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ヴァイオリンの名器と名工――名器の聖地、クレモナ

※本稿は『CDでわかる ヴァイオリンの名器と名曲』(共著、ナツメ社、現在絶版)で執筆した項目を、出版社の同意を得て転載するものです。

ヴァイオリン職人の卵あこがれの地

「クレモナってどんな街かな。 素敵な街だといいね」
「うん、古い街だって。 ヴァイオリン作りの職人がたくさん住んでるんだ」

これは、スタジオジブリのアニメーション映画『耳をすませば』 からのひとこま。ヴァイオリン職人を目指す中学生、天沢聖司は、念願だったクレモナでの修行が決まった。 想いを寄せる同学年の月島雫に、学校の屋上でそれを報告する。 そんなシーンでのふたりのやりとりだ。ここは、雨後に虹が出るという天候と、将来への希望がふくらむ聖司の心境が重なって見える印象的なシーンで、 それだけに、クレモナ行きが彼にとっての重大事だということも感じられる。では、ヴァイオリン製作を志す聖司があこがれるクレモナとは、どのような街なのだろうか。

栄光の2世紀

クレモナは、イタリア北部、 ロンバルディア州の都市。 ミラノの南東約80キロに位置し、 大河ポー川に隣接している。ポー川の水運によって楽器の材料が手に入りやすかったこと、 そして、優秀な製作者が多く生まれたことなどからヴァイオリン製作が盛んになり、 それがクレモナを有名にした。

クレモナで活動した第一級の製作者は、 ヴァイオリンの形を完成させたひとりといわれるアンドレア・アマティと孫のニコロ・アマティ、そして、ニコロに教えを受けたとされるアントニオ・ストラデイヴァリやアンドレア・グァルネリ、さらにはアンドレアの孫で 「デル・ジェス」の名でも知られるジュゼッペ・グァルネリといった人々である。

彼らは大変優れた楽器を多く生み出したため、16世紀半ばから18世紀半ばにかけてのクレモナのヴァイオリン製作は、ヴァイオリンという楽器の発展をリードしたといえる隆盛を誇った。

伝統の復興

その後、クレモナのヴァイオリン製作は下火になる。 広くヨーロッパで楽器が量産され、熟練の職人によるヴァイオリン製作があまり求められなくなったことが、その一因だろう。

しかし20世紀の前半になり伝統の復興へ向かう動きが起こった。 1937年、ストラディヴァリ没後200年を記念してさまざまな催しが企画され、翌年には、国際弦楽器製作学校が創立されたのである。

この学校には世界各地から生徒が集まり、 彼らのなかには、 卒業後にこの地に工房を構える者も多い。 そのため現在のクレモナは、7万人強の人口に対して100以上の工房を抱えるほどになった。かつての活気を取り戻し、 ヴァイオリン製作の中心地のひとつとなっているのである。

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