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しあわせペット売りのおじさん(手作り絵本)

「ペット~え~~ペット~~~~。」
「ペットはいらんかねー。」
「しあわせペットだよー、飼うとしあわせになるペットだよ~~~~ぉ。」

突然おかしなペット屋がやって来ました。

そばに来た男の子が
「おじさん、ペット見せて。」と言いながらのぞきこみました。

「おしきた、見ていきな。上等のしあわせペットだ。」
おじさんは後ろの箱から一匹を出してきました。

「あれー、かわいくないよ、こいつ。」
と男の子が言うと、

「そこがいいのさ。よーくかわいがってやんな。みるみるかわいくなっていくから。どうだい?持っていくかい?安くしておくよ。」
とおじさんはすすめました。

男の子は考えながら
「うーん、どうしよう。ぼく、お金持ってないよ。」
と言いました。

「そうか、それならこうしよう。こいつはかわいがってやるとたまごを生むんだ。たまごからかえるのは”しあわせくん”といって、願いをかなえてくれる不思議なやつなんだ。きみがお金の代わりに、その”しあわせくん”を私の所へ持ってきてくれたら、それでいいよ。」

おじさんにそう言われたので、男の子は目を大きくして聞き返しました。
「願いをかなえてくれる”しあわせくん”?」

「そうだ。かわいいぞ。」

「おじさんはどこにいるの?どこに持っていけばいいの?」

「私は商売をしてその辺をまわっているよ。もし、私に会いたくなったら、そう願いな。」
おじさんはそう言って『ペットの育て方』と書いてある紙を渡すと、行ってしまいました。男の子はペットの入ったカゴを持って、家に帰ることにしました。

家について、さっそくペットをよく見てみました。
あっちからこっちから様子を見ようとしましたが、逃げ回るし、こっちを無視しているみたいで、男の子はちょっとイライラしてきました。

そこで
「わっ!」
とおどろかせてみると・・・

次にちょっとさわってみることにしました。
「かむかな?痛いかな?」
手をカゴの中にいれると、ペットはすごい速さで逃げ回ります。
男の子はむきになって追いかけ、エイっ!と力をいれて手を振り回しました。
すると手がペットに当たって、ボン!とはり飛ばしてしまいました。
ペットはカゴの隅で小さく丸く、もっととげとげになっています。
「かわいくないなあ。」
男の子は追い回すのはあきらめました。
今度は名前をつけることにしました。
「おまえ、ほんとにかわいくなるのか?かわいい名前をつけたらいいかな。・・・・・・そうだ。ラブにしよう。ラブだよ。今日から。ねっ。まあ、いっか。」

男の子は毎日きちんとラブの世話をしてやるわけではありませんでした。遊びもテレビもマンガも(宿題も)大事なことだったので、ついラブの世話を忘れてしまうのでした。
ラブは、いつのまにかやせていました。とげとげがいっぱいで、目ばっかりギラギラしています。
「あれ?ずいぶん背中がガリガリしてる!」
男の子は心配になって、ペット屋のおじさんがくれた
『育て方』の紙を見てみました。

「ああ、そうか。少しずつでいいのか。」
それから毎日毎日、必ず話しかけることにしました。

「今日はさぁ、休み時間に外で遊べなかったんだよ。」
「友達とゲームやったらさ、あいつうまいんだよなぁ~。」
「あのモンスター、ラブに似てるんだ。進化すると恐ろしく強いんだぞ。」

気がつくとだんだん、ラブのとげとげがなくなってきて、かわいくなってきたようです。
男の子はうれしくなりました。毎日毎日かまってみたくなって、カゴの中に手を入れて追いかけまわしたり、カゴを持ち歩いてみたり、いつもいつもそばにおいて見はっていました。

しばらくすると、ラブは大きくふくれています。
「あれ?ずいぶんふくれたなあ。」

男の子はまた、育て方の紙を見てみました。

「ああ、そうか。かまうのを少しやめなきゃ。」
そして毎日ようすをそっと見て、ちょっと話しかけるだけにしてみました。

いつのまにかラブは男の子をじっと見るようになっていました。
男の子は
「あれ?なにみてるんだ?よし、笑わせてやろう。」と言ってふざけたかっこうをしてみました。
ラブはやっぱりじーーーっと見ています。
「もしかして、ぼくの手にのっかるかな?」
それからゆっくりと手をカゴの中に入れてみました。

頭の上から手がきたので、ラブは少し身をすくめてびっくりした顔になりました。でも、いつものようにジタバタ逃げませんでした。
男の子は、そっとラブをつつんで持ち上げました。
「やっと手にのったね。」

それから何日かして、ラブはじっとしたまま動くようすがありませんでした。
「なんだ。どうなっているんだ?」
男の子は心配になりましたが、しずかにそーーっと見ていました。

すると、なんと!!

ラブはたまごを生んでいたのです。
まっ白いきれいなたまご。
「あ、これは!!」

男の子はペット屋のおじさんの言葉を思い出しました。
たまごから”しあわせくん”が生まれて、願いをかなえてくれること・・・
それから、ペットのお金の代わりに”しあわせくん”をつれて行かなきゃならないこと・・・。

そこで男の子は考えました。
ーーーせっかく生まれるんだから、ちょっとだけ育ててやろうかな。

と、その時たまごが割れて、中から
パァッと明るい光がこぼれました。
しあわせくん”が生まれたのです。

「これはすごい!かわいい!!ほんとに願いをかなえてくれるかな。」
男の子はちょっと試してみたくなって、”しあわせくん”に
「今日の夕ご飯、牛肉のうす切りステーキにしてよ。ねっ、お願い!」
そう、言ってみました。
半分、ジョーダンのつもりだったのですが・・・
なんと、その日の夕食は、まさに牛肉のうす切りステーキ!!
お母さんは、
「おばあちゃんが『もらいものだけど食べて』って、急に持ってきてくれたのよ。」
と、すまして言うのです。
びっくりあわてて男の子は部屋へもどってみました。
「やったよ!ほんとにかなったよ!!」

気のせいか二匹とも少しやせて見えましたが、男の子はしばらくはしゃいでいました。

何日か過ぎて事件がおこりました。男の子の自転車がなくなってしまったのです。
「ラブ、もう1回だけ”しあわせくん”にかなえてもらいたいんだ。ぼく、自転車がほしいんだ。さがしたけどないんだよ。お願い!」

そんなある日、男の子はお祭りの三角くじをひいて
1等のマウンテンバイクを当ててしまったのです。

「すごい!やったーー!!」
もう男の子はウキウキはずみながら、ピッカピカの自転車を持って家にいそぎました。
「やったよーーー!」
そう言いいながら二匹を見て、ギョッとしました。
やせてたおれたまま、おなかのあたりだけがかすかに動いているのです。

「どうしよう、病気かな。どうすればいいんだ・・・」
男の子はふるえる手で、育て方の紙を広げてみました。

男の子はすぐにいのりました。
早く来て!たすけてあげて!

すると、本当に思ったとおり
「ペット~~え~~ペット~~~。」
という声が聞こえてきました。
男の子は涙をこらえながら、カゴをかかえて声のする方へ走っていきました。

「わたしを呼んだかね?どうしたのだ。」
ペット屋のおじさんが、男の子の目をじっと見つめました。
「おじさんにもらったラブと”しあわせくん”が死にそうなんだ!」
「”しあわせくん”が生まれたのか。ほーーこれはかわいい。」
「ぼく、2回も願いをかなえてもらったんだ、2回も。」
「ほーーー、それは大変だったのぅ。」

「ぼくが早く”しあわせくん”を連れてくればこんなふうにならなかったの?」
「そうかもしれないなあ。」
「じゃあ、ぼくのせいなの?」
「いや、こうなったのはこの二匹の願いかもしれないさ。だいじょうぶ、よくなるよ。」
「おじさん、もうラブを飼うことはできないの?」
「そんなことはないさ。君がもぅ少し大きくなったとき、きっとラブの方から君に会いにいくよ。君が待っていてあげればの話だが・・・」

ペット屋のおじさんの口ひげが少しだけ笑ったようでした。
そしてラブと”しあわせくん”を連れて行ってしまいました。

「いなくなると、さびしいなあ。」
男の子は、ラブと”しあわせくん”が病気になったのは、自分のせいかもしれない、だから今度は願いをかなえてもらうのはやめようと思っていました。

帰り道、夕焼けの空に、ふたつのかわいい雲がうかんで消えていったのを、男の子は気がつきませんでした。

ところで、おかしなペット屋のおじさんは突然やって来るのです。
どこからかわからないけど、やって来るのです。

もしかすると、あれは・・・・。



あとがき
このお話は25年前に創りました。
創作話ですが事実が2つあります。
ひとつはジャンガリアンハムスターを飼っていたこと。
ふたつめは、男の子が宿題もやらずに遊んでいたこと😅。
そしてうちの子ども達はこのお話を真剣に読んだことがないので、子育てに役に立ったかは謎です。(;^_^A