令和の歳時記 ツリガネニンジン
ツリガネニンジンは日本全国の土手や草原に生育している。夏から咲き始め秋の中ごろまで見る事ができる。うっすらとした紫色の花はうつむくように咲いている。
しかも元気よく伸びた草花の間に埋もれているのか、同化しているのかわからないくらい遠慮がちに咲いていることが多い。
近寄って見ると決して地味ではないことがわかるが、ついつい派手な花に目を奪われて見落としがちになるのは人間だけだろう。
実際、虫たちは分け隔てなく訪れている。毎年この花を紹介しようとタイミングを計っていたが、なかなか紹介できずにいた。
理由は私的な感性にある。例えば夏の暑い田園でこの花の隣に座って汗を拭うのと、秋のススキ野原で目を閉じ風情に浸るのでは全く心の琴線への触れ方まったく違うのだ。
もちろんどちらも魅力的であるが、私の場合は後者の方が好きなようだ。今の時季、この釣鐘の薄紫色の花を見ていると、どこからともなく鐘の音が聴こえて来る。
虫の声が囁くように小さくなる時季だからとりわけ“ボーン、ボーン”という音が心に沁み込んで来る。気は早いが今年も終わってしまうのか、と寂しくなる。
名前は上記した釣鐘に似た花の咲き方と根っこが“朝鮮人参”の根っこに似ていることに由来する。
夏の暑い田園から秋のススキ野原で聴いた鐘の音はいずれも私の心の情景を察してか優しく響き渡った。
肌寒くなっていく今、この花を見るなら、夕暮れより早朝が良いかもしれない。朝露に濡れて咲く姿に思わずハアーと暖かい息をかけたくなる。
どんな音が聴こえるかはあなた次第だ。
分布●日本全国
生息地●野山の草原、土手
花期●8〜10月 高さ●50〜80㎝
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