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ヴァイオリンの名器と名工――名職人を生み出したアマティ一族

※本稿は『CDでわかる ヴァイオリンの名器と名曲』(共著、ナツメ社、現在絶版)で執筆した項目を、出版社の同意を得て転載するものです。

アマティ一族の始まり

ヴァイオリンは、16世紀半ば頃の北イタリアで現在の形が考案されたと考えられている。 そのヴァイオリン草創期の重要な製作者で現在の楽器の形を作り出したとされるのが、ブレーシャで活動したガスパロ・ダ・サロと、その隣街クレモナで活動したアンドレア・アマティ(1511以前 ~ 1577)だが、 アンドレアこそが、 アマティ一族の、そして18世紀半ばまで2世紀にわたって隆盛を誇るクレモナのヴァイオリン製作の始祖である。アンドレアに続いては、 彼の息子アントニオとジローラモが父の技術を受け継いで、優れた楽器を製作した。

ニコロ・アマティ

アマティ一族で最も重要な製作者が、ジローラモの息子ニコロ・アマティ(1596~1684)である。 ニコロは、彼自身が素晴らしいヴァイオリンを作ったことだけでなく、アントニオ・ストラディヴァリ、 アンドレア・グァルネリなど後に優れた製作者となる弟子を多く持ち、クレモナの伝統を後世に伝えたことでも大きな役割を果たした。 なお、ニコロの息子ジローラモがアマティ一族最後の大家となった。

ニコロ・アマティの楽器

ニコロのヴァイオリンは、音量の大きさではストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェスに一歩譲るものの、音色の美しさに優れている。 また、 彼はさまざまなサイズのヴァイオリンを作ったが、やや大きなサイズのものが 「グランド・アマティ (大型のアマティ)」と呼ばれ、 高く評価されている。

そして、 楽器の型の面を見てみよう。 おおざっぱにいって、 横から見たときに胴体のふくらみが大きいタイプが「アマティ型」 といわれるニコ口に特徴的なものだ。 それに対して、ストラディヴァリのヴァイオリンによく見られるのが、あまり胴体のふくらみがないタイプ(ただしニコロもこのタイプを作っている)。19世紀以降、 ストラディヴァリの楽器が高く評価されてからは、その型をまねる製作者も増え、有名な楽器には「ストラディヴァリ」型 が多く見られるようになるが、大局的に見ると、長年にわたってイタリアの製作者の多くが作ったのは、 実は 「アマティ型」であった。

イタリアン・オールド・ヴァイオリンの規範を作った偉大な製作者、 それが二コロ・アマティなのである。

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