見出し画像

週刊リーグアン#6

CL、EL、ECLが始まりリーグアン勢は3勝3分という良い滑り出しを見せました。ピッチ外の状況も含めて不安があるチームがほとんどでしたが、ヨーロッパとなると気持ちが切り替わるのは納得がいく理由です。

さて、今節は前回の記事でお伝えした通り4つのダービーが開催されました。全て取り上げていきたい内容ですが、ここではいつも通り3つに絞って、久しぶりに戦術ボードを使いながら、DAZNで配信されたダービー3試合を振り返っていきましょう。




①またしてもファリオーリの戦術がハマったニースが最後に笑う

モナコのホームであるスタッド・ルイ・ドゥに多くの観客が集まる数少ない試合のうちの1つがニースとのダービーマッチ[Derby de la Côte d’Azur]です。どちらも無敗かつ良い流れのまま迎えたダービーでした。

しかし、結果以上に内容はモナコをリスペクトして対策してきたニースが上回りました。

新監督ファリオーリのもと、DF4枚と中盤の3枚が密接な位置をとり、WGが大外に張ってそこに預けたところからアンダーラップ含めてファイナルサードへ侵入していくビルドアップをしているニース。この試合では、序盤モナコがマンツーで寄せてきており、前線が相手CBと1対1になるところを競り勝ってショートカウンター含めて優位性を生み出していくのかと思いきや、前半12分でその狙いは大きく変わりました。

ニース(青)の今季のビルドアップの配置
この試合ではモナコ(赤)がマンツーでハメにきたので、前線は1対1の状況

前半10分が過ぎたところ、ニースのビルドアップ時に右のラボルドゥへのパスが回収された後にC・エンリケへの寄せに誰も行かず、C・エンリケは背後に抜け出したゴロヴィンへスルーパス。結果的にこれがPKにつながりましたが、ブルカが止めて事なきを得ました。

このピンチで目が覚めたニースは攻→守のトランジションを大事にしながら、相手陣内でプレッシャーをかけ続けました。特に目立ったのはボールロスト後にかける人数と圧縮の強度でした。左右関わらず、全体が連携して特に相手の攻守の要であるカマラに対して複数人で囲み、高いフィジカル能力を活かしてハーフウェーライン付近で回収して再び相手陣内へ というサイクルが前半は続きました。

ニースの同サイド圧縮(右サイド)
サンソンがスイッチャーとなり、特にカマラに対して複数人で囲む体制

「絶対に縦パスは通させない」という気持ちが見える中で、万が一自陣に押し込まれた時は5-4-1のブロックを敷きながら、モフィという最高の飛び道具を利用してカウンターの怖さも相手に見せました。

対するモナコは守→攻の際に、早い段階で前線にパスを通し、前線3人の関係性を利用して縦に素早く攻めるという戦術で今季は戦ってきましたが、ダンチ・エンダイシミエ・トディボという屈強な相手DFを前になかなか起点を作れず、落ち着く時間が作れませんでした。

中盤と前線の間を取り持つ役割の南野も、テュラムやダンチという大柄の相手を背負いながらのプレーが目立ちましたが、一番の誤算はバログンとの関係性。相手SBとCBの間(とりわけ左サイド・トディボとロトンバの間)に抜け出すのが好きなバログンにボールは届かず、バログンもトディボに潰されて最前線の役目は果たせませんでした。

後半は高いトランジションの強度を誇っていたニースが時間が経つにつれて疲れが見え始め、徐々にモナコもペースを掴み始めました。特に67分にベン・イェデルが投入されてからは、南野との連携含めいつもの縦志向型フットボールが体現できていました。左右どちらのサイドでも起点が作れるエースのありがたみを感じたモナコでしたが、個人的には前半でああいう展開になるならフィジカルモンスターのエンボロがいてほしかったという印象です。

しかし、入念な戦術チェックをして交代選手が歓喜をもたらしたのはニースの方でした。尻すぼみにゲームが落ち着いていって、このままドローかと思われたAT。64分に投入されたボガがサイドで受けたところから、モナコの守備陣のマーク設定が甘くなったところを一気に突破し、エリア内で右足で値千金のシュートを決めました。

欲を言えば前半の良い流れのうちにニースは決め切りたかったという気持ちはありますが、今季新加入でまだフィットできずにいたボガが最高の仕事を果たしました。3分けからの3連勝。徐々にファリオーリ色が出てきました。モナコはジョーカーとしてバログンを起用していくのが最善なのかと思わせましたが、連携面を深めるのと相手が変わればバログンの本来の良さも発揮できるでしょう。



②熱狂と静けさが混ざった仏東部

前回の記事で注目ゲームに挙げたのが、メス×ストラスブールの[Derby de l’Est]です。2年ぶりの開催に向けて両チームとも状態を上げており、メスホームで開催されたこの試合はかなりの熱狂度を誇りました。

前回のレビューでは、どちらも守備重視のチームながらストラスブールがボールを支配するだろうと予想していましたが、その予想に反してメスがボールを握る時間が増えたのが印象的でした。スタッツとしての総支配率はメスが52%、ストラスブールが48%と半々の数字が残りましたが(前半49:51 後半55:45)、印象としてはメスが優位に支配していたというのがあります。

なぜそのような現象が起こったのかというと、徐々にメスの攻撃時は右→左へ幅を使いながら、守備時は低いブロックを敷きながらデュエルを活かして刈り取るという明確な狙いが出ていたからだと考察しました。

まずはメスの守備から。この試合のスタートは両チーム共に4-2-3-1のミラーゲームのような立ち位置ながら、保持の展開ではアンカーにドゥクレを置く4-3-3の布陣変更を行うストラスブールに対してほとんど何もさせませんでした。

ストラスブール(白)の攻撃時の配置とメス(臙脂)の守備位置

トップ下のカマラがアンカーのドゥクレを消しながら、左肩上がりの配置をとるストラスブールに対して、右サイドを担う4人が密接に関わり守備ブロックを形成。この配置図ではCBペランがフリーとなる状況が生まれますが、選択肢を複数人で消され、苦し紛れにデュレーヌを走らせてそこにボールを送るも繋がらず、、という展開が試合を通して続きました。

ストラスブールは、一見右サイドに送れば良いのではとも思えますが、この日のメスの守備陣はかなりキレていました。あえてペランにフリーで持たせながら複数人で囲みつつ、連動してサイドチェンジをさせないという狙いが見えました。「同サイド圧縮」と言えるほどの動きがなされていたかと言えばまだまだ疑問符が残りますが、屈強なフィジカル要素含めて良いプレッシャーを与え続けていたと思います。

序盤は後ろが苦しくなった時に中央にアンジェロがもらいにきたり、逆にその空いたスペースをディアラが狙ったりという動きがあったストラスブールですが、継続性に欠けており、ボールを握っていても相手にとって全く怖くないボール回しとなりました。


続いてメスの攻撃時。思ったよりボールを握ることができたメスは技術は稚拙な部分がありながらも、サイドで数的優位を作りながら、スライドさせて逆サイドから攻めていこうという意志が感じられました。

メスの攻撃時の配置
右肩上がりの配置で右のトライアングルで優位性を保ちつつ、逆サイドに展開

逆に右肩上がりの配置をとるメスは、大外高い位置を取るクアオとその内側のアソロ、背後をカバーするエンドラムのトライアングルで優位性を生み出していました。3人で落ち着かせてからは、中央に戻してCBカンデの左足を活かして逆サイドから仕掛けて行きました。左のサバリーはチームいちのテクニシャンであり、彼に3人もマークが付いていたことから、右スタートになったのだと推測しました。

メスはもともと保持が苦手なチームのため、崩しのアイディアが少なく、危険なシーンはほとんど作ることができませんでしたが、それでも明確な狙いを持って連動している分、優位に立っていたのは間違いないと思います。

後半もほとんどこの状況は変わらず、ストラスブールは持てど何のアクションも起こすことができず、メスは優位には立っているが決定打がないといった感じでした。メスのベレニ監督は63分に前線にフレッシュな選手を入れて、背後の動きやハーフスペースの侵入等含め攻撃時のバリエーションを増やそうという狙いが見えました。

しかし、最後に笑ったのはストラスブールでした。83分、攻撃時は4-4-2気味にしていたストラスブールが2トップにボールを送ったところから、途中投入のムワンガが回収して、右から中央に寄ってきたアンジェロが自身の空いたスペースに走り込んできたディアラにパス。豪快に振り抜いたディアラのシュートが終盤に値千金の先制点をもたらしました。

結果はこの1点を守ったストラスブールが、このダービー4連勝となりました。総シュート本数はわずか4本で、初めてかつ唯一の枠内シュートで勝ち点3を獲得しました。内容としては最悪でしたが、勝てたことが何より。前節からヴィエラ監督が3バックのチームを自身の得意な4-3-3に変更して戦術を落とし込んでいこうという意思のもと、浸透度は30%にも満たない段階ではあるとは思いますが、これからを楽しみにしましょう。

一方、終始優位には立っていたものの終盤の1点に泣かされたメス。2年ぶりのダービー開催の中で、ホームのサポーターと共に素晴らしい雰囲気を作ってくれました。下剋上とは違うかもしれませんが、相手に向かっていく強い姿勢が感じられました。しかし、公式戦ホーム無敗記録が1年間も続いていただけに、悔しい結果となりました(ストラスブールが公式で煽る:以下参照)。されど結果以上に今季に明るみが出るようなゲームになりました。



③結果以上の虐殺と惨め サポーターが生んだ混沌

早くも6節にフランスで最も有名なナショナルダービーのPSG×マルセイユの[Le Classique]が開催されました。今回も両者の関係性を考慮してアウェイサポーターをスタンドに入れない、100%パリジャンの中で試合が行われました。

一部サポーターグループの会長への脅迫がマルセリーノ監督辞任に繋がったマルセイユ。ミッドウィークに行われたELアヤックス戦はアシスタント兼通訳だったパンチョ・アバルドナドが暫定監督として率いて3-3の打ち合いとなりました。

PSGもCLのドルトムント戦に快勝し、お互いに良い流れのまま迎えることができた一戦でしたが、ピッチでは圧倒的な差が生まれました。

まずは両者共にフォーメーションを変更しました。PSGは初先発のバルコラを左サイドに置く4-4-2、マルセイユはウナヒをトップ下に置く5-2-1-2で臨みました。その布陣変更が多いにハマったのは終始PSGでした。

5-2-3気味に低いブロックを敷くマルセイユに対し、PSGはビルドアップ形成時に3-3-4に可変。特に目立ったのがロンジエの脇のスペースからザイール=エメリが運び、大外のバルコラへ。バルコラはカットインやエリア内の侵入含めた個の技術を発揮し、左サイドで質的優位を出すという狙いがはっきりしていました。

PSG(紺)の攻撃時の配置とマルセイユ(白)の守備配置
PSGの攻撃の狙い
WGがWBをピン留めし、中盤(特に左サイド)は相手の中盤の脇スペース活用


PSGのアプローチを見ると、マルセイユの4-4-2の低いブロックを考慮しての4-4-2ないし攻撃時に3-3-4への可変システムの採用だったように感じました。相手が4-4-2で望んできた場合でも、中央の引き出しと内側のレーンと大外のレーンを取る人物を決めて数的優位や質的優位を生み出していこうというポジショナルプレーの意図を汲み取ることができました。

1点目のハキミのFKもSuperでしたが、チームとして理想形だったのが2点目に繋がる攻めだったように感じます。37分、またもやロンジエの脇から運んだザイール=エメリがバルコラへ繋ぎ、カットインでクラウスを置き去りにすると、中央でフリーになっていたハキミへボールが渡り、こぼれをコロ・ミュアニが詰めました。スライドに弱いマルセイユの弱点が顕になったシーンですが、PSG側のアプローチが完璧でした。

終始劣勢だったマルセイユ。守→攻のトランジションも、数的同数でハメられ前進することがだいぶ困難な状況が続きました。狙いとしては、クラウスが相手3バックの脇(リュカのサイド)を使い、クラウス自慢の突破力とクロスで何とかしようという苦し紛れのわずかな望みにかけるしかありませんでした。それを活かした22分の攻めも、ヴィティーニャのヘッドがクロスバーを叩き、最大の決定機を活かすことができませんでした。

2点目を取り、余裕が出てきたPSGはハキミをSBに戻す4-2-4に変更。マルセイユの唯一の希望であるクラウス対策だったと思いますが、この変更により途中投入のゴンサロ・ラモス含めてデンベレとハキミのトライアングルを有効に使い、質の差を堂々と見せつけました。

PSGの4-2-4への変更

それが後半開始早々に実りました。相手3トップの脇から悠々と運んだハキミが大外のデンベレへ渡し、ハキミのアンダーラップによって空いたスペースにゴンサロ・ラモスがニアでネットを揺らしました。ようやくデンベレのクロスがFWの頭に渡り、決定的な3点目を演出しました。

後半にエンディアイエとハリットを投入するも、布陣変更はなくそのまま5-2-1-2を採用したマルセイユ。焦って前線3枚がプレスをかけますが、連動性もなければ中盤の脇のスペースをこれでもかとばかりに使われる状況が続きました。トップ下のハリットが孤軍奮闘で運んでいく勇姿に対しての攻撃時の連動性もなく、文字通り“何もできないまま”大敗を喫しました。

ライバル相手にまさに完勝の内容だったPSG。ようやくルイス・エンリケの志向するポジショナルプレーに色が着き始め、チームの雰囲気の良さも感じることができた試合でした。この勢いをCLでも発揮できるかが焦点です。

屈辱的な敗北を喫したマルセイユ。仮にマルセリーノがいれば結果はどうなっていたかは分かりませんが、このような混沌とした状況を見てロンゴリア会長を脅した一部のサポーターグループは何を思うでしょうか。水曜日には新指揮官にイタリア🇮🇹のレジェンドのジェンナーロ・ガットゥーゾを招聘し、週末の南仏ダービーを戦いますがどれほど一体となって望めるのかが今シーズンないし未来を左右すると思います。

マルセイユ新指揮官のジェンナーロ・ガットゥーゾ🇮🇹



今節の結果まとめ

2023/09/23
モナコ 0-1 ニース

2023/09/24
ナント 5-3 ロリアン
ブレスト 1-0 リヨン
メス 0-1 ストラスブール
ル・アーヴル 2-1 クレルモン
RCランス 2-1 トゥールーズ

2023/09/25
モンペリエ 0-0 レンヌ
PSG 4-0 マルセイユ

2023/09/27
リール 1-2 スタッド・ランス

ラグビーW杯の影響でミッドウィークに開催されたリール戦で中村敬斗がリーグアン初ゴールを記録し、難敵を撃破しました。もう1つ行われたダービー[Derby Breton]はナントが打ち合いを制しました。ファビオ・グロッソ新指揮官の初陣となったリヨンを撃破したブレストが首位に。RCランスはようやく今季初勝利をホームで達成しました。


第6節終了時点での順位がこちらです。




次節の注目ゲーム

第7節では[Derby Breton]の本命であるレンヌ×ナントが開催されますが、ネームバリュー的に注目を集めるのが「モナコ×マルセイユ」です。日本語では「南仏ダービー」とも称されますが、フランス語では狭義の表現はありません。

前節は最大のライバル相手に悔しい敗戦を味わった両者。将来のプロジェクトにおいてマルセイユ出身のガルティエやジダンとは折り合いがつかず、ガットゥーゾが新指揮官に就任したマルセイユが短期間でどれほど彼の闘魂が注入されているかは分かりませんが、変化を楽しみにしたいと思います。いきなり難敵モナコ相手に“どこまで立ち向かえるか”の姿勢であることは間違いないですが、スタッド・ルイ・ドゥに集まったマルセイエーを熱くさせてくれることを期待したいです。

一方モナコは敗れはしたものの、やるべきこと・道筋は間違っていないと感じます。ニースのフィジカル要素に押し負けた形でしたが、ヒュッターの縦志向の戦術にどれだけ自信を取り戻して臨めるかが鍵になってくるでしょう。マルセイユ相手といえど、今季のロケットスタートの勢いを取り戻すにはホームで負けは絶対許されません。南野拓実の決定的な仕事を期待して、日曜早朝のゲームを楽しみましょう。


*余談ですが、ガットゥーゾがマルセイユの指揮官に就任したことでリヨンとのダービーである[l’Olympico]ではファビオ・グロッソとのイタリア🇮🇹人指揮官対決が実現。かつて2006年W杯優勝に貢献した両者が監督として相見えるのは、カルチョファンにとってもたまらない話題かと思いますので、ぜひ彼らが率いるチームの動向を追っていただけたら幸いです。(彼らの仲はどうなのでしょうか?有識者の方情報求)




23/24 リーグアン 第7節日程(日本時間)

2023/09/30
 4:00 ストラスブール×RCランス

2023/10/01
 0:00 クレルモン×PSG
 4:00 モナコ×マルセイユ
20:00 スタッド・ランス×リヨン
22:00 ル・アーヴル×リール
22:00 ニース×ブレスト
22:00 トゥールーズ×メス

2023/10/02
 0:05 ロリアン×モンペリエ
 3:45 レンヌ×ナント

この記事が参加している募集

#サッカーを語ろう

10,983件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?