選手権Pick Up!2019年 春秋の神奈川王者。日大藤沢サッカーの魅力!
2019年度の選手権に出場する神奈川代表『日大藤沢』。
本記事では、その日大藤沢のこれまでの軌跡と、今年のメンバー、そして彼らがやっている魅力的なサッカーに関して、ほんの少し綴っていこうと思います。
日大藤沢と聞くと?
読者の方は、日大藤沢と聞くと何を思い出すだろうか?
もしドラマ好きな方であれば、卒業生の『井上真央』さんとか、ロケ地になった『ヤンキー君とメガネちゃん』を思い出すでしょう。
もし熱心なプロ野球ファンであれば、山本昌、館山昌平、黒羽根利規あたりを思い出すでしょうか。
そして、熱心な高校サッカーファンであれば、2014年の選手権ベスト4の『日大藤沢』を思い出す方が多いのではないでしょうか。そう、田場ディエゴが注目された選手権。優勝したのは、日大藤沢が準決勝で敗れた星稜でした。
あの時も春から冬にかけて、とてもドラマチックなチームでしたが、今年の日藤を見るならば、あの田場ディエゴのチームというイメージはもう忘れた方が良いです。
選手権ベスト4以降の日藤の変遷と
今回選手権出場を掴むまで
2014年に成し得なかった全国制覇を追い求めて、日大藤沢の佐藤監督は時間をかけ、より攻撃的に、より戦術的に洗練されたチームを作り、今回、選手権に帰って来ました。その過程を、選手権ベスト4以降の成績を基にお伝えします。
<選手権ベスト4以降の日大藤沢成績>
2015年関東大会 優勝
2015年インターハイ ベスト16
2016年関東大会 ベスト4
2017年インターハイ 準優勝
2017年ルーキーリーグ 優勝
2019年関東大会 ベスト4
2014年度の選手権でのイメージのおかげか、だいぶ優秀な選手が集まるようになりましたし、コンスタントに結果を出せるようになってきました。そう、その中にはマリノスの育成組織から来た選手も増えていくのです。
そういう選手の質の向上もあって、佐藤監督はチームが表現するプレーの幅を豊かにし、より攻撃的にチームを変えていきます。
それが1つ実ったのが、2017年のインターハイであり、同年、1年生だけで構成されたチームで競うルーキーリーグでの全国優勝でした。
このルーキーリーグのメンバーが今年の3年生です。
とはいえ、インターハイでも悲願の全国制覇は成し得ず、決勝で力の差を感じたのでしょう。新戦術に取り組み始めます。
もちろん2017年の結果を見れば、2018年も期待をされていましたし、力のあるチームだったと思います。春夏は新戦術が上手く機能せず敗退、迎えた選手権予選。準々決勝でぶつかったのは桐光学園でした。
1年間の努力が結実し、前半で2点リードを奪う日大藤沢。しかし、そこから3点を奪われ逆転負けを喫します。
以降のトーナメントを圧勝して県王者になった桐光学園相手に、やりたい事が出来始めた試合だったので、とても悔しい敗戦でした。マリノスJY出身で主将だった『梶山かえで』の姿は忘れられません。
先輩の悔しい思いを受け、2019年。ルーキーリーグで全国を取った3年生を中心に、新スタイルが輝き始めます。
春の関東大会県予選で県王者となり力を証明。迎えた夏の総体予選。全国出場をかけた準決勝で、再び桐光学園と相対する事となります。
しかも、桐光は日藤に対応すべく、いつもの442を捨て3421の布陣で受けに回りました。一進一退が続く中、スコアレスで延長に突入。延長から442に戻した桐光学園がスタイルを取り戻し、延長前半のセットプレーからの得点を守り抜き勝利。その後、桐光学園は全国インターハイで優勝を果たしました。昨年の選手権予選に続き、直接対決で敗れた日大藤沢。この夏、佐藤監督は、もう一度チームを作り直す事を決意します。
スタメンを再考し、戦える集団で迎えた選手権予選。対策してくる相手が増える中、決勝までの4試合を14得点0失点で勝ち抜きます。
そして決勝。みたび、桐光学園との直接対決となりました。
相手は全国王者。多くの高校サッカーファンが、西川潤の輝く姿を想像し、会場に訪れていた事でしょう。桐光の元10番も訪れていました。
試合は一進一退。お互いに慎重な入りをしたため、硬い試合になりました。それでも前半は、桐光学園の方が攻める展開が多かったです。
これは、桐光学園がしっかりと442でブロックを組んで守っていた事で、日大藤沢が上手く攻める事が出来ず、ひっくり返されて攻撃される展開が多かったという認識です。
0-0のまま迎えた後半9分。ここで結果を出したのが、『植村洋斗』です。
西川と同じく、マリノスの育成組織出身。日藤のエース。彼の左サイドでのドリブル突破により、ハーフスペースを崩された桐光学園。植村洋斗の深い位置からのクロスがアシストとなり、桐光学園から1点をもぎ取ります。
これによって楽になったのは、チームも植村洋斗もでした。以降はのびのびとプレーし、試合終了。1-0で桐光学園をくだし、日大藤沢が見事、選手権への切符を勝ち取ります。5年ぶり5回目。春に続いての秋の王者です。
日大藤沢は神奈川の強豪ではありますが、全国制覇を目指した2014年の選手権での活躍から現在に至るまで、とても苦しみました。今まで在籍してきたOBと、佐藤監督のチームマネジメントに感謝です。
県予選決勝で、素晴らしかった桐光学園の守備をブロックをうち破った経験は、きっと全国でも活きる事でしょう。
そして、桐光学園。ずっと神奈川のサッカーを支えてきたのは、まぎれもなく桐光学園です。この先も、ルーキーリーグやK1リーグで、しのぎを削る事になるでしょう。インターハイで優勝した彼らを破ったのだから、彼らの分も日大藤沢は、選手権の舞台で輝かなければならないでしょう。
日大藤沢とマリノス~マリノスサポーター向け余談~
ちらっと軌跡の話にも出ましたので、ここにも触れておきます。
現在、日大藤沢には、多くの『横浜F・マリノスJY』と『横浜F・マリノスJY追浜』出身の選手がおり、主力として試合に出ています。
3番 DF 宮川 歩己 2年 横浜F・マリノスJY追浜
7番 MF 斉藤 夏 2年 横浜F・マリノスJY
8番 MF 植村 洋斗 3年 横浜F・マリノスJY
11番 FW 布方 叶夢 3年 横浜F・マリノスJY追浜
20番 MF 植木 颯 1年 横浜F・マリノスJY追浜
28番 FW 栗原 丈 2年 横浜F・マリノスJY
選手権に登録こそされていますが、怪我人が出ない限り、栗原の出場はないかなと思います。布方はスーパーサブでの出場だとみています。残る4名はスタメンで出場するでしょう。
特に注目して欲しい事象としては2つあり、まず1つ目は3年生の2人。『植村洋斗』と『布方叶夢』は、前述した全国優勝をしたルーキーリーグの中核です。前者は全国のトーナメントでMVPを受賞しており、後者はリーグ戦(関東静岡の10校で行われる予選リーグ)でMVPを受賞しています。
『植村洋斗』に関しては、左CHの位置から試合の組立てにも関与し、サイドから試合を決定付けるプレーもし、中央からゴールを奪い、フリーキックも素晴らしい。本人はトニ・クロ―スを意識していますが、パスも、シュートも、ドリブルも出来るオールラウンダーです。是非、YouTubeなどでプレー動画を見て欲しい選手。桐光学園との県予選決勝では、彼のサイドの仕掛けから決勝点が生まれています。1年時から、何度もエースの証明をしてくれた彼には、是非、全国の舞台で輝いて欲しい。
『布方叶夢』は、生粋のドリブラーです。身長は低いものの、怪我もあってからだいぶ体幹が強化され、重心の低いドリブルにキレが増し、ストップ&ゴーが素早くなりました。尖がった選手なので、試合に変化が欲しいところで使われる事が増えましたが、彼にも注目して欲しいです。
そして2つ目に注目して欲しいのは、スタメンの3CHが全員マリノスの育成組織出身になる可能性が高い事です。後述しますが、日大藤沢の布陣は4321のツリー型です。その3枚を左から、3年『植村洋斗』、1年『植木颯』、2年『斉藤夏』の3人で担います。マリノスサポーターで母校を応援する身としては、じわるモノがあります。試合を見る際には、この3人に注目して見てください。
という事で、マリノスサポーターの方には、是非、彼らの雄姿を見ていただきたい。高校生の大会では、最もメディア露出の多い選手権の舞台を勝ち取ったので、少しでも気にしてもらえると嬉しいです。
日大藤沢のサッカースタイルとメンバー
ここまでも書きましたが、布陣は4321のツリー型です。
組織的に高度な事をしており、かつ個人を活かすサッカーをしているチームです。5レーン的な動きもしていますし、ハーフスペースを狙ったサッカーです。あれ、どこかで聞いたような。
では、弱点バレにならない程度に解説します。
ツリー型は守備的と言われる事が多いですが、日大藤沢のそれはとても攻撃的です。しっかりと4321にする狙いが凝縮されており、それを利用できています。
まず、基本的に崩したいのはハーフスペースです。ハーフスペースを使うために一つ隣のサイドのスペースを使うし、中央経由の攻撃も狙います。
1トップ2シャドーだけを見ると、前線3人の連携で中央を使って崩すイメージはしやすいと思いますが、これは基本ポジションなだけで、根本的にはサイドから崩して点を取る方が多いです。もちろん、中央も崩せるから怖いのですが。
そして、このサイドのゾーンは、4321だと選手の配置がされていません。
されていないからこそ、シャドーと左右CH、そして駆け上がってくるSBで、このスペースを使う意識が出来ます。
SBが上がると以下のような形になり、トライアングルがそこら中で出来て、高い位置でボールが回しやすくなります。
また、相手がサイドを意識しすぎれば、CHがサイドに動く事で、CBからIHへのパスコースを簡単に作る事が出来ます。IHは壁役となり、サイドに流れたSBやボールを受けなおしに来るCHを使う事で、再び前向きにボールを受ける事が出来ます。
そして守備では、元来のブロックの堅さを維持しつつ、『トライアングル・アクティブ・ディフェンス』というボールをサイドに追いやり、横圧縮で押しつぶす守備を見せてくれます。
意図を持った攻撃の形と選手の個性、そして組織的な守備がバランスされたチームになっている今年の日大藤沢。もうこれ以上、チームの解説をすると、うっかり口を滑らしそうになるので、ここらへんで終えます。
では、最後にこのサッカーを実行している選手を、スタメン予想の選手達だけにはなりますが、紹介して終えましょう。
<GK>
1番 濱中英太郎 はまなかえいたろう 2年生(FC駒沢U-15)
彼はシュートストップが素晴らしく、さらに飛び出すタイミングにも優れています。まぁ、ペナルティエリア外で手を使っちゃう事もあるのですが、そこは愛嬌。英ちゃんがゴールを守りセーブをすると、チームは盛り上がります。、
<CB>
3番 宮川歩己 みやかわあゆき 2年生(横浜F・マリノスJY追浜)
追浜時代は華奢なイメージがありましたが、レギュラーを張るようになってからは、とても良いボディバランスになり、1対1でも負けず、セットプレーのヘディングゴールに繋もがっています。良いCBになりました。全国の猛者を封じる姿が見たいです。
4番 青木駿人 あおきはやと 3年生(東急SレイエスFC)
このチームのキャプテン。彼からの正確なフィードは、SBが幅を使うチームでは欠かせない武器です。前方につけるようなパスも出せるため、日大藤沢のビルドアップを担う最後尾のコンダクターです。
<SB>
2番 岡田怜 おかだれい 3年生(和光ユナイテッド川崎FC)
日大藤沢のSBには細かい技術とクロスの精度、そして何よりもスピードと運動量が求められます。彼はスピードスター。分かっていても止められない速さが武器の右SB。
5番 吉本武 よしもとたけし 3年生(バディーSC)
タケシーニョ。彼もスピードが備わっていますが、何よりも上下動が凄まじい。そしてクロスの精度が武器。また、左SBは植村・成定との連携を求められ、そこにおいても素晴らしい。
<CH>
7番 斉藤夏 さいとうなつ 2年生(横浜F・マリノスJY)
ナッツ!細かなポジショニングとか、パス、クロスの精度とか、とても素晴らしい。来年は彼が中心になると思います。
8番 植村洋斗 うえむらひろと 3年生(横浜F・マリノスJY)
1年時から存在感を発揮してきた、日大藤沢のエース。時々、簡単にボールを失うのだけど、そこら辺も含めてエース。大学進学が決まっているが、この舞台での活躍が、彼のプロキャリアを築くはず。
20番 植木颯 うえきはやて 1年生(横浜F・マリノスJY追浜)
ルーキーリーグでのパフォーマンスが認められて、重要な中央CHを任されるようになった1年生。植村と斉藤を活かすパスを出せる選手。そして、守備も出来る。
<IH>
10番 成定真生也 なりさだまきや 3年生(P.S.T.C.LONDRINA)
植村洋斗に優る足元のテクニックの持ち主。吸いつくようなトラップから、華麗にボールを扱える選手。周りを活かせるリンクマンにもなれるこのチームで欠かせない選手。
26番 浅野葵 あさのあおい 3年生(柏レイソルA.A.TOR'82)
ようやく掴みとったスタメン。彼のポジションには、小林や布方というライバルがいて、なかなか出番を持てなかった。それでも、的確なポジショニングと運動量を主体に彼もリンクマンとして、IHの役割をしっかりこなしている。
<FW>
9番 平田直輝 ひらたなおき 3年生(横浜ジュニオールSC)
控えには身体能力に優れる鈴木がいる。それでも彼がスタメンである理由は積極的な守備とそのキープ力。そして、点を奪いきる力。チームとしてどう動くのかを理解してポストが出来る選手。
もっと選手紹介をしたいですが、本記事ではここまで。
ツリー型を採用しているチームは、今回の選手権において日大藤沢のみです。勝ち進めば進むほど、そのやり方にも注目が行くでしょうし、対策も練られてしまうでしょう。なんせ、今年は全試合の映像が見返せるわけだから。しかし、この全国でもお目に掛かれないやり方をしている彼らには、確実に優位性があり、ちょっとの対策くらいであれば、軽々乗り越えるのではと期待しています。
この記事を読まれた方が、少しでも今年の日大藤沢に興味をもって頂けたら幸いです。
日大藤沢は今大会シード枠に入りましたので、初戦は2回戦からです。
1月2日 12時05分 キックオフ
等々力陸上競技場
vs広島皆実
お時間のある方は、是非試合にお越しください!