週刊リーグアン#12
🇬🇧のロックバンドThe Beatlesの新曲「Now And Then」がリリースされてから一週間近く経ちました。もうみなさんはお聞きになりましたでしょうか。
本作は元々ジョン・レノンが生前にラブソングとして制作していたとこから、途中段階の曲をAIの技術を活用しながら完成させたとのこと。
自分はThe Beatles世代ではないですが、今回の曲はThe Beatlesとしての哀愁を感じるメロディ及びミュージックビデオだなと勝手に感じました。サブスクリプションが主流の現代ですが、CDショップに赴いて彼らの最後の新曲を現物と共に思い出の中に留めたいと思います。
①受け身になるか、ならないか
さて、ここからはいつも通りリーグアンの試合のレビューを。前回私は「スタッド・ランス×PSG」の試合を注目試合に挙げ、上記のタイトルを試合の見所として設定しましたが、試合はこの予想通りの展開となりました。
ウィル・スティル体制になってからのスタッド・ランスの真骨頂は「マンツーマンプレス」。相手のビルドアップの配置に対しての人を当てる策はかなりリスクが高めですが、フィジカルコンタクトの基準が緩いリーグアンにはうってつけ。ウィル・スティルはPSG戦に向けての練習にて、かなり悪質な審判をミニゲームに採用したそう。「PSG戦では何が起こるかわからないから、これぐらい覚悟しとけ」という理由で試合の雰囲気も含めてかなり入念な策を練ってきました。
大外に両WG、最前線にゴンサロ・ラモスを残すPSGの配置に対して上記の図のように人を当てて高い位置で奪取して速攻に繋げるのがお決まりのスタッド・ランス。伊東純也とリシャルドソンの位置交換はありながらも、相手両CBに中切りで2トップがプレスし、背中を見せた瞬間にはGKまで2度追いしてロングキックを蹴らせるという第1陣のプレス。
ワイドに張る両SBにも同じく人を当てるのはもちろんですが、相手の中盤3枚に対してイ・ガンインにRWBフォケ、ザイール・エメリにLCBアブデルハミドが内側にスライドして(かなりリスキー)全てを完全に人ではめるという戦い方。
エンバペ対策としてスピードとフィジカルに自信のあるアグバドゥを当てた影響から、フォケの役割がイ・ガンインマークとなった右サイド。左は上下動が控え目のデ・スメトを大外デンベレマークにしたことで、キャプテンのアブデルハミドがCBの位置から相手陣内までプレスしました。
プレスを剥がされた場合には自陣に速攻に戻って2トップが両サイドを埋める5-4-1のブロックを形成しました。
次に攻撃面。両WGの裏のスペースが広大に空いてしまうPSGの穴を突くべく、この日は2トップのダラミーと伊東が各々得意なポジションでプレーする作戦を立てました。
右は伊東、左はダラミーが大外でボールを受けてから仕掛けるという体制。この試合で目立ったのは左サイド。本職がRSBではない守備面に不安のあるソレールにこちらは本職のダラミーを当て、仕掛けたところにCBがつけば、その空いた中央のスペースを生かしてムネツィや伊東がフィニッシュに絡むという構図。
左サイドでの攻めが目立った前半は、ネガティヴトランジションにおいても躍動感が伺えました。ゴンサロ・ラモスが右寄りのポジションに降りてくるのに対してもオクムがそのまま付いていき、出口を完全に塞いで2次攻撃を目指す狙いがはっきりしていました。
開始早々に先制点を許したものの、前半は攻守両面で上回ったスタッド・ランス。しかし、後半にその抗争が一気に逆転しました。
スタッド・ランスの課題として長らく議論されているのが、「前後半のパフォーマンスレベルの違い」。後半にヴィティーニャを投入し、イ・ガンインを偽9番に据えたPSGが後半は圧倒しました。
スタッド・ランスが後半にパフォーマンスが急落する原因は、運動量が低下してしまうこと。特にサイドから中盤にスライドするフォケや、かなり広大な縦のレーンをB to Bしなければならないマトゥシワあたりの疲労が見え始め、足が止まってしまいました。
また、PSG側が最初のビルドアップの場面にてザイール・エメリが背中から捕まえにくるアブデルハミドを持ち前のターン技術からの推進力で一気に打開するようなシーンも後半から目立ちました(前半でカードをもらっていたアブデルハミドは消極的に)。初期のマーク設定が崩れたらバックスがどうマークしていいかわからず、チャレンジ&カバーが全く行えなくなるのもスタッド・ランスの弱点です。
守備負担を減らし、温めておいたWGと全体の運動量で勝ったPSG。エンバペのオフザボール・シュート技術とドンナルンマの再三の決定機阻止にも助けられて難敵を撃破。至る所にボロが出まくっている状況の中で、リーグ戦では脳筋的に勝ち点を積み上げている現状に満足せずに戦ってほしいところ。
スタッド・ランスの中において1人だけ採点が高かった伊東純也。まさしくスタッド・ランスは彼のチームであり、彼の脅威を「対PSG戦」という看板を利用して多くの方に知らしめることができたかと思いますが、おそらく彼にとってはいつも通り。昨季から全試合彼及びスタッド・ランスを追っている身からしても「いつも通り」でどれほど素晴らしいプレーをしようがいい意味で何ら驚きはありませんが、これを機にスタッド・ランスやリーグアンの試合を見てくださる方が増えればと思います。
②10人に救われた今季初勝利
両チーム共に暗闇から抜け出せていないのがレンヌとリヨン。レンヌは肝となるニース戦に敗れ、リーグ戦では4試合勝利なし。もっとクライシスなのがリヨンですが、前節はアルヴェロのゴールで救われた試合でした。
不仲のシェルキを久しぶりにスタメンに起用するも、キャプテンのラカゼットをベンチに置いたグロッソ監督。試合開始から両者を同時起用することは全体の守備のバランスに支障をきたすからという判断だったと思いますが、そのゲームプランは別の意味で崩れました。
その出来事はわずか開始4分にレンヌRSBゲラ・ドゥエがタグリアフィコの足を踏んでしまい、1発退場がフラッパール主審から告げられました。アクシデントに見舞われ、残り86分を10人で戦わなければならないレンヌはブリジョーをRSBに据える4-4-1のコンパクトなブロックを形成しました。
10人の試合をレビューするべきかすごく迷いましたが、今節は4試合しか観てないので🙏
とはいえ、引かれた相手でも打開策がないのがリヨン。上記の図のように4-4-1のサイドの両脇から前進し、SBに預けたとこから攻めるのが一般的ですが、特に右サイドは大外で持つクンベディも、引き出すヌアマやシェルキも連携どころか単騎突破を図ろうとしてロストするような展開が続きました。
相手のクオリティ不足に助けられて前半はスコアレスで折り返すことができたレンヌは後半開始一気に3枚入れ替え。特に左サイドでプレスバックをサボっていたサラを下げて、デュエル勝率が高いル・フェを左サイドに戻し、空いた中盤にサンタマリアを投入して強度を高めようという判断は納得です。
ラカゼットを後半から投入し、4-2-4の布陣に変更したリヨン。WGが大外で起点を作りながらという運びになりましたが、結局はクオリティ不足。しかし、67分にCKの流れから今季初の先制点が生まれました。この試合は徹底してショートコーナーキックからカクレがクロスを上げる形を貫いていましたが、その展開から右サイドのクンベディの山なりのクロスにオブライエンが移籍後初ゴールを決めました。
この1点が救いとなったリヨン。今季初勝利ですがモヤモヤが残るのはクオリティ不足が原因で、これは最低でも1月までは続くでしょう。一方のレンヌはこれでリーグ戦5試合勝利なし。ジェネジオ監督の鋼鉄の噂が出ましたが、クラブはまだ解任は早いと表明。次節もスタッド・ランスという難敵が待っている厳しい現状です。
③チームとしてのクオリティの差
第12節の大トリとして開催されたのが「RCランス×マルセイユ」。どちらも順風満帆に開幕をスタートさせることはできませんでしたが、尻上がりに調子を上げて本来の姿を取り戻しつつあるRCランスと、新監督が現有戦力の整理ができていない印象のマルセイユ。
ミッドウィークは好対照な結果となった両者ですが、ピッチではチーム力の差を感じさせる試合となりました。
RCランスの特徴は3-4-3の両シャドーが中切りプレスを仕掛けた際に、WBと中盤が連動してパスコースを限定する守備。「ボール→相手の位置」によって守備者のポジションが決まるマンマークディフェンスにおいては実に普遍的なことですが、この強度でなし上がってきたのがフランク・エーズ監督のチーム。
この試合では3-1-4-2気味に変えるプレス配置もありましたが、狙いとやるべきことは変わらずに相手陣内でのハイプレスによってショートカウンター及び人数をかけた攻撃で終始圧倒しました。
4バックとダブルボランチによるビルドアップは、プレス回避能力が全体的に劣っているマルセイユ。完全マンツーでハメられた際にも、GKパウ・ロペスのコースが限定され、トップ下のハリットが強靭なフィジカル能力を持つサメドと競り合わなければならないミスマッチが生じていました。
マルセイユがボールを保持できていたのは、RCランスの守備時の連携不足から。2トップやシャドーがスイッチャーとなって外に誘導する守備にWBや中盤が後ろからついていかず、全体が間延びしてしまう現象。5-4-1でセットした状態から、プレスに行きたいシャドーと相手WGをケアするために前に出にくいWBとの間にスペースが出来てしまう現象が発生してしまいました。
ソトカと新戦力アギラルのまだ連携不足な点によって逆にマルセイユはスペースを使える状況に。こういったシーンこそガットゥーゾ流の1タッチの連動性が見たかったですが、そういった取り組みは希薄でした。上記の図のような状況となった際に、背後の動きでDFを寄せ付け、ロジやハリット、ヴェルトゥらにスペースをもたらそうとしたホアキン・コレアの個人戦術ももう少し意図を汲んであげるべきかと。
この試合はこのような抗争が続き、シャドーの方向づけに連動すれば全体で素晴らしい守備が行えるRCランスと、相手の間伸びした空間を有効に活用しようというマルセイユの攻防。しかし、最後に笑ったのはRCランスでした。
直前のCKのピンチを凌いでから、今度は相手陣内で得たCK。ニアで引っ張るメディナと相手を固定させるサメドのサポートもあって、空いたニアサイドでグラディが決勝弾を叩き込みました。
60分に両シャドーを入れ替えて守備の方向付けをより強く意識させたRCランス。プロ初先発を飾ったアイナウィを下げて中盤を1枚にした超攻撃的な采配が実りました。マルセイユはやはりまだ現有戦力の整理と、ガットゥーゾが求めるものと選手たちの個性がうまくマッチングしていない印象。ロンジエとウナヒがいない現状の中盤では、今後の雲行きが怪しいですが、まだ試練は続きます。
今節の結果まとめ
2023/11/11
モンペリエ 0-0 ニース
2023/11/12
スタッド・ランス 0-3 PSG
ル・アーヴル 0-0 モナコ
クレルモン 1-0 ロリアン
リール 1-1 トゥールーズ
メス 3-1 ナント
2023/11/13
レンヌ 0-1 リヨン
RCランス 1-0 マルセイユ
第12節を終えた段階での現在の順位表がこちらです。
次節の注目ゲーム
何度目かの国際マッチウィークを挟んで、第13節で行われる試合において私は「ニース×トゥールーズ」を注目します。
実にマニアックな観点だと自負していますが😅、両監督が個人的には好きなのです。アウェーのモンペリエ戦を苦手としている印象のニースはそのモンペリエ戦ではスコアレスドロー。エンダイシミエがサスペンドの中、テュラムをアンカーに据えた采配は現地でも話題を集めましたが、結果的にはこの引き分けで首位の座を明け渡す形に。
ELでリヴァプールを破り、我々リーグアンフリークスに歓喜をもたらしたトゥールーズは敵地リールで1-1の痛み分け。特に前線のダリンガ🇳🇱が先発出場を果たした公式戦で5試合連続ゴールを決めており、好調を維持しています(アシストも含めると9試合連続😱)。
堅守速攻に加えて4+3の独特なビルドアップの形を作るファリオーリ監督と、毎試合入念な策をとって相手の分析に沿ったプランを立てるのが上手なマルティネス監督。どちらも現有戦力を十分に理解し、交代策含めた采配が高評価を得ている両者。順位は両極端な位置にありますが、順位には反映されないほどの見応えが形になって現れてくるでしょう。両者共にDAZNでは4試合ぶりの配信となるようで、見やすい時間ですのでぜひお見逃しなく。
23/24 リーグアン 第13節日程(日本時間)
2023/11/25
5:00 PSG×モナコ
2023/11/26
1:00 クレルモン×RCランス
5:00 ストラスブール×マルセイユ
21:00 ニース×トゥールーズ
23:00 ロリアン×メス
23:00 モンペリエ×ブレスト
23:00 ナント×ル・アーヴル
2023/11/27
1:05 レンヌ×スタッド・ランス
4:45 リール×リヨン