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お茶坊主将棋

コラム『あまのじゃく』1953/10/17 発行 
文化新聞  No. 1008


地域棋界の腕達者集合 ⁉

    主幹 吉 田 金 八

 来る25日に本社主催で、飯能地方将棋大会が催される。当初18日に行う計画でその旨発表したが、当日は町民体育大会があることがわかり、日取りを変更したわけである。
 このプランは飯能将棋クラブがたてたもので、斯界に関しては本社に通人がいないので丸呑みにしたわけである。この推薦棋士のメンバーを見ると多分に平岡良蔵氏系とみられる人たちが多いので、平良さんの独り舞台で同氏を囲んで取巻きが「参りました。参りました」とおだてあげるようなことでは飯能地方の優勝者決定戦としては面白くないと思っていたが、果たせるかな推薦者以外からも「我こそは」の勇士が名乗り出す気配となってきたことは頼もしい。
 商売や社交ならば、勝ちを譲ったり、お世辞も礼儀かもしれないが、勝負事の対戦となれば実力を十分に発揮して相手を存分に負かすことに目的があるので、ぜひ田舎三段でお山の大将を気負っている平良氏を叩きのめす腕達者の出現を期待する。
 本社では当日の模様により、平岡氏を負かした勇士に特別賞を出しても良いと思っている。記者は将棋のことは知らないが、どんな勝負でもわざと負けることは、相当技術の動向なものでない限りできないと思われる。仮にそんな事があったとしても、平良氏が喜ぶ筈のものでもなく、もしそう考える者があるとするならば、人を知らなすぎるというものであろう。
 平良氏は誰が何と言おうとも飯能地方における政治と財界の大物であることに間違いない。分村のことは別として、その他のことは大概意のままになる地位にある。
 尤も前回衆院議員選は、思いに任せなかったかもしれないが、これはちょっと無理であった。
 その彼が、お世辞に田舎将棋の覇権を握ったからとて、どんなに得意を感じる訳のものでもなく、むしろ自分をしのぐ強者の出現を歓迎すること間違いない。
 本社では、どこそこの某氏は平岡氏の上をゆく腕だというお知らせを戴いているが、ぜひそうした有名・無名の棋士の参加を期待する。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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