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ありがとうオラス会長 リヨンを名門クラブに育て上げた36年の功績

ヨーロッパのフットボールも5月に入って過渡期を迎えました。各国リーグではカップ戦争い、残留争いなどが激しさを増している状況です。

さて、リーグアンではPSGがやや優勝争いを抜け出しており、今後の対戦相手を踏まえても優勝は固いというのが大方の予想です。なかでも監督交代が功を奏し、来季のヨーロッパのコンペティションに参加すべく、勢いを増しているのがフランスの名門クラブの1つである、オランピック・リヨンです。

直近の5月7日に行われたモンペリエとの試合では、先制しながらもエリック・ワイに4点も決められ、一時は3点のビハインドを背負いますが、立て続けの猛攻で同点に追いつき、最後はVARによって得たPKをラカゼットが決めて5−4の大逆転勝利を収めました。

たいへんスリリングな試合展開でパルクも沈黙から歓喜の渦に舞い戻った次第でしたが、その試合の翌日に驚きのニュースが舞い込んできました。

リヨンの会長を36年間も務めていたジャン=ミシェル・オラス会長が試合が行われた日曜日時点で会長の座を辞任したことが明らかになりました。後任としては現在オーナーを務めているジョン・テクストル氏が会長を兼任し、オラス元会長は名誉会長の座に就任することとなりました。

36年にわたってリヨンの会長を務め上げた彼の功績はヨーロッパのフットボール史に必ずしや残る物であり、色々なことがありましたが、リヨンをここまでの名物クラブに育て上げたのは彼の実績です。そんな彼の功績やバイオグラフィを簡単に振り返りましょう。



リヨンの会長になるまで

生まれは1949年、リヨンから見て北西部にあたる、ラルブレルという街で誕生しました。父は地元の中等学校の文学教師で、地元紙の編集にも携わっていました。母は父と同じ学校の数学教師を務めていました。

オラスはコンピュータ・サイエンスを学び、経済学の学位を取得した後は、ハンドボールの選手として様々なコンペティションで活躍しました。その後未成年ながら[Cegi]という情報系の会社を立ち上げ、2年後に[Cegos]に売却。[Cegos]と[SLIGA]という会社の合併によって誕生した[Sligos]という会社は当時優遇されていた会計事務所とのネットワークを構築・管理しました。

そしてさらなる躍進を果たしたのが1983年。同僚と共に管理・会計ソフトパッケージの専門会社である[Cegid]を設立し、同時に新しい勘定科目に対応した管理ソフトのカタログを立ち上げたことで公認会計士の大部分のネットワークを占拠しました。後にこの会社は[Groupama]という会社に売却し、スタジアムのネーミングとなっています。

若い頃から名を高めていたオラスにとって、最大の転機を迎えたのが1987年のある晩。地元の新聞社や仲間に熱いフォローを受け、当時借金まみれで2部リーグからも降格間近であったオランピック・リヨンの会長に任命されました。その15年後には欧州のカップ戦に出場するくらいの知名度を得たリヨン。財政を健全化させながら、リヨンは経営の質の高さでフランスフットボール界でも注目を集めるようになり、中小企業から「OLグループ」として知られる上場株式会社にまで成長させました。

本人が認めるようにかつては異色だったスポーツとビジネスの掛け合わせに早くから取り組み、マーチャンダイジングやマーケティングにも力を入れることで成功しました。



会長なのに出場停止処分をくらうほど、、

オラス会長のTwitterのトップ画像

ジャン=ミシェル・オラスを語るにあたって、なにより欠かせないのが物言いが激しすぎる彼の性格。2011年にTwitterを開設してからは、選手や会長、審判団に公に批判することが絶えず、過去に何度も出場停止処分(出入り禁止処分)を喰らっています。(ここでは内容は易しめにしますが、気になる方は[jean michel aulas Twitter]で検索すると、、)

そんな彼の畜生エピソードは数多くありますが、一番は最大のライバルクラブであるサンテティエンヌの会長、ベルナール・カイアッツォとの激しい舌戦。2019/2020シーズン、コロナ渦においてリーグの継続についてロリアンのロイック・フェリ会長とレンヌのニコラス・ホルベック会長との合同記者会見に参加したカイアッツォ会長はリーグ側の意見に耳を傾けるしかないという見解を述べましたが、この会見に対して猛烈に批判。

中断してからはプレーオフ方式を提案してきたオラス会長はTwitterにて「(打ち切りになれば)レンヌのCL出場権確保、サンテティエンヌの1部残留、ロリアンの1部昇格につながることは特定の人にしか利益がない。利益を得ているのは決定した人々だけということに誰も気付いてない!」と反論しました。そもそもプレーオフにすることで、欧州カップ戦への望みが薄かったリヨンに挽回のチャンスが与えられることを狙っての発言だったのは間違いなしですが。

これ以外にもベルナール・カイアッツォ会長とは至るところで舌戦を繰り広げてきたオラス会長。さすがに「note」には内容的に乗せきれない部分があったため比較的温和な話題を選びましたが、これ以上に人格や見た目に関わる舌戦までも繰り広げてきた両者。しかし、今回の退任に即してオラス会長はサンテティエンヌに対してこのような思いを述べました。

「私はサンテティエンヌが嫌いかって?いや、そんなことはない。若い頃、サンテティエンヌがリーグのトップにいた時はみんなサンテティエンヌのサポーターだった。リヨンの会長になった瞬間から、より攻撃的になったり、自分の価値観を守ろうとするのは必然的なことだ。

私の仕事上のキャリアにおいて、サンテティエンヌとは非常に良いつながりを持っていたし、今でも持っている。リーグアンでの彼らとのダービーはフランスでも最高のダービーなので彼らは1部に昇格しなければならない。」

長年敵対してきたクラブに対しても最後は感謝と激励の言葉を贈ったオラス会長。彼が言うようにリヨンとサンテティエンヌの[Derby du Rhone]は見応えがありすぎるダービーなので、早い段階で再戦が見たいものです。

左: ベルナール・カイアッツォ
右: ジャン=ミシェル・オラス



息子のように愛したカリム・ベンゼマ

リヨン時代のベンゼマとオラス会長

ジュニーニョ、トゥララン、ピャニッチといった名選手を多く輩出してきたリヨンですが、なかでもオラス会長が深い愛情を注いで接してきたのがレアルマドリードに所属するカリム・ベンゼマでした。

9歳の時にリヨンに引き抜かれてから、アンダーカテゴリーで順当に成長し続け、2005年にトップチームデビューを果たし、翌年からチームの主力となって、2001/2002シーズンから続くリヨンの7連覇のうち4回や3回のクープ優勝に貢献し、自身も得点王や最優秀選手賞などに輝きました。

2009年に移籍したレアルマドリードでは周囲にスーパースターが揃い、影のような存在としてメディアに扱われることも多かった印象ですが、彼らが退団したことで彼に強くスポットライトが当たるようになりました。その活躍ぶりがようやく認められて2022年にバロンドールを受賞しました。

最愛の選手の受賞で喜びを抑えることができなかった(抑えられるはずがない)オラス会長は[L'Equipe]のインタビューにて以下のようにコメントしました。

「カリムはOL出身ですから、誇りと感慨はひとしおだ。彼は、私たちが成長し、花開くのを見た子供。私たちは、彼が取り組んだほとんどすべてのことにおいて、成功するのを見てきた。そして、彼を雇っただけでなく、初めて契約を交わした私たちにとっても、誇りに思うよ。カリムのような若者は、キャリアを通して2つのクラブでしかプレーしていないのだから。

彼はレアル・マドリードを選んだ。『いくつかオファーがあったけど、レアル・マドリードに行きたい』と言ったのを覚えている。移民出身で、フランスで非常にうまくいっている若者の、美しい物語だ。彼はアルジェリア系フランス人である。サッカー選手としての人生だけでなく、彼が成し遂げたことに憧れ、彼のようになりたいと願うすべての若者の模範となるような人間として成功しているのだ。」

リヨンが生んだバロンドーラー、カリム・ベンゼマ。幼い頃から手塩にかけて育ててきた選手が最高の栄誉がある賞を受賞する喜びは何物にも代えがたいでしょう。過去にはベンゼマをリヨンに復帰させることが夢であることをオラス会長は漏らしましたが、どんな展開になるにせよ、彼らが残した実績とリヨンに愛情を注いできた事実は変わらないため、今後もピッチ内外で両者の笑顔が見ることが一番の望みです。

2022年バロンドール授賞式にて



最後のタイトルは最強リヨン女子

2023年シーズン国内リーグ優勝

オランピック・リヨンというと男子だけでなく、女子チームの知名度も高いのがこのチーム。なでしこの熊谷選手が所属していたことでも有名でした。2004年から正式に発足した女子チームはこれまでに15回の国内リーグ優勝、2回のチャンピオンズ・トロフィー(英のコミュニティ・シールドのようなもの)、8回のチャンピオンズリーグ優勝(2016年から5連覇)、非公式のクラブワールドカップ1回という女子サッカー界において最高峰の成績を誇っています。

男子チームはここ数年タイトルから遠ざかる状況が続いていましたが、最後にオラス会長の退任に花を添えたのは女子チームでした。今シーズンは通算10回目となるクープ優勝と16回目のリーグ優勝を果たしました。男子チームはクープ準決勝でナントに勝てていればといったところでしたが、来季に向けて今のところは明るい話題がピッチ内で続いている状況のため、オラス会長に感謝を伝えるタイトルの獲得を期待しましょう。



ジャン=ミシェル・オラスの今後

先述の通り、オーナーのテクストル氏が会長を兼任し、オラスは名誉会長となることが公式で発表されていますが、現地メディアではオラス会長は今後もフランスフットボール界から消えることはないと報道しています。(そもそも名誉会長としてまだ残ることにツッコみたくなりますが、、)

というのも、オラスはフランスフットボール連盟[FFF]の役員であり、現在は暫定会長であるフィリップ・ディアロ氏をサポートしていますが、6月10日に開催される連邦議会の結果によっては副会長となる可能性があります。モンペリエのルイ・二コラン会長も「将来的には、オラスがFFFの会長になるだろう」と語りました。

さらに、オラスが最もアプローチを強めているのが女子サッカーの発展。目標としては、2024/2025シーズンから本格的な全国区にまたがるフランス女子フットボールリーグの開設というのがあります。そのための巨額な投資プロジェクトの背後にいる一番影響力のある人物がオラスであると見なされています。

現地メディアが発表したようにジャン=ミシェル・オラスが今後もフットボール界から消えることはなく、むしろこれまでより暴れるのではといった危険性(?)もありますが、今回の退任に即して多くの著名人からねぎらいの声が集まったのは彼の人柄や実績による恵みそのもの。(ただベン・アルファだけは「サッカー界は彼を逃さない」というメッセージを若い頃のオラス会長の写真に添えて投稿し、リヨン時代に冷遇された皮肉を辛辣な言葉で表現)

36年もいるといろんなことがありましたが、最後には感謝せずにはいられません。リヨンという2部リーグのどん底にいたクラブを欧州の名門クラブに成長させたこと、フランスのフットボール界を盛り上げてくれたことは一生忘れることができません。しかしながら、今後もさらなる活躍をしてくれることでしょう。

Tu es les meilleur président du monde.  Nous vous souhaitons beaucoup de succès à l'avenir. Merci beaucoup❤️💙

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