『S先生のこと』尾崎俊介、2013年

英米文学者尾崎氏(以下O氏)による、恩師S先生との関わり、その家族、人生についてのおはなし。
O氏は大学3年生の時にS先生の講義を受け、それから27年もの間、師弟として付き合い続けられた。
S先生は、熱烈な恋愛の結果29歳で結ばれた妻を37歳の時に癌で亡くし、53歳の時に愛息を交通事故で亡くしたことについて罪悪感を感じながら、研究生活を生涯続けた。
O氏はS先生と翻訳や本、大学での研究だけでなく、身の回り一般のことも楽しくお話しする様子で、S先生の重荷についても断片の話や、その著書から理解するが、直接その話題でお二人で話すことはなかったようである。
奥様の癌は単なる病気、息子の交通事故は単なる自損事故なのだが、S先生がそれを自分の罪と感じ、それも本人は言葉では言わないが、O氏は理解した上で、S先生と変わらぬ師弟の付き合いを続けられるところに、語彙力のない私は、なんというか夏目漱石的だと思った。

サンキュータツオさんの『これやこの』は、この本のあっさり版だったなぁと思い返す。「あっさり」はどちらがいい悪いではなく、付き合いの深い・浅い関係ないたくさんの人について書かれていたという意味で。

最近、坂口恭平さんのnote「継続するコツ」を読んでも「なるほど!」と思ったのだけれど、好きなことを継続できるのが幸せである、というのが、S先生も85歳で亡くなるまで文筆、研究を続けられている。
好きなことだから続ける、続けられないのは本当は好きではないこと。
大学の先生は、退官後もいろんな研究をしている人が多い。「あの人にとっては楽しいんだな」と思っていたけれども、それだけでなく「幸せな人」なのだ。

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