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日本の若者にも人気のTik Tok「抖音(DouYin)」

Tik Tokは2017年App Ape Awardで「Forbes JAPAN賞」を受賞したことご存知ですか。
Tik Tokは15秒間撮影する動画投稿アプリで、日本ではほとんど音楽に合わせて口パクダンスの撮影と投稿に使われているようですが、中国では使い方は口パクダンス以外にもギャグ動画や才能を見せる動画など、より多様化しています。

ショート動画という「風口」

中国でよく言われる「風口」という概念がありますが、Tik Tokやが代表となるショート動画も今「風口」にあるようです。

※「風口」というのはビジネスのトレンド・流行りという意味

2016年に、中国の「YouTuber」の有名人であるパピちゃんが中国国内で大人気すぎて、個人にもかかわらず2億円を投資家から調達したりとか、広告枠が4億円で売れたりとかの記事があったが、その後あっという間に人気が過ぎ去ってしまいました。

当時は中国のメディアや投資家の間で、ショート動画の「風口」が来たと断言した人もかなりいましたが、その後一時期静かになりました。

2年後の2018年、秒拍、Kwai(快手)、Tik Tok(抖音)、Hypstar(火山小視頻)など、プレイヤーが続出することで、ショート動画の「風口」が本格的に来ました。

中国の市場調査ファームiResearchの予測によると、中国では2018年のショート動画ユーザー数が3.53億人で、2020年の市場規模が300億元(5兆1千億円)に達します。

でもなぜ2018になって、「風口」が本格的に来たのでしょうか?その原因はたぶん以下の幾つかが挙げられるでしょう。

・過去の試行錯誤により「網紅経済」のビジネスモデルが確立され、「網紅」が量産可能な仕組みに。
・インタラクティブなプラットフォームの出現により、ショート動画はただの動画より、コミュニティ化へ進化。
・動画再生時間の短縮の徹底により、断片化した時間を徹底的に利用する方向性。
・技術上、4Gの普及によるモバイルデータ通信料金の下落、5G技術の応用も見えつつある。
・「80後」「90後」に次ぎ、「00後」(2000年代生まれ)の声が強くなり、「80後」「90後」が主導するWechat、Weiboと違って、ショート動画を通じて個性を主張するニーズ。

Bytedanceと同社の戦略

・Bytedanceとは 

この風口を狙っていたのが、中国のBytedance(字節跳動)社です。Bytedanceというと皆さんご存知でないかもしれないが、同社のサービスはどれも今中国で大人気です。たとえば、記事アプリのToutiao「今日頭条」、動画アプリのTikTok、TopBuzzやBuzzVideoなどがあげられます。

海外展開もかなりアグレッシブで、2012年に北京で創立されたこの会社ですが、今は中国のほか、日本、韓国、東南アジア、北米、ブラジル、ヨーロッパで事業を展開していて、Bytedanceは今、中国で既に巨大なメディア企業へと成長してきています。

記事アプリと動画アプリといった一見関係がなさそうなサービスを出しているんですが、 その裏には、同社の創業者である張 一鳴(Zhang Yiming)氏が市場の今後のトレンドに対する自分なりの判断があるのです。

・消費市場の動きとBytedanceの戦略

Bytedanceが最初に成功したのが、Toutiaoという記事のアグリゲーションアプリです。同社が記事アグリゲーションアプリを出した理由は、大きく以下の2つだと考えられます。

①スマホシフトによるユーザー行動の変化

みんながパソコンを使っていた時代は、各ウェブサイトへアクセスするときに入口となるのがGoogle、Yahoo、Baiduのような検索エンジンでした。ただし、スマホシフトにより、アプリというものが現れて、ユーザーは以前ほど検索しなくなり、アプリがその入口となってきます。つまり、スマホのデスクトップ自体がに元々の検索エンジンの一部の役割を代わりに果たしていることになります。

レストランを探すときには直接食べログ、記事をみるときには直接Yahooニュース、動画を見るときには直接YouTubeのアプリにアクセスします。毎日の記事の情報を集めて発信する意味では、Toutiaoの役割は、記事を見るときの入口です。

ところが、記事アグリゲーションアプリだったら、中国の場合、大手のSina、Tencentなどがあり、既に一定のユーザー数を持っています。中でもなぜToutiaoなのでしょうか。

実は、Toutiaoアプリが成功した理由はユーザーの行動変化を理解したことだけではないのです。

②ユーザーの興味に合った記事の提供

Toutiaoの出現は、中国人の記事を読む習慣を再定義したという評価がありました。昔の記事アグリゲーションサイトやアプリは、HPのレイアウトデザインは全て会社によって決められ、どのコンテンツをトップページに出すのかは会社が決定するのが一般的なのですが、Toutiaoは違います。

Toutiaoの中国語は「今日頭条」で、その意味は、「今日のトップニュース」です。今までトップニュースというのが出版社やコンテンツ提供側によって定義されていましたが、Toutiaoでは、「あなたが関心を持つものこそトップニュース」と主張します。

そのために、Toutiaoは、ユーザーの居場所、職業、過去の行事、見たニュースのジャンルなどのデータを分析して、それぞれの人がどのようなコンテンツに興味を持っているのかをAIで算出して、パーソナライズ化してトップページに表示させます。つまり、Toutiaoの差別化のポイントは、ビグデータで興味の傾向を分析する人工知能の技術です。

そして、スマホシフトの後、ユーザーの動画シフトも発生しはじめています。3Gの時代だったら、例えばYouTubeで動画を見たい時、モバイルデータ通信が遅くいので、パソコンで見るしかなかったが、今は4Gが普及し、携帯でも簡単にYouTubeを見ることが可能になります。

それに、Weibo、WechatなどのようなSNSでも動画を見ることができるようになり、消費者の習慣が変わりつつあります。その変化を俊敏に捕まえたBytedanceは中国でのみならず、海外でもBuzzVideoのような動画アグリゲーションアプリを出しました。

記事アグリゲーションアプリにしても、動画アグリゲーションアプリにしても、Bytedanceの戦略はシンプルです。

消費者が検索しなくなると、スマホにおける情報取得の新しい入口が必要となります。文字が主流だった時代には記事アグリゲーションアプリを、動画シフトが発生したら、動画アグリゲーションアプリを出すことです。

Tik Tokの成長経歴とコンテンツ

・成長経歴

Tik TokはBytedanceの最新の動画アプリではありますが、BuzzVideoのような動画アグリゲーションアプリではありません。BuzzVideoはただ動画を集めて推薦動画のパーソナライズ化しただけですが、消費者は動画シフトした後、もう動画アグリゲーションだけでは満足できなくなったからです。

視聴より、参加です。

Tik Tokが満たすユーザーのニーズは、自ら手軽にコンテンツを作ってシェアすることですが、実は、この種のアプリですが、Tik Tokが最初のものではなかったのです。Tik Tokよりも何年前の2014年に、アメリカでブームとなったMusical.lyというアプリがありました。

Musical.lyは中国人の創業者が海外市場向けに作られたアプリです。2017年にはアメリカ、ヨーロッパ、アジアで既に2億以上のユーザを持っていました。ところが、Musical.lyが中国市場に戻ろうとする際に、ローカライズがなかなかうまくいきませんでした。

その際に、Bytedanceも中国国内のショート動画コンテンツ市場に狙いはじめ、2016年9月にTik Tokというアプリを出しました。BytedanceはToutiaoの時に蓄積された技術とユーザーへの理解を基に、巨大な資金力とうまいプロモーションであっという間に逆転して、中国国内ではMusical.lyを超えました。さらに、速いスピードで海外でのM&Aも行い、アメリカではMusical.lyの競合であるFlipagramを買収し、たちまちMusical.lyと対峙する態勢になりました。

カバーする市場が広いものの、運営力がBytedanceを劣るMusical.lyは結局、2017年11月にBytedanceに買収されました。その結果、Tik Tokが一気に急成長しました。

もちろん、Tik Tokが中国で急成長できたのが、Bytedanceの戦略だけが原因ではありません。そもそも、コンテンツ自体がよくなければ流行らないので、コンテンツの質にも注力をしています。

・Tik Tokのコンテンツ

①コンテンツの本質

どんなに巧妙に作られたストーリーでも、共感を引き出せないコンテンツは失敗なコンテンツです。これまでは広告に対する不信感を低減させるために、ステルマーケティングなどの手段がありましたが、だんだん消費者はステルマーケティングに対する不信感が強くなり見透かしつつある一方、同じような生活をする素人の投稿のほうに共感しやすくなってきています。

そこで、Tik Tokは素人の日常生活のちょっとしたすごいこと、ちょっとした発見、面白いワザなどのようなコンテンツに徹底し、「話題」としてまとめます。

例えば、とある歌の話題の下で、みんながこの歌の口パクをしたり、とあるすごそうな他人のワザの話題の下で、みんなが真似したりすることで、話題の影響力が広がり、みんながいいねやコメントをすることで、コミュニケーションができます。このように話題が作られたら、みんなが一気に集まり、共感が連鎖していきます。また、他のユーザーによる元の話題に対するちょっとした変化で、また話題が話題を呼ぶ形になりやすいです。

例えば、母の日に母の写真のうまいとり方を披露するユーザーがいて、その動画がアップされた翌日にファン数が一気に100万人から倍の200万人に達しました。

②分散化(decentralization)と集中化(centralization)

話題への参加のバリアが基本的に低いので、質の維持にBytedanceはかなりの力を入れています。

Tik Tokはプラットフォームのみ提供して、素人がアップした動画を素人が評価し、自然に素人間のコミュニティが形成します。Tik Tokの運営は一見分散化(decentralization)のように見えるけど集中化(centralization)する運営です。

トップに話題というものがありますが、それはランダムで薦められるものではありません。

Tik Tokはまず過去の経験により話題やコンテンツの推薦プールを形成させ、人気が呼べそうな話題を出して、素人のコンテンツ生産を誘導しているのです。

そこで使われるのが、まさにToutiaoによって蓄積されたノウハウです。

一見自然にコンテンツが生産されているように見えるが、背後ではこのように見えざる手によってコントロールされているのです。

③名人効果と素人投稿のバランス
  
最初にTik Tokが人気になった理由は、「95後」(1995年~1999年生まれ)の若者に人気のある名人をたくさんTik Tokに集めたことでした。それができたのがもちろん、Bytedanceの巨大な資金力です。名人効果により、Tik Tokが流行の最先端の代表になり、若者の間で話題になりました。

ところが、名人効果はただの始まりでした。それだけでは、Tik Tokへのロイヤリティが生まれません。そこで、人が集まったら、話題で共感のあるコンテンツで彼らの興味を引きます。同じ興味のものについてコメントさせて、マネさせることでユーザー間のつながりも強くなってきます。

④BGM「中毒」

Tik Tokがはまりやすいアプリだと若者の間ではみんなこういう評価です。コンテンツ自体が面白い以外に、BGM音楽の取り入れもかなり重要な一環となっています。

ただの動画だけだったらつまらないものになりやすいので、音楽を入れることで共感させることができます。

Tik Tokの場合、音楽の役割は、感情の伝達、視覚的連想、動画に濃淡を付けることです。また、BGM音楽自体が話題になることもあります。

中では、日本では流行らなかったバンドの歌だが、ショート動画のBGMになったことで、中国では日本の歌の代表作になる事例もあります。「歌詞はよくわかりませんが、メロディーを聴いて頭から離れなくなりました」と答える若者がいます。これを、「中毒」と言います。


このように、中国ではユーザーの行動が変化する中で、KOLとなる対象も変わっています。著名人に多くの広告費用を投入している企業もまだあると思いますが、この新たな変化に対応すべく、いかにして新しいマーケティング施策を考えるのか、これは企業にとって中国でビジネスを展開する際の新しい課題となるでしょう。

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