンフィカ🇵🇹



①矛盾[ほこたて]のアンバランス

順位が離れているとは雖も第16節の口火を切ったのが「モナコ×リヨン」の名門対決。前者はレンヌに辛勝し、後者はトゥールーズに勝利して今季初の本拠地白星を飾りました。

前節勝利したとはいえ、決して褒められたものばかりではない内容になった両者。この試合は後半の両者のアプローチから見ていきましょう。

後半のモナコ(赤)の攻撃的布陣

5-4-1の低ブロックで徹底的に構えるリヨンに対し、終始ボールを握る展開が続いたモナコ。今節の痛手は核のゴロヴィンを出場停止で欠いたことで、攻撃陣のコンビネーションが皆無でした。南野も前半のスタッツでは、バックスからのパスの割合がほとんどで、中盤以降と効果的な絡みを生み出すことができていませんでした。

引いた相手に対してヒュッター監督がよく採用するのが、アンカーを1人置いた状態から前線中央寄りに人数を増やして楔の選択肢を増やし、危険なバイタルエリアで効果的な攻撃を生み出そうという狙い。

前半途中から後半にかけての変更は、相手のディフェンス陣もマークをつけ辛い状態になり押し込むことはできました。

しかし、この試合でも目立ったのはモナコのディフェンス面の荒さ。カウンター時はヌアマをアイソレーション気味にさせて、出し手のカクレ・BtoBのトリソという中盤の関係性を明確にしながら少ないチャンスをものにしていこうという流れ。

モナコの醜態と共にリヨンの交代采配が実ったのがまさに決勝点でした。

リヨン(青)の決勝点の構図

この構図はRWBクリントン・マタに対してほぼ闇雲に南野とヤコブスの2人で囲い込んだシーンから始まります。WBが高い位置までプレッシャーに行っている状況なので本来であればファール覚悟でも奪いたい局面。

しかし、斜めのカクレ宛にボールを通されると(1対1におけるプレス耐性はリーグトップクラスのカクレ)、メイトランド=ナイルズのマークから慌ててフォファナが切り替えますが、逆にメイトランド=ナイルズがフリーになり、これも慌ててサリスが寄せる状況に。

近い人がプレスをかけるチームとして何の連動性もないお気持ちの守備により、リヨンの面々にいいように交わされて決勝点を献上しました。

逆にリヨンは、「ボールに対して斜めの位置を取る」動きの連続という普遍的な動作をしたまで。「出し手=カクレ」という明確な役割は残しつつも、攻撃に絡んだ全員が(ほぼ即興的に😅)斜めの立ち位置を意識した動きを連続させたことで、最後はジェフィーニョがマイナスで決めました(近代におけるクロスの選択肢は「ニアorマイナス」が主流)。

最終的に前線を総入れ替えさせてフレッシュな選手を大量に投入したことも起因したリヨンの決勝点。ピエール・サージュがベンチメンバーも含めて「どういった状況でこの選手を使えば良いか」といった現状整理も段階的に進んできました👏

一方、フローラン・ダバディ氏に「草サッカー」と表現されることの多いモナコ。カバーIQの低いカマラを筆頭に(ヒュッターがカマラを毛嫌いしている理由)、トランジションにおける、近い人が即興的に捕まえに行くスタイルはメッキが剥がれてきています。スピードのあるディフェンダーを3人並べて脳筋的に補完しているとはいえ、チームとして構造的な守備ができなければこのような状況・このような失点or敗北が増えるのは当然。南野拓実に加えてアフリカ選手権で多くの選手を欠く1月はもっとクライシスな状況に陥るかもしれません。

守備の基本的な動作においては私はこの本を参考にしています。これを読むと「サッカーを見る目」が変わってくるはずです。



②問題は選手の質 監督の評価は

同じ“ランス”表記でも所在する地方が異なれば、発音も全く異なるのが「RCランス×スタッド・ランス」。

詳しくは以下の動画の冒頭部分におけるフローラン・ダバディ氏の解説を参考に
(近日中にこの発音の違いに関する動画を収録する予定です🤗)

昨季の主軸を失ったマイナスの状態から、スカッドのバランス調整を含めて徐々に帳尻を合わせてきた北部のRCランスに対し(9/17以降リーグ戦負けなし)、最近は黒星が先行しているスタッド・ランス。

この頃自分の質問箱にスタッド・ランスの現状を嘆く方々からの質問が多く寄せられていますが、私からすれば「ウィル・スティル監督はこのチームでうまくやっている方」だと断言できます😤

それを裏付けるこのRCランス戦に対するウィル・スティルの分析力を活かした準備を紹介したいと思います。

まずはこの図を見て頭の中を整理してみてください

スタッド・ランス(黒)の攻撃時の配置:図①


あえてここでは上記の図の現象を説明せずに、この現象が引き起こしたダラミーのゴールがオフサイドになった場面を振り返ります。

ダラミーの幻のゴールに繋がるまで:図②

オクムの楔を引き出した伊東純也がCBアイダラを背中につけながら、入れ替わる形でカドラにフリック。カドラは持ち前の推進力を活かして運び、純粋なかけっこ(よーいドン)ならCBダンソに走りかつダラミーへスルーパスを送った場面です。


この2枚の図では何が違うでしょうか。

初期の立ち位置を振り返りましょう。まず日本人両WGが大外に張ることで相手のWBをピン留めし(WBが前に出づらい状況)、前線のダラミーに加えてカドラとテウマの両インサイドハーフが相手の中盤の裏・相手CBの前に出ることで相手の守備にプレッシャーを与えていました。


①仮にSBに対してWBが前がかりに来た場合は大外のWGが脇のCBを引き付けてインサイドの中盤と絡めればいい
②相手が中盤も含めて前がかりなプレスに来た場合は両インサイドハーフが出口になればいい
→結局大事なのは相手の中盤にプレッシャーを与えることで、相手は前がかりに行くか下がるかの設定をしにくい
 スタッド・ランスからすれば前から来るならシンプルに出口を使えばいい、来ないならバックスには余裕がある


この立ち位置によるプレッシャーから、結果にこじ付けたのがまさにダラミーのシーンです。もう一度

まず1枚目の図の状況と違うのは中盤の立ち位置。マトゥシワの近くに寄せることで相手の中盤の視界に入っています。RCランスからすると異なるのは、LWBフランコフスキの立ち位置。インサイドに寄った伊東のマークをアイダラに任せてRSBアグバドゥ狙いの前めの位置をとっています。

この状況により、伊東とカドラが自身の背後につく守備者を意識しながらの縦関係を活かし(フリック)、足の速いダラミーを含めて各々の持ち味を存分に発揮したシーンでした。いわゆる図1(最初の画像)はジャブ。相手の守備設定・周囲の状況を察しながら前がかりに来た中盤の裏を取ったシーンですが、図1のジャブが効いているからこそ生まれたシーンです(相手は中盤における守備設定ができない状態)。


こういった、相手の守備の立ち位置を踏まえた分析力による攻撃の創造性はさすがウィル・スティル👏 自分も最初の立ち位置を見た際に「なるほど!」と思える箇所がたくさんありました。ちなみに前回対戦でもウィル・スティルは分析力を活かしてRCランスを苦しめました(中盤に混沌を生み出し相手のバックスに負担をかける)。

前回対戦のハイライト
(今回の構造はムネツィが飛び出してダンソが一発退場になったシーンと酷似)


さて、以上を以てしてなぜ敗れたのかとジレンマになるのがスタッド・ランスを応援している方々の心情かと思いますが😅、個人的には1点目の構図の方が気になりました。

RCランス(黄)の先制点に繋がるまで

4-3-3からのハーフウェーライン以降は4-5-1気味に構えていたスタッド・ランスですが、ここではテウマが前に出て4-4-2気味に。ダンソとサンバが横並びで構えて(いわゆるキャノン砲×2)RCランスのが右肩上がりの配置を取っていました。

テウマが前に出ると共に、中村が右に張るクサノフに寄せたことで、左サイドは薄くなっています。相手の薄くなったスペースを活かして、左→右に動いたフルジニへロングボール(トマソンが方向指示している)。慌てて近くにいたデ・スメトが競りますが、後ろに逸らされてアギラルのフリーの状況を生み出されています。

クロッサーのアギラルの方にスタッド・ランスの守備陣が傾く(左にスライド)と共に、ファーに逃げ込んだサイード(相手と逆ベクトルを取る技術:ベンゼマが得意なオフザボール技術の1種)。その手前でオクムとGKディウフが重なって処理を誤りました。

この2人の連携ミスよりも、その前の段階での全体的な守備の構図の方に疑問が残りました。今季のスタッド・ランスは、初期の守備設定が崩れた際の補完性が希薄で個人主導になってしまうこと(前線がムダ走りしている場面も)と共に補完できるだけの守備能力に優れた人材がいないことが課題として挙げられます。

仮にオクムとディウフの間で処理できたとしても「結果オーライ」にしたくはない派です。相手の例外に対応できず(この場面はある意味即興的ですが😅)、ほぼ自滅している姿はきっと多くの方の目に留まっていることでしょう。ただ、総合的な観点からすると「うまくやっている方」だと思います!



③実は「天王山」 最後のパスの意図は

前回の記事で注目試合に挙げた「リール×PSG」。公式戦14試合無敗を維持しているリールと、リーグ戦では8連勝中のPSGによる対戦は個人的には「天王山」の位置づけにしても良いぐらいの関心を持って視聴しました。

毎試合スタメンをコロコロ変えるルイス・エンリケ監督。この試合では守備時にRSBを務めるザイール=エメリが攻撃時にインサイドに寄る3-4-3のような布陣を取りました。

PSG(白)の攻撃時とリール(赤)の守備時の配置

いずれにせよ攻撃時に3バック気味になることはリール側にも折り込み付きだったでしょうから、ここではリールの守備時のアプローチに注目しましょう。

少し歪な4-4-2スタイルの守備を取ったリール。RWGジェグロヴァの中切りプレスに代表されるように(左のグドムンドソンも同じスタンス:ヴィティーニャへの限定からイスマイリーヘルプに移行)、中を閉めて外のWGに逃すという守備を取りました。

ブロックを敷いた相手に対する、ボールをもらいたくて動きまわるエンバペは相手にとっては脅威を生み出し辛く(自分が動けばボックス内が薄くなる:フィニッシャーの欠如)、相手からすれば純粋にボールサイドに寄せれば全く怖くない状況が生まれました。

攻撃時は細かいステップと後出しジャンケンを駆使した選択肢の多さが際立つジェグロヴァをアイソレーション気味に配置して攻撃の脅威を増したリール(個人的にはアザールを回想)。プレス回避能力の高い中盤を軸に最高の雰囲気のもとで挑みました。

前半途中から後半にかけてルイス・エンリケが時折声を高らかにして指示していたのが、サイドハーフの立ち位置。

PSGの後半の立ち位置

右はヴィティーニャ、左はイ・ガンインが相手の中盤の脇のスペースに固定することでWGへの斜めのパスコースを徹底的に作ると共に、WGと開いた両者の関係性を生み出していこうという狙いは見えました(前半ではデンベレが2人引き付けた間のハーフスペースからヴィティーニャがシュートを打つ場面・後半は脇のCBが上がる機会がちらほら)。


さて、この試合で注目したいのはリールの土壇場の同点弾の起因になったアセンシオのパス。その場面を(カメラは細部まで撮れていませんでしたが😅)振り返りましょう

リールの同点弾の起因となった場面

まずはその前の段階から状況整理。1点をもぎ取るべく攻勢を強めていたリール。舞台はAT3分台で左サイドカベラのイスマイリーへのパスがアセンシオに当たってリール側のスローインになりそうだったとこから。

アセンシオはギリギリのところでマイボールにした勢いのままに出し所を探ります。ここでリールはイスマイリーがそのままアセンシオの背中にアプローチすることで体をサイドライン方向に向けさせず、アセンシオに寄ってきたマルキーニョスに対してはデイビッドがコースを切りながら寄せて、カベラが味方2人の矢印を活用して守るゾーンが決まったという場面。総じて言えば即興的なゲーゲンプレスに近い守備です。

アセンシオの感覚としては背中にイスマイリーが寄せているのは感覚的に感じていたでしょうし、マルキーニョスに寄せるデイビッドも最初に寄せていた段階で見えていたと思います。その他の選択肢としてザイール=エメリが見えていたでしょうが( or間接視野 or立ち位置による斜めの感覚)、おそらくカベラは見えていなかったので死角から狙われた状況であると考察します。

相手に背を向けた体勢から逆サイドに飛ばすことは厳しいでしょうし、脳筋的かつやや投げやりに強めのパスを出したのが気がかり(相手はコースを読みやすい姿勢によるパス)。個人的には最初はイスマイリーとは正対できる距離にあったと感じるため、その場面の判断が気になりました。


今節の「リール×PSG」はスタジアムの雰囲気も含めて多くの方にご覧いただきたい1戦です。DAZNでは視聴期限(1週間)が限られていますので、ぜひお早めに。



今節の結果まとめ

2023/12/16
モナコ 0-1 リヨン

2023/12/17
ル・アーヴル 3-1 ニース
RCランス 2-0 スタッド・ランス
ナント 0-2 ブレスト
ロリアン 1-2 ストラスブール
メス 0-1 モンペリエ
トゥールーズ 0-0 レンヌ

2023/12/18
マルセイユ 2-1 クレルモン
リール 1-1 PSG


第16節を終えた段階での現在の順位表がこちらです。




次節の注目ゲーム

さて、今年もあとわずかになりました。リーグアンは今季から18クラブ制となり、日程が緩和されたものの、今季初かつ唯一(予定)のミッドウィーク開催で前半戦を締め括ります。

その第17節に注目したいのが、「ブレスト×ロリアン」の[Derbey de la Bretagne]ブルトン・ダービーです。

両クラブマスコットによるダービーを煽る看板
(近日マスコット特集をするのでお楽しみに)

フランス西部ののどかなブルターニュ地方の街をホームタウンに置く両者ですが、昨季のこの顔合わせではキックオフ数時間前にサポーター同士がスタジアム外で衝突し、数件の乱闘と共に路面電車が停止する事態に。のどかな地方クラブによる対戦と雖も自治体はこの対戦を「危険度レベル4」に分類しています。

暫定的に5位という順位で躍進しているブレストですが、各要素にリーグ中位クラブの中ではトップクラスの実力者を備えています(ビゾット ブラシエ レースメルー デル・カスティジョ)。総合力を活かして下位のクラブには滅法強く上位のクラブには滅法弱いのが現状です。しかしそれだけの力を有しながら昨季失敗した開幕スタートに成功しています。重要なのは格上に勝つことよりも、同等の相手にいかに取りこぼさないかが焦点だと思いますので、前半戦を良い形で締めくくることができるでしょうか。

リーグ最小得点タイかつ最多失点を誇り、ここ7試合勝利がないロリアン。このクラブは逆に上位のクラブには良い結果を示していますが、順位が近い相手には大量失点を重ねているのが現状。保持の段階でフェーヴル頼みになって何も生み出せず、中盤が間延びする状態が連鎖して失点の増大につながっています。そもそも昨季からモフィやル・フェを抜かれた状態からブラッシュアップができておらず、このままでは厳しい状態です。現地メディアが「第17節がル・ブリ監督の最後になるかもしれない」と報じているように、ウィンターブレーク後には別の監督が率いているかもしれません。



23/24 リーグアン 第17節日程(日本時間)

2023/12/21
 5:00 ブレスト×ロリアン
 5:00 クレルモン×レンヌ
 5:00 リヨン×ナント
 5:00 モンペリエ×マルセイユ
 5:00 ニース×RCランス
 5:00 PSG×メス
 5:00 スタッド・ランス×ル・アーヴル
 5:00 ストラスブール×リール
 5:00 トゥールーズ×モナコ

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