週刊リーグアン#11
阪神タイガースが38年ぶりの日本一を成し遂げた日曜日。私は野球はプレーしたことはないのですが、野球界の反応を見てつくづく思うのは、やはり日本は野球文化が浸透していること。
起きた事象に対して、識者達がこぞって自分の見解を述べていますが、そこには「お前が言うな」という軽率なコメントはほとんどありません。スポーツは結果論になりがちですが、「質より量」をとる日本のサッカー慣習との違いを感じました。
私が発信している内容はかなりマニアックであることは十分理解していますが、そんな中でも皆様の役に立つ情報が提供できればといった思いで励んでいます。
① チーム再編は選手かチームか
前節は一部サポーターの愚行によって試合すら行えなかったマルセイユ。その暴行事件を受けて、レタン会長が国家並みの警備体制を要求するも、結局サポーターを入れないという判断を下されたリール。
マルセイユサポーター100%で開催されたこの試合はスコアレスに終わりましたが、90分間においてガットゥーゾとフォンセカの両極端な立ち振る舞いが目立った試合となりました。
4-4-2でボール基準で構えるリールの守備に対して、まずはマルセイユの攻撃から。LSBのロジに相手SBチアゴ・サントスをピン留めさせる役割を期待しての左肩上がりの配置からスタート。4-4-2の守備攻略は相手の2トップ脇から攻めるのが原則ですが、ここで注目してほしいのはヴェルトゥのポジション。
最初は自分も「相手がただ構えているのにそのポジションに下がるのは無意味なのでは?」と疑問を抱いていましたが、後々振り返ってみると、仮に4-3-3のままのボランチの立ち位置だとCBエンベンバのパスコースが限定されるし、アンカーのロンジエの左のパスコースも渋滞してしまうと感じました。
エンベンバとロンジエのパスコースを良いバランスで確保して左で起点を作りつつ、右に渡してCBのジゴがボールを運び、クラウスとサールの連動性で崩していくという狙いがはっきり見えました。サールがカットインする動きに連動して、オーバメヤンがハーフレーンでCBを引き付け、フリックなどの曲芸で変化をつけるといったシーンもありました。
オーバメヤンはリーグ戦で得点でなかなか得点できず、批判の的になっていますが、結果にならないところでの貢献度・オフザボールの質ははっきりいってかなり高いです。もちろん得点を期待しての今季の獲得ですが、あとはゴール前での嗅覚さえ戻れば大丈夫であると私は思います。
ガットゥーゾ体制になってから1タッチの連動性が増えるかと思ったら、選手のバランスを考慮してかモナコ戦ほどの連動性は見られなくなりました。まだチーム内にボールを持ちすぎる選手がいるからこその判断だと思いますが、ガットゥーゾなりに工夫しようと努力している様子は伺えました。
対するリールは前節同様ヤズジュの0トップ式。マルセイユも同じくヴェルトゥを前に出す4-4-2のゾーンディフェンスを敷いていましたが、状況は全く異なりました。
ボール基準のリールの4-4-2に対して、マルセイユはコンドグビアがベンタレブへのコンタクトを含めて人基準寄りの4-4-2。攻撃時はアンドレがCB間に降りて3バック気味となり、そのアンドレが作ったミドルサードのスペースにエンジェルやヤズジュが貰いにきて有効に使おうという意識が見えました。
最初は4バックで始めるビルドアップも、ハーフウェーラインを越えるまでは内側のポジションでWGが出口を誘導するのに合わせて、ラインを超えたら外→内の動きでサポート。逆にWGは内→外に移って(特に右サイド)、フィニッシュワークの一助となる動きを見せました。スラローム系と正対ドリブルの判断が今季は研ぎ澄まされているジェグロヴァですが、途中からは対面するロジが良い間合いで対応していたこともあって、リールも決定機を作り出す機会は希薄でした。
前半はリールが60%の支配率を誇りましたが、後半は約半々に。この理由としては、まずリールがミッドウィークのECLへの疲労を考慮していたために、後半は4-4-2ディフェンスの練習のような振る舞いのように見受けられました。本気で勝ちに行くのならば、主力のカベラやデイビッドをもっと早い段階で投入していたでしょう。フォンセカ監督の低リスクの判断には納得で、確かにこの試合は順位的や状況的にも無理すべき試合ではなかったと思います。
対するマルセイユは、ハリットに自由な立ち位置を与えてボールに引き出し役やチャンスメイクの役割をほぼ全振りする策をとったガットゥーゾ監督。組織としての連動性が薄れて結局この試合も得点することに結びつきませんでした。「チームを作るのではなく選手を入れ替える」というらいかーるとさんの言葉はしっくりきますが、自分自身の崇拝するスタイルに不向きな選手がいる現状にガットゥーゾは苦しんでいるようにも感じます。人心掌握術には定評のある彼ですが、この現状をどう捉えるでしょうか。
②監督は関係ねえ、選手がしょぼい
このタイトルは現在オランダ🇳🇱リーグで下位に沈むアヤックスの現状を見て、OBのスナイデルが贈った言葉であると日本では報道されましたが(所詮和訳なので真偽は不明)、その言葉がピッタリなチームがフランスにもあります。
前節はスタジアムに向かうチームバスが、一部マルセイユサポーターからの襲撃事件に遭いグロッソ監督が12針を縫う怪我を負い、ダービーマッチが12月6日に延期されることとなったリヨン。ホームに迎えた対戦相手のメスは、クラブの格としては圧倒的に上回るかもしれませんが、現在の戦力的にはどっこいどっこいです。
今節もシェルキはベンチスタート。中盤2枚では守備の強度が低すぎることを懸念したからか、グロッソはとりあえず中盤に3枚を並べました。幅が狭く、ラインがそれほど高くない3バックの前で球出し役を担うカクレ。ただ、どこに出しても独力で打開する力や味方をうまく使う能力に長けている選手がいないため(特にボランチ2枚)、ラカゼットがトップから降りてきますが、単なるヘルプでそこから創造性が生み出されるわけでもなければ、フィニッシャーがいなくなるという悪循環に。
両WBも大外の高い位置に固定されましたが、もちろん両者とも独力で突破できる力はなく、特に右のクンベディはボールをもらってもどうすれば良いのか判断に迷うシーンがありました。2トップの1角を担うママ・バルデもチャンネルでCBエレールを背負いながらの仕事を担っていましたが、本来であればもう1人ボックス専門のストライカーが欲しいのではと単純に思っていました。
一方のメスはいつも通りのWGがSBの位置まで下がる4-5-1ディフェンスで、時に両WGが3バックの脇のスペースを狙ったりという仕掛けも見えました。前半は保持の展開も少なくなく、基本的にはSBをやや高めの位置に上げて、2CBと中盤の2枚で作り、右サイドを中心にファン・デン・ケルコフのチャンネルランを活用。右で作ってクロスを上げるシンプルな形ながら、クロスの跳ね返りにはデュエルに強い中盤が拾ってセカンドアタックを狙うという戦い方を展開しました。
リヨンは攻め手がほとんどない状況の中、シェルキとヌアマーが前半からアップを始め、投入されたのが58分。前半は重心を低くして、まず耐えてからというようなグロッソ監督の策略だったでしょう。強度の低さが懸念される中盤をあえて2枚にして、一気に勝負に出る姿勢が見えました。(その点を踏まえれば、守備の時間が長くなることが予想されたマルセイユ戦においてシェルキのメンバー外は妥当という考え)
後半は攻撃的な2枚を投入して攻勢に出ようとしたリヨンでしたが、その流れをメスに破壊されたのが77分。懸念されていた中盤の守備強度が原因となって見事なゴールを叩き込まれ、スタジアムには「やっぱりか」感が漂いました。
1点でも得点するのが厳しいのが現状のリヨンを、最終的には21歳のアルヴェロの左足同点弾が救ってくれましたが、負けていても不思議ではなかった試合。試合後には主要ウルトラスBad Gonesとグロッソ監督が言葉を交わす場面がありましたが、前節の襲撃事件によって監督への同情票も集まっており、矛先は監督よりも今夏の💩みたいな補強をした経営陣に向かっているのが現状です(こんなスカッドを任された監督はむしろ被害者)。
③殴り殴られ 組織力は守備の改善から
前節はリール相手に結果も内容も完敗だったモナコ。しかし、急造4バックで戦っていた2試合を終えて、ディフェンスの要であるマリパンが復帰してヒュッターの色が最も出やすい3-4-3を3試合ぶりに使うことができました。内容で言えば、PSGに勝っていたといっても過言ではなかったブレスト。攻撃的志向の両クラブの対戦は非常に楽しみにしていました。
まずはモナコの攻撃から。3-3-4が戻ってきたことにより、攻撃の形はいつも通りの配置と制約。ハイラインの3バックは足元の技術の高い3人を並べ、カマラの代わりに球出し役を担うのはフォファナ。両WBは高い位置を取る一方、両シャドーはインサイドに寄ります。
4-5-1でエースのデル・カスティジョの守備負担をやや減らすブレストに対し、脇のCBが運んだり、フォファナが球出し役として狙うのは内側のシャドーの足元。本来であればトップを務めるのはベン・イェデルですが、この日のトップは新戦力のバログン。エースと圧倒的に違うのは、ボールを引き出す場所やタイミング等の理解度に乏しく、周囲との連携面よりかは独りよがりで自分の利益しか考えれないということ。終盤にブーイングがあったのも必然でした。
バログンに預けても足元で収めるのには不安で、バイタルエリア付近の状況からしても、相手の中盤3枚に回収されていることが見え見えだったために両脇CBとフォファナはシャドーのパスコースを選択。アクリウシュとゴロヴィンのパスコースから、大外のWBを走らせ、クロスには中盤からザカリアが飛び込むという形は作ることができました。
攻撃時にLSBロッコを上げて左肩上がりの3バック式のビルドアップをするブレスト。肝となるのはファン・ダイク級のキャノン砲を持つLCBのブラシエの左足。大外で受けたデル・カスティジョがチャンネルランするマディ・カマラを使いながら、という攻め(前回記事推奨)。カマラがチャンネルランを狙った背後は回収能力の高いレース・メルーが回収してセカンドアタックに備えるという1つの形。これを利用して11分にファーのル・ドゥアロンが決めますが、オフサイド判定。
この判定に助かったモナコは守備の形を変えました。
そのブラシエと左に並ぶ相手の選手にマンツーマンの策をとったモナコ。さらに、中盤を司るレース・メルーとCBのシャルドネにも人を当てて、ブラシエのキャノン砲サイドチェンジをかなり警戒するアプローチを取りました。
普段はブラシエの的となるデル・カスティジョにもヤコブスをつけて、唯一フリーとなるララにはノープレッシャー。この理由としては、高さがない相手の右サイドにはロングボールのリスクがなく、ララの出しどころを潰せば大丈夫だろうという見事な作戦。
ル・ドゥアロンを失ってからは、ブレストはさらにロングボールで打開するという策が無くなって苦しくなりました。また、モナコとしては懸念材料だった守備時の中盤と前線の間を取り持つ役割として、今回はやや荒いコンタクトながらアクリウシュが務め、ヒュッター監督にアピールしていました。ファーストチョイスは南野で間違いないのですが、アクリウシュもこの役割ができると大きいでしょう。
強風が吹いて主審の曖昧な基準にも泣かされてブレストは55分以降はかなり疲れが見え始めました。終盤には要のブラシエがやややけくそ気味の退場をしていたのが主審へに皮肉と共にこの試合のハイライトでした。
また、この試合で話題となったのが81分から投入された南野拓実のこのシーン。
GKケーンのパントキックを胸トラップターンからの左に流れたベン・イェデルへパスを送ったこのシーン。「もっとボールを運んで正確にパスを送るべきだった」「運んでパス以外の選択肢を増やすべき」「すぐにパスを送るのはもったいない」という意見が散布していますが、私の意見としては、2点差で残り数十秒という状況の中で必ずしも攻め切ることは求められてないと思います。後ろの人たちも、おそらく「攻めれるならどうぞ」ぐらいの気持ちで見守っていたと思うので、、
久しぶりの3-4-3で明確な課題は残っているものの、勝ち点3を獲得したモナコ。これで直近5試合勝利が無くなったブレストですが、全ては精度の問題だったところに、主力のル・ドゥアロンの怪我という不幸が巡ってきてしまいました。
今節の結果まとめ
2023/11/04
PSG 3-0 モンペリエ
2023/11/05
ロリアン 0-0 RCランス
マルセイユ 0-0 リール
リヨン 1-1 メス
ナント 0-1 スタッド・ランス
ストラスブール 0-0 クレルモン
トゥールーズ 1-2 ル・アーヴル
2023/11/06
モナコ 2-0 ブレスト
ニース 2-0 レンヌ
注目していたニース×レンヌはニースが勢いのまま4連勝を飾ることに。記事で紹介した攻撃の形でボガの先制点が生まれました。ウィル・スティルがサスペンドとなった状態の中で臨んだスタッド・ランスは、伊東純也の開幕戦以来となるゴールが決勝点に🎉
第11節を終えた段階での現在の順位がこちらです。
次節の注目ゲーム
もう、この試合に注目しない人はいないと言っても過言ではないくらいに個人的にも楽しみにしているのが「スタッド・ランス×PSG」です。
昨季のこの組み合わせは前の試合で一発退場となった伊東純也は出場できず。ちなみにセルヒオ・ラモスがリーグアン初退場をくらったのがこの試合でした。さて、簡単なレビューをすると、お互いにチームの状況はあまり良くないのが大前提としてあります。
中村敬斗だけでなく、要のムネツィも負傷離脱中であり、今節は累積警告で10番のテウマも出場することができません。ウィル・スティルはここ最近は5-3-2を採用していますが、相手のビルドアップを研究して毎試合守備からの戦術を取る監督なのでどのようなシステムで来るかは正直読めません。ただ、ナント戦もハイプレスを基調としつつ、後半の勝負所で攻撃的な選手を投入して勝ち点3に繋げました。
ミッドウィークのミラン戦に敗れてアウェー戦の脆さを露呈したPSG。私はチャンピオンズリーグは決勝トーナメントから視聴するというスタンスを今季は取っているので、詳細は述べることができませんが、足元を掬われてもおかしくない状況であり対戦相手でしょう。リーグアンなら機械的な動きが通じるかもしれませんが、いかんせん4-3-3にしろ可変式の3-3-4にしろ守備面の不安要素は変わらず残ったまま。
焦点は「受け身になるか、ならないか。」PSGのビルドアップからスタッド・ランスがマンツーマンでプレスをして、ショートカウンターを狙うという構図になるのは間違いなさそうですが、その際にどれだけ主体性を持ってビルドアップなりトランジションを行えるかが勝負の分かれ目になってきそうです。
23/24 リーグアン 第12節日程(日本時間)
2023/11/11
5:00 モンペリエ×ニース
2023/11/12
1:00 スタッド・ランス×PSG
5:00 ル・アーヴル×モナコ
23:00 クレルモン×ロリアン
23:00 リール×トゥールーズ
23:00 メス×ナント
2023/11/13
1:05 レンヌ×リヨン
4:45 RCランス×マルセイユ
*2023/11/12 21:00に開催予定だったブレスト×ストラスブールは、スタジアムが暴風雨シアランの影響を受けたため、延期が決定
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